180 シャルルの新たなる弟子入り
無事に義務ミッションも終わり、ブリジットとホワイティのおかげで迷宮の店も落ち着いてきて、俺たちに普通の日々が戻ってきた。
今はガルドとラピーダの他に、うちの誰かが監督兼手伝いで店に出れば大丈夫だ。
それも大抵はポリーナとヴェルダがやってくれている。
そんな時、シャルルが俺に聞いてきた。
「そういえば、ロナバールにはゴーレムを扱っている店が凄く集中している場所があるって聞いたんだけど?」
「ああ、ゴーレム街だな」
「一度そこに行ってみたいんだ、いいかな?」
「ああ、全然構わないよ。
じゃあ今度の自由日にでも行くかい?」
「そうだね」
シャルルはこの先、ゴーレム使いとして生きていく身の上だ。
たしかにゴーレム街は行っておいた方が良い。
こうして俺たちはゴーレム街に行く事となった。
ポリーナも後学のために行くようだ。
シャルルはもちろん人目を避けるためにフードを被っている。
初めてゴーレム街に行ったシャルルとポリーナ、そしてミルキィは驚いてる。
「こ、こんな凄い場所だったんだ?」
「凄いです・・・これみんなタロスやジャベックを扱っているお店なのですか?」
「驚きです」
まあ、気持ちはわかる。
俺も初めての時はそうだったからね。
この連中に秋葉原を見せたら面白いだろうなあ・・・
「ああ、そうだよ。まあ、ゆっくり見ていくかい?」
「うん、そうだね」
三人とも初めて見るタロスやジャベックに眼を白黒させているようだ。
中には俺も初めて見る物もあって、感心する。
しばらく見学すると、俺はシャルルに話す。
「ああ、ちょっといいかな?寄って行きたい場所があるから」
「うん」
俺が裏通りの方へ行くと、以前の通り、店の前にはメイリンがいる。
「やあ、メイリン、今日も元気かい?」
「はい、シノブ様も」
「バッカンさんはいるかい?」
「はい、いつも通りに」
「じゃあ、上がらせてもらうよ」
「ええ、どうぞ」
俺たちは階段を上り、部屋に入る。
人数が多いので、ガルドとヴェルダは外において来た。
ちなみにラピーダは魔法食堂で対泥棒の見張り番だ。
「こんにちは、バッカンさん」
「よお!シノブじゃないか!ゴーレム大会以来だな!
元気か?」
「はい、元気ですよ、今日はちょっと様子を見に来たんです」
「そうか、まあ、ゆっくりして行け。
ん?そっちの若いのは?」
「これは僕の友人のフレイジオとポリーナと言います。
特にフレイジオはゴーレム使いになるために修行中なんです」
「ほお、ゴーレム使いにね」
やはりゴーレム使いという言葉に興味を引かれたのか、バッカンさんがフードを被っているシャルルをジロジロと見る。
初見のこの人なら問題はないと思ったのか、シャルルがフードを脱いで挨拶をする。
「はい、この間までノーザンシティにいたのですが、訳あってこちらに来ました。
修行中の友人と言っても、今はシノブの所にいるただの居候です」
そのフレイジオを見て少々驚いた感じでバッカンさんが答える。
「何?ノーザンシティから来た?
ふ~む、俺は昔、お前さんに似た奴を見た事があるよ。
俺の弟子で良い奴だったんだが、もう死んじまったらしくてなあ・・・
あいつは惜しい事をした・・・」
しみじみと話すバッカンさんに俺が驚いて尋ねる。
「そんな人が?」
「ああ、シモンという奴だったんだが、これからという時になあ・・・」
そのバッカンさんの言葉に俺は驚いて聞いた。
「ええっ?シモン?
まさかその人はノーザンシティにいたシモン・クロンハイムさんですか?」
「そうだが?お前さんは知っているのか?」
「ええ、その人がバッカンさんの弟子だったんですか?」
「ああ、一時期ちょいと頼まれてな。
そいつともう一人、預かって俺が鍛えていたんだ」
「もう一人?」
俺が尋ねると、バッカンさんは嫌そうに顔をしかめて答える。
「ああ、デニケンという奴なんだが、こいつは魔法はそこそこ優秀だったが、はっきり言って屑でな!
シモンの奴が庇っていたんだが、結局破門にしたよ。
それ以来、そいつとは会っていない。
まあ、会いたくもないがね」
どうやらバッカンさんはデニケンを相当嫌っている様子だ。
そういえば以前、バッカンさんは俺に師匠を大切にしろと言っていたが、弟子であるデニケンに相当ろくでもない事をされたのだろうか?
どちらにしてもこれならば、シャルルの敵に回る事はないだろう。
俺はエレノアやシャルルと顔を見合わせると、お互いにうなずいてバッカンさんに話し始めた。
「バッカンさん、実は今は訳あって偽名を名乗っていますが、このフレイジオは本当はシャルル・クロンハイムと言って、シモン・クロンハイムさんの息子です」
「何だと?シモンの息子だと!」
「はい、そうです」
驚くバッカンさんにシャルルがうなずいて答える。
「そうだったのか・・・お前、ゴーレム使いになるのが目的だとか言っていたな?」
「はい、ある目的があって・・・」
「ある目的?なんだそりゃ?」
「それは・・・その・・・」
「ひょっとしてデニケンが関係しているんじゃないのか?」
「え?そんなにデニケンの事も御存知なのですか?」
「ああ、さっきも言った通り、二人とも俺の弟子だよ。
あいつが何をしたかも大体察しがつく」
「父とデニケンがあなたの弟子・・・なのですか?」
「ああ、そうだ」
うなずくバッカンさんにシャルルが不思議そうに尋ねる。
「しかし、私は父とデニケンの師はフィルマンさんだと聞いていますが?」
「ああ、わしが一時期フィルマンから預かって二人を仕込んでいた時期があるんだ。
あいつに頼まれてな」
「そうなんですか?」
「ああ、お前の父親とデニケンは、こういうタロスを出していなかったか?」
そう言うとバッカンさんは自分の横にタロスを一体出す。
それは中国の三国志に出てくるような古代中国風の鎧武者だ。
顔には鉄仮面のような物をつけている。
それを見たシャルルが驚く。
「そうです!
父とデニケンは普通の戦闘用タロスとは違うタロスを出していました。
まさにこのタロスです!」
「こりゃわしが考えたオリジナルのタロスだ。
まあ、近いのはわしが生まれた大陸の東の方に行けば出す奴はいるがな。
この国ではあの二人以外には教えておらん。
フィルマンもこのタロスは出した事がないだろう?」
「そういえばそうです。
このタロスを父とデニケン以外の人が出しているのは初めて見ました」
シャルルの言葉にバッカンさんはうなずいて答える。
「ああ、今言った通り、二人にはわしが教えたからな。
ただしさっきも言った通り、デニケンの奴は破門したがな」
「ええ?破門?」
シャルルの問いにバッカンさんは吐き捨てるように話す。
「ああ、あいつは屑だ」
「屑?」
「ああ、あんな奴を弟子に持った俺は不幸だよ。
全くあんな奴の事は話したくもない」
やはりバッカンさんはデニケンに相当いやな目に会わされた様子だ。
それを聞いた俺はバッカンさんに全てを話すことにした。
これなら俺たちの味方になってくれると思ったからだ。
「バッカンさん、実はシャルルのお父さん、シモン氏はデニケンに殺されたようなのです。
しかし証拠はありません。
それでその証拠を探すためと、仇を討つために、シャルルはそれ以上のゴーレム使いになろうとして、今修行している所なんです」
「なるほどな・・・そんなこったろうと思っていたよ」
再びジロジロとシャルルの事を見たバッカンさんが一言つぶやく。
「おい、シモンの息子、お前、もうタロスは出せるのか?」
「は、はい、まだまだ未熟ですが・・・」
「ちょっとタロスを出してみろ」
「え?タロスをですか?」
「ああ、そうだ、一体で構わん」
シャルルに視線を送られた俺がうなずく。
「わかりました」
そう言うとシャルルが呪文を唱えてタロスを出す。
「アニーミ、エスト!」
シャルルの髪の色と同じ、黄色のエレノア式甲冑騎士型戦闘タロスだ。
「ほう?こいつは・・・」
そのタロスをまじまじと見たバッカンさんがうなずきながら、コンコンとタロスを拳で叩いて評価する。
「ふむ、ふむ、丁寧な作りだ。強度も申し分ない。
シノブ、こいつ、お前とそっくりな作りをしているな」
「そりゃ、師匠も同じですからね」
二人ともエレノアに使役物体魔法を習ったのだ。
当然作りも似ていて当然だ。
それを聞いたバッカンさんもうなずいてシャルルに話しかける。
「そうか・・・おい、シモンの息子、お前、俺の弟子にならんか?」
「え?」
「これも何かの縁だ。
だが、勘違いをするな?
わしはお前がシモンの息子だから弟子にするんじゃない。
わしがお前の才能に惚れ込んだからだ。
お前にはシノブに勝るとも劣らん才能が眠っておる。
お前はわしが鍛えれば、必ず父やデニケンを超えるゴーレム使いになれる。
わしが保証してやる。
だからわしの弟子にならんか?」
その突然の誘いに、シャルルはしばし考えるが、やがてうなずいて答える。
「わかりました、バッカンさん、僕をあなたの弟子にしてください」
「そうか!」
シャルルの答えにバッカンさんは嬉しそうだ。
「シャルル・・・」
「シノブ、今までありがとう。
こうして父の師に会えたのも何かの縁だと思う。
僕はこの人の弟子になって、父さんやデニケンを超えて見せるよ」
「ああ、お前ならできると思うよ」
「ええ、そうですね」
俺の言葉にエレノアも同意する。
シャルルはエレノアに向かって深々と頭を下げると礼を言う。
「エレノア先生、短い期間でしたが育てていただいた御恩は忘れません。
ゴーレム魔法は先生に一から鍛えなおしていただきました。
どうか先生の事は、いつまでも師匠として呼ばせてください」
「ええ、もちろん構いませんとも」
こうしてシャルルはバッカン氏の弟子となる事になった。
そして一旦、その日は俺の家に帰り、後日改めてバッカン氏の所に行く事となった。




