286 ペロン印の幸せプリン
無事に重曹の大量生産の目処もついて、サクラ魔法食堂の開店が近づいてくるに伴い、俺は外部の人の意見を聞くべく、知り合いの人たちを呼んで試食をしてもらった。
特に今回は女性中心だ。
呼んだのは魔法協会からエトワールさん、ボロネッソさん、マドレーヌさん、総合組合からアレクシアさん、イザベラさん、ルシールさんの六人だ。
ペロンも食べてみたいというので、みんなと一緒に味見役だ。
いつものようにプリンをエトワールさんが嬉しそうに食べる。
その前では、やはりペロンが嬉しそうにプリンを食べている。
それを見てエトワールさんが幸せそうに話す。
「ああ、やっぱりこのプリンは何回食べてもおいしいわねぇ~
しかもケット・シーと一緒にこんなのを食べていると心がとっても和むわ~
何か本当に幸せって感じ~」
その瞬間、俺の心である物が閃いた!
「それだ!」
「え?何?」
実は俺はうちで売るプリンに何か付加価値をつけられないかと考えていたのだ。
プリンは材料は高価とは言え、作るのも比較的簡単で、そのうちどこの店でも売るようになるだろう。
それ自体は構わないが、何かうちが元祖というか、他の店のプリンと差別化をする方法がないかと考えていたのだ。
それを今のエトワールさんの言葉で思いついたのだ。
「ねえ、エレノア?
ケット・シーを商売の関係に使っちゃまずいのかな?」
「いいえ、そのような事はございません。
古今東西を問わず、ケット・シーを利用して商機を掴み、財を成した者はたくさんいますし、それを利用して貴族になった者さえおります。
但し、本人の許可は必要ですが」
それを聞いた俺がペロンに尋ねる。
「なるほど、ねぇ、ペロン?
君の名前と顔を使わせてもらって良いかい?」
「え?何の事ですニャ?」
嬉しそうにプリンを食べていたペロンがキョトンとした感じで俺に尋ねる。
「このプリンにペロンの名前を使って、ペロンの顔を印に使いたいんだ。
それをうちの売りにしたいんだよ!
そうすれば、普通のプリンと差別化が出来るし、通りも良い。
名前は・・・そう!「ペロン印の幸せプリン」にしよう!」
俺の提案にペロンも楽しそうに賛成する。
「それは面白そうですニャ。
ボクは別に構いませんニャ。
御主人様の役に立てるなら何でも使ってくださいニャ」
エトワールさんもうなずいて答える。
「確かにそれは面白そうね。
でも、それだと、商品登録をしないと」
「商品登録?」
何の事かと思って俺が尋ねると、エトワールさんが答えてくれる。
「ええ、組合にその商品を登録して、他で同じ名前を使われないようにするのよ。
そうしないと、同じ名前で作られても文句は言えないわ」
なるほど、要は地球で言う商標登録と同じような物か?
この世界にもそういった制度がある訳か?
「それって、どうすれば良いのかな?」
「まずは組合の商業部に屋号を登録するのよ。
その後で、その商品名を登録するの。
それ以上詳しくは、私もわからないわ」
「そうか・・」
誰か詳しく知ってそうな人はいないだろうか?
俺がそう考えていると、アレクシアさんが助言をしてくれる。
「私も詳しくはわかりませんが、うちの商業部の子なら詳しく知っているはずです。
それとカベーロスさんならば、間違いなく知っているでしょう」
「そうか!そうだね!」
確かに商人であるカベーロスさんなら知ってそうだ。
俺はカベーロスさんに聞いてみる事にした。
さっそく次の日にカベーロスさんにその事を話すと、呆れたように言われた。
「何だってぇ?
シノブ君よ、まだ屋号登録をしていなかったのかい?」
「恥ずかしながら・・・」
「しょうがねえぇな!
まあ、シノブ君には色々と恩があるからな!
俺が一から教えてやるぜ!」
「ありがとうございます!」
カベーロスさんから聞いて、俺は組合で屋号や商品登録をする事が出来た。
屋号は「サクラ魔法食堂」で、商品登録した物は「肉まん」と「あんまん」そして「プリン」と「ペロン印の幸せプリン」だ。
「肉まん」や「あんまん」「プリン」のような一般名称を商品登録するのはどうかと思ったが、カベーロスさんが俺に言った。
「ダメだな!シノブ君!
いいかい?肉まんにしてもプリンにしても、今まで誰も作っていなかったものなんだぜ?
つまりこれから一般的な名前が広がって行く物であって、今の段階では一般的ではないんだ。
それを放っておいたら誰かが「肉まん」や「プリン」を商品登録しちまうぜ?
そうなったら元祖のシノブ君が使えなくなっちまうんだ!
その前に手を打たなきゃだめだぜ!」
なるほど、言われて見ればその通りだ。
俺が登録して一般名称として広めていくぶんには何も問題はないが、誰かが登録をしてしまって、逆にうちが名称の使用を差し止められたら目も当てられない。
そういえば、前世でもそういった事件はよく聞いた。
俺は急いで屋号と商品登録をした。
一安心した事にまだ誰も「肉まん」や「プリン」を商品登録していなかったので助かった。
これが21世紀の日本やアメリカだったら、とっくに商標登録されてしまって、困った事になったかも知れなかった。
俺はカベーロスさんに礼を言った。
「おかげで助かりました。危ないところでした」
「な~に、良いって事よ!
これで多少はシノブ君に恩も返せたからな!」
こうして「サクラ魔法食堂」と「ペロン印の幸せプリン」はうちの正式な屋号と商品名称となった。
「肉まん」「あんまん」「プリン」は一般名として特に規制するつもりはないが、何か問題が起こった時にはうちに有利になるので、商品登録しておく方が良いだろう。
それにどうやら「オムライス」やら「ハンバーグ」なども、いずれは商品登録をしておかねばならないようだ。
俺は魔法食堂の会議室に関係者を集めて話した。
「さてこれで、店舗的にも法的にも、うちは無事に開業できそうだ。
材料の購入や人員的要素も全てよし!
それとペロンをうちの「名誉店主」に任命しよう。
この食堂が開いたら、ペロンは出来れば数日に1回はここに来て、プリンとか何かをここで食べて欲しいな」
俺の言葉にペロンは目を輝かせて返事をする。
「プリンなら毎日でも食べたいですニャ!」
「あはは・・・もちろん毎日だって構わないよ?
じゃあ、そうだな・・・
食堂の一階の周りからよく見える場所にペロンの特別席を作ろう。
ペロンは「視察」と称して、そこでプリンを初めとして色々と食べてもらう。
そうすればうちの食堂に来た人たちも幸せな気分になれるだろう」
「それは良い考えですニャ」
「そう言えばロナバールにはケット・シーって、何人位いるんだろう?」
「さあ?それはボクにもわかりませんニャ」
どうやらペロンにもロナバールのケット・シー人口はわからないようだ。
ここでシルビアが発言をする。
「私の推測が間違ってなければ、全員でも10人はいないと思いますわ。
おそらくは7・8人という所でしょうか?」
「なるほど、それとケット・シーに暴れん坊と言うか、乱暴な者はいるのだろうか?」
俺の質問に今度はエレノアが答える。
「それは聞いた事がございません。
私が知っている限りでも、ケット・シーはほぼ全員が温厚な種族です」
「そうなの?ペロン?」
「そうですニャ。
ボクは乱暴なケット・シーというのには会った事がありませんニャ。
バロンのように生真面目だったり、ちょっとちゃっかりしているケット・シーもいたりしますが、嫌な性格のケット・シーには会った事がありませんニャ。
そもそもケット・シーでそんなのがいたら、自分の嫌な匂いで息が詰まってしまいますニャ。
それに他のケット・シーからも嫌がられてしまいますニャ」
なるほど、ケット・シーは匂いの良い生き物が好きらしいから、自分自身の性格が悪い者は基本的にいないという事か?
「それだったら、ペロン?
君が気に入ったケット・シーがいたら誘って、うちの食堂で一緒に食べてあげてよ。
それがうちの宣伝にもなるだろうからね?
名誉店主である君が連れて来たケット・シーは、全員無料で御馳走する事にするよ」
その言葉に再びペロンは目を輝かせる。
「本当ですかニャ?」
「ああ、本当さ。
是非、色んなケット・シーを誘って食べに来てくれ」
「ではまずは最初にバロンを誘いますニャ!」
「ああ、それが良いと思うよ」
こうしてうちの食堂の売りの一つに「ケット・シーと一緒に食事が出来る店」という事が加わった。
これは正式に宣伝した訳ではないが、実際にうちの食堂で食事をした人たちから伝わっていった。
そしてうちで売る「ペロン印の幸せプリン」を食べると幸福を招くという、まことしやかな噂が食堂の開店前からロナバール中に浸透していった。




