序章3 贅沢な転生の条件
ガイドブックを読んで疑問に思った事も、神様に聞いて大体の事情はわかったので、いよいよ本格的に転生条件を考えてみよう。
赤ん坊からの転生だと面倒そうなので、旅の風来坊で転生するのは決定として、能力と持ち物はどうするか?
魔法を全部知っていて、レベル900というのも確かに凄いが、それではどうも面白くないし、いきなり全ての魔法を使いこなすのも大変そうだ。
それにそれを知った周囲の反応も怖いし、化け物扱いされるのも、自分としてはあまり好ましくはない。
やはり魔法はある程度順番に覚えていった方が良いだろう。
それにレベルアップの楽しみもある。
剣と魔法の世界で、いきなり最初からレベルが900で、その後全く同じというのは正直自分的にはつまらない。
しかしそうかと言って、レベル1から始めるのは流石に危険だろう。
これだけ考えて転生したのに、いきなりその辺の最弱モンスターにやられて死ぬのは悲しすぎる。
うん、レベル1はやめておいた方がいいな・・・もう少し上のレベルから始めよう。
それならば余程の事がない限り、いきなり死ぬ事はないだろうし、レベルアップも楽しめる。
不安な部分は装備を良い物にすれば大丈夫だろう。
魔法もいくつかの初歩的な魔法だけで、後は順番に覚えて行けばよいだろう。
そういう意味では才能数値はやはり高い方が良いだろうな。
しかし全ての数値を99にするのも気が引ける。
どうするべきか悩む所だ。
一方、持ち物の方はどうするか?
まず金貨・銀貨の貨幣の類はマギアサッコに入るだけは貰っておいた方が間違いないだろう。
そこなら持ち運びの邪魔にもならないし、誰かに盗られる心配もない。
金というのは持っていなければ困る時は往々にしてあるが、ありすぎて困るという事はないのは前の人生で学んでいる。
マギアサッコに限界ギリギリまでの貨幣をもらって、後は何枚か簡単に持ち運べる程度の枚数の金貨や銀貨を貰えばよいだろう。
20枚・・・いや、10枚前後で良いだろう。
装備品は後で考えるとして、後は最初は魔法量も少ないだろうから、回復薬と毒消し、それに魔法の体力回復剤辺りを目一杯もらっておけば大丈夫だろう。
他に持ち物で最初から持っておくべき物は何だろう?
普通に考えれば武器と防具、携帯食料と水、水筒ってとこだろうな。
まあ、詳しい状況がわからないと何とも言えないし、金を十分持っていれば、普通に考えて大抵の事は何とかなるだろう。
何日、何週間、いや何ヶ月か?
俺はとにかく考えた。
細かい所まで想定して何が必要かを考えた。
だってこれで自分の人生が決まるとも言える事だもんな。
そりゃ色々と隅々まで考えるさ。
長い間、色々と考えて、何とか転生条件を考え終わった俺は、再び神様を呼ぶ。
「神様、決まりました」
即座に神様が現れて、話しかけてくる。
「いよいよ決まったかい?」
「はい」
「では聞かせてくれ」
「わかりました。
それでは私の転生の条件を言います」
「うん」
「かなり贅沢な事になってしまいましたが、本当にそれで良いのでしょうか?」
「もちろんさ」
俺は考えをまとめて紙に書いた事を順番に読んでいく。
心なしか神様がわくわくしているように見えるのは気のせいか?
「まず能力の方ですが、最初のレベルは10で結構です」
「へえ?10でよいのかい?」
これは自分でも散々迷った事だ。
この世界ではレベルは1から999まである。
通常は5から30前後位らしい。
つまり900とは言わないまでもレベル100辺りで転生すれば、およそ敵はいないだろう。
しかし、それではレベルアップの楽しみがなくなるし、正直自分がどれほど強いかもわかりづらい。
少々危険かもしれないが、あえてレベルは10にしたのだ。
これならばいくら何でも即死という事はないだろう。
「ええ、その位でないと楽しめそうにないので・・・
その代わりと言っては何ですが、転生する場所はレベル5程度でも相手になる物しか出てこない場所にしてください」
少々臆病かも知れないが、何しろ自分の命がかかっているのだ。
これは用心深いのだと自分では思っておこう。
「承知した」
「魔法は一番下の火炎魔法と凍結魔法、同じく、最低の回復魔法、それと一番低い使役物体魔法と鑑定魔法、照明魔法だけで良いです」
「それも、たったそれだけで良いのかい?」
「ははっ、あとは徐々に覚えていきますよ。
毒とか麻痺とかは装備で何とかなるんでしょう?」
「ああ、そうだよ、状態異常回復装備をしていれば、毒を食らってもすぐに無毒化するし、麻痺や石化も大丈夫だ。
せいぜい数秒動けなくなる程度で済むし、レベルが上がれば全く無効さ」
「それなら最初はその程度で良いと思います。
残りは後のお楽しみという事で」
これもレベル同様、十分に考えた事だった。
毒や麻痺などの状態異常は恐ろしいが、それは全状態異常回避の装備があれば、大丈夫なので、最初は純粋に回復魔法だけで十分だろうと判断した結果だった。
「うん、そうして楽しみながら人生やっていってもらって結構だ。
しかし最低の攻撃魔法ってのは、どっちの事だい?」
「え?ああ、そうですね・・・」
言われて思い出したが、この世界の攻撃魔法には2種類あるのだ。
例えば火炎魔法を例に取ると、魔法力を10消費して火炎を出す魔法と、自分の魔法力の最大MPを1%消費して火炎を出す方法の2つだ。
10ポイント消費する方の攻撃は誰がやっても同じ攻撃になる。
レベル1の人間が出す魔法火炎もレベル100の人間が出す火炎も威力は全く同じだ。
しかしパーセントによって変化する方は、例えば1%魔法なら魔法力が100に達しない場合は発動しない。
100を超えれば初めて発動するが、魔法力が1の威力では、せいぜい相手を火傷させる程度だ。
しかし、もし魔法力が一万を超える魔法使いが1%魔法を使ったなら、それは魔法力を100も消費するので、恐ろしいほどの威力になる。
どっかの漫画の大魔王様の「メラ○ーマではない、余のメラだ」って奴だな。
つまり神様は、定数消費型攻撃魔法と魔法力比例型攻撃魔法のどちらにするか?と尋ねているのだ。
レベルの低い時は、定数魔法の方が威力が強いだろうが、レベルが上がるに従って、魔法力比例魔法の方が威力は強くなる訳だ。
俺は少々迷ったが、ここは両方共にしておいた。
「それは最初は両方ともお願いします」
「なるほど、それと鑑定魔法もいくつかあるんだが、どれにする?」
「最初は一番基本の鑑定魔法で良いです。
あ、でも完全鑑定魔法もつけておいてください」
「完全鑑定魔法はレベルがかなり高くならないと、発動しないが良いかい?」
「どれ位のレベルが必要でしょうか?」
「その人の魔法の才能によるけど、君だったらレベル250程度で発動するようになるんじゃないかな?
多分、300もあれば、間違いなく使えるようになると思うよ」
「わかりました。それで構いませんのでお願いします」
「それに鑑定魔法はあまりレベル差があると、相手の数値や情報がわからない部分も出てくるからね?」
「はい、わかりました」
「うん、それから?」
「自分自身に戦闘経験値30倍増というのをつけたいのですが、できますか?」
これはつまり自分の経験を30倍にして、レベルを通常の30倍の速さで上げていこうという作戦だ。
これなら単純計算で、普通の人間が1ヶ月かけて上げるレベルを1日で可能なはずだ。
「それはちょっと難しいな・・・まあ、何とか大丈夫か。
なるほどそれならレベル10から始めてもすぐにレベルが上がっていくから良いね」
「はい」
「それから?」
「基本は人間男子で肉体年齢は15歳くらいで、見た目は、そうですね・・・
相手に警戒心を持たないで欲しいので、童顔で幼い感じ系な顔にしておいてください。
女子と見間違う位でも良いです。
そして3百年位をかけて見た目が30歳位までになって、その後はゆっくり老けていって、寿命は500歳くらいにしてもらえますか?」
相手に警戒されないように少年の姿というのは事実だが、真の理由は俺がオネショタ大好き人間だからだ。
はっきり言って「お姉さんと少年」という関係に憧れている。
私はオネショタが好きだ。
諸君、私はオネショタが好きだ。
諸君!私はオネショタが大好きだ!
隣のお姉さんと坊やでも良いし、学校の先輩と後輩でも良い、
金持ちの息子とその年上メイドなども最高だ!
女教師と少年など心が踊るッ!
と、どこかの少佐のように演説をしたくなるほどだ!
残念ながら前世では縁がなかったが、今度の世界では是非それを実行したいと思って、それにふさわしい容姿にしてもらう事にした。
これなら3百年近く時間はあるので、きっとオネショタを体験できるに違いない!
出きるといいな・・・出来て欲しい・・・うん。
少々弱気だが、設定は自ら作った。
後は俺の行動次第だろう。
我ながら言いたい放題だなと思うが、神様は涼しい顔で答える。
「人間の男子で肉体年齢は15歳だけど、顔は童顔女子系、それだと見た目は12・3歳くらいになるね。
3百年かけて見た目は30歳に、寿命は500年でゆっくりと老化だね、承知した。
大丈夫だよ」
「才能は魔法関係だけ99で、あとは70から90位にしておいてください」
「承知した」
この数値なら魔法関係は完璧だし、他の事でも、そうそう困る事もないだろう。
そして次は持ち物だ。
持ち物はマギアサッコがあるので、かなりの数を持てるのが嬉しい。
しかもマギアサッコにはかなり大きな物、自分が手で持てる位の物ならば入れられるようだ。
もちろん普通のリュックの中にも物を入れる事もできる。
俺はまずは金貨、銀貨、銅貨などの貨幣を6種類全てマギアサッコに入れられるだけ入れて、さらにすぐに使えるようにそれぞれ10枚ほどは、背袋にも入れてもらった。
「そういえば、アースフィアでも、魔法で金とか銀を合成する事は出来ないんですよね?」
「ああ、そうだよ。
魔法でも元素の合成は出来ない。
もし、そんな事が出来れば、金や銀の価値がおかしくなるし、そもそも金貨や銀貨の流通が成り立たなくなるからね。
ただし、魔素で見かけや強度は似たような物を作れるけどね」
「では、金や銀の価値は地球と同様で、かなり希少で高価ですね?」
「うん、だから金貨や銀貨が流通貨幣になる訳だからね」
「アースフィアの重さの単位って何ですか?」
「グラムに相当する物は「ガルン」だね。
重さの差もほとんどない。
1グラムは1ガルンだと思ってかまわないよ
ちなみに1キログラムは1カルガルンだ」
「それでは金の延べ板を10カルガルンにして100個ください。
それと1カルガルンの延べ板も100個」
「了解した」
その俺の途方も無い要求も、神様はあっさりと承知する。
この際だ。
何でも持たせてもらえるのだから、転生先での金銭に関する心配は無くしておこう。
これで俺の金の所有量は地球の重さで言えば、1トン以上になるはずだ。
アースフィアの相場はわからないが、金銀の価値は地球よりもずいぶん高いようだから、これだけ貨幣と金の延べ板を持っておけば、よほど馬鹿な事をしない限り、一生金には困らないはずだ。
経済的な問題に関しては、これで一安心だろう。
他にも様々な物を要求した。
武器、防具、特殊装備品、キャンプ用品や日用品、文房具など、思いつく限りで、マギアサッコに入る限りの物を頼んだ。
それとあちらにあまりないと聞いて米や小豆、出汁粉、日本酒、醤油なども食料品や調味料や香辛料、植物の種、そして念のために砂糖、塩、ジャガイモ、さつまいもなどのありふれた物も持っていく事にした。
中には機械製品やあちらの世界ではありえない物など、多少却下された物はあったが、俺が要求した品々の大半の物を、神様はあっさりと持たせてくれる事となった。
「他には何かあるかな?」
「そうですね、そういえば知識も植えつけてもらえるんでしたよね?」
「ああ、大丈夫だよ」
「では醤油と砂糖と日本酒、重曹、グルタミン酸ナトリウム、出汁の素のアースフィアでの詳しい作り方と知識を私の頭に入れておいてください。
実際にあちらで作れる程度の知識を」
この品物は全て基本的な消耗品だし、あちらではあまりないようなので、自分でゼロから作れるようになっておいた方が良い。
一応、材料や製造法は漠然と知ってはいるが、詳しく知っている訳ではないし、実際に作れるかどうかはかなり怪しい。
そう考えて俺は神様にその知識と製造法を頼んでみた。
「なるほど、承知した」
神様がそう言うと俺の記憶の中にそれらの製造法が刻み込まれた。
よし、これであちらで基本的な調味料は作れるはずだ。
ほぼ品物の要求が終わった俺に神様が言った。
「他には?まだ何かあるかい?」
「大事な事を言い忘れる所でした。
現地の言葉はわかるように、文字も現地の読み書きができるようにしておいてください」
「それは言われなくても大丈夫だよ」
「それと今言った持ち物の他に、この本とノートも持っていって構わないですか?」
「構わないよ。じゃあ背袋にでも入れておくかい?」
「それでお願いします」
「うむ、他に言っておく事はないかい?
ここで私と別れたら、もう会う事も、願う事も出来ないよ?
あっちでいくら神様お願い!と願っても、それは私には届かない」
神様本人に、初詣で願掛けに行く人間が聞いたら、卒倒しそうな事をさらっと言われた。
転生したらもう神も仏もないってことね?
もっとも何ヶ月か何年かわからないが、散々考えた結果だ。
もちろんこれでもまだ予想もしなかった事や困る事もあるだろうが、贅沢を言ったらきりがないし、そもそもこれだけでも冗談のように贅沢なのだ。
こんな贅沢な人生を始められる人間はまずいない。
これだけでも十分過ぎるほど贅沢だが、これ以上は自分の力で何とかするしかないし、そもそも本来、それが当然だろう。
「はい、大丈夫です。色々と贅沢な希望を叶えていただいてありがとうございました」
「では、行ってくるがいい」
「はい、お願いします」
「ああ、それと君がオネショタを楽しめるように、体の方は、見た目以外にも、ちょっとオマケしておいたからね」
え?何それ?
最後に聞こうと思った、その言葉と共に俺は意識を失った。
いよいよ新世界へ転生だ。
一体どんな世界だろうか?