300 キャサリンの役職
次の日には、いよいよキャサリンの初の迷宮体験だ。
当の本人は初めての迷宮と言う事で、ワクワク感で一杯らしい。
早速昨日買ったミスリル装備一式を着込んで興奮している。
「やった!いよいよ迷宮ですね?
私の役割は何ですか?」
「役割?まあ、最初は見ているだけかな?」
当然の事ながら、迷宮初心者に何か出来るとは思えない。
しかも聞いた話ではキャサリンは魔物との戦闘すら初めてなのだ。
最初はレベルがある程度上がるまで、ただ見ているだけだ。
しかしキャサリンはそれに不満らしい。
「え~せっかく迷宮に行くんだし、何か私にも役割をくださいよ。
格好だってこんなに格好良くきめているのに!
そういえば私にはまだ役職もないし~」
「役職?」
「だって、エレノアさんは秘書監だし、シルビアさんだって次席秘書監っていう、格好いい役職があるじゃないですか?」
「ああ、まあ・・・そうだな」
別に格好良さで役職を決めている訳ではないのだが、この娘は武器防具同様、役職も格好良い名前の方が良いらしい。
「あれ?そういえばミルキィさんは?
何か役職についてないんですか?」
「え?私は・・・」
キャサリンの質問にミルキィが戸惑う。
確かにミルキィは特に役職はない。
しかし俺はとっさにキャサリンに答えた。
「ミルキィは迷宮での斬り込み隊長だよ」
「斬り込み隊長ですか?
いいですね!
格好いいです!
ねぇ!私にも何か役職をくださいよ~」
「そうは言ってもね・・・」
俺としても昨日今日来て何が出来るかもわからない人間に役職はふれない。
困惑する俺に対して、キャサリンが勝手に自分で役職を決める。
「そうだ!秘書!
ただの秘書でいいですから!」
例によって積極的に自分を売り込もうとするキャサリンにエレノアが教育を始める。
「キャサリン?昨日も言ったでしょう?
あなたはもっと礼儀と慎みを覚えなさい!」
「え~?」
ぼやくキャサリンに俺は心を決めた。
「・・・わかった、キャサリン、お前に役職を与えよう」
「やった!何ですか?」
喜ぶキャサリンに俺が真顔で役職を言い渡す。
「お前はたった今から秘書補佐代行だ」
俺の言葉にキャサリン以外が全員噴出す。
しかし当のキャサリンは不満そうだ。
「え~?何ですか、それ?
格好悪い・・・変えてくださいよ~」
「文句があるなら「秘書補佐代行見習い」だ」
「それ、さっきより、下がっているじゃないですか!
イヤですよ!」
プイッ!と横を向いて、本気で嫌がるキャサリンに俺は冷たく応じる。
「じゃあ、「秘書補佐代行見習い心得」だ。
文句があるならまだ下げるぞ?」
「・・・それでいいです」
これ以上文句を言えば、さらに役職を下げると言われて、キャサリンはついにあきらめたようだ。
どうやら俺がさらに考えていた「秘書補佐代行見習い心得助手」や「秘書補佐代行見習い心得助手下役」は発令しなくてすんだようだ。
「よし、いいか?
キャサリン秘書補佐代行見習い心得、よく聞けよ?
これから我々は迷宮に行くが、君は無理をせずに、最初は後ろでみているんだ」
わかったな?」
「はーい」
一応、キャサリンはおとなしく俺の言う事を聞く。
こうして俺たちは迷宮に向かった。
迷宮へ向かいながら俺はキャサリンに尋ねた。
「そういえば今更だが、キャサリンは戦士と言うか、剣士が希望なのかい?」
「ええ、もちろんそうです!
迷宮へ行って魔物と戦う花形と言えば当然剣士じゃないですか!
まっさきに魔物へ向かって行って、切り伏せる!
他の職業なんてオマケみたいな物ですよ!」
こりゃまた極端だ!
この娘にとって、戦士とか剣士以外は、まるでお荷物か邪魔者のようだ。
だからこの娘は全身ミスリルの戦士装備にした訳か!
それにしても他の役割がオマケとは驚きだ。
俺はキャサリンに尋ねてみた。
「しかし攻撃魔法使いや治療魔法使いだって、いなきゃ困るじゃないか?」
「攻撃なんてとにかく、相手を切りつければいいんだし、回復や治療なんて薬があれば大丈夫じゃないですか!
魔法なんてオマケですよ!」
う~ん、本当に極端な考え方だな?
「それじゃ魔法とかは覚えるつもりはないのかい?」
「ええ、あんな面倒な物は必要ありません!
そんな物は部下にでも覚えさせればいいんです!」
まさにお前がその部下じゃないのか?
と突っ込みを入れたくなったが、何だかあほらしくなって来たのでやめた。
エレノアたちも同じようだ。
そして俺たちはロナバール北東の初心者用の迷宮へと着いた。
迷宮に入った俺がエレノアに尋ねる。
「最初はやはり60か、70位からかな?」
「我々も慣れてきましたから、もう少し上でも大丈夫だと思います」
「では今回はレベル80位にしておくか?」
「そうですね。その辺が妥当だと思います」
俺たちの会話に、流石にレベル10のキャサリンが驚く。
「えっ?レベル80?大丈夫なんですか?」
「ああ、キャサリンは見ているだけで良いから」
「はい」
「よし、じゃあ3人で前衛をやってくれ。
僕は後衛でキャサリンを守るから」
「承知いたしました」
エレノア、ミルキィ、シルビアを前衛にして、後衛は俺とガルドとラピーダだ。
キャサリンは一人で中衛だ。
後衛の三人でキャサリンを守る。
少々人数が多いが7人体制だ。
迷宮を歩き始めた俺たちの前に、いきなり出てきた魔物はレベル85の魔物、チーフミノタウロスが3匹だ。
「な、なんですか?コレ?」
初めて見るチーフミノタウロスにキャサリンは驚くが、俺が説明する。
「これはチーフミノタウロスだ。
攻守共にバランスが良く、中々手ごわい。
魔法も多少使うし、火を吹くから気をつけろ」
「はい・・・」
しかしその手強い敵を,前衛の3人は全員が即座に倒す。
連携が完璧で、一人が一匹を確実に倒した感じだ。
途端にキャサリンのレベルが一気に上がる。
「うわっ!何?これ?」
何が起こったかを察した俺がキャサリンに問いかける。
「レベルが急激に上がったんだろう?」
「はい、何か凄いです!」
「チーフミノタウロスは経験を稼ぐには良い相手だからな。
初戦でいきなり3匹も出てきて随分レベルが上がっただろう?
運が良かったな」
「はい、私、昔から運は良い方なんです!」
「そうか」
次の戦闘でもキャサリンのレベルが3ほど上がり、数回の戦闘で、早くもレベルが35程度になった。
俺もこういった事は、すでに慣れているので、かなり効率良く、仲間のレベルを上げられるようになってきた。
「すっごーい!私、もうレベルが25も上がりましたよ!」
「ああ、まずはレベルを上げないと話にならないからな。
もう少し、上げるぞ?」
「はい」
こうして、さらに何回かの戦闘を繰り返すと、午前中だけでキャサリンのレベルは40にもなる。
かつて俺が1週間かかったレベルを、キャサリンはたったの半日でこなした形だ。
一旦、迷宮の休憩所で休みながら、俺はみんなと話した。
「ふう、中々良い調子だね?」
「ええ、私達もこういった事に、大分慣れてきましたからね」
「午後は私にも戦わせてください!」
興奮して話すキャサリンにエレノアが諭す。
「キャサリン、あなたにはまだ無理です」
「え?だって、私たったの半日でレベルが30も上がったんですよ?
こんなの信じられますか?」
「それは私達がうまくやっているからです。
これだけ高レベルのパーティで、高レベルの魔物を倒せば、その程度にはなります。
勘違いをしてはいけません」
「え~、でもそれって、実は私の才能が凄いからじゃないですか?」
「はは・・キャサリンに才能が無いとは言わないが、今回は仲間のおかげだな」
「そうなんですか?」
「ああ、しかし確かに本人が戦いたがっているんだ。
午後は少し場所のレベルを下げて、キャサリンにも少しは手を出させてみるか?」
「はい、承知しました」
午後になって、レベルが20程度の魔物が出没する場所へと俺たちは行った。
この程度なら初心者でもレベル40になったキャサリンになら何とか相手は可能だろうし、全身ミスリル装備のキャサリンを前衛にしてもさほど問題はないだろう。
「では、今度はキャサリンを前衛にしてみよう。
ミルキィとエレノアは左右を頼む。
シルビアは中衛で援護してやってくれ」
「「「はい」」」
「キャサリン、今言った通り、今度は前衛にするから、まずは好きなように戦ってみろ」
「はい」
しかし、この言葉を俺はすぐに後悔する事になる。
キャサリンは本当に何も考えずに相手に突撃をするのだ。
しかも前衛の他の二人の事など一切考えずに戦うので、味方も危ない。
何回も危うく左右にいるミルキィやエレノアを切りそうになる。
俺はキャサリンに指示をする。
「キャサリン!
もう少し考えて戦え!
左右にも味方がいるんだぞ!」
「え~?そんなのよくわからないから、そっちで合わせてくださいよ~」
確かに初心者では、まだ勝手がわからないかも知れない。
「仕方がない、ミルキィ、エレノア、しばらくはキャサリンの動きに合わせてやってくれ」
「「はい」」
二人の支援によって、多少ましになるかと思いきや、自分の身が安全となると、ますますキャサリンは調子づく。
「おい!キャサリン!
少しは周囲の事を考えて戦えと言っているんだ!」
「そうは言っても~」
「自分一人で戦っているのではありません。
仲間との連携を考えるのです!」
「え~?」
俺やエレノアが何回そう言っても、キャサリンはまるで理解が出来ないようで、何回戦ってもしっちゃかめっちゃかな戦い方をする。
格闘の才はそこそこあるので、魔物との格闘は次第になれて来たのだが、仲間との連携は全く出来ない。
むしろ邪魔にしかなっていない。
俺は戦いの感覚と、仲間との連携の才は、全くの別物だと言う事を知って驚いた。
一日が終わって、俺たちはいつも以上に疲れた。
しかしキャサリンは自分のレベルが一日で格段に上がって大喜びだ。
「すっごーい!
私ってば、大した事もしていないのに、たったの一日で31もレベルが上がっちゃった!
レベル41だよ!41!ひょっとして天才?
まあ、前から知っていたけど、やっぱり私は天才なのかな?」
はしゃぐキャサリンにエレノアが釘を刺す。
「キャサリン、迷宮の中でも説明しましたが、それはこれだけレベルの高い人間とパーティを組んで、高レベルの魔物と戦えば、当然の結果です。
それよりもあなたはもっと他人との連携を考えなさい」
「はあ~い」
「まあ、キャサリンも初めての迷宮で色々と疲れただろう。
明日も迷宮に行くのだから、今日の所はゆっくりと休みなさい」
こうしてキャサリンの迷宮一日目は何とか終わった。
俺は初心者とはいえ、キャサリンのあまりの仲間との連携の無さが気になったが、それも慣れれば何とかなるだろうと思った。
そして夕飯を食べ、風呂に入る。
「御主人様、今日はいかがしますか?」
エレノアに問われて俺はキャサリンを見る。
やはりキャサリンはやる気満々で俺を見るが、俺はとてもその気になれない。
「そうだね・・・今日はシルビアとミルキィと一緒がいいな」
「ではそういたしましょう」
「え~また私じゃないんですか?」
「ああ、キャサリンはまた今度な」
キャサリンがぼやくが俺は放っておく。
それよりもペロンがまだ帰ってないのが気になった。
俺たちよりも先に家に帰っているだろうと思ったのに、アルフレッドに聞いても、昨日飛び出していったきり、まだ全く姿を見かけないというのだ。
俺はペロンが大丈夫だろうか?と心配になってきた。
ケット・シーは何年も食べなくても大丈夫だし、本人も住む場所は軒先でも問題はないと言っていたが、やはり心配は心配だ。
明日は迷宮に行くのをやめて皆でペロンを探しに行こうか?
それとも俺はカラバ侯爵のように、仕えるに値しない主人として、ペロンに見捨てられてしまったのだろうか?
俺はそんな事を考えていた。
広いベッドの両脇にシルビアとミルキィを侍らせながら俺は二人に尋ねる。
「ねえ、二人はキャサリンをどう思う?」
「そうですね、あれは相当厄介ですね」
「私もあの人はかなり問題だと思います」
「ええ、いくら迷宮での戦闘が初めてだと言っても問題が多すぎですね」
「ええ、私は中衛をしていたから大丈夫でしたが、エレノアさんとミルキィは危うく切られる所でしたからね」
「そうだねぇ・・・」
やはり二人の意見もエレノアと大差ないようだ。




