326 音速を超える少女
空に上がったアンジュは恐ろしいほどの速度で飛んでいく。
そのあまりの速度に、すでにミルキィはおろか、正規の魔道士であるシルビアですら追いつかなくなっている。
「ガルド!シルビアとミルキィを運んであげて!」
「了解しました!」
俺の命令を受けて、ガルドがミルキィとシルビアを航空輸送魔法で運び始める。
すでにアンジュの航空速度は音速に近くなっている。
とても今日はじめて空を飛んだ魔法使いの速度とは思えない!
それでもまだアンジュは速度を上げていく!
このままでは音速を突破する!
しかしそれは非常に危険だ!
初心者が何も知らずに音速を突破しようとするとタダではすまない。
音速を超える際に衝撃波が発生して、術者自身を傷つけるからだ。
俺は大声で叫んでアンジュに注意する。
「やめろ!アンジュ!
それ以上飛行速度を上げると危険だ!」
俺の声に反応したのか、アンジュは一瞬、こちらをチラリと振り返る。
しかしその顔は俺を哀れんで笑っているかのように見えた。
その後で前を向くと、さらにアンジュはグングンと速度を上げていく!
風切り音は激しくなり、もはやこれでは大声を出してもアンジュには届かない。
しかもアンジュは魔法念話には答えないのだ。
このままでは音速を超えると同時に、アンジュは衝撃波で体がどうにかなってしまう!
そしてついに音速を突破した!
音速を突破するには衝撃波に備えて自分の周囲に防御幕を張らなくてはならない。
そうでなければ術者が無事にはすまない。
つまり「浮上」、「推進」、「防御」と言う3つの魔法を同時に使用可能な魔術師でなければ不可能なのだ!
しかしアンジュが無事だという事は、それすらアンジュは対応している事になる。
俺とてもエレノアに習って、音速を超えられるようになったのは比較的最近で、航空魔法を習ってから数ヶ月は経っている。
エレノア曰く、それですら異例の習得の速さなのだ!
普通は音速を超えるのには、早くとも数年はかかるらしい。
いや、そもそも「普通の魔道士」では音速を突破できないのだ!
音速を突破できる時点で「普通の魔道士」ではないらしい。
事実、あれほど優秀な魔道士のシルビアでさえ、音速を突破する事はまだ出来ないのだ!
それをアンジュは航空魔法を使い始めて、まだ半日も経ってはいないのだ!
とても今日が初めて空を飛んだ魔法使いではない!
本能でやっているのか、誰かに教わっていたのか、それとも魔術書で覚えていたのか?
そのいずれであろうと普通ではない!
まさにアンジュは魔法の天才だ!
俺は魔法念話でエレノアと話す。
《エレノア!音速を超えたよ!》
《ええ、私にも信じられません。
今日初めて航空魔法で空を飛んだ者が、ここまで使いこなせるとは・・・》
だが、ただ驚いている訳にもいかない。
エレノアを初め、俺とガルド、ラピーダも防御幕を張り、音速を超えてアンジュを追いかける!
すでにアンジュの速さはマッハ2近くになっているのだ!
俺はエレノアたちと話し合った。
《一体、アンジュはどこへ向かっているんだ?》
《どうやら自分の故郷に向かっているようです》
《故郷?魔人の里か?》
《はい》
《ひょっとして恨みを晴らすためか?》
《おそらくそうでしょう。
先ほどかつて自分を貶めた者達に天罰を下すと言っていました。
さらに「奴ら」に復讐をとも言っていました。
彼女は自分の故郷でかなり虐げられていたようすですから、あれほどの魔法を使えるようになった今、その恨みを晴らすつもりなのではないでしょうか?》
《確かにそれはありえそうだな。
つまりアンジュが言っていた「奴ら」というのは、彼女の事をいじめていた村人という事か?》
《ええ、おそらくそうでしょう》
その気持ちはわかるし、それを果さしてやりたくはある。
今まで何年もの間、魔力のないアンジュをいじめていたのならば、それに対して相応の報いがあってもいい。
しかし、それもアンジュが正常ならばだ。
今のアンジュでは何をやらかすかわからない・・・・
それこそいきなり村ごと焼きかねないし、困った事に今のアンジュならば、それが出来るのだ!
さすがにそれは止めねばならないだろう。
やがてアンジュの先に一つの村が見えてきた。
村の周囲には外敵用に強力な結界が張ってあった様子で、村に入ろうとしたアンジュは、最初その防御結界に跳ね返された。
しかしアンジュは不敵に笑って叫ぶ。
「はっ!このような児戯で私を止められると思うなよ!」
そう言ってアンジュが自分の魔力をぶつけると、パリーン!と音がして結界が破れる!
そしてアンジュはその強力な防御結界を易々と突破して村の中に入る。
あれほど強力な防御結界を、これほどあっさりと破壊するとはこれまた驚きだ!
村の中央に広場があって、アンジュはそこへ着陸するようだ。
中央広場にいきなり着陸したアンジュは大声で叫ぶ。
「みなの者!私は帰って来たぞ!」
突然村へ帰って来て広場で騒ぎ立てるアンジュに村人たちが驚く。
「アンジュ?」
「どうしたんだ?」
「村の防御結界を破ったのはお前なのか?」
「一体、どうやって破った?」
色々と驚いて問いただす村人にアンジュが叫ぶ。
「愚か者どもよ!
私はいずれ魔人の全てを統べる者!
そして最強の魔人となる者!
アンジュ様と呼べ!」
「何を言っているんだ?アンジュ?」
「魔法無しのアンジュが何を言っているんだ?」
その村人の言葉にアンジュがキッ!として反応する。
「魔法無しだと?愚か者め!これを見よ!
グランダ・フラーモ!」
そういってアンジュは近くの木に高位火炎呪文を放つ。
大木はあっという間に黒焦げとなる。
「見たか!愚か者どもよ!」
背後に紅蓮の炎が撒きあがる前で、アンジュは得意満面の笑みを浮かべながら、その美しくも残酷な青く輝く瞳で村人たちを見据えた!




