236 ゼルバトロス本部長との話
この二人の雰囲気、明らかに昨日今日に師弟関係になった感じではない!
エレノアもにこやかに挨拶を返す。
「はい、お久しぶりです。ゼルバトロスさん」
やはりそうなのか?
全く魔道士がらみにはエレノアの教え子がゴロゴロといるなあ・・・
それもみんな半端じゃない役所だ。
「いやいや、ゼルバトロスさんなどと先生に言われてしまうと、こそばゆいです。
どうか昔どおり、ゼルとお呼びください」
「いえ、いまや魔法協会の本部長たる方にそのような事は・・・」
「何をおっしゃいますか!
先生のようなお方が私のような者に遠慮など・・・
まあ、公式の場ではともかく、このような他に特に誰にも気兼ねしない場所ではゼルと呼んでください。
この間の昇降機設置の間も、そう呼ばれておりましたからね。
久々に先生にゼルと呼ばれて嬉しかったですよ」
どうりで昇降機設置の時に二人はすぐに打ち解けていたわけだ!
この二人は以前から師弟関係だった訳か!
「承知しました。
ではゼル、話を続けてください」
「はは・・しかし、奇遇ですなあ、そうそう、シルビア君も久しぶりだね?
君が奴隷身分になったと聞いた時は、私も驚いた物だったが、元気そうでなによりだ」
「はい、御無沙汰しております、本部長。
今はこちらのシノブ様の下で恙無く暮らしております」
「うん、それは良かった。
何しろ、あの時も私が話を聞いて、何か手を打とうと考えていた時に、突然、エトワール君が私の執務室に飛び込んで来ましてね。
入ってくるなり、いきなり物品購入許可書を求めて来たので、私も驚きました。
そして私に
『シルビアが競売にかけられることになった、シノブさんが競り落とすために金貨が必要なので、今すぐに魔法道具を買い取る許可が欲しい』
と言って来ましてね。
私もシノブさんやグリーンリーフ先生なら、安心してシルビア君を任せられると思ったので、即座にその場で書類を作ってサインした訳ですよ」
そんな事があったとは・・・!
あの時エトワールさんはどこかにすっ飛んで行って、すぐに何かの書類を持ってきたが、あれはゼルさんの許可をもらった書類だったのか!
「なるほど、そうだったんですか?」
「存じ上げませんでしたわ・・・私の知らない所でお骨折りいただいてありがとうございました」
「いやいや、礼はエトワール君に言ってあげなさい。
私は書類にサインしただけだからね」
どうやらエトワールさんは親友のためにずいぶんと手を尽くしてくれたみたいだ。
おかげでシルビアもうちに来る事が出来た。
本当にもう一度お礼を言わなきゃな。
「しかしわざわざ呼んでおいて、短い間で申し訳ありませんが、立ち話もなんです。
まずはお座りください、シノブさんも、お付の皆さんも」
「はい」
俺たちが座ると、ゼルバトロスさんとブルーノさんも座って話し始める。
「まあ、話と言っても、実は先日の昇降機設置作業を一緒にして、グリーンリーフ先生を拝見した時点で、ほとんどの事は終わっておりましてね。
今日来ていただいたのは、こうして私の事を知っていただくために来ていただいただけなのです。
今の会話でもうお分かりかと思いますが、私はかつてこの方に教えをいただいた生徒です」
「なるほど」
「ええ、つまりシノブさんとは兄弟弟子に当たる訳です。
ですからこういっては何ですが、私の事は義理の兄だとでも思って、気楽に話してください」
出たな!またもや俺の兄弟弟子!
俺の兄弟弟子コレクションは勝手にどんどん増えていくなあ・・・
それにしてもレオニーさんとレオン、パラケルスさん、ユーリウスさんと言い、俺の兄弟弟子コレクションは大物が続々だ。
そして今度はロナバール魔法協会本部長様か?
一番小物の俺は恐縮してしまう。
「とんでもありません!
本部長のような方と気楽になど・・・」
「いやいや!私なんぞまさに不肖の弟子でしてね。
シノブさんの年齢の頃など、馬鹿な事をして、よく先生にも叱られたものですよ」
「いえ、それは私も同じです。
今まで自分の馬鹿さ加減に悔やんだ事が何度あった事か・・・」
「はは・・それを聞いてむしろ安心しましたよ。
本当は昇降機設置作業の後で、すぐにこうして御会いしようと考えていたのですが、あの肉まん屋の忙しさを見て、少々落ち着いてからの方が良いと判断しましてね。
そうこうしているうちにシルビア君の件でしょう?
その上ドロイゼからも聞きましたが、ロナバールの顔役のブローネ党まで軽くあしらったとか?
どうも色々と間が悪く、中々御会いできなくて申し訳ありませんでした」
「いえ」
俺が答えるとシルビアも説明をする。
「ええ、私とエトワールは、本部長から正体を隠して昇降機設置の仲間にして欲しいと言われて、シノブ様たちに本部長とマドレーヌさんを引き合わせたのです。
是非シノブさんの様子と、人となりを自分の目で確かめてみたい。
後で自分から名乗り出るから、それまでは内密にしておいて欲しいと頼まれまして。
でも、まさか私も本部長がエレノアさんの弟子だったとは思いませんでしたわ」
「なるほど」
そういう事だったのね?
シルビアの説明で俺も納得した。
「そういえばフレイジオ君とポリーナさんがいないようですが、彼らはどうしましたかな?」
「フレイジオはバッカン氏の下へ弟子入りをして、ポリーナはメディシナーで魔法治療士として修行中です」
「なるほど、それにしても、あのバッカン氏へ弟子入りとはフレイジオ君も凄いですね。
あの方は気難しくて、中々弟子を取らないので有名なのですが?」
「ええ、フレイジオは相当バッカン氏に気に入られたようです」
「それは重畳、ポリーナさんもメディシナーで頑張っているのですね?」
「ええ、この間も手紙が来て、元気にやっているそうです」
「なるほど、あの二人やお家の皆さんには、私の事を話しても構いませんので、よろしくお伝えください。
ところで今回半分は仕事と言いましたが、それももう終わっていましてね。
正直、レベルの高い魔士というのは、魔法協会にとっても注意すべき人物なのです。
それもレベルが300を越える魔士など聞いた事もありません。
ですから今回も本来ならどういった人物か見定めるためにお呼びしたわけですが、昇降機設置の時の件ですでにわかっておりましたし、グリーンリーフ先生のお弟子さんなら、何も問題はありません。
むしろ、大歓迎です!
ましてや幸運の妖精ケット・シーまで一緒とは驚きです。
ケット・シーは人の善悪を嗅ぎ分けると聞いております。
そんなケット・シーと一緒で、グリーンリーフ先生の御弟子さんなら何の心配もありません。
私も一安心ですよ。
今回はそれを伝えたいのと、私の正体をお知らせしておきたいので、わざわざ御呼びした次第でして、ようやくこうしてお知らせ出来たので私も一安心です」
そう言ってゼルさんは、俺やペロンを見てうなずく。
「わざわざありがとうございます」
「いえいえ、今後も私に出来ることでしたら相談に乗りますので、どうぞ遠慮なく、こちらにいらしてください。
もうお分かりでしょうが、ここにいるのは私の秘書のマドレーヌ魔道士です。
私がいない場合は彼女に話を通してください。
ブルーノ副本部長、マドレーヌ君、今話したとおり、この人たちは私の師匠とその御主人様の一行だ。
私がいない時に何かあれば、代わりに話を聞いて可能な限り、色々と融通をしてくれたまえ」
そのゼルバトロス本部長の言葉にブルーノ副本部長と、マドレーヌさんもうなずいて返事をする。
「承知いたしました。本部長」
「はい、かしこまりました。
皆様、改めてよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
俺が挨拶を返すと、ゼルバトロス本部長も満足そうにうなずいて話す。
「それでは今回はわざわざ御呼び立てして、申し訳ありませんでした。
大変短い時間でしたが、私にとっても大変有意義な時間でした。
どうぞ皆さん、これで御自由にお引取りください。
ありがとうございました」
そう言うと、ゼルバトロス本部長は立ち上がり、深々と頭を下げて、俺たちを促す。
俺たちは本部長室から出ると、一階の受付によって、エトワールさんに会いにいった。
彼女は俺たちが本部長と何の話をしてきたのか、興味津々で話を聞いてきた。
「で?どうだった?シノブさん?」
「え~と、何か本部長さんがエレノアの弟子で御機嫌でした」
「え?うちの本部長って、エレノア先生の生徒だったの?」
「どうやらそうらしいわよ?
私も驚いたわ」
シルビアが説明すると、エレノアがうなずく。
「はい、かつて魔法学校で教えていた事があります」
「じゃあ、私と本部長も兄弟弟子ってことか・・・
へえ・・・意外に世間は狭い物なのね?
それにしても、本当にエレノア先生って凄い人なのねぇ」
改めて感心するエトワールさんに俺も同意する。
「僕もそう思います。
それとシルビアの件で、エトワールさんがゼルさん、いえ、本部長に捻じ込んだ件も聞きました。
本当にありがとうございました」
「ええ、私からも礼を言うわ。本当にありがとうね」
俺がとシルビアが深々と頭を下げると、エトワールさんは照れながら笑って、片手をひらひらとさせながら答える。
「あはは、そんなの大した事ないわよ!
あ、でもお礼に夕食とかを、おごってくれるというなら断らないわよ~」
「ええ、是非今度おごらせてください」
「楽しみにしているわ~」
「はい、ではまた今度・・・」
俺が家に帰って食事の時にアルフレッドに事の顛末を話すと、アルフレッドも感心して話す。
「あの時のゼルさんがロナバールの魔法協会本部長だったとは・・・
それにしてもさすがは、エレノアさんでございますね?
このロナバールの魔法協会の本部長の師匠とは・・・私も驚きました」
俺もうなずいて答える。
「でしょう?メディシナーの時といい、ユーリウスさんの事といい、そんな人が僕の先生になってくれてるなんて信じられないよ?」
「それは御主人様の御人徳でございますよ」
「ははっ、僕にそんな物があるとは思えないけどねぇ?
どっちにしてもエレノアに見放されないように、僕もがんばるよ」
俺は何とかエレノアに追いつきたいと思っているのに、新しい現実を知るたびに、逆にその差は開く一方な気がする。
「御安心ください、そのような事は決してございません」
「ありがとう、それにしてもエレノアを初めとして、アルフレッドにキンバリー、シルビアにミルキィ・・・みんな僕なんかよりもよっぽど、凄い人たちばっかりだよねえ?
家の主人が一番ダメダメって、仕える人たちとしても困るよねぇ?
はあ~僕もこの家のみんなに自分の主人の名前を胸を張って言ってもらえるように、少しはがんばらないとねぇ・・・」
別に立身出世をしたい訳ではないのだが、俺としては、せめて自分の家の人間が世間様に堂々と主人の名を言える程度にはなっておきたい。
そのためにもレオニーさんやレオンはともかく、せめて年齢が近くて、ほぼ同時期に弟子になったシャルルやポリーナには負けないようにしなくちゃね?
でもあの二人も結構才能あるから、油断したらすぐに追い抜かされちゃいそうだな。
特にシャルルの才能なんて俺と大して変わらないしなあ・・・
俺と違って子供の頃から魔法の訓練をしている訳だし、あいつ・・・控えめに言っても天才じゃないの?
あ、何かそんな事を考えていたら、ちょっと落ち込んできたよ・・・
・・・フッ・・・フフフ・・・!!
・・考えてみりゃあ、おれと同じ仮免とはいえ、シャルルはすでに正規の魔道士で、ノーザンシティの筆頭理事の息子として生まれたサラブレッド・・・レオニーさんとレオンは、どっちも名高いメディシナー一族で最高評議長様と当主の侯爵様、ポリーナはゴブリンキラーの高祖父から魔法治療とゴブリン退治の両方の指導をうけているプロだっ・・・!!
・・・おれだけがっ・・
・・・おれだけがみんなと違うっ・・・!!
違うんだッ!!!
・・・などと、一人でどっかの大魔道士ごっこをしても、俺の能力が突然上がる訳じゃないしなあ・・・
やっぱり地道に努力をするしかないよね?
うん、俺だって神様から凄い才能をもらって、エレノア大先生に教えを受けてるんだからね?
そんな捨てたもんじゃないはずさ!
多分・・・・
俺が変な妄想で勝手に落ち込んでいると、アルフレッドが慰めてくれる。
「大丈夫でございます。
今でも私は十分胸を張って言えますとも!」
「私もです」
「私も!」
「この家の者、全員がそう思っていますよ。御主人様」
「ありがとう、みんな」
しかし、俺はこの時、まさか次の日に俺の度量や主人としての器を試されるような事態が起こるとは考えてもいなかったのだ。




