330 魔法学校への誘い
俺たちはバーゼル奴隷商館へ到着すると、アルヌさんに挨拶をする。
「やあ、アルヌさん、こんにちは!」
「これはシノブさん、いかがされましたか?」
「ええ、実はアンジュの奴隷解放をしようと思いまして」
「え?ではアンジュが魔法を?」
「はい、無事に魔法を使えるようになりました。
そして魔人の里へ行って、アンジュの父親から金貨1200枚をもらってきたので、奴隷解放をしようと思いまして」
「承知いたしました。
では早速、アンジュの奴隷解放の手続きをいたしましょう」
アルヌさんはテキパキと仕事をして、アンジュは奴隷から解放される。
そしてアンジュの首から輪を外したアルヌさんがアンジュに話しかける。
「さあ、これで書類上も間違いなく奴隷ではありませんよ?」
しかしアンジュはアルヌさんに意外な事を申し出る。
「その外した首輪を私にください」
「え?これをですか?
別に構いませんが?」
そう言ってアルヌさんがアンジュから外した奴隷の首輪をアンジュに渡すと、それをアンジュは自分でパチン!と首にはめる。
「えっ?」
俺たちが驚いていると、アンジュが説明をする。
「例え奴隷を解放されても、私はまだしばらくの間は御主人様の奴隷でいたいと思います。
そのためにも今後はこの輪を自分で首にしておこうと思います」
「そうか・・・」
俺が驚いていると、ミルキィが嬉しそうにアンジュに話しかける。
「まあ、それではアンジュは私達と全く同じですね?」
「え?それはどういう事ですか?」
「こういう事ですよ」
そう言うとミルキィはパチン!と自分の奴隷の首輪を外して見せる。
それに従い、エレノアとシルビアも同じように奴隷の首輪をパチン!と外す。
「えっ・・・・?これは?」
驚くアンジュにエレノアが説明する。
「私達も自ら進んで御主人様の奴隷になる事を希望したのですよ」
「ええ、アンジュと同じようにね」
「ですから私達もこの首輪を外そうと思えば、こうしていつでも外せるのです」
それを見たアンジュが少々残念そうに答える。
「なあんだ・・・そうだったのですか?
これで私は皆さんと差をつけられたと思ったのに・・・
やっと同じスタートラインだったのですね?」
そのアンジュにシルビアが冷ややかに問いかける。
「あら?差をつけられたらどうするつもりだったのかしら?アンジュ」
「ひっ!何でもありません!シルビアさん!」
「はは・・・まあ、じゃあ無事にアンジュも仲間になった事だし、家に帰ろうか?」
「ええ、そうですね」
エレノアがうなずき、俺たちはロナバールの屋敷に戻る事にした。
こうしてアンジュは正式に俺たちの仲間となった。
魔人の里から俺たちが家に帰って来ると、そこにはデフォードも来ていた。
「いよう!大将!話は聞きやしたぜ!
これがその新しい魔人の奴隷の娘っ子って奴ですかい?」
「ああ、デフォード、ちょうど良かった。
紹介するよ。この娘が新しい奴隷のアンジュだ。
よろしくな」
「おう!俺は大将の子分のデフォードってんだ。
一応、これでも正式なシノブ様の部下って所だ。
よろしくな!」
そう言って、デフォードは先日の結成式の時に上げた、「青き薔薇」の徽章を見せる。
デフォードは基本が密偵なので、俺たちと同じ制服はないが、何かの時に証明する物がないと困るので、これをあげたのだ。
それを見たアンジュがうなずいて答える。
「はい、四番奴隷のアンジュです。
よろしくお願いします」
「ああ・・・しかし、大将?
この娘っ子が一昨日まで全く魔法を使えなかったっていうのは本当なんですかい?
今、俺が見た限りじゃ、俺より魔法が使えそうな位ですぜ?」
デフォードはアンジュを鑑定したらしく、驚いたように俺に尋ねる。
「ああ、本当さ。
僕たちだって、ビックリしている位なんだ」
「なるほどねぇ・・・」
デフォードが感心してうなずくと、エレノアが俺に言った。
「御主人様、それに関しては私に提案がございます。
この娘は本格的に魔法を習わせた方が良いです」
「本格的に魔法を?」
「はい、この子の魔法の素質は御主人様やシャルルに迫る物がございます。
私が個人的に教えるよりも魔法学校に行かせた方が良いです。
そこで他の魔法使いたちと切磋琢磨させた方が本人のためにもなります。
そしてこの際、良い機会ですから御主人様もそろそろ一緒に学校へ行きましょう」
「魔法学校へ?」
「はい」
以前から魔法学校に通う事は話していたが、いよいよそれが本格的に始動する事になったか。
「学校へ行くのは良いとして、どこの魔法学校に行けば良いのかな?
ロナバールの魔法学校へ行くの?」
「いいえ、ロナバールではありません。
マジェストンの魔法学校へ行きましょう」
「マジェストンの?」
マジェストンと言えば、魔法の本場中の本場だ。
今までに何回も名前を聞いた事はあるが、まだ行った事はない。
「はい、御主人様もアンジュ、それにシルビアもですが、すでに中等魔法学校の域を超えています。
通うのでしたら、高等魔法学校です。
高等魔法学校は帝国内にはアムダルン、マジェストン、メディシナーの3箇所にしかございませんが、ここはやはり魔法の本場、マジェストンに行くのがよろしいでしょう」
「私も賛成です」
「ああ、俺もマジェストンへ行くのが良いと思うぜ?」
シルビアとデフォードもエレノアに賛成のようだ。
「マジェストン?
それって今までにも何回も聞いた魔法都市だよね?」
「ええ、そうです。
魔法協会の総本部がある、魔法関係の本拠地と言って良い場所です」
「僕はエレノアやシルビアに教えてもらえば、それでいいんだけど?」
俺がそう言うと、アンジュとミルキィがうなずく。
「私もそれでかまわないのですが?」
「私は元々そんな才能はないし・・・」
「はい、もちろん、それも出来ますが、御主人様を初めとして、皆さん全員一度は正式にマジェストンの魔法学校に行った方が良いでしょう」
「それって何かいい事あるの?」
「ええ、以前も多少説明しましたが、私とシルビア、それにデフォードを除いて、皆さんはまだ全員、言うならば「自称魔法使い」なのです」
「うん、そうだね」
学校にも通わず、検定も受けていない俺やアンジュ、ミルキィはただの魔士だ。
「はい、世間では一応魔法を使えれば「魔法使い」という事になっていますが、大抵の国では魔法使いは魔法協会の免許を交付されていなければ、正規の魔法使いとは認められないのです」
「うん、そういえばそうだね」
「そうだったんですか?」
ミルキィの質問にアンジュがうなずく。
「はい、そうです。
私たちはあくまで魔士であって、魔道士ではありません。
どんなに魔法が使えようが、どんなに魔力があろうが、魔法学校を出なければ、正規の魔法使い、すなわち「魔道士」は名乗れません。
もっとも私は一昨日までは、その「魔士」ですらなかったんですけどね」
そう言ってアンジュはフッと遠くを見る。
アンジュの答えにエレノアがうなずいて答える。
「その通りです。
正式の「魔法使い」と認められなければ、公式の場で正規の魔法士や魔道士を名乗る事も出来ませんし、魔道士専用ミッションも受けられません。
このままでは色々と不便な事もあります。
以前から御主人様にも正規の称号を取っていただこうと考えておりましたが、今まで色々とあって、延び延びになっていました。
今回はちょうど良い機会です。
この際ですから、御主人様を始めとして、全員正式に何らかの魔法関係の称号を取っておいた方がよろしいかと思います」
「あれ?でも今までもミッションで、魔法関係のミッションをやっていたと思うけど?」
「それは私とシルビアが魔法使い関係の称号を持っていたからです。
ですからもし私とシルビアが、別行動や怪我や病気など、何かの理由でパーティから抜けてしまった場合、そういった事を受けられません。
デフォードは基本、御主人様と一緒に行動はしませんからね。
それに何と言っても、正規の魔道士となれば世間の信用度が違います。
その一点だけを考えても、正規の資格は取っておくべきです」
「なるほど、それは確かに各自が資格を取っていた方が良いね」
俺が納得していると、ミルキィが恐る恐るエレノアに話しかける。
「御主人様とシルビアさん、それにアンジュはともかく、私もですか?」
「はい、そうですよ」
「でも、私は魔法なんて、それほど使えないし・・・」
「別に3人とも同じように資格を取る必要はありません。
マジェストンでは細かく規定が分かれていますから、それぞれに合わせた資格を取れば宜しいのです。
例えばミルキィは「魔道士」に、シルビアは最低でも「魔法学士」になっていただきます」
「私が魔法学士に?大丈夫でしょうか?」
「ええ、シルビアなら十分可能ですよ」
シルビアが不安そうに尋ねるがエレノアが保証する、
魔法学士って、確か全部の魔法教科で三級を取らなきゃいけないんだよな?
そりゃ難しそうだ。
ミルキィも不安そうに答える。
「私も魔法学校で正規の魔道士になんて・・・」
「大丈夫、ミルキィならなれますよ」
まだ魔法使いのランクにそれほど詳しくない俺にはわからないが、どうやら二人ともかなりの試練を強いられたらしい。
「大変そうだな、まあ、二人とも頑張れ~」
俺がのんきに励ますと、あきれたようにエレノアが話す。
「何を言っているんですか?
一番頑張るのは御主人様ですよ?」
「え?僕?」
「そうですよ、御主人様とアンジュには、最低でも「賢者」をめざしてもらいます」
「けんじゃ?」
「賢者ですって!?」
俺が何それ状態で返事をすると、その横でアンジュは驚きの叫びを上げる。
「無理です!絶対に無理!
いえ、御主人様はともかく、私が賢者なんて・・・!」
「いいえ、アンジュなら出来ます」
「無理ですって!」
二人が押し問答をしている所に俺が割って入る。
「あの~ちょっと聞きたいんだけど、その「賢者」って一体何?」
俺も一応、名称だけなら知っている。
字面からして凄そうな称号なのはわかるが、具体的にどういった物かは全くわからない。
ガイドブックにも上級魔道士の称号として「魔法学士」や「賢者」というのがあるとまでは書いてあったが、それ以上詳しくはのっていなかったからな。
おそらく百科事典には載っているだろうが、まだ俺もそこまで読んではいない。
俺の質問にアンジュが興奮して説明を始める。
「まず正規の「魔道士」になるには「魔法士」になった後で、中等魔法学校を卒業しなければなれません。
それでやっと高等魔法学校へ入学する資格が出来るんです!
その高等魔法学校を卒業するには全ての教科で三級を取った上で、最低でも何か一つは二級を取らなければなりません。
そして無事に卒業できれば「魔法学士」の称号を得られます。
そして「魔法学士」の称号を得た後に、さらに魔法の勉強をして、何らかの一級魔法を取ると、「魔法修士」の称号がもらえるのです。
そして全部門で一級を取ると「賢者」を名乗る事が出来るんですよ!」
一級?全部の教科で?
それって、とんでもなく難しいのでは?
「え?それってかなり難しそうだけど?」
俺の質問にアンジュが大騒ぎをして答える。
「難しいなんてもんじゃありません!
今まで賢者を名乗れた人なんて、ほんのわずかしかいない筈です!
博士号を取るより難しいと言われています!」
「そんなに難しいの?」
「博士号は、魔法学士の称号を取った人が、何かしら新しい魔法理論を考えた論文を発表して、それが魔法協会に認められればなれますが、賢者になるには全ての一級魔法をこなせなければなりません!
人と魔法には相性や得意不得意も多少はありますから、全ての魔法を使いこなすなんて、それは大変な事なんですよ!
だから博士号を取るより大変なんです!」
「そりゃ確かに成れる人は少なそうだね」
俺の質問にエレノアがいつものように微笑みながら答える。
「いいえ、そうでもありません。
結構な数がいますよ。
私が存じている限りでも、70人前後はいる筈ですよ」
「十分少ないですよ!
全世界で70人ですよ!
何十万人といる魔道士の中で、たったの70人ですよ!
そんな者に私がなれる訳ないでしょう!
爆ぜろ!このおっぱい!」
どさくさ紛れにまたもやとんでもない事を絶叫するアンジュに、相変わらずニッコリと微笑んでエレノアが諭す。
「いいえ、大丈夫です。私が保証しますよ」
「で、僕にもそれになれと?」
「ええ、もちろん御主人様には賢者になっていただきますが、ゆくゆくは天賢者になっていただきます」
「てんけんじゃ?」
「てっ・・・・!」
再びのほほんとする俺に対して、アンジュが今度は絶句する。
ん?「てんけんじゃ」って、そんな凄い物なのか?




