279 ミルファ
え?御母様?
今、ミルキィ、御母様って言ったよね?
オカアサマ、母、ママ、母上?
御母様って・・・まさかこの人、ミルキィのお母さんなの?
驚いている俺に構わずミルファさんはミルキィに説明をする。
「実は母さん、今日からここで働く事になったのよ。
下働き兼シノブ様の身の回りのお世話でね」
「なんですって?」
どうやらこの人がミルキィの母親なのは間違いないらしい。
ちょっと待って!
じゃあ俺はこの2日間はミルキィの母親と色々としちゃったって事ですか?
そりゃ漫画や小説ではよくある話だが、まさか自分がそれを知らない間にしてしまったとは・・・!
ミルキィもその事をすぐさま考えたらしい。
「ま、まさか、御母様、シノブ様と・・・」
その娘の問いに母親はにっこりと笑って答える。
「ええ、それはもう、一晩中・・・いえ、一昨日から今日のお昼過ぎまで、もうとてもやさしくしていただいたわ・・・・こんなにやさしくしていただいたの、母さん初めてよ」
そこまで聞いたミルキィがふらあっとなる。
俺もそうなりかかったが、とっさにミルキィを支える。
「大丈夫か?ミルキィ?」
「いえ、何でもありません」
いや、何でもありませんって感じじゃないだろう?
もっとも理由は明白だ。
何しろ知らなかったとはいえ、彼氏と言うか、夫も同然の人間を、いきなり母親に取られたようなもんだからな・・・
俺だって衝撃だ!
「ただ、その・・・母は非常にその・・・あちらの方が激しいといいましょうか・・それはもう淫乱としか言えない雌狼でして・・・」
うおぅ!実の娘にそこまで言われるミルファさんって・・・
うん、でも、それミルキィもだから!
「ただ不貞の妻ではないので、浮気などはしませんでしたが、それでむしろ父が参ったくらいでして・・」
ああ、それはわかるわ~
男だって自分以外を相手にしない彼女とか嫁に頼まれたら拒否れないよね?
だって可愛いもん!
しかもこんな美人なんだし!
そういえばこの人めちゃくちゃ見た目が若いけど一体いくつなんだ?
見た目は母どころか、ミルキィの姉でも十分通じるだろうけど・・・
聞くのも何だったので、俺は無作法ながらこっそりと鑑定してみた。
狼獣人 レベル47 35歳
ええっ?35って事はシルビアより若いの?
そりゃミルキィは17歳だから、母親の年齢は35でもおかしくないが、この人どう見ても20代にしか見えないよ!
もっともそれを言ったら、見た目は20代なのに、エレノアは560歳か・・・
それにシルビアだって20代半ば位にしか見えないし・・・
あ~もう!この世界の見た目はわからんな~
そして俺の混乱をよそに母娘の会話は続いている。
「ええ、もちろん母さんは父さんを愛していたわよ?
でも父さんは亡くなってしまったんですもの、母さんもこの体を持て余すのもわかるでしょう?
それで奴隷狩りに捕まって娼館で働いていたのだけど、世の男って意外に夜に弱いのよね?
ところがシノブ様は違ったわ!
この方は余裕で私を一晩中相手にしても、まだ大丈夫だったのよ!
こんな人は他にいないわ!
母さん、もう参っちゃたの!メロメロよ!」
そのミルファさんの話を聞いて、エレノア、シルビア、ミルキィの三人が俺を見て無言で納得したようにうなずく。
え?何それ?
「それにこの方とてもやさしいし、母さんとても気に入っちゃったわ。
そりゃね、私だって最初は父さんを亡くしたばかりで娼館で働くなんていやだったわ。
でも生きていくためには仕方がなかったのよ。
それが突然、今回どこかの若い殿方のお世話をするように言われて総督閣下の御屋敷に招かれたの。
そこにシノブ様がいらしたのよ。
とてもかわいらしい上に素敵な方で、母さん気に入っちゃったの!
しかも話しに聞いたら、どうもミルキィまでお世話になっているみたいじゃない?
それで総督閣下にお願いして、何とかシノブ様の奴隷にしてくださいと頼み込んで、ここへ来たというわけなのよ」
「単にシノブ君の体が目当てなんでしょ!」
「あら、ひどいわね?そんな事はないわ!
確かに私は娼館よりもシノブ様の所に行きたいと思って色々と画策したわ。
でも私はもちろんシノブ様に忠誠を誓うし、言う事を聞いて一生懸命に働くわ。
でも母さんが男の体だけが目的のそんなひどい女だと思って?」
「う、それは確かに・・・」
どうやら自分の母親が淫乱ではあっても、体のみの目的ではない事は娘も認めるようだ。
「まあ、そういったわけだから、母さん、ここで世話になるわね」
もはや決定事項のように話すミルファさんにミルキィは慌てて大反対する。
「そんな!反対です!
シノブ君は渡しません!」
「あら?別にあなたからシノブ様を取ろうって言う訳じゃないのよ?
たまにちょっと借りるだけだし、減るもんじゃなし、良いじゃない?」
「減ります!色々と減ります!」
うん、減るって一体何が?と突っ込んでみたい俺だったが、この状況でそれはやめておこう!
大丈夫!俺は空気が読める子のはずだ!
「そうは言っても母さん、もうシノブ様の体無しじゃいられない体にされてしまったし・・」
「ななな・・・」
「昨夜だって、それはそれはもう大変で・・・あ、もっと詳しく話しましょうか?」
ミルファさんの話で俺とミルキィは卒倒しそうになる。
もうやめてぇ!とっくにシノブとミルキィのSAN値はゼロよ!
もう勝負はついたのよ!
これ以上私達の心を削らないでぇ~
これ以上心を削られたら正気を保っていられなくなるうぅ~!
俺の心がそう叫んでいると、エレノアが話を切り出す。
「事情はわかりました。
身元は問題ございませんし、御主人様に忠誠を誓っていただけるのならば、それもよろしいでしょう」
え?いいの?
この状況下で冷静に判断するエレノアって、やっぱり凄い!
そのエレノアの言葉にミルファさんがニッコリと笑って返事をする。
「ありがとうございます。
もちろん私はあなたがたにも負けない忠誠をシノブ様に誓うつもりです。
あなたがエレノアさんでいらっしゃいますか?」
「ええ、そうですが?
私の事を御存知なのですか?」
エレノアが不思議そうに尋ねると、ミルファさんはシルビアの方を向いて問いかける。
「ではそちらがシルビアさんですね?」
「はい、そうですが?」
「まあ、御二人ともお話に伺った通りに本当に素晴らしい方ですこと!」
「え?」
「どこで私達の話を?」
「ええ、昨晩、シノブ様の寝物語に、それはもう御二人とミルキィの話で大変だったのですよ?」
笑顔で話すミルファさんの言葉に三人が驚く。
「ええ?」
「御主人様が?」
「私達の事を?」
ああっ!ミルファさん!
それ恥ずかしいから言っちゃらめえ!
そんな俺の心の声を誰も聞いてはくれず話は進む。
「ええ、それはもう大変な熱の入れようで、エレノアさんは非の打ち所のない、完璧な女性で,自分にとっては勿体無い、それこそ毎朝自分に愛想をつかしていなくなってしまわないかと心配しているほどだそうですよ?」
「まあ・・・」
ミルファさんの話にエレノアが少々驚く。
「御主人様?そのような御心配をさせてしまうとは私の不徳の限りでございます。
しかし、そのような事は決してございませんので、どうか御心配無きように」
「あ、うん。
そうだね、ありがとう」
俺があたふたと答えていると、続けてミルファさんがシルビアの事を話し始める。
「それにシルビアさんも、シノブ様は姉か教師のように慕われていて、かけがえのない女性だと・・・」
「まあ、私の事を?」
「ええ、もっとも料理の方が唯一の欠点だとおっしゃっておりましたが・・・」
う、しまった!
俺はうっかりシルビアが飯マズなのをこの人に話していた!
案の定、シルビアがキッ!と俺の方向に向いて話しだす。
「シノブ君!後でちょっと話があります!
私の部屋にいらっしゃい!」
「はい?!」
俺が思わずビクッ!として返事をすると、ミルファさんが笑って話を続ける。
「いえいえ、そんな欠点が逆に愛おしいとシノブ様はおっしゃられていましたよ?
エレノアさんのように完璧な御姉様も良いけれど、一つ欠点があるシルビアさんも、そこが逆にたまらなく可愛いとおっしゃって、私もその話を聞いていて、それほどシノブ様に愛されているシルビアさんに、まだ会った事もないのに嫉妬した位ですわ。
そう言えば確か金貨1000枚でシノブ様に競り落としていただいたのも、シルビアさんなのですよね?
そこまで御主人様に慕われて、私本当にシルビアさんが羨ましいです」
その話を聞いて途端にシルビアの様子が変わる。
「え?あ?そ、それほど・・・シノブ君?
先ほどの呼び出しの話は取り消しますね?」
「はい・・・」
あ~もう、なんなの?
この人・・・
まあ、いいんだけどさ?
「そして娘のミルキィの自慢と言ったら、もう・・・本当に我が娘の事ながら聞いていて照れてしまったほどですわ。
あれ以上可愛い子はいないだの、ミルキィの頭なら一日中撫でていたいだの、耳が可愛い、尻尾が可愛い、大きな胸が可愛いと・・・それはもう手放しの褒めようで・・・そんなミルキィが、誰かに誘拐されたりしないかと心配で、できる事なら大事に家の中にしまって置いて、外に出したくないほどだとか・・・」
「え?え?シノブ君がそんなに私の事を・・?」
「ええ、それはもう聞いている私の方が照れてしまったほどよ」
「そ、そんな・・・」
「ええ、そんな人たちと、ここで一緒に働ける事になって、私も幸せですわ」
ニッコリと微笑みながら、すでにこの家で暮らす事が既成事実かのように話すミルファさんだが、今度は三人もそれに対して表立っては反対しない。
「え?ええ」
「そ、そうですわね」
「むむむ・・・」
うお~ぃ!凄いぞ!この人!
ついさっきまで、この人に懐疑的で、この家から追い出しそうな勢いだった三人をあっという間に手なずけたぞ?
なんと言う手際の良さ!
これまたエレノアとは違う意味で恐ろしい!
「それにアルフレッドさんとキンバリーさんも非常に頼りになるお方で、もはやシノブ様にとっては家族も同然とか・・・」
「これはこれは・・・」
「まあ・・・」
うん、この人、本当に気配りに抜かりがないな?
この時、ミルキィがハッと思い出したようにミルファさんに尋ねる。
「そういえば、お母様?
ゾルフィは?あの子はどうしたのです?
一緒に逃げていたのでしょう?」
「ええ、確かに最初は一緒に逃げていたわ。
でもあなた同様、途中ではぐれてしまって・・・
だけど、大丈夫!
あの子は父さんと同じ位たくましいいから!」
「そうですか・・・」
確かゾルフィと言うのは母親と一緒に逃げていたというミルキィの弟のはずだ。
どうやらその息子ともミルファさんははぐれてしまったようだ。
そんな会話をしているとペロンが帰ってきた。
「ただいまニャ~
あ、御主人様、お帰りなさいニャ~」
「あ、ああ、ただいまペロン」
何だかこのピリピリとした状態でペロンと話すと安心する。
それまで緊迫していたのが、ペロンのおかげで和んだ。
そしてすぐにミルファさんに気づいたペロンが尋ねる。
「あれ?この人は誰かニャ?」
「この人は今度うちで働く事になったミルファさんだよ」
「ちょうど良かったです。
ペロン?
この人をどう思いますか?」
エレノアがミルファさんの評をペロンに問い正す。
ペロンはくんくんとミルファさんの匂いを嗅いでから説明を始める。
「え~と・・・この人は良い匂いですニャ。
ちょっとピリッとした匂いも混ざっているけど、とても良い匂いですニャ。
ニャンと言うか、ミルキィとデフォードとエレノアさんの匂いを混ぜたみたいな匂いですニャ。
特にミルキィの匂いに凄く似てますニャ。
とても良い匂いでペロンは好きですニャ」
「ええ、この方はミルキィの母だそうです」
「そうニャンだ?
でもこの人がいると、何だかとても心が和むニャ~」
なるほど・・・確かにそれはわかる。
俺も一晩一緒に過ごしてそれは思ったからね。
そういう意味でもこの人は中々得がたい存在のようだ。
そういえば以前ミルキィが自分の母は男を甘えさせる天才だとか言っていたな?
今ならその意味凄くわかるわ~
この人、確かに男を甘えさせる天才かも知れない。
ペロンの話を聞いたエレノアがうなずいた。
「なるほど、わかりました。
ではミルファさん、歓迎いたします。
差し当たってはキンバリーの下で働いていただきましょう」
エレノアが許可すれば、他の家人に否も応もない。
シルビア以下、他の人間たちもうなずき、ミルファさんもうなずいて返事をする。
ミルキィも渋々承諾したようだ。
「承知いたしました。
ではキンバリーさん、よろしくお願いいたしますね」
「はい」
こうして突然我が家にやってきたミルキィの母親のミルファさんは、まるで最初からこの家にいたかのように、自然に我が家で働き出した。
恐ろしい・・・




