299 キャサリンの話
全身ミスリル装備をしたキャサリンは、銀のマントを翻しながら町を意気揚々と歩く。
その姿はパッと見には見眼麗しい女性騎士に見えるので、数人が感心して注目する。
キャサリン自身もそれを自覚しているようで、自分が世間の注目を浴びているのがわかって得意げだ。
どうやらこの娘は自分が世間の注目を浴びるのが好きなようだ。
俺がそんなキャサリンを呼び止める。
「キャサリン、ちょっとついでに教えておきたい事があるから寄り道をするよ?
ついて来なさい」
「は~い!」
俺は帰り道にキャサリンをサクラ魔法食堂に案内する。
「ここが私の経営する「サクラ魔法食堂」だ。
君は一応「外組」だが、何かの時には手伝ってもらうかも知れないから教えておこう」
だが俺の説明に、キャサリンはかなりの驚きを見せる。
「え?ここが御主人様のお店なのですか?」
「ああ、そうだよ?知っているのかい?」
俺が尋ねるとキャサリンは興奮して答える。
「知っているも何も、今この町で一番有名なお店じゃないですか!」
「そうなのかい?」
俺もうちの店がそれなりに評判が良いのは知っているが、そこまでとは思っていなかった。
「ええ、女性店長がとてもやり手で、噂の店ですよ!」
「ああ、今この本店も含めて店長は5人ほどいるけど、今の所は全員女性で優秀だからね。
君は食べた事があるのかい?」
「いいえ!まだ噂を聞いただけで、食べた事はありません。
いつも凄く混んでいて、並ばないと中々入れないとも聞いてますし」
「そうか?ではちょうど良い機会だ。
案内がてら軽く食べていくか?」
「はい、お願いします!
私も一度食べてみたかったんです!
この店はとにかく有名なんですよ!
貴族の間でもその話で持ちきりですよ!
しかも総督閣下まで御愛用のお店だとか」
なるほど、そこまで噂になっているのか?
俺はうなずいて答える。
「ああ、確かにミヒャエルもよくうちには来るよ」
「え?ミヒャエルって?」
「ん?ああ、総督閣下の名前だよ。
私と総督閣下は友人で、お互いにミヒャエル、シノブと呼んでいるからね」
その俺の説明にキャサリンはさらに興奮する。
「ええっ?凄い!御主人様は総督閣下とそんな風に呼び合える仲なんですね?」
「え?うん、友達だからね」
「凄い!凄い!総督閣下と御友達だなんて!」
「ん?まあね・・・凄い・・・かな?」
確かに総督閣下と友人と言うのは、そう多くはないだろう。
そう言われれば凄い事なのかも知れないが、どうも俺はそういう事にうといのかよくわからない。
レオンの時もそうだった。
しかしキャサリンはその事に相当感銘を受けたようだ。
「そうですよ!
だって、それならあっちこっちでやりたい放題じゃないですかぁ!」
「いや、そんな事ある訳ないだろ!」
どうもこの娘は俺がミヒャエルと友人関係なのが、よほどの特権だと思っている様子だ。
別に俺とミヒャエルは単に仲が良い友人で、それを利用してどうこうなんて気はさらさら無いんだがな・・・
まあ、確かにこの間のカラバ侯爵みたいのが来た時は助かったけどね。
それにもし俺がそんな奴だったら、ミヒャエルたちは決して友人にはならなかったと思う。
俺たちは本店に入ると、ちょうど案内係を務めていたロージーと会う。
「いらっしゃいませ!
あ、ホウジョウ様にグリーンリーフ先生、いらっしゃいませ!
今日は何の御用でしょうか?」
「ああ、新しく奴隷を雇ったので、ここも案内しておこうと思ってね。
四番奴隷のキャサリンさ」
「そうですか?
私はこの魔法食堂本店でホール長を務める、ロージーと申します。
よろしくお願いしますね?」
「はい、四番奴隷のキャサリンです!
よろしく、お願いします」
「ああ、我々は一通りこのキャサリンに店を案内してから「青薔薇」へ行くから、一応クレインとブリジット、それにホワイティに伝えておいてくれないか?」
「かしこまりました!」
俺たちはロージーと分かれると、キャサリンに店の中を一通り案内する。
そして昇降機を使って3階の専用室である「青薔薇」へ着くと、すでにそこにはクレインたちが待っていた。
「ようこそ、ホウジョウ様!」
「いらっしゃいませ!」
「本日は何の御用でしょうか?」
「ああ、3人とも、忙しい所をすまないね?」
「とんでもございません!」
「ええ、御用のある時はいつでもどうぞ!」
「その通りです!」
俺はうなずいて三人にキャサリンを紹介する。
「新しく奴隷を雇ったから一応3人にも紹介をしておこうと思ってね。
四番奴隷のキャサリンだ。
キャサリン、この3人は、このサクラ魔法食堂の幹部だ。
ロナバール地区部長のクレイン、本店店長のブリジット、そして教育担当のホワイティだ。
もし君がここで働く事になるなら、この3人に色々と教わる事になる。
覚えておくように」
「はい、四番奴隷のキャサリンです!
よろしくお願いします!」
相変わらずキャサリンの挨拶はハキハキとして感じは良い。
「ロナバール地区部長のクレインだ、よろしく」
「魔法食堂、本店店長のブリジットです。
よろしくね」
「同じく教育担当課長のホワイティです。
よろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いします」
お互いに挨拶が終わった所で俺が注文をする。
「では、我々に肉まんを一つずつと、プリンも一個ずつもらおうか?
後は仕事に戻っていいよ」
「あ、私は水だけで結構ですよ」
俺とエレノアがそれぞれそう言うと、クレインたちが頭を下げて返事をする。
「はい、かしこまりました」
3人が退室して三人になると、俺たちは席に座る。
するとすぐにキャサリンが興奮しながら俺に話しかけてくる。
「凄い!本当に御主人様はこの店の経営者なんですね!」
「はは、まあ、優秀な人材に恵まれて何とかやっているよ。
君も場合によってはここで働く事もあるかも知れないから、今回は店の案内だけでもしておこうと思ってね」
「はい、私、店長でしたらいつでも出来るので任せてください!」
は?いきなり店長だと?
この娘は一体何を言っているんだ?
そのキャサリンの言葉に俺が驚いて問い返す。
「店長?いや、最初は調理か案内係からだね」
「え?私、仕事なんて店長以外やった事がありませんが?」
仕事を店長以外やった事がないってどんな人間だ?
大体、何の店長だよ!
エレノアもその言葉を聞いて驚いているようだ。
俺は再びキャサリンに聞いてみる。
「店長しかって・・・一体どこで?」
「パパのお店の店長です!
私、パパの代わりによく店長をやっていたんですよ」
父親の店の店長ね?
しかしこの娘にまともな店長が務まるかどうか怪しいと思うのだが?
エレノアもそれを感じたらしく、キャサリンに質問をする。
「キャサリン?あなたは店長として何をしていたのですか?」
「え?そりゃもちろん、店長室にいて、部下にあれこれ命令していたんですよ?
店長って、そういう者でしょう?
私、命令するのは大好きだし、店長って天職だと思っているんです」
何か店長と言う役職を勘違いしているとしか思えないが、一応俺は聞いてみた。
「ふ・・ん?何の店をやっていたんだい?」
「え~と、それは洋品店だったり、果物屋だったり、武器屋だったり色々です。
パパは色々な店をやっていましたから」
その説明に俺は少々感心する。
随分と手広くやっていたんだな?
武器屋で働いていたというのも、親の店で働いていたのか!
しかし武器に関する知識があれで、よく店長なんて出来たな?
「ほう、そりゃ凄いね?
そんなに君のお父さんは色々な店を一辺に経営していたのかい?」
「いえ、違います。
パパは何か店を一つ開くと、儲けるだけ儲けて、ある程度稼ぐと、その店を潰して次の店を開いていました。
それが一番儲けるコツだと言ってました」
「え?店を潰す?」
その信じられない発言に俺は驚いて聞いた。
エレノアも驚いているようだ。
「ええ、パパはその時に流行っている物を目ざとく見つけてその店を開き、それがダメになってくると、その店を売ったり、人に貸したりして、次の店の資金にして稼いでいました。
実際、とても儲けていたんですよ」
う~む、どうも話だけ聞くと、やっている事はまともな商売人ではなく、悪徳ブローカーか、やくざのしのぎにしか思えないのだが?
観光地とかで、毎日「本日のみ商品半額!」とか大袈裟な看板を掲げて、何も知らない観光客に、定価の土産物を売っている店の類か?
いや、むしろあれか?
ドロ○ボーの3人組が、メカを作る金を稼ぐために、インチキ店舗をやっている感じか?
俺がそんな事を考えていると、キャサリンが話を続ける。
「でも最近、とても商売がやりにくくなって困っているとこぼしていました。
何でもロナバールでは、一切袖の下が効かなくなって面倒になったとか・・・
特に一番取引をしていた相手が潰れてしまって、困ったと言ってましたね」
「へえ?一体どこと取引をしていたのかな?」
「確かトランザム商会とか言う所です。
私も詳しくは知らないのですが、何でも最近突然潰れてしまったとかで、パパも驚いてました。
それも誰かに無理やり潰されたらしいです。
パパもどこのどいつか知らないけど、余計な事をしやがってと言ってました」
それを聞いて俺は飲んでいた水を噴出しそうになってしまった。
これまたエレノアも驚いている様子だ。
「トランザム商会だって?」
「ええ、そうです。
ロナバールでもかなり大きな商会だったらしくて、パパはよく取引をしていたそうです。
とても大きな商いをしていたので、パパもまさか潰れるとは思わなかったそうです。
何でも薔薇を咥えて青いタキシードを着た変な人間に潰されたとか、通りがかりのどこかの国の王子様に潰されたとか、顔役同士の潰しあいで潰れたとか、色々と言われていて、どれが本当かわからないです。
ともかく、そこが潰れた後で、他の店とも取引しようとしていたのですが、何故かどことも取引をしてもらえなくて、結局パパの店は潰れてしまいました。
それでパパは逃げて、私は奴隷として売られたんです」
「へえ・・・そ、そうなんだ?」
「ええ、ひどい話ですよね?」
「あ、ああ・・・さあ・・・どうなんだろうな?」
俺は適当に答えておいた。
どうやらキャサリンは変な捏造新聞記事を読んでいるおかげで、俺たち「青き薔薇」がトランザムを潰したとは思っていないようだ。
この娘が事実を知ったら面倒な事になりそうなので、言わないでおいた方が良さそうだ。
「ああ、それと重要な伝手が使えなくなったともこぼしていましたね」
「伝手って?」
「ええ、パパが贔屓にしてもらっていた侯爵様らしいのですが、何でもその侯爵様が総督閣下の逆鱗に触れて総督官邸に出入り禁止になったばかりか、貴族仲間からも総スカンを食らって、全然使えなくなったとか・・・」
「ほう・・・?」
「しかもパパはこの町の顔役衆からも、ソッポを向かれたみたいですよ?」
カラバ侯爵の事かーーーっ!
むむむ・・・
どうやらこの娘の父親は、やはり相当な悪徳業者だったようだ。
俺はこのロナバールの顔役衆たちに、悪どい事をしている連中とは手を切れと言っておいたが、その結果、この娘の父親は全ての顔役衆から縁を切られたようだ。
よほど悪どく手を広げていたに違いない。
しかしキャサリンはその事には全く気づいていなかったようだ。
それにこの話からすると、どうやら顔役衆は俺の言う通りにちゃんと動いているようだ。
まあ、デフォードの話でも、ちゃんとまともに顔役として動いているらしいが・・・
ここで肉まんとプリンが来たので、俺はキャサリンに薦める。
「さあ、これがうちの名物の肉まんとプリンだよ。
食べてごらん」
「はい、ありがとうございます!」
本来はこの食堂の中では肉まん単品を注文できないが、俺は経営者なので特別だ。
少々おかしな組み合わせではあるが、気にしないでおこう。
肉まんとプリンを食べたキャサリンは驚いて喜ぶ。
「凄い!これ両方ともおいしいですね!
こんな食べ物、食べた事がありません!」
「それは良かったね。
この店には他にもいくつか食べ物があるけど、この二つが一番名物なんだ。
いずれ他の物も食べる機会もあるだろうけど、今日は家に帰ったら夕飯時だから、今回はこの二つだけで抑えておこう」
「ええ、こんな食べ物を売る店の店長だったら、是非私もやりたいです!
私、命令するのは得意なので、いつでも店長を任せてください!」
「ま、まあ、機会があればね」
うん、ダメだ、こりゃ。
俺の気分はすっかり、いかりや長介だ。
どうやらこの娘に食堂関係の仕事をやらせるのは無理そうだ。
これはやはり迷宮で鍛えて戦闘要員にするしかないな?
俺は肉まんを食べながらそう考えた。
肉まんとプリンを食べ終わると、俺たちは魔法食堂を後にして屋敷へと向かった。
全身ミスリル装備を身につけて、はしゃいで家に帰ったキャサリンを見て、シルビアとミルキィは目を丸くして驚いていた。
そして皆で夕飯を食べて風呂に入る。
キャサリンも一緒に入り、俺の体を洗う。
「御主人様、いかがいたしましょう?
今日はキャサリンと二人でお休みになりますか?」
エレノアが俺にそう尋ねる。
キャサリンを見ると、その気満々のようだ。
しかし何故か俺はその気にならない。
見た目は美人なのに、全くキャサリンに触る気にもなれないのだ。
こんな事は初めてだ。
「う~ん、今日は話したい事もあるからエレノアと二人で寝るよ」
「かしこまりました」
風呂から上がると、シルビア、ミルキィ、キャサリンの三人はそれぞれ俺に挨拶をして自分の部屋へ帰る。
エレノアだけが残り、俺と二人になる。
俺はベッドでエレノアと横になって話す。
「ねえ、エレノアはキャサリンの事をどう思う?」
「そうですね、まだはっきりとは言えませんが、中々問題の多い子のようです」
「やっぱりそうかな?」
「ええ、当初考えていたよりも、遥かに我侭な性格のようです」
「うん、そうだね・・・」
俺は何だか不安になって、エレノアを抱きしめる。
エレノアも俺の事を抱きしめて俺の頭を撫でる。
うん、エレノアはいつものスーパー御姉様モードだ。
俺は安心すると、そのままエレノアを抱きしめて眠った。




