332 入学準備 1
エレノアが説明をする。
「まず初等魔法学校にはいくつか種類があって、そのうちの内の一つに「短期初等魔法学校」と言う物があります。
ここは1ヶ月で卒業して魔法士の資格を取れます」
「そんなのがあるんだ?」
「はい、そこは御主人様たちのように、ある程度、魔法を習っていて、すでに最低でも魔法士程度の魔法を使える人が前提の学校です。
そうでない人は入学できません。
そこでは基本的に魔法の授業は使用可能なのを確認する程度で、後はほとんど、魔法倫理や、魔法協会の規則を教える事に費やします。
そこを1ヶ月で卒業すれば、正規の魔法士になれます。
これは本来、魔法学校のない場所で魔法を習った人や、通信教育などで魔法を習った人たちを正規の魔法士にするための学校です」
「なるほど」
それでまずは正規の魔法士になれる訳か?
俺がうなずくとエレノアが説明を続ける。
「そこを卒業したら、御主人様とアンジュは即座に魔道士補一級の資格を申請します。
二人ともすでに魔法学士級の魔法を使えますから、その場で申請は通ります。
そしてその次には特別魔道士検定という試験を受けます。
この検定はあまり一般には知られていませんが、魔道士補一級と二級の免許を持っている人で、魔道士と同等以上の力を持っていると認定された人物に限り、天魔道士か、賢者、天賢者の推薦状があれば受けられる試験です。
それに受かれば正式な魔道士となれます。
二人なら必ず受かるでしょう。
そして正規の魔道士の資格を取れば、高等魔法学校入学の資格が出来ますから、1ヵ月後にはシルビアと一緒に高等魔法学校に入学が可能です。
推薦に関しては天賢者である私が推薦状を書きますから、全く問題はございません」
相変わらずエレノアは恐ろしいほどの手回しの良さだ。
「それでエレノアは今まで僕に特に検定も受けさずにいたんだ?」
「はい、その通りです。
一応機会があれば、御主人様には検定も受けていただくつもりでしたが、最終的にはこうして全てをまとめて受けて、高等魔法学校で資格を取っていただくつもりでしたから」
どうりでこの一年以上、俺に魔法を叩き込む事ばかりして、検定などは時間の無駄とばかり、修行に明け暮れさせた理由がわかった。
最初からエレノアはこの方法で俺を魔法学士にするつもりだったようだ。
「わかった。ではそうしよう。
マジェストンへはエレノアの航空魔法で行けるんでしょ?」
「もちろんそれは大丈夫ですが、今回は人数も多いですから魔法飛行艇で行きましょう。
ただ学校に入学するのに、申し訳ありませんが、それなりのお金がかかってしまいます」
「ああ、そんなのは構わない。
まさか大金貨が何百枚もいる訳ではないでしょう?」
「ええ、入学費用は初等学校は金貨3枚、高等学校は流石に高くて金貨20枚、それとは別に学費が1年にそれぞれ金貨が2枚と10枚かかります。
魔法学校は普通の学校よりも学費が高い物なので・・・ですから4人が3年間学ぶのに、私も含めて5人分の滞在費も含めれば、全部で金貨300枚近くはかかってしまいますね」
「まあ、それ位はしょうがない」
確かに高いが、特殊な事を学ぶ学校だし、医学部みたいな物か?
しかし今後の人生のための資格を取るためとあらば仕方がない。
正規の魔法使いの資格は、いずれどうしても必要だろうしね。
「それとこれも良い機会なので、いよいよ護衛のアイザックを作成して、一緒に連れて行きましょう」
「え?アイザックを?」
「はい、以前から予定していたアイザックを2体作り、御主人様の護衛と学友にします。
すでにその準備はできております」
「へえ?」
護衛はともかく、アイザックと一緒に学生になるのか?
それはそれで面白そうだ。
「よろしいですか?」
「うん、別に構わないよ。
ただ、ちょっと気になるんだけど、今学費が3年分って言ったけど、本当に我々は3年でそこを卒業できるの?」
ミルキィは中等だからまだしも、それ以外は全員高等学校だ。
ましてや俺とアンジュは賢者まで目指さなければならないのだ。
エレノアは余裕だが、本当に3年で大丈夫なのだろうか?
「はい、おそらくは3年どころか、実際には資格の点だけで言えば、1年か2年ほどの滞在で大丈夫だと思います。
ですが、高等魔法学校は卒業には、必ず3年は在学しなければならないという規則がございます。
魔法学校は初等が1年、中等が3年、高等学校は3年ほどで卒業というのが普通ですが、ミルキィは中等魔法の半分くらいはすでに使えますし、シルビアは正式に中等学校を出ている上に、その後、しっかりと魔法の勉強をしています。
魔法学士になるのに一番難しいジャベック魔法ですら、御主人様の流れ図学習法のおかげもあってすでに習得済みです。
そして御主人様とアンジュは、すでに全ての魔法で一級近い実力を持っていますから単位を取るのに、3年は決してかからないでしょう。
ただ、単位は取っても、しばらくは魔法修行のために、そのままマジェストンに滞在しますから、実際には3年の予定でいた方が良いでしょう。
それに全ての単位を取り終えても、高等魔法学校は必ず3年通わなければ卒業できないと言う事もございます」
「わかった、では準備を整えてみんなで行こう」
「はい」
こうして俺たちはマジェストンに行く準備を始めた。
何しろ最低でも3年間は行く予定なのだから、それなりに準備は必要だ。
あちこちに留守にする事も伝えておかねばならないだろう。
俺はその事に関して、エレノアやシルビアたちと相談した。
「バーゼルさん親子にも、しばらくは留守にすると言っておいた方が良いね?」
「そうですね」
「私もエトワールや魔法協会の人たちに、しばらく留守を伝えておきます」
シルビアの言葉に俺もうなずく。
「そうだね、そっちは宜しく頼む。
組合のグレゴールさんやアレクシアさんたちにも伝えておこう」
俺の言葉にエレノアも賛成する。
「ええ、その方が良いでしょう。
むしろ組合には休止届けを出しておいた方が良いかと」
「ああ、学生になるんだもんね?」
確かに学生の間は、組合の仕事は休止しておいた方が良さそうだ。
その方が学業に専念できるだろう。
「ええ、そうです」
「後は男爵仮面にグレイモン、サイラスさんにザイドリックさん、マギアマッスルさん、カベーロスさん辺りかな?」
「そうですね」
「それとシャルルとバッカンさん、ミヒャエルたちもだね」
「ええ、そうですね」
「メディシナーの人たちとユーリウスさんにも手紙で説明しておいた方が良いかな?」
「ええ、それには賛成です。
その手紙は私が書いて送っておきましょう」
「うん、よろしくね」
そして俺は留守部隊の人々に後を頼んだ。
「アルフレッド、キンバリー、ミルファ、そういった訳だから、最低でも3年間留守にするから給料を3年分と、食費と何かの時のために金貨を百枚置いていくから、後の事はよろしくね」
「かしこまりました。
安心してお出かけください」
「そうは言っても夏休みとか長期の休みもあるみたいだから、その時はここへ帰って来ると思うけどね?
もし何かあったら映像通信ジャベックもあるし、それ以外にも魔法協会の魔法通信を使ってもらえば良いから」
「はい、大丈夫でございます」
そんな会話をしていると、ミルファが俺に申し出る。
「あら?御主人様、私は一緒に行きますよ」
「え?」
「だってこの家はアルフレッドさんとキンバリーさんがいれば安心だし、皆さんがいなくなったら私のする事はほとんどないでしょう?
寮や店の方もクレインさんやブリジットたちがいれば問題はないですし・・・
それよりもあちらで皆さんの世話を一体誰がするんです?」
「そうか・・・」
考えてみれば確かに今回はエレノア以外の全員が学校に通う生徒になるのだ。
これだけの人数が3年近くも宿屋住まいというのもおかしいし、多分どこかの借家でも借りる事になるだろう。
シルビアにミルキィ、アンジュも一緒に学校に通うのだから家の事をする時間はない。
それにエレノアも古巣の魔法学校関係の事で、色々とする事もあるだろう。
そうなればあまり家の事は出来ない可能性は高い。
確かに誰か俺たちの事をわかっていて、家事を専門にする者がいた方が良い。
それに該当する者はミルファ以外には思いつかない。
「わかった。ではミルファ頼む」
「お任せください」
こうしてミルファも俺たちと一緒にマジェストンへ行く事となった。
そして俺はふとペロンに聞いた。
「そういえば、ペロンはどうするんだい?」
「もちろん、御主人様と一緒に行きますニャ!」
「しかしマジェストンは広いけど、山間の盆地らしいから、魚はほとんどいないらしいよ?
いいのかい?」
「え?」
俺の言葉にペロンはあからさまに悲しそうな顔をする。
やはり魚が食べられないのは辛そうだ。
「うん、せいぜい岩魚に鮎か鱒、それに鯰くらいしかいないそうだ。
後は泥鰌かな?」
その俺の説明を聞くと、ペロンはホッとしたように答える。
「それだけいれば十分ですニャ!
ペロンは御主人様と別れる方が辛いですニャ」
「そうか」
俺もペロンにはそばにいて欲しいので、ホッと一安心だ。
さて、それでは他の人々にもマジェストン行きの話をしに行くか?




