335 大型魔法飛行艇の完成
ついにタッカーさんに頼んでいた大型魔法飛行艇ができたらしい。
マジェストン行きに間に合ったので俺はホッとした。
もちろん小型艇でも行けない事はないが、やはりせっかくなので、出来れば居住空間が広い、大型飛行艇の方で行きたかったからだ。
俺たちは早速完成品を見に行った。
見学メンバーは俺とエレノア、シルビア、ミルキィ、アンジュ、ペロン、豪雷、疾風、ガルド、ラピーダ、そしてアルフレッドとミルファだ。
「いらっしゃいませ!ホウジョウ様」
機嫌よく、店主のタッカーが俺たちを迎える。
店主としては最初の客なので、嬉しいのだろう。
「やあ、タッカーさん、完成したと聞いたので見に来ましたよ」
「ええ、どうぞ、御覧ください」
大型飛行艇は俺の設計した通りで満足した出来栄えだった。
外張りは全ミスリル製の魔法艇で、窓の部分はアレナック製だ。
全長30メル、幅10メルもあるので、中ではかなりの人数でも快適に過ごす事が可能だ。
ミスリルの船体は二層構造になっていて、断熱効果があるので、多少の外気との温度差は大丈夫だ。
そして中には一応、温度調節ジャベックによる、暖房や冷房もある。
もちろんミスリル製なので、船体自体の防御も高い。
中をみんなで見てみると素晴らしい出来だ。
前方横にある広い入口から入ると、まずは食堂兼休憩室で、厨房が隣接している。
厨房の奥は食料庫や冷凍・冷蔵室にもなっている。
横には大きな窓があり、食事をしながら外の景色を見る事も可能だ。
窓には薄手と厚手の窓掛けもあり、外から見られたくない場合は、それを閉めておけば良い。
食堂の横にはトイレも設置してある。
その次は各寝室区画で、ここからは靴を脱いで上がる。
そこには2段ベッドが二つおいてある4人部屋が2部屋、2人部屋が2部屋あり、ここだけでも12人が生活可能だ。
中央廊下から4人部屋に入ってみると、手前には狭いながら収納庫が4つあって、四人各自が物をしまえるようになっている。
その奥は二段ベッドになっており、さらに奥の窓際の方は、4人用の机と椅子があって、透明アレナックの窓から外を眺められるようになっている。
それぞれの4つのベッドには、小型の照明ジャベックも完備しており、ベッドの足元の方の上半分には戸棚が備え付けてあって、その扉を手前に開くと、その扉がそのまま手前に倒れて机になるように設計されている。
各ベッドは布の間仕切りも閉められるようになっていて、それを閉めれば中は個室同様にもなる。
二人部屋も似た様な作りだが、部屋は少々広く、ベッドも多少大きく作ってある。
四人部屋と二人部屋の間には、シャワーと水洗トイレもあり、生活に問題はない。
そして一番奥は持ち主たる俺の部屋となっており、広いベッドと書斎も用意されている。
その横には俺専用の風呂とトイレもある。
風呂は流石に屋敷の物ほど大きい訳ではないが、それでも大人二人が余裕で入れるほどの大きさの湯船があって、飛行艇の中とは思えないほど広い。
2階は操縦室と倉庫と貯水槽で、食堂から上がれる階段がある。
倉庫には食料も含めた生活用品も色々と積めるし、貯水槽は濾過器や消毒用の沸騰器も兼ねていて、雨水やその辺の川や湖での水の補充も、もちろん可能だ。
従って、この飛行艇で長期間の生活も問題はない。
だからこの飛行艇は長旅ではもちろん宿屋代わりにもなる。
ちなみに操縦と言うか、命令は権限のある者ならば、操縦室以外のどこでも可能だ。
大型飛行艇の内装を一通り見た俺は絶賛した。
「いや~凄い!タッカーさん!
これは素晴らしいよ!
想像した通りの出来です!」
「私としても会心の出来だと思っています」
そして俺たちは魔法艇の2階の中央部分に、かねてより用意しておいた飛行ジャベックを備え付けた。
この大型魔法艇の頭脳と心臓部とも言える部分だ。
言うなれば中央制御コンピューターと機関部を両方兼ねたような物だ。
このジャベックに命令する事により、飛行する事が出来るし、ジャベックが覚えている場所ならば、場所を言っただけで、そこに自動的に行く事も可能だ。
一応2階先頭部分に、このジャベックと連動している操縦室はあるが、ジャベックなので、音声で命令する事も可能だ。
差しあたっては俺とエレノア、シルビア、アルフレッド、ミルキィ、ミルファ、豪雷、疾風、アンジュ、そしてタッカーさんの順位で命令に反応するようにしておいた。
他の者の命令はもちろん聞かないので、勝手に他人がこの魔法艇を動かす事は出来ない。
それにこの大型魔法艇の常駐乗組員兼護衛としてオリオンとバルキリーを一体ずつと、ボーイとメイドを一体ずつ乗せておくので問題は無い。
そしていよいよ飛行ジャベックを設置した俺が、それを起動させる。
「起動!リンドバーグ!」
「リンドバーグ」それがこの飛行ジャベックの名前でもあり、この大型魔法飛行艇の名前でもある。
実は俺はこの飛行艇の名前を考えるに当たって、いくつかの名前を考えて、かなり迷ったのだ。
リリエンタール・・・ダメだ、これは墜落しそうだ。
フライヤー・・・これだと1分しか飛べそうにない。
ヒンデンブルク・・・こっちは爆発しそうな予感がする。
タイタニック・・・確実に海に落ちて沈没しそうだ。
ユリシーズ・・・トイレが壊れそうでイヤだ。
アンドロメダ・・・別に拡散するビーム砲を撃つわけではないので・・・
スカイラーク・・・これだと3号機以降が大きくなって、4号機を改造したらアースフィアと同じ大きさになりそうで大変だ。
等々、自分で色々な名前を考えては没にしていた。
・・・そんな訳で、この魔法飛行艇の名前は「リンドバーグ」にしたのだ!
うん!これなら大きな広い海を飛んでも墜落しそうにない!
そしていよいよ飛行実験の開始だ!
俺はタッカーさんにその旨を伝える。
「では予定通り、このまま明日までこの中で生活をしてみますよ」
「はい、よろしくお願いします」
タッカーさんが下船すると、俺は大型魔法飛行艇リンドバーグに初の命令を下す。
「よし、リンドバーグ、まずはゆっくりと、このロナバールの上空を旋回してみろ」
「高度は?」
「そうだな・・・まずは高度100メルほどだ」
「承知しました」
俺の言葉にリンドバーグは従い、飛行艇はフワリと舞い上がる。
そしてロナバールの上空をゆったりと飛び始めた。
中々調子は良いようだ。
そのまま俺たちは丸一日実用試験を兼ねてリンドバーグの中で生活をしてみる事にした。
揺れも騒音もほとんどなく、順調に空を飛べるようだ。
テーブルに置いた飲み物だってこぼれない。
「中々いいね?」
「ええ、音も静かですし、快適ですね」
「中々の乗り心地でございますな」
ミルファとアルフレッドの評価も高いようだ。
俺たちは一応中で食事を作って食べてみたり、トイレに入り、シャワーを浴びてみたが、どこも不具合はないようで、全てがちゃんと機能している。
ベッドも中々寝心地がいい。
風呂も快適だ!
空を飛ぶ魔法飛行艇の風呂の中からゆったりと外を眺めるのは中々気分がいい!
俺は前世でフェリーとか客船の展望風呂に入るのが大好きだったから、これは絶対に作りたかったんだよね。
翌日になって俺たちが戻って来ると、タッカーさんが少々不安そうに聞いてきた。
「いかがですか?
気に入らない部分があれば、調整しますが?」
「いえ、十分ですよ。
これで何も問題ありません」
「ありがとうございます」
大型魔法飛行艇「リンドバーグ」は十分に満足のいく出来だった。
完成したリンドバーグは最近購入した俺の屋敷の隣の敷地へ置く事にした。
元々隣は空き家だったのだが、持ち主がそこの土地ごと俺に購入を打診して来たので、購入したのだ。
俺はマジェストン行きの報告がてら、完成したリンドバーグをミヒャエルたちに御披露目する事にした。
3人は興味深そうに見学にやってきた。
そして中に入って内装を見た三人が大いに驚く。
「ほう?これはまた凄いのう・・・」
「うむ、単に空を飛べるだけでなく、この中でこのように普通に生活も出来るとはのう」
「ああ、これは凄い。
簡素で実用的でありながら、最低限必要な物は全て揃っておる!
さすがはシノブの設計といったところかの?」
三人に褒めてもらって、俺も得意げに説明をする。
「うん、旅行先でもこれがあれば、宿屋代わりになるんだ」
「なるほどのう・・・」
「いや、これは下手な宿屋に泊まるよりも、よほど居心地が良いのではないか?」
「全くじゃのう」
「これは余も同じような物を欲しくなってきたのう・・・」
それを聞いて俺は早速タッカー浮き馬車店をミヒャエルに売り込む。
「それだったらこの飛行艇を作ったタッカー浮き馬車店に頼むといいよ。
見た通り、腕の良い人だよ。
必要なら飛行ジャベックは僕かエレノアが作ってあげる」
「うむ、その時はよろしく頼む」
まだ俺たち以外に客がいないタッカー浮き馬車店も、総督閣下の御用達となれば、他の客も頼みやすくなるだろう。
場合によっては浮き馬車店ではなく、魔法飛行艇の専門店になれるかも知れない。
感心する一方で、ジーモンも意見を述べる。
「ふむ、わしはもう少し小型な方が良いかな?」
「今まで使っていた小型飛行艇もあるよ?
そっちも後で見てみる?」
「うむ」
ガスパールも感心して話す。
「それはわしも見てみたいな?
それにしてもあの四人部屋には驚かされた!
二段ベッド、収納庫、窓際の座席と全く無駄がない!
あの小さな場所に、これほどの機能を詰め込むとはまさに驚きだ!
特にあのベッドは凄い!
各ベッドに照明ジャベックがついておる上に、足元は収納棚になっていて、しかもそれを開けば机になるとはの!
それにあの布の間仕切りを閉めれば他に光も漏れぬ。
よくもこのようなベッドを考えた物よ!」
「うん、それは昔、僕が入っていた寮や、乗った船の部屋を参考にして作ったんだ」
「そうか?それにしても凄い物よのう・・・」
3人は俺のリンドバーグにかなり感心したようだ。
俺たちは食堂で空中遊覧を楽しみながらマジェストン行きの話をする。
「そんな訳で3年ほどはマジェストンへ行く予定なんだ」
「そうか、シノブもいよいよ魔道士になるか?」
「くっくっく、全く今までがただの魔士じゃった事が信じられぬ位だからのう」
「では3年はマジェストンか?」
「うん、そうだね。
でも店とかも心配だから、長期の休みの時とかはこちらに戻って来るけどね」
「ああ、その時はわしらにも顔をを見せろよ?」
「うむ、余もシノブと話せぬのは寂しいからのう・・・」
「ああ、それはわしもじゃ」
「うん、僕も出来るだけそうするよ」
地上に降りた後で、今度は3人に小型魔法飛行艇を見せる。
そういや、こっちには特に名前を考えてなかったな?
今度、こっちの飛行艇の名前も考えておくか?
小さいんだし、スパロー1号にでもしておくかな?
小型魔法艇を見学したジーモンはかなり驚いた様子だ。
「ほう!これは驚いた!
これほどの大きさでありながら、これほど色々と搭載してあるとはな!」
「確かにな、この体積でこれほど物が載せられるとは・・・これは凄い!」
ガスパールも感心する。
一通り中を見たジーモンが唸りながら話す。
「むむむ・・・これならば以前からわしが考えていた物が出来るのう」
「以前から考えていた物?」
「うむ、実はわしは遠くに往診する時にのう。
遠い地方などでは、設備や薬などが足りなくて困った事が度々あるんじゃよ。
マギアサッコにも大きさや数の限度はあるしのう・・・
そんな時に馬車で丸ごと診療室を持っていけないかと何度も考えたのじゃが、流石に馬車では無理があってのう・・・
揺れは激しいし、運べる量もたかが知れておるしな。
目的地へ行くにも時間がかかる。
しかしこれならその問題を全て解消して作れそうじゃ」
「なるほど!つまりは「移動診療室」だね?」
俺の言葉にジーモンがうなずく。
「うむ、その通りじゃ」
「それは出来ると思うよ!
とても興味があるから僕も手伝うよ!」
俺は食堂車や寝台車など、移動する生活空間の施設に非常に興味を惹かれる。
だからキャンピングカーや客船の居住区画などにも興味があって、前世ではよくそういった物の展覧会に行って見たり、実際に乗ってみたりもしていた。
そして前世で医療関係の仕事をしていたせいもあって、前世の時から医療施設という物に興味があった。
だから特に移動可能な医療施設に格別な興味を持っていた。
職場で健康診断の時に来るレントゲン車や、フェリーや豪華客船の医療室、特に軍艦の医療室の見学などは機会があれば進んで見に行っていた。
瀬戸内海の島嶼を巡り、日本唯一の診療船と言われている、済世丸などの透視図なども見て覚えている。
そんな人間だからこのジーモンの申し出はとても興味深い。
俺の申し出にジーモンも喜ぶ。
「おお、それは助かるのう!
御主は医学にも心得があるから頼りになるからのう」
「うん、マジェストンで魔法の勉強をしながらそれも考えて見るよ」
「うむ、よろしくな」
俺は移動診療室の約束をしてジーモンたちと別れた。
これでマジェストンに行く準備は全て出来た。
後はシャルルがポリーナを誘って戻ってくればいつでも旅立てる。
それまでの間、ロナバールを離れるために他の知り合いにも挨拶に行ってみよう。




