240 色仕掛け
俺の知らない所でエレノアはシルビアに相談を持ちかけていた。
「シルビア、あなたに頼みたい事があります」
「はい、何でしょう?」
「これはあなたに内密にお願いしたいので、誰にも話さないでください、御主人様にもです」
「御主人様にも?」
「ええ、むしろ御主人様には特にです。
こんな事をあなたに頼むのは心苦しいのですが、あなた以外に頼める人がいないものですから」
「何でしょう?」
「あなたはあのデフォードという男をどう思いますか?」
「あの時に言った通り、優秀ではありますが、劇薬のような男で、頭は切れ、能力は高いかも知れませんが、扱い方が難しく、信用できるかどうかわかりません。
信用できるのであれば、かなり頼りにはなりそうですが・・・」
「私も全く同意見です。
そこの部分をあなたに頼みたいのです。
あなたにはデフォードに近づいて欲しいのです」
「私が?」
「ええ、色仕掛けでデフォードに近づき、デフォードと一緒に私を追い落とし、首席秘書監の地位を奪い取り、いずれは御主人様を亡き者にして、この家をデフォードと乗っ取りたいと誘惑して欲しいのです」
「なるほど、つまり色仕掛けで彼を試す訳ですね?」
「ええ、そうです、最初は私がやろうかとも思いましたが、説得力に欠けます。
私がそうしても首席秘書監という立場ですから、あの男は疑って、引っかからないでしょう。
しかし、あなたの地位なら私を追い落とし、その立場を物にするという動機で、彼も納得すると思うのです」
「それで彼が快諾したら終わりと言う事ですね?」
「その通りです、このような事をあなたに頼むのは非常に心苦しいのですが・・・」
「いいえ、御主人様のためです。お任せください」
「お願いします。
それと地位や財産の約束もした方が良いでしょう。
あの男が金品にも色気を見せたら、いくらでも約束してあげなさい。
それは私が何とか用意します」
「わかりました。
それを渡して手切れ金にする訳ですね?」
「その通りです」
次にデフォードが来た時に、シルビアがこっそりと呼び出して話しかけていた。
「デフォード、実はあなたに折り入ってお話があるのだけれど?」
「俺に?なんだい?」
「あなたにとっても悪い話じゃないわ」
「ほう?」
「正直に言うわ。
実は私はエレノアさん、いえ、エレノアの首席秘書監の地位が欲しいのよ」
「ほほう?」
シルビアのその言葉にデフォードは興味深そうに答える。
「あの女は、御主人様のためにならないわ。
だから追い落として私が首席秘書監になりたいの。
それに協力をしてくれるのなら、あなたの事を御主人様に推薦しても良いわ。
私が強く推薦すれば、御主人様は必ずあなたを正式に雇うと言うのは保証するわ」
「なるほど」
「いかがかしら?」
「中々魅力的な取引だ。
しかし前払いを多少はしてくれるんだろうな?」
「前払い?お金ならかなりの報酬を用意出来るわよ」
「そんなもんよりも別の物で払ってもらいてぇもんだな」
「別の物?」
「ああ、それ位はあんたの体で払ってくれるんだろう?」
「か、体で?」
「それ位の保証がなけりゃ、俺もあんたを信用は出来ないな」
「そ、そうね、構わないわよ?」
シルビアは少々怯んだが、ここで承諾しなければ相手に疑われると思ったのだろう。
自分の体をデフォードに差し出す覚悟を決めた様子だった。
しかし、そんなシルビアを見て、デフォードは大声で笑い出したのだった。
「くっくくく、あっはっはっはは・・・
いや、こりゃ参った!
本当に参ったな!」
「?何?どうしたの?一体?」
「いや、何が参ったって、あんたたちの結束力の固さと忠誠心にさ。
こりゃ、是非とも正式に大将の手下にしてもらわないとな!」
「どういう事?」
少々動揺して尋ねるシルビアにデフォードが答える。
「この小芝居、あんたの独断か、エレノア姐さんの指示だろう?」
「え?」
「まず、あの馬鹿正直であんたらを宝物扱いしている大将が、そのお大事なあんたがたの体を使ってまで俺を試すような事をするはずがない。
これは主人を心配するあまりのあんたか、エレノア姐さんの判断だろう?
俺がどこまで信用できるかどうかを試すためのな。
だが、こんな餌に食いついて、後で大将にばれたら採用どころか俺の命が危うい。
俺の考えが間違ってなければ、あの大将はそれほどお前さんたちを大事に考えているぜ?
これで俺があんたに手を出した日にゃ、あの大将に世界の果てまで追い詰められて八つ裂きだ。
ま、俺もそこが気に入ったんだがな。
だからあんたもこんなまねはやめておきな!
俺に限らず、今後誰に対してもだ。
もちろん、あんただけじゃなくてエレノアの姐さんやミルキィもな。
これは俺の心からの忠告だ。
さもないと、あんたのあのかわいい大将が、大声で泣いて悲しむぜ?
俺もあんたと同じで、あの大将を泣かしたくはないんでな!
もし、今後そういう女が必要な場合は俺に言ってくれ。
そういう伝手もあるんで、俺が見繕うさ」
図星を指されてシルビアも言葉が出ない。
「そ、それは・・・」
「あんたからも大将に言っておいてくれよ、俺は大丈夫だってな。
少なくとも金や女では動かない奴だってわかってもらえないとな。
さもないと、俺の価値をわかってもらえねぇ。
今後、そういった裏の仕事は俺の担当だ。
あんたたちが手を出す必要はない。
その手の仕事は全部、俺に回しな」
それを聞いたシルビアも自分の作戦が失敗した事を悟り、うなずいて返事をする。
「・・・わかったわ。
機会があれば、それは言っておきましょう」
「ああ、よろしく頼むぜ」
シルビアはその事をエレノアにだけは話した。
「なるほど、そこまで読んでいるとは・・・
思ったよりも信用はできそうですね?」
「ええ、それには私も賛成です。
あの男は見た目や言動よりも信用は出来そうです。
そしてそれだけに油断もなりません」
「そうですね、ではしばらくは様子をみましょう」
「はい、私もその案に賛成です」
こうしてデフォードは二人によって、より強固に監視される事になった。
そしてちょうどその頃、シノブたちは戦団「青き薔薇」として、その活動を始めていたのだった。




