015 ロナバールの迷宮と新たなる目的
翌朝起きると、驚くほどに清々しい気分だった。
こんな気分は久しぶりだ。
すでにエレノアは起きて服を着ていて、俺に挨拶をする。
「おはようございます。御主人様」
「ああ、おはようエレノア」
「本日より、いかがいたしますか?」
そのエレノアの質問にちょっと考えてから俺が答える。
「うん、とりあえず、どこかで魔物と戦って・・・レベルを上げたいな」
「ではこの町の近くに御主人様のレベル上げにちょうど良い迷宮がございます。
そこに行かれますか?」
「うん、そうしよう」
俺は久しぶりに装備を整えて、エレノアと一緒に宿の外へ出る。
情けない事に、ここ3週間はエレノアに溺れていたので、せっかくエレノアが整えたこの装備で外に出るのは、これが初めてだ。
エレノアもいつものボロ服にフードをかぶった姿で一緒だ。
3週間ぶりのラディが目にしみる。
「このロナバールには迷宮が2つあり、一つは北東の迷宮です。
これは初心者から中級者までの迷宮で、森の中にあります。
まずはそちらへ、案内しましょうか?」
「うん、よろしく」
「迷宮の森の入り口までは馬車が出ておりますので、それで行きますか?」
「それでいいよ」
オルフォン亭の近くから銀貨1枚を払って馬車に乗り、迷宮へ向かう。
終点である森の入り口で、馬車を降りて迷宮に向かう。
もちろん、森にも魔物は出てくるが、流石にこの程度の魔物であれば、俺の敵ではない。
エレノアと共に、あっさりと片付けながら迷宮へと向かう。
「ここが迷宮入り口です」
そう言ってエレノアが指差した物を見て俺は驚いた。
森が切れた広場に、ポッカリと洞窟のような穴が空中に開いているのだ!
その穴には厚みがなく、裏に回っても真っ黒な壁が見えるだけだ。
これは一体何なのだろうか?
「これ・・・迷宮なの?」
「はい、そうです」
「こんな迷宮・・・初めて見たよ」
「御主人様は迷宮を見るのは初めてですか?」
「いや、一つは見た事があるけど、それは森の奥にあって、洞窟のような場所だった」
「なるほど、それは洞窟型の迷宮で、むしろめずらしい方ですね。
普通の迷宮はこのように森などの開けた場所に、浮かんで存在しています」
「え?迷宮って洞窟とか、誰かの作った迷路じゃないの?」
「迷宮と言う物が、誰が作ったのか、そもそも自然現象なのかもわかりません。
ただ、明らかなのはこちらの世界とは別の世界と言う事です」
「別の世界?」
「はい、御覧のように、迷宮への入り口は、口が開いているにも関わらず、こちらの世界では先がありません。
御主人様が先ほど御覧になったように、裏を見ても、何もなく、厚みもありません。
それでいて、中に入れば信じられないほどの奥行きがあり、中は魔物の巣窟となっています」
「・・・そうなんだ」
この何でも知っているエルフ様までがわからないのではどうしようもない。
迷宮とはなんなのか、神様に聞いておけばよかったが、すでに後の祭りだ。
仕方がない。
「まあ・・・とりあえず入ろうか?」
「はい」
エレノアと二人で、迷宮に入る。
今までのように一人ではない、二人で迷宮に入るのだ。
空中にわずかに浮かんでいる迷宮の入り口近辺にはすでに何人かの人がいる。
ここは結構大きな迷宮らしく、サーマル村北西の迷宮と違って、それなりに人も多い。
迷宮に入ると、エレノアが呪文を唱える。
「ルーモ モヴィ」
エレノアは呪文を唱えると、そのままスタスタと歩き出す。
それに従い、魔法で出した照明も一緒に動き出す。
(ああ、やっぱり明かりを自分と一緒に動かすこと出来るんだ?)
そりゃ、そうだよな?
わざわざ頭に照明を貼り付けて動いていた自分が馬鹿みたいだ。
俺がポカンとしていると、エレノアが不思議そうに俺を振り返る。
「どうしましたか?御主人様?」
「あ、いや、何でもないんだ」
そう言うと、俺はエレノアに続いて歩き始める。
「まずは、弱い魔物と戦って、勘を取り戻しましょう」
「うん」
迷宮で戦い始めて、この3週間で、かなり体がなまっているのがわかる。
頭もボケていて、レベルが25程度の魔物にもてこずるほどだ。
しかしエレノアも一緒だったので、どうにかこうにか弱い魔物と戦って、勘を取り戻してきた。
俺が冒険者としての勘を取り戻してきたのを感じると、エレノアが意見を述べる。
「今度はもっとレベルの高い魔物のいる場所に行って見ましょう。
それとレベルが上がったら私に教えてください」
「わかった、そうしよう」
一旦外へ出て別の迷宮へ向かう事となる。
「次は南西の迷宮に向かいましょう。
そちらは中級者から上級者向きの迷宮で、レベル上げにも向いているので、
たくさんの人が訪れます」
「そうなんだ?」
「はい、こちらからですと、少々遠いので、私の航空魔法で向かいますか?」
「航空魔法って、空を飛んでいくって事?」
「はい、その通りです」
「僕はそんな魔法は知らないし、飛べないけど?」
「それは大丈夫です。
エレノアが航空輸送魔法で御主人様を一緒に運びますので、御安心ください」
「わかった。それでいいよ」
「承知いたしました」
エレノアが呪文を唱えると、俺とエレノアの体が地面から持ち上がり、空に上がる。
「うおっ!」
驚く俺に対してエレノアが説明する。
「では南西の迷宮へ向かいます」
俺が始めての航空魔法に驚いている間に、南西の迷宮へついた。
おそらく歩けば、2時間はかかるであろう距離を、たったの1分ほどで着いてしまった。
航空魔法を覚えると、移動がこんなに便利になるのか?と俺は驚いた。
俺たちが地上に降りると、そこには先ほど同じように黒い楕円形の円盤が空中に浮かんでいる。
「では、迷宮に入りましょう」
「うん」
エレノアに従って、南西の迷宮に入る。
今度の迷宮は入った場所が広くて明るい。
入口近辺が広い上に、全て明かりで満たされているのだ。
「ここは広くて、随分明るいね?」
「はい、ここは有名な中級から上級者用の大きな迷宮で、かなり開発されています。
ですから入口から休憩広場までは魔物も出ずに、そこまでは魔法照明で明るいです」
「へえ?」
こんな迷宮があるとは驚きだ。
しばらく歩くと、一階の広場のような場所でエレノアは止まる。
ここには何やら屋台のような物まで出ている。
迷宮の中とは思えないほどだ。
そこでは他の人間も何人か止まっている。
おや?階段に行かないのかな?と思っていると、目の前には何やら扉のような物がある。
一体これは何だろうか?
左右に開く扉のような物があって、上の方には昔のエレベーターのように、半円形の針式の階を示すような物がついている。
どうもエレベーターっぽいが、まだ電気文明のないこの世界にそれがあるとは考えにくい。
そしてその半円形の下の部分には、なぜか「目」のような物がある。
ちょっと怖い。
あれ?今その目がちょっと動いて、こっちを見たぞ?
何だか本当に怖いな?
一体これ何なんだ?
俺は不思議に思って、エレノアに質問をしてみた。
「これは一体何?」
すると、エレノアよりも先に、そばにいたおっさんたちが笑いながら答える。
「おいおい!あんちゃん!迷宮で魔物退治するのに、昇降機も知らないのか?」
「大丈夫か?初心者用の迷宮に行った方がいいんじゃないのか?」
「え?昇降機?」
やはりこれはエレベーターの一種らしい。
しかしそうだとしたら一体動力は何なんだろうか?
まさか奴隷が綱を引っ張って動かしているんじゃないだろうな?
もし、そうだとしたら、どんだけ奴隷を使っているんだ!
驚く俺にエレノアが答える。
「これは昇降機と言って、階段の代わりに建物の中を上下に移動する物です」
「え?本当にこれはエレ・・昇降機なの?」
「はい、そうです」
「僕の故郷にも昇降機はあったけど、これは一体どうやって動いているの?」
「これは上から下までが全体で一つのジャベックで、魔力で動いています。
この昇降機の前に人が立つと、あそこにある目でジャベックが人を感知して、中の箱をその階へ移動させます。
中に入ったら自分の行く階数を言えば、そこへ移動します」
エレノアの説明に俺は驚く。
へえ~凄い!
これは、人間感知装置付き音声認識全自動エレベーターだ!
これって、21世紀の地球より文明進んでいるんじゃない?
俺も実験的な音声認識エレベーターには乗った事があるが、よくコンピューターが階数を聞き間違えて、物にならなかった。
しかしジャベックってのは、こんな使い方も出来るのか?
本当に使役物体魔法って色々出来るなあ・・・
俺が感心している間に昇降機の扉が開く。
ゾロゾロと俺たちが中に入ると、自動的に扉が閉まる。
中に入った男たちはそれぞれに階数を言う。
「三階」
「五階」
「俺たちは七階だ」
「九階へ」
最後にエレノアが階数を言うと、昇降機の中にいた全員が驚く。
「あ、あんたら、九階に行くのか?」
「ええ」
「大丈夫か?ここの九階って言ったらグリフォンの巣だぞ?」
「ああ、十階よりも手ごわいと言われているぞ?」
「大丈夫ですよ」
男たちの質問にエレノアは、いとも簡単そうに答える。
その答えに男たちは無言になる。
昇降機は自動的に動き出して、各階で止まると、自動的に扉が開く。
男たちは各階で降りていって、最後には俺とエレノアだけになる。
九階で昇降機から降りると、エレノアが俺に説明をする。
「ここはグリフォンの巣窟です。
レベルは高いですが、必ず一頭ずつ出てくるので、人数が少なくレベルが高い者にとってはちょうど良い場所です」
「へえ、でもグリフォンって、結構強いよね?」
「はい、レベルで言えば150ほどですね」
そのあまりのレベルに俺が驚いてエレノアに尋ねる。
「150?エレノアはともかく、僕がそんなの相手にして大丈夫なの?」
エレノアはレベル681だが、俺はたったの41だ。
そんな人間がグリフォンを相手にまともに戦えるとは思えない。
本当に大丈夫だろうか?
「はい、エレノアが御守りいたしますので、御安心ください」
そう言って呪文を唱えると、甲冑騎士型のゴーレムが3体出現する。
「このゴーレムで御守りいたします」
「うん」
そのどこかの騎士然とした、中々強そうなゴーレムに俺も安心する。
試しに鑑定をしてみると、何とレベル250だ!
さすがレベル681のエルフ様が作るゴーレムは物が違う!
さらにエレノアは懐から何やら腕輪のような物を取り出す。
「これは魔物の腕輪です。
これを装備して歩くと、魔物の出現率が高くなり、レベル上げの修行には最適です」
「へえ・・・」
要は俺の持っている魔物の鈴と同じような物か?
「では参りましょう」
「うん」
俺達が数歩歩くと、早速グリフォンが現れる。
頭が鷲で、体が獅子の、羽の生えた魔物だ。
こいつは魔物の中でもかなり上位になるはずだ。
しかし苦もなくエレノアは一撃で、そのグリフォンを倒す。
さすがレベル681!凄まじい強さだ!
安心しろグリフォン、お前が弱いんじゃねぇ、うちのエレノアが強すぎるんだ。
俺は倒れるグリフォンを見て、思わず心の中でそう呟く。
すると、俺のレベルはすぐに42に上がった。
俺はエレノアに報告をする。
「レベルが上がったよ」
「そうですか、ではまた上がったら教えてください」
「うん」
数歩歩くと、またグリフォンが現れて、先ほど同様に、エレノアはあっさりと倒す。
そのグリフォンを倒すと、またすぐにレベルが上がった。
「またレベルが上がったよ」
「え?もう上がったのですか?」
「うん」
「・・・また上がったら教えてください」
「うん、わかった」
さらに次のグリフォンを倒すと、またもや俺のレベルが上がる。
「あの・・・また上がったんだけど?」
「え?もうですか?」
「うん・・・いや、実は僕は特殊な体質というか、特別な体で・・・
レベルが上がりやすい人間らしいんだ」
俺の説明を信じられないような顔でエレノアが答える。
「そのような話は初めて聞きますが・・・」
そりゃそうだ、神様に頼んでもらった特別な能力だ。
他にいるとは思えない。
「うん、僕以外にはあまりいないみたい」
「ちなみにどれ位の速さかわかりますか?」
「えっとね、正確に測った事はないけれど、多分、普通の30倍くらいだと思う」
「30倍?30倍の速度でレベルが上がるのですか?」
またもやエレノアが信じられないといった表情で驚く。
まあ普通に考えてそうだろうな。
「うん、多分ね」
「承知いたしました。
それを考慮して今後のレベル上げも考えましょう」
「うん」
結局、俺はエレノアと半日少々迷宮に行っただけで、レベルが35も上がってしまった。
これはよくRPGゲームでもある、レベルが高いキャラと誕生したてのキャラが一緒に魔物を倒すと、低い方がどんどんレベルが上がっていく現象と同じだろう。
しかも俺には経験値30倍がついているので、その効果も30倍だ。
たった半日迷宮に行っただけで、レベル41からレベル76になった俺に、さすがのエレノアも驚いた様子だ。
宿に帰ってきて、エレノアが俺に質問する。
「改めて、もう一度お聞きします。
御主人様の目的は何ですか?」
目的・・・・そう、俺の目的は何だっただろう?
「ボクの・・・目的?」
「ええ」
そう、俺の一番の目的といえば、前世からずっと、美人のお姉さんとイチャコラする事だった。
そしてそれはこの世界に転生して達成された。
それこそ、これ以上ないほどに・・・
いや、本当にそうだろうか?
俺の目的は本当に達成されたのだろうか?
「僕の一番の目的は・・・年上女性と思う存分にいちゃこらする事だった・・・」
「オネショタですね?」
エレノアの言葉に俺はうなずく。
「いつでも私を好きになさって良いのですよ?」
「うん、ありがとう・・・でもそれはいいんだ・・
いや、もう、それが嫌だってことではなくて、またしたいんだけど、
他の事もしたいんだ」
「何をなさりたいのですか?」
「とりあえずレベル上げかな?それと・・・」
「それと?」
「エレノアは魔法を教える事ができるの?」
俺の質問にエレノアは微笑んで答える。
「はい、僭越ながら正規の魔法教師の資格も持っております」
「だったら・・・僕を鍛えて!
色々な魔法を使えるようにして、僕がそれこそエレノアが何かで困った時に助けられる位に!」
これが違和感に対する俺の答えだった。
エレノアのような素敵な御姉さんとイチャコラするのは楽しい。
このまま一生エレノアの肉体に溺れて怠惰な生活をしていたい位だ。
しかし俺はそれだけでは満足できなかった。
俺はこの素敵な御姉さんを守って対等の立場に成りたいと思った。
この感情は何故なのか俺にもわからない。
エレノアを失う事への恐怖心からなのだろうか?
それとも単に所有欲がより肥大しただけなのか?
それは俺にもわからなかった。
ただ確かなのは、もはやイチャコラしているだけでは気がすまないという事だった。
他のオネショタ信者はわからない。
だけどこれが俺のオネショタ道だ!
俺は本気でそう思っていた。
この人を助けられるような人間になりたい!
この人が困っている時には自分が助けたい!
確かにお姉さんに甘えるのは大好きだ!
それは今でも変わらないし、いつまでもエレノアとはイチャコラとして甘えていたい。
しかし、それと同時に俺はエレノアに尊敬されて、助ける存在にもなりたかった!
これが俺の求めるオネショタ道だ!
他の自称オネショタな連中がどう考えているのかは知らない。
俺のこれはオネショタではないのかも知れない。
しかし俺にとってはこれがオネショタ道だ!
そう思ったから俺はエレノアに宣言したのだ!
その俺の言葉にエレノアはうなずいて答える
「承知いたしました。
日程や方法などはいかがいたしましょうか?」
「エレノアに任せる」
「どれほどのレベルまでにいたしましょうか?」
「それもエレノアに任せる。
エレノアを借りていられるあと2ヶ月ちょっとの間に、出来る限りの事をして僕を鍛えて!」
「かしこまりました」
こうして俺は異世界で初めて明確な目的が出来たのだった。
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アースフィア 40日目
名 前 : シノブ・ホウジョウ
レベル : 76
年 齢 : 15
名 前 : エレノア
レベル : 681
年 齢 : 560
状 況 : 古都ロナバールの迷宮にエレノアと一緒に入り、冗談のようにレベルが上がる。




