239 雇われ損
色々と考えた俺はデフォードに話し始めた。
「なるほど、話はわかった。
しかし、それならやはり俺に仕えるなんて事はやめておいた方が良いな。
後で騙されたと言われるのもいやだから先に言っておいてやるよ。
あんたは雇われ損だよ」
「なんでさ?」
不思議そうに尋ねるデフォードに俺がある事を指摘する。
「重要な観点が抜けているからだ」
「重要な観点?」
「ああ、もっともそれがわからないのも無理はない、
こうして実際に俺と話さなきゃわかる訳がないからな。
良い機会だし、あんたの誤解を解くためにも、ここでその説明をしておこうと思う。
あんた、そもそも俺が何を目的で人生を生きていると思う?」
「目的?そりゃ確かにあんたの人生の目的なんぞはわからないが・・・」
とまどうデフォードに俺は大きく息を吸い込んで話し始める。
「いいか?よく聞いてくれよ?これは重要な事なんだ。
俺の人生の目的はエレノアやシルビア、それにミルキィたちみたいな素敵なお姉さんたちと毎日イチャイチャして、たくさん友達を作って、人生を面白おかしく過ごす事だ!
それ以外の目的なんぞない!」
俺の説明にこの男はかなり驚いた様子だ。
目を丸くして驚いている。
「はあ~?」
「つまりもっとわかりやすく言うと、立身出世して成り上がろうとか、あこぎな商売をして大金持ちになってやろうとか、あちこちの王族や貴族に取り入って、どこぞの宮廷に出入りして貴族になろうなんて事は、これっぽっちも思ってないって事さ!」
「なんだってぇ?」
驚くデフォードに俺がさらに詳しく説明をする。
「あくまで俺の信条は毎日を親しい人間たちと楽しく過ごせれば良い。
ただそれだけだ、それ以上の事何ぞは望んじゃいない。
但し、そのために多少は金儲けの商売はしたり、迷宮でレベルを上げたりはするがね。
ここにいるうちの人間たちは全員、そういう俺の事をわかっていて仕えてくれているありがたい人たちさ。
つまり全く出世欲もない、その見込みもない、ただの小僧を主人として仕えてくれているんだ。
正直言って、こんな俺になんで仕えてくれているのか、俺にもわからないんだ。
だからこの人たちはみんな俺の宝物みたいなもんさ。
大切にしなきゃ罰が当たるってもんだ。
だからあんたもこんな全く将来性のない小僧なんぞ放っておいて、他の主君を探した方が良いぞ?
世の中には俺なんぞより、よほど賢明で仕え甲斐がある人間がいくらでもいるはずだ!
あんたは絶対にそういう人に仕えた方がいい!
いいか?もう一度言う。
俺には出世したり、いわゆる世間で言う人生に成功するなんて事はありえない!
そもそもその気がない!
俺にとっての成功人生ってのは、素敵なお姉さんとイチャコラして、変わった食べ物や、面白い物を作ったりして、仲の良い友人たちと面白おかしく過ごす事だ!
何しろ本人が言うんだ、間違いはない!
つまりあんたは俺に仕えても全く何の得も利もない!
だから俺に仕えるのはやめておけ!
これは俺の心からの忠告だ!」
この俺の説明を聞くと、デフォードは唖然として俺を眺める。
俺が無言でいると、やがてデフォードは目線を俺からエレノアやシルビア、ミルキィ、アルフレッド、キンバリー、ペロンと順番に移していくが、全員全く動じる事無く、無言で立っている。
やがてしばらくすると、デフォードが笑い出す。
「くっくっく・・・・かははは・・・
あーはっはっは!
こりゃ凄ぇ!
いや、本当に凄ぇぞ!
シノブ・ホウジョウさんよ!
俺はあんたみたいに凄い奴は見た事がないぜ!
あんたはよほどの正直者で馬鹿か、ほら吹きでうそつきか、とにかく大物なのは間違いがないようだ!
全くこんなガキンちょとは思えないほどだ!」
そのデフォードの言葉に俺はうなずいて答える。
「うん、馬鹿で正直者でガキンちょってのが正解だと思うぞ?
少なくとも自分ではほら吹きや、うそつきではないと思っているけどな。
大物かどうかは知らんが、自己診断では多分小心者で小物だ。
で、事情がわかったところで、仕えるのは止める気になっただろう?」
「いーや、ますます仕える気になったね!」
「何でさ?」
デフォードの返事に俺は心底驚いた!
「あんたが俺の想像していた以上の大物だからだ」
「大物?」
なんでそうなる?
不思議がる俺にデフォードはますます食い込んでくる。
「ああ、こいつは仕え甲斐がありそうだ。
是非雇って欲しいね!」
そのデフォードの言葉に俺は改めて驚いて返事をする。
「おい!あんた、俺の話を聞いていたのか?
俺の手下になったって、あんたには何のうまみも得もないぞ?
それは保証する!
わかってんのか?」
「ああ、それを承知で手下にしてもらうぜ?
人生を面白おかしく過ごしたいってのは俺も大賛成だ!
あんたの手下になったら俺も相当面白い人生を過ごせそうだ!
俺もあんたに仕えて、あんたの宝物とやらにしてもらいたくなった!
何だったら親分と子分でもいい。
せいぜいタダ働きでこき使ってくれ。
文句は言わん!」
「子分でタダ働き?何でそこまで?」
俺の驚きは大きくなる一方だ。
「な~に、俺があんたを気に入ったからさ。
理由はそれだけだ。
で、どうだい?」
う~ん・・・・
そこまで言われれば、こちらとしても断る理由がなくなる。
それに俺も実はこいつのずうずうしさが結構気に入っているのだ。
だが確かにこいつは危険ではある。
これは一種の博打だ。
いまだ誰かの差し金の可能性は残っているが、さしあたり雇ってみるか?
「わかった・・・しばらく様子見であんたを雇おう。
仮雇いだ」
「そうこなくちゃな!」
「だけど期待はずれでも文句は言うなよ?」
「ああ、それに関しちゃ大丈夫だ!
俺には自信がある!」
「しかし給料とかはどうすれば良い?
まさか本当にタダ働きという訳にもいかないだろう?」
「まあ、それも本当にタダ働きでもいいんだが・・・
どちらにしても今の所はいらんね」
「いらない?」
「ああ、こちらが売り込んでしばらくは試用期間中だ。
それで給料までもらったら余計怪しいし、ずうずうしい。
しばらくは本当にタダ働きで構わないぜ?
別にそれほど金に困っているという訳でもないんでね。
自分の食い扶持位は稼げるさ」
「それでいいのか?」
「ああ、正確に言えば、俺はあんたに雇って欲しいんじゃなくて、部下か子分にしてもらいたいだけだからな。
だから別に金でどうこうって訳じゃねえ。
ただ、強いて言えば迷宮に行く時は俺も連れて行って欲しいもんだね。
当分の間はそれが給料代わりってとこかな?
いや、正式に雇われても、それが給料で全く構わん」
「つまり「上げ屋」代わりって事か?」
「ま、そういうこった。
俺のレベルで上げ屋をやってくれる奴なんざ、まずいないからな。
仮にいたとしてもとんでもない金額になるだろう。
あんたらがそれをやってくれれば、十分給料代わりさ。
万一あんたに解雇された時でもレベルは上がっているだろうから、潰しも効くってもんだ。
ま、俺としては是非正式採用して部下にして欲しいとこだがね」
「なるほど」
確かにレベル130を越える人間を相手に上げ屋などをやっている者はいない。
こいつに取っては俺たちと迷宮にいるだけでもレベルが上がるので、それでも十分ありがたいのだろう。
この取引は中々賢いと言えるだろう。
やはりこいつは只者ではない。
「わかった。ではしばらくはそれが報酬代わりという事でよいだろう」
「ありがてぇ」
しかし報酬はそれで良いとしても、もう一つ問題が残る。
こちらがこの男の能力をどう判断すべきかだ。
「しかし君の能力は、こちらでどう判断すれば良い?」
「それに関しちゃ俺も考えてある」
「なんだい?」
「何回か、俺を使ってみればいい」
「どういう風に?」
「何だって構わないさ、どこかを探ってくる事でも、迷宮につき合わせることでも、あんたが思いついた何でもいいさ、それで俺を評価してもらえればいい。
俺の能力、性格、忠誠度、利用価値、信用度、その他なんでもだ。
それがわかってもらえれば、俺がいかに使えるかがわかって、あんたも俺の使い勝手がわかるようになってくるだろうからな。
もちろんさっきも言ったように、全部タダ働きで良い。
しかし場合によっては、必要経費程度は欲しいがね」
「なるほどね」
「それであんたが納得すればそれでいい。
こっちとしては売り込むほうだからな。
今後のために、それ位はあんたに知ってもらった方が良いし、俺がどういう方面に、どれ位役に立つか分かってもらえるだろう。
それであんたが納得したら、俺を正式に雇って、いや部下にしてくれればいい。
その方が俺も気兼ねなく仕えられるってもんだ」
「なるほどな」
「おっと、それに関して思い出した。
せっかく土産を持ってきたのに、危うく忘れる所だったぜ」
「土産?」
「ああ、それがこのタイミングであんたの部下になりに来た理由の一つさ。
ちょうど良い土産が出来たんでな。
それを持って、あんたの部下になろうと思って来たのさ。
この街の顔役衆、知っているだろう?」
「顔役?ブローネの事か?」
「あいつもその一人だが、今じゃ一番の小物さ、親父の時代はそれなりだったがね。
まあ、とにかくその顔役衆どもがあんたに標的を定めた」
「標的?何でだ?」
「あんたがこの街の裏の均衡を崩したからさ。
それにあんたはあの肉まんで結構儲けているからな。
しかしそこは迷宮の中や森の入口で奴らの管轄外だ。
それが面白くないんだろう。
近い内にあんたに思い知らせてやろうと計画しているようだ」
「それは一体いつごろなんだい?」
「そこまではまだわからねぇな。
連中もまだちょっと何も知らないポッと出の若造を締めてやろうって位らしいからな。
具体的な計画はまだないようだ。
ただ、どうもそれを実行するのはトランザムの奴ららしい」
「トランザム?」
俺は初めて聞くその名前を問い返す。
「ああ、この町で一番の顔役さ、ま、同時に一番最悪の奴でもあるがね。
詳しくは俺なんぞよりも、元戦闘法務官のシルビアの姐さんの方が詳しいだろう」
デフォードの言葉にシルビアがうなずいて答える。
「はい、トランザム一家はこの街で最大の顔役であると共に最大の恥部です。
建前はトランザム商会と言う名で商売を運営しておりますが、その実態はろくでもない集団です」
シルビアの説明にデフォードも相槌を打つ。
「ま、そういうこった」
そいつがうちに何かちょっかいを出してくるという訳か?
それを聞いた俺はデフォードに言った。
「そうか、ではそれを君の最初の仕事にしよう。
そいつらの襲撃がいつあるか、どれ位の規模なのか、そもそも仕掛けて来るのが本当にそいつらなのか?
とにかく何でもそれに関する事を詳しく調べてくれないか?」
「合点だ!任せてくれ、大将」
こうして何でも屋デフォードは去っていった。
しかし俺の知らない所でデフォードはさらに試されていたのだ。
デフォードが帰った後で、エレノアとシルビアがこっそりと密談していた。




