282 ミヒャエルたちからの贈り物
ザジバの件と前後して、ミヒャエルから連絡が来た。
かねてより頼んでおいた店の候補が見つかったようだ。
ミヒャエル、ジーモン、ガスパールの三人が俺を現地に案内してくれて説明をする。
そこはロナバールの中心地近くにあり、うちからも歩いて20分ほどで行ける。
しかもうちの屋敷の倍以上の広さだ!
グレイモンの屋敷の土地に匹敵するほど広い!
街の中心近くに、よくこんな好条件の更地物件があったものだ。
ミヒャエルが俺にこの場所の感想を聞いてくる。
「どうじゃ?シノブ?この場所は?」
「うん、何も問題はないよ!
場所は一等地だし、広さも申し分ない。
よくこんな良い場所があったね?」
「うむ、まあ・・・実はここは余の別宅があった場所でな。
大分古くなっておったので、ちょうど立て直そうと考えて更地にした所だったのじゃ」
「え?ミヒャエルの?いいの?」
「ああ、大丈夫じゃ、余の屋敷は本宅やここ以外にも何箇所かあるでの。
一つ位無くなった所で、別に何も問題もない」
まあ、ミヒャエルはここの総督閣下だしね?
そりゃ色々とあるだろう。
どちらにしても助かる。
「うん、これだけの広さがあれば、良い店ができると思うよ」
俺がそう言うと、ミヒャエルは不思議な事を言い始める。
「ふむ、ならばその店の建築費はお前たちが出すか?」
ミヒャエルの言葉に横で聞いていたジーモンとガスパールがうなずく。
「そうじゃのう」
「ああ、それがいい」
3人の会話の意味がわからなかった俺が尋ねる。
「え?何を言っているの?」
「何、この土地とこれから出来る店は、余とこの二人からの贈り物じゃよ。
シノブへのな」
「そうじゃ」
「うむ」
三人の答えに、俺は驚いて答える。
「え?何で?こんな良い場所、タダでもらう訳にはいかないよ!
それに店の建築費までなんて!」
その俺の言葉にミヒャエルが怒った様に答える。
「何を言っておるか!タダではないわい!
この程度の物を返さねば、余の沽券に関わるわ!」
「そうそう」
「全くそうじゃな」
ミヒャエルの横でジーモンとガスパールもうなずく。
「え?どういう事?」
俺の質問にミヒャエルが呆れたように答える。
「全く御主はわかってないのう・・・」
「うむ、それはわしらもわかっておる」
「その通りじゃ。
こやつは物の価値という物をわかっとらんわ」
「その辺はさすがにまだ若いのう。
いや、若さや年齢ではなく、元々の性格かも知れぬが・・・
まあ、そこがこやつの良い所でもあるのだが」
「ああ、その辺はわしらが教えてやらねばな」
「うむ、友として年長者として当然の事じゃな」
「え?何?何の事?」
何の事かわからず当惑する俺にジーモンが説明をする。
「良いか?
おぬしがわしらにくれたあの望遠鏡やら百科事典が一体どれ位の価値があると思っておるのじゃ?」
「え?それはまあ・・・かなり珍しいとは思うけど・・・」
俺の答えにミヒャエルたちは怒ったように答える。
「珍しい所ではないわい!」
「さよう、さよう」
「然り」
「良いか?
あの時も言ったが、望遠鏡一つとっても、金貨の200枚や300枚は支払っても不思議はないのじゃぞ?
百科事典やミロ・クーボも同じじゃ!
特にあの百科事典は、あれ1冊で金貨500枚でもおかしくはないわい!
つまり、お主が余にくれた物を合わせれば、その全ての価値が金貨1000枚を超えても何の不思議もないわ!
当然、それが3人分ならば、金貨3000枚以上じゃ!」
「しかもわしには望遠鏡の作り方まで、丁寧に教えてくれたしの。
その知識だけでも、まさに値千金じゃ!」
「まったくじゃの」
そんなに喜んでいてくれたとは俺も嬉しいが、そこまでしてもらうほどの事ではないと思う。
それにこちらも色々とすでにお礼もしてもらっているのだ。
「え?でも、農地も貸してもらっているし、ミルファさんも紹介してもらったしさ」
「農地を貸すなんぞ高が知れておるわ!
それにそこで収穫した農作物を一部もらう事になっておるから、あんな物は貸しにならぬわ!
まあ、ミルファを気に入ってくれたのは良かったがの」
「うん、凄く助かっているよ」
実際ミルファはとても助かっている。
よく気が利くし、家事万端は何でも出来る。
キンバリーも驚いているほどだ。
「さようか?
まあ、ともかくこの土地と店の建物をシノブに渡す程度の事はしなければ、余もこやつらも気が済まぬのじゃよ」
「そうかなあ?」
「そうじゃとも」
「さよう、さよう、特にあの望遠鏡と百科事典には、ここに立てる店2・3軒の価値がある位じゃ」
「そうじゃな、それだけではない。
シノブには先日だけでもずいぶんと貴重な事も教えてもらった。
その教わった知識の礼もせねばならぬしのう・・・」
そこまで気に入ってくれたんだ?
それは嬉しいが、やはり俺としては単に神様から貰った物を横流しをしたに過ぎないのでこんな大層な物をもらっては心苦しい。
「そうなんだ・・・でもねぇ・・・」
俺が渋っていると、ミヒャエルがある提案をしてくる。
「どうしてもと言うならば、余にも願いがあるのじゃがのう」
「願いって・・・?」
俺の質問にジーモンが答える。
「実はのう。
この店が出来たら、わしらの専用の場所を作って、ミヒャエルやわしら等が来たら、いつでもそこで食べられるようにして欲しい」
「そうそう」
ガスパールもうなずき、ミヒャエルがさらに説明をする。
「うむ、シノブの事じゃ、どうせこの店でまた新しい菓子を開発するのじゃろう?」
「うん、まあね。
それは色々と考えてているよ。
屋台では出来なかった物がたくさんあるからね」
俺の言葉に三人がうなずく。
「そうじゃろう、そうじゃろう」
「そしてこの店は間違いなく繁盛して混雑する事になるじゃろう。
当分の間はいつでも混んでいて席の確保は難しそうじゃ。
そのためにもわしらの専用の場所は必要じゃ」
「ああ、それを一番に食べるためにも必要な事じゃのう」
「うむ、だからこれから立てるその食堂にはわしらの専用の部屋を作って欲しいのじゃよ。
まあ、それがシノブにわしらが頼みたい事かの?」
「その通りじゃ」
「うむ、余もいつきても、即座にその新しい菓子とやらを食べてみたいしのう。
そのためにも今から余の専用の場所を確保しておかねばな」
・・・あれぇ?
何か変だぞ?
ひょっとしてこの三人、実は最初からそれが目的だったんじゃないのかな?
「どうじゃな?シノブ?」
期待に満ちた眼差しでミヒャエルたちが俺に尋ねる。
俺は思わず笑いそうになってしまったが、この三人の目的が最初からそれなら、断る訳にもいかない。
「わかったよ。
それじゃこの店を作る時に、三人専用の特別室を作って、そこで三人が来たらいつでも食べられるようにするよ」
その俺の言葉に三人が途端に意気揚々となる。
「おお!ありがたい!」
「それは実に助かるのう」
「全くじゃ!」
三人は俺の言葉に満足したようだ。
何だかこの三人の思惑に乗ってしまった感じだが、まあ良いだろう。
俺もタダで土地と店をもらう心苦しさがなくなったからね。
これでこんな良い場所が手に入って、新しい店が出来るなら安いもんだ。
おかげで立派な店が作れそうだ。
さあ、これで忙しくなりそうだぞ!




