016 エレノアの魔法教育
次の日からまずは魔法の勉強が始まった。
宿の自分が泊まっている部屋を教室に使ったエレノア先生による個人授業だ。
「それでは本日から魔法の勉強をいたしましょう」
昨日に道具屋で中くらいの大きさの黒板と白墨も買ってきて、それを使って説明しながら授業を進める。
「はい、エレノア先生、よろしくお願いします」
「エレノア先生はおやめください。御主人様、私は奴隷なのですから」
「いえ、例え奴隷でも、教えを乞う人には「先生」だと思います。
僕が自分自身を戒めるためにも、どうか「先生」と呼ばせてください。
それと授業中は僕の事を御主人様と呼ぶのもやめてください。
シノブで十分です」
俺の説明にエレノアもうなずいて納得する。
「わかりました。御言葉に甘えて、そうさせていただきます。
ではシノブ君、まずは魔法の初歩的な講義から参りましょう。
魔法使いの学校に初等、中等、高等の3種類があるのはご存知ですね?」
「はい、それぞれ卒業すると、魔法士、魔道士、魔法学士になれるんですよね?」
「その通りです。
まず「魔法使い」というのは、正規、非正規を含めて魔法を使う人間の総称ですね。
ただし俗称です」
「俗称?では正式にはなんというのですか?」
「あまり使いませんが、魔術士ですね」
「まじゅつしですか?」
「ええ、大抵は魔法使いと言いますから」
「なるほど」
「正規の魔法使いの総称はありませんが、初級学校を卒業していれば魔法士、中等学校を卒業していれば魔道士なので、大抵はこのどちらかで呼ばれますね」
「高等学校を卒業してもですか?」
「ええ、一般に魔道士になれば一人前とみなされるので、中等学校以上を卒業した場合は、何の称号を持っていても、全て魔道士と言われるのが普通ですね。
そういう意味では一人前の正規魔法使いの総称は、魔道士と言っても過言ではありません」
「わかりました」
「それと魔法学士以上の称号を持っている人の場合は、全部まとめて上級魔道士と総称する場合もあります」
「なるほど」
「そして非正規の魔法使いの総称は、正式には「魔士」と言います」
「マシ?」
「ええ、こちらは魔術士と違って、結構使う場合がありますね」
「どういった場合ですか?」
「まず魔法使い、すなわち魔術士の世界には魔法検定という物があって、それぞれ自分がどの段階にいるかわかるような等級があるのです。
火炎魔法でしたら1級から9級まで、使役物体魔法でしたら1級から7級まであります」
「はい」
それは魔法大全にも書いてあったので、ある程度は知っている。
「そこでそれぞれの称号と等級を組み合わせて表現する場合があるのです」
「組み合わせて?」
「はい、例えば1級の航空魔法を使える魔道士がいれば、それは1級航空魔道士と名乗れますが、魔道士の資格がない魔法士の場合は1級航空魔法士となります」
「では、その人が魔法学士だった場合は、1級航空魔法学士となる訳ですか?」
「その通りです。
しかしこの場合に検定だけ受かって正規の魔術師の最低の称号である魔法士の資格すら持ってない場合は、公称としては「1級航空魔士」と名乗る事になります。
もっともそんな人はまずいませんが・・・」
「なるほど、魔士というのはそういう場合に使うのですね」
「そうです。
ですから5級の冷凍魔法の検定に受かっている人ならば「五級冷凍魔士」になりますし、何も検定に受かっていないのに名乗る場合は、公式には冷凍魔士とか火炎魔士と名乗る事しか許されません。
勝手に「火炎魔道士」や「冷凍魔法士」などと名乗れば、それは魔法協会規則違反となって罪になります」
「なるほど」
「もっとも実際には本人、つまり非正規の人たちは「魔士」という言葉はあまり使わず「火炎魔法使い」「航空魔法使い」などと自称するのが一般的ですね」
「そうなんですか?」
「ええ、魔士というよりも魔法使いと言った方が、世間の通りも良いですし、魔法使いと名乗れば正規非正規関係ありませんが、魔士と名乗ると、いかにも非正規という感じが出るので嫌がる人もいますね」
「そういった魔士の人たちは正式な検定を受けないのですか?」
「そうですね。
もちろん受ける人もいますが、手続きが色々とあるので、面倒がったり、検定にお金が多少かかる事や、期日や場所が限定されるので、受けにくい現状というのもあって、受けない人が多いのも事実ですね。
それと一番決定的なのは、正規と非正規の認識の違いです」
「認識の違い?」
そういえば、シルビアさんも似たような事を言っていたな。
「はい、特に航空魔法や物体使役魔法で、その違いの差が顕著です。
例えば航空魔法は正規の検定では、まず浮遊魔法から始まり、それに推進魔法を付加する、つまり空を飛ぶには2種類の魔法が必要となります。
しかし正規の魔法を習わない人々の間では、飛行魔法と言うからには、ただ空を飛べればそれで良いという認識を持っている人が多くいます。
その結果、非正規では「弓矢飛行」という飛び方をする航空魔法使いが少なからずいます」
「弓矢飛行?なんですか、それは?」
初めて聞くその言葉に対して、俺はエレノア先生に質問した。
「弓矢飛行とは浮遊魔法を使わずに推進魔法だけで強引に飛ぶ方法です。
もちろん、これでも空は一応飛べますが、飛び方も不安定で、制御も困難なので、正規の授業や検定では認められていません」
「なるほど」
要は弾丸やロケット花火のようなものか?
「言うなれば我流、もしくは邪道な飛び方な訳です。
この飛び方は世間一般ではそれなりに広まっていますが、もちろんお勧めはできません」
「そうですね」
「しかも人によっては、制御の難しい、弓矢飛行で飛ぶ事の方が、より上級者だと勘違いをして正規の飛行方法を軽んじて馬鹿にする人さえいます。
もちろんそんな事はなく、魔法協会は正規の飛行方法を広めるべく努力はしているのですが、弓矢飛行の方が単純で、一つの魔法を覚えるだけで飛べるという魅力もあって、根強い人気があります。
ですから未だにそういった誤った考え方を撲滅する事は出来ていないといった所ですね。
シノブ君はそのような飛び方はしないようにお願いします」
「はい、わかりました」
「そしてこうした弓矢飛行の飛び方では、魔法協会の検定が通らないので、弓矢飛行しか出来ない人からは不満が出て、「なぜ弓矢飛行を公式に認めないのか?」という苦情が、魔法協会にはよく来るそうです。
しかし例えば事故率をとっても、飛行魔法の事故の実に8割以上が弓矢飛行の使い手だという数字の結果から見ても危険なのは明らかです。
それを正規の教育を受けていない人の中には理解しない人もいるのです。
そして魔法学校では魔法だけでなく、魔法を使う事による意義や道徳を教えるのですが、
そう言った人たちは魔法学校では魔法だけを教えれば良い、
そのような魔法以外の事を教えるのは余計な事だと考える人がいます」
「なるほど、それが正規と非正規の認識の違いという訳ですね?」
「はい、その通りです。
それを顕著に表す言葉が「マギア・デーヴォ」という言葉です」
「マギア・デーヴォ?」
「はい、「魔法使いの義務」と言う意味です。
魔法と言う物は誰にでも彼にでも使える物ではありません。
それは我々のように、運良くその才能を生まれ持った物が使えるのです。
しかし、それに驕り、決して魔法を無法に使ってはいけません。
我々はたまたまその才能を持って生まれただけであって、それを社会に役立てるようにしなくてはなりません。
魔法の力を持って生まれた我々は、それを持たない人々への義務を負うべきだという考えです。
これを魔法を使う者の基本の考えとして、魔法学校では、まず最初に教えます。」
「つまり、魔法の力や才能を持っている人は、それを持っていない人のために魔法を役立てなければならないという事ですね?」
「はい、その通りです」
なるほど、つまり地球の西欧貴族で言う所の「ノブレス・オブリージュ」みたいな物か?
魔法の才能を持つ者は持たない人たちへの義務があるって事だな?
それは納得だ。
特に俺なんぞは神様に反則技で魔法の才能をもらったのだから、なおさらその義務はあると思う。
これはしっかりと頭に入れておかないとな。
マギア・デーヴォ
マギア・デーヴォ
・・・と、大事な事なので、二回心の中で言いました。
俺がそう考えていると、エレノア先生の話が続く。
「そういった事から初めて、魔法協会は色々と教えたい事があるのですが、教える人手が足りていないというのが現状ですね」
そのエレノア先生の説明に、俺はふと思い出して尋ねる。
「そういえば代行教師という資格もあるんですよね?」
「はい、今説明した通り、魔法教師の数が足りないので苦肉の策といった所ですね」
「魔道士補というらしいですが、それはどういう人たちなのですか?」
「魔道士補は3段階に分かれていて、それぞれ1級、2級、3級と分かれています。
1級は魔法士の称号を持っていて、何らかの魔法が検定に受かり、魔法学士級な者、
同じく2級は魔法士の称号を持っていて、何らかの魔法が検定に受かり、魔道士級な者、
そして3級は何らかの魔道士級以上の魔法検定を受かって、魔法を使える魔士が、代行教員の試験を受けて合格した者です。
魔法協会と契約している国では、最低でもこの魔道士補の資格を持っていないと、魔法を教える行為は犯罪となってつかまります。
これは初等学校卒業資格である魔法士はかなりの数がいるのですが、何らかの理由で魔道士になれない人々がたくさんいます。
その魔法士たちに魔道士に準ずる称号をという事と、魔法を教える者を可能な限り増やすという双方の考えからきています。
またここロナバールのような大都市では魔道士がたくさんいますが、小さな町や田舎の村では魔道士がいない場合もあるので、そのような場合も魔道士補の人たちに頼らざるを得ません」
そのエレノア先生の説明に俺は疑問を感じて尋ねる。
「では魔道士補3級の人は正規の魔法使い扱いではないのですか?」
正規の魔法使いは最低でも魔法士の資格を持っていなければならない。
魔道士補3級は魔法士の資格を持っていないので、正規の魔法使いではないはずだ。
そう考えた俺は質問をしてみたのだった。
「いいえ、そんな事はありません。
魔道士補3級も正規の魔法使いです」
「しかし、正規の魔法使いの資格である魔法士の称号を持っていないのに、正規の魔法使い扱いになって良いのですか?」
「はい、魔道士補3級の資格を取る試験には、魔法士になるのと同じ程度の魔法規範や魔法道徳の部分が含まれているので、それに受かるという事は十分正規の魔法使いの資格があります。
それに実際には魔道士補3級という人は、ほとんどおりません。
おそらく1級の10分の1、2級の100分の1もいないでしょう」
「え?何でそんなに少ないんですか?」
普通に考えれば、一番下の等級というのは一番数が多そうな物だ。
「そもそも魔道士補3級の基本規定が、何かしら魔道士級以上の魔法が使えるという前提条件があるからです。
それだけの魔法技量があれば、大抵は魔法士の資格を持っている筈です。
何らかの理由で魔法士の資格を持っていなかった人も、3級に受かった場合、魔法協会が推薦して初等学校に入学する事が可能です。
そういった人たちは大抵そのまま魔法士の資格を取るので、すぐに魔道士補2級に昇格しますから、実質3級はほとんどいないのです。
また逆に魔道士級の魔法を使える人は自尊心があって、魔道士補や魔法士の検定を受けたがらない人もいます。
そう言った理由も手伝って3級は少ないですね」
「なるほど」
「ですから魔道士補というのは、実際には1級と2級がほとんどですね。
特に2級が9割以上です」
「え?何でそんなに2級が多いんですか?」
「まず、1級に関してですが、魔法学士級の魔法を覚えるというのが、大変です。
ですから1級が少なくなるのは当然の事となります。
その一方で、魔道士をめざしていて、中等学校を何らかの理由でやめた者は、すでに何らかの魔道士級の魔法を使える場合が多く、大抵はそのままで魔道士補2級の資格があるので、所定の書類を提出して、申請さえすれば、すぐに魔道士補2級になれます。
また先ほど説明したとおり、3級の人も大抵はすぐに2級に昇格するので、魔道士補のほとんどが2級となる訳です」
「なるほど」
その説明に俺も納得した。
「ですから魔道士補2級という人は、魔法士以外では魔法協会に登録されている称号の中ではおそらく一番多いはずです」
「他の人たちはどれくらいいるのですか?」
「そうですね。
魔法学士を基準にするならば、次に少ないのは魔道士補1級、次が正規魔道士、魔道士補2級、魔法士の順でしょう。
そして魔道士補3級は魔法学士の数より少ないはずです。
一般魔士は、おそらくこの正規魔法使いたちを合わせた3倍くらいの人数がいると予測されています。
この魔士の人たちも、出来れば正規の魔法士になった方が良いのですが・・・」
「なるほど、では僕もその魔法検定を受けた方が良いですね?」
「はい、もちろん本来はそうです。
しかし、この3ヶ月、いえ、あと2ヶ月少々ですが、その間は時間が惜しいので、とりあえず、私が教えられる限りの事をお教えいたしましょう。
検定や入学はいつでも時期が来ればできますから」
「はい、お願いします」
「この2ヶ月ほどの間に、先生はシノブ君を最低でも魔道士、出来得れば魔法学士の水準まで学んでもらおうと考えています」
「え?魔法学士?」
「はい」
「それって、普通どれくらい時間がかかるのですか?」
「魔道士になるのは3年、魔法学士はそこからさらに3・4年かかりますね」
「え?じゃあ合計で7年位?無理、無理!そんなの無理ですって!
2ヶ月でそんな事出来る訳ないじゃないですか!」
本来7年もかかる物を、たったの2ヶ月で会得させようなどと無茶にもほどがある。
「いいえ、私の教育とシノブ君の能力があれば、それも可能だと思います」
「嘘でしょ?」
「大丈夫です。
シノブ君の魔法の才能は群を抜いていますし、何と言ってもレベルが30倍の速さで上がる特殊な能力があります。
どうか私に任せてください」
「はい、それはかまいませんけど・・・」
「では、早速魔法の授業を始めましょう」
こうしてエレノア先生の特訓が始まった。
次の日から1週間のうち、1・2・3日目は魔法の習得で、新しい魔法を覚える。
4,5,6日目は実地訓練で、7日目は休みだ。
朝はエレノアの蕩ける様な声と奉仕で起こされ、朝食を食べ終わると、いよいよ地獄の訓練が始まる。
魔法習得の日は、まず座学で魔法の理論を教わり、その後で宿屋の庭先を借りて、魔法の習得をする。
広い場所が必要な時は航空魔法で移動して訓練するために、まずは航空魔法から教わった。
空中に浮遊する事から始まって、推進魔法で思った方向へ進むように訓練する。
何とか1日目の午前中には空中に浮き、夕方には時速100kmほどで飛行する事が出来るようになったので、俺も嬉しかった。
人が何の器具もなく、生身の体で、空を鳥か飛行機のように飛べるようになるのは、とても楽しい。
しかしエレノア先生に言わせると、この2ヶ月の間に音速を突破できるようにしたいとの事だった。
そんな無茶な・・・
そして実地訓練の日は、あちこちの迷宮やら魔物地帯に連れて行かれ、覚えた魔法を実地で使った、様々な特訓をする。
時には泊りがけで訓練する事もある。
しかも、その時は一切の特殊装備はなしだ。
何の特殊効果もない、普通の鋼の剣に、ごく普通の魔道士の服にバックラーという、中級クラスのありふれた装備だ。
いや、確かに方法は任せると言ったよ?
確かに言ったけどさあ・・・・
俺はヒイヒイ言いながらも何とか耐えているが、もう嫌だという状態に近づいてくると、恐ろしいほどに巧妙にエレノアが言葉をかける。
これが終われば膝枕で休憩ですよ~とか、今日までにこの課題を終われば、宿に帰ったらとっても良い事が待ってますよ、とか、とにかくタイミングと状況を読んで俺を操るのがうまいのだ。
そして宿に帰ると、食事をした後で、エレノアはその肉体と手管と魔法を使って、俺を徹底的に癒し、奉仕する。
そのエレノア御姉様の御奉仕に俺は骨抜きでメロメロだ。
そして週に一度は特訓は休みだ。
その日はいくらでもエレノアを自由にできる。
一日中エレノアの体を好きにしても、エレノアは一切文句は言わず、笑顔で俺を受け入れる。
・・・何?この壮絶なアメとムチ?
天国と地獄の振れ幅が半端ないんですけど?
俺、絶対騙されているよね?これ?
もちろん、一切を拒否して、一日中エレノアといちゃつく事はできる。
なんと言っても仮にも3ヶ月間は御主人様と奴隷の関係だ。
しかし、俺が自分から特訓を言い出した以上、それを撤回したくはなかったし、何より、エレノアの叱咤激励と甘やかしさ加減、それに俺の気持ちの読みが絶妙で、俺はどうしても訓練をせざるを得ない状況になっていた。
何なの?このエロフ?
実は元の職業は犬の調教師か、何かなの?
俺は過酷な訓練を経て芸を覚えて行く忠犬のように、エレノアに従って訓練を続ける。
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アースフィア 50日目
名 前 : シノブ・ホウジョウ
レベル : 85
年 齢 : 15
名 前 : エレノア
レベル : 681
年 齢 : 560
状 況 : 古都ロナバールでエレノア先生に魔法を習う。




