185 生産ジャベック クレアス
数日経って、店の調理や接客にジャベックたちが慣れてきた頃、エレノアが俺に話しかける。
「御主人様、例の物が出来上がりました」
「あの高性能な生産ジャベック?」
「はい」
そう説明するエレノアの後ろには長く美しい紫色の髪の女性型ジャベックが付き添っている。
見た目は30代ほどの人間の女性で、美しくはあるが、随分と母性溢れる印象で、何だかお母さんと呼びたくなるような雰囲気のジャベックだ。
「こちらがそのジャベックです。
クレアスと名づけました」
「クレアスね」
「はい、「生み出す者」と言う意味です」
なるほど、ジャベックを生み出す能力のある、生産ジャベックには相応しい名前だ。
そのクレアスがきれいな紫色の髪を揺らしながら微笑んで俺に挨拶をする。
「はい、クレアスと申します。
よろしくお願いいたします」
「うん、よろしく」
エレノアがさらにクレアスの説明を続ける。
「クレアスのレベルは380で汎用ジャベックです。
一般的な事はもちろん、かなり複雑な事もこなし、当然一般的な会話も可能です。
そしてレベル270の魔戦士型や戦魔士型のジャベックを生産する事が可能です。
これらは魔法修士級の魔法を使えます」
「レベル270で魔法修士級?」
その製造レベルに俺は驚いた。
レベル270って、相当なレベルだぞ?
しかも魔法修士って・・・
「はい、但し、かなり時間は必要で、一体作るのに一年ほどかかってしまいますが・・・」
いやいやいや!エレノアさん!
1年でそれを作れるって、もの凄いでしょう?!
レベル170のヴェルダや、レベル160のオリオンやセイメイでも、小さな村程度なら殲滅する事が可能なのだ。
サーマル村程度なら、半日で殲滅可能だろう。
ましてやレベル270で魔法修士級の魔戦士型ジャベックなんて、大きな町や、小さな国程度滅ぼしてしまうことが出来てしまうだろう。
俺もこの世界に来たばかりの時は、エレノアやエルフィールのレベルはスゴイナー!という小学生並の感想だったが、魔法関係の知識が増えてきた今ならわかる。
この二人は化け物級だ!
初めてエルフィールを見た時、エトワールさんは恐怖で震えていた。
あれは当然の反応だったのだ!
今にして思えば、あれは空手黒帯の人間がティラノサウルス、いや、ゴジラにいきなり出会ったのと同じだと思う。
素人ではなく、正規の魔道士だからこそ、エルフィールの凄さがわかったのだ。
むしろあの時のシルビアさんが、あまりにも度胸が据わっていたというべきだろう。
だから今の俺ならレベル270の魔法修士級ジャベックが、いかに常識はずれで、トンでもない代物だという事もわかる。
そんな代物を一年に一体製造できる方が驚きだ!
21世紀地球風に言えば、小型空母一隻か、ミサイルイージス艦を一年に一隻就航可能です、と言っているようなものではないだろうか?
そう思って俺はエレノアに聞いてみた。
「いや、それは凄い事なんじゃないかな?」
「はい、これはエルフィールと共に私の最高傑作になります。
生産性を備えるためにレベルはエルフィールより低くなってしまいましたが、エルフィール同様、私の使える呪文はほぼ全て使えます。
高性能ではありますが、護衛ジャベック群の中で、最後に作ったのは、完成と同時にほぼ生産にかかりきりになって、最初に多少の訓練をする以外は、おそらく他の事は何も出来なくなるからでございます」
なるほど生産にかかりきりになるんじゃ、他に何も出来ないもんな?
確かにそれを一番最初に作っても何の役にも立たない。
だから一番最後に作ったというのは納得だ。
それにしてもエレノアが使える呪文をほとんど使える?
え?まさかアレも使えるのか?
「え?じゃあPTMも使えるの?」
「はい、このクレアスはエルフィールと共に、PTMが使用可能な希少なジャベックでございます。
もちろんクレアスが生産するジャベックはそこまでは使えませんが・・・
どちらにしても、それは内密にして、我々二人だけの情報にしておいた方が宜しいです」
「そうだね」
エルフィールもPTM使えたんだ!
そういや俺の最強護衛ジャベックと言っていたからなあ。
「もちろん魔法修士級とは言ってもジャベックは作れません。
ジャベックを生産可能なジャベックというのは非常に複雑ですから」
「そういえば、生産ジャベックを作るジャベックというのは作れないの?」
「つまり、生産ジャベックを生産するジャベックですね?
はい、それは再生産ジャベック、もしくは多重生産ジャベックといって、理論上は可能なのですが、現在私が知っている限りでは成功した事例はございません。
生産ジャベックを作るジャベックとなると、恐ろしく術式が複雑となり、それですとアイザックを作って、それに生産ジャベックを作らせた方が簡単なほどですから」
「なるほど」
それでノーザンシティでも、そういうジャベックはなかったのか?
まあ、普通の生産ジャベックでも、かなりとんでもないしね。
ましてやレベル270の魔法ジャベックを生産するジャベックなんて、まず他にはいないだろう。
「まずは屋敷にいるみんなに紹介しましょう」
「うん、そうだね」
俺は店に出向いているブリジットとホワイティ以外の屋敷の人間たちとジャベックを全員呼んで、クレアスを紹介した。
「みんな!これはエレノアが作った最新ジャベックのクレアスだよ!
エルフィールほどではないけどレベル380で、頭がとても良くて強い上に、生産ジャベックと言って、他のジャベックを生産する事が出来るんだ」
「クレアスでございます。
皆様よろしくお願いいたします」
俺とクレアスの自己紹介に全員が感心する。
「ほほう・・・レベル380で、自分でジャベックを生産出来るとは凄いですな?」
「ええ、私もそんなジャベックは初めて聞きました」
「ボクには何だかわからないけど凄そうニャ」
「ええ、とても凄いです」
ハムハムとムサビーも驚いたように話す。
「へっ!レベル380とはやるじゃねぇか!」
「さすがはエレノア様でございます」
一応みんなが納得すると、俺が先を説明する。
「但し、基本的にこの屋敷の人たち以外には、ただの汎用魔法ジャベックだという事にしておくから、みんなもそう思っていて。
ブリジットとホワイティにもそう説明しておくよ。
最初は基本的な訓練を多少するけれど、それが終わったらほとんど屋敷の中の自室でジャベックの生産に集中させるから、実際には家の中でもほとんどみかけなくなると思う」
「かしこまりました」
アルフレッドが返事をすると、キンバリーとミルキィ、ペロン、それにガルドとラピーダ、ハムハムとムサビーもうなずく。
さらにエレノアはガルドとラピーダに説明をする。
「そして命令順位はエルフィールの次で、ガルドとラピーダの上です。
二人ともそれを覚えておくように」
「はっ」
「かしこまりました」
二人が返事をすると、今度はハムハムが問いかけて来る。
「俺たちもかい?エレノアさん?」
ハムハムが尋ねると、エレノアが答える。
「あなたとムサビーは御主人様直属のような物ですから、普段は基本的には好きにしていて構いません。
しかし、御主人様がいない場合は、私かここにいる他の人たちの命令を、それも誰もいない場合はエルフィールかクレアスの命令に従うように」
「わかったぜ、エレノアさん」
「はい、承知いたしました。
エレノア様」
エレノアの答えにハムハムとムサビーがうなずく。
「最初は家での一般的な仕事の訓練、その後に迷宮で訓練して、それから生産に入らせたいと思います」
「わかった」
その日からクレアスには様々な事を教えていった。
料理、掃除、洗濯と日常作業の一通りな事を、まずはキンバリーが教えた。
クレアスは知能が高く、何でもすぐに覚えてしまうのでキンバリーも驚いていた。
ペロンが釣ってきた魚を俺が刺し身にする調理法を教えると、すぐに覚えて、ペロンも大喜びだ。
俺は良い機会なので、アルフレッドとキンバリーにもボーイとメイドを二体ずつ与えた。
ボーイとメイドも使えるので、キンバリーは満足のようだ。
アルフレッドも色々と仕込んでいるようだ。
そして俺たちと一緒に町に繰り出して、ロナバールや社会の様々な事を説明した。
もちろんそういった知識をクレアスは元々持っているが、単なる知識と実際では違うからだ。
魔法協会にも行って、シルビアさんとエトワールさんにも紹介した。
ただし普通の多少魔法が使える、他のジャベック指揮用魔法ジャベックとしてだ。
それでもやはり二人は驚いていた。
そして最後はいよいよ戦闘訓練だ!
俺とエレノア、ミルキィ、そしてエルフィールも出して、ガルド、ラピーダと共に7人での戦闘だ。
迷宮に入ったクレアスは強かった!
エルフィール同様、あらゆる魔法を使いこなし、攻撃、防御、回復をこなす。
ある程度戦闘になれてきたら次は広い草原に行って、そこでジャベック同士の訓練をさせた。
オリオン型やバルキリー型を対戦相手にしてもクレアスは圧倒的だった。
10体を同時に相手にして、やっと互角なほどだった。
もっともエルフィールはオリオン、バルキリー、セイメイ、ヒミコを4体ずつ、計16体を相手にしてもまだ圧勝だった。
う~む、しかし改めてこの二体は凄いな?
どちらもレベル160を10体以上相手にしても勝てるとは・・・
ちなみにミルキィはオリオン型を三体までなら勝つ事が出来た。
俺は八体だった。
俺とクレアスでは、まだややクレアスが強く、エルフィールには全然勝てなかった。
しかし上には上がいる!
驚く無かれ!
エレノアはエルフィールとクレアス、ガルド、ラピーダ、それに俺とミルキイの6人を同時に相手して、模擬戦闘をしても勝ったのだ!
・・・もう!この人に勝てる人、いや存在なんているの?
そして1週間もすると、エレノアが一安心したように訓練を終了する。
「これ位学習をさせれば大丈夫でしょう。
そろそろクレアスにはジャベックの生産に入らせましょう」
クレアスには屋敷の一部屋が与えられて、そこにクレアスは篭ってジャベックの製作をする事となった。
まるで開かずの部屋みたいだ。
まずは、最初の一体目が出来るのは一年後のお楽しみだ!
そして俺たちがクレアスの訓練を一通り終えた頃、男爵仮面から招待状が送られてきた。
それは男爵仮面のレベル100を祝う宴会の招待状だった。




