107 マギアマッスルさんとの迷宮探索
迷宮を前にしてマギアマッスルさんが俺たちに尋ねる。
「では、迷宮に入りますか?」
「はい」
「どの辺に行きますか?」
「九階でもよろしいですか?」
九階はグリフォンの巣窟だ。
しかしこの人は一級だが、グリフォン位は倒しそうだ。
「はい、私もちょうど白銀等級に向けて九階で訓練をしている所です。
是非私の戦い方を見ていただいて、あなた方に評価をしていただきたいので、望む所です」
「では九階にしましょう」
マギアマッスルさんも乗り気なので、俺たちは九階へ行く事となった。
迷宮の中を昇降機へ進みながら、俺がふと先ほどの事を気になってエレノアに聞いてみる。
「ねえ、さっきの話だけど、エレノアも僕やミルキィにとっては「上げ屋」って事?」
「広い意味ではそうですが、こういった場合は、あまり上げ屋とは言いません。
普通は「訓練士」と言いますね」
「訓練士?」
「はい、上げ屋には大きく分けて2種類あります。
それは「訓練士」と「上昇屋」です」
「訓練士と上昇屋?」
「はい、訓練士というのはレベルを上げながら戦闘訓練や魔法の訓練を同時にして、相手を鍛える事です。
ちょうど私が御主人様やミルキィにやっているようにですね。
一方、上昇屋というのは、文字通り単純にレベルを上昇させるだけ、何の訓練も、魔法を習得させる訳でもありません。
大抵は「上げ屋」と言えば、この上昇屋の方を指します」
「それって意味があるの?」
「はい、貴族社会などではある程度レベルがないと格好がつかないので、そういった者を雇って、短期間でレベルを上げる場合がままあります。
ただし、こういった上昇屋によってレベルが上がった者は、当然ながらレベルに見合った実力にはなりません。
いくらレベルが高くなったとはいえ、技能や戦闘経験が皆無だからです。
例えば、レベル50ほどあったとしても、実際にはレベル20から25程度の魔物を倒せるかどうかという辺りですね」
「なるほど」
さっきのドナルドという男がまさにそういった状態な訳か?
俺たちの話を聞いていたマギアマッスルさんも話しに加わってくる。
「そうですね、例えば組合の初等訓練所や中級訓練所などでも、最後の三日間で訓練士が一気に生徒のレベルを上げるらしいですよ?」
「そうなんですか?」
「ええ、初等訓練所では、1ヶ月の間に様々な訓練や礼儀作法、常識を教えてから、最後の三日間でレベルを上げるそうです。
中級訓練所でも、中級にふさわしい、行動や魔物との戦い方を教えて、やはり同じように最後の三日間で訓練士がレベルを一気に上げるそうです。
もっとも大抵は訓練士と教官は兼任しているそうですが」
「そうなんですか?
でも、なぜ最後の三日間なのですか?
最初にレベルを上げていた方が、迷宮などでも戦い易いと思うのですが?」
そう、迷宮での訓練をするにしても、先にレベルを上げていた方が、迷宮での訓練はし易い。
実際に俺はミルキィにそうしているし、その方が鍛える効率は良いはずだ。
「確かにシノブさんのおっしゃる通りです。
実は昔は逆に最初の三日間でレベル上げをしていたらしいのですが、それをやると生徒の半分近くが、最初の三日間でいなくなってしまったそうなのですよ」
「え?」
「つまり最初の段階で一気にレベルを上げると、生徒たちの中には自分たちは強くなったと勘違いする者たちが続出しましてね。
彼らはもう面倒な事など教わる必要がないと勘違いをして、勝手に訓練所を辞めて迷宮に向かってしまうのですよ。
その結果がどうなるかはお分かりでしょう?」
「なるほど・・・」
一気に自分のレベルが上がるので、それで強くなったと勘違いをして、もはや教わる事などないと、その時点で訓練をやめてしまう訳か?
俺はエレノアに一気にレベルを上げてもらっても、そんな勘違いをした事はなかったし、ミルキィも奴隷な上に性格的にもそんな事はないが、世の中にはそういった連中が多いと言う訳か?
確かにレベルが上がれば強くなると言うのは勘違いではないが、本人の技術力や、魔物に対する知識が上がった訳でもない。
そんな連中が迷宮に行って、自分のレベルと見合わない魔物と戦えば、結果は聞くまでもない事だ。
「ですから、レベルを上げるのは最後の三日間に変更して、それまではみっちりと基本を叩き込む方法に変えたらしいです。
もっともそれでも逃げ出す人間は、数日で逃げ出すらしいですがね。
それで迷宮探索者や魔物狩人になろうとは、情けない事です」
俺もマギアマッスルさんの話はもっともだと思う。
そんな話をしているうちに昇降機の場所に着いたので、俺たちは昇降機に乗って、九階へと向かう。
九階に到着して俺たちが彷徨っていると、早速グリフォンが一頭出てくる。
「ここは一つ私に任せてください。
私も最近やっとグリフォンの効率的な倒し方がわかってきたので、少々練習もしたいし、皆さんの御意見も欲しいので」
「ええ、どうぞ」
この人のグリフォンの効率的な倒し方とやらにも興味があったので、俺は快く譲る。
「では・・・」
俺たちが後ろに下がって見ていると、マギアマッスルさんはグリフォンと戦い始める。
グリフォンは相当素早いが、マギアマッスルさんも中々素早い動きだ。
俺たちほどではないにしても、グリフォン相手には十分通じる動きだ。
そして最初はグリフォンの動きを避けていただけのマギアマッスルさんだったが、グリフォンが空を飛んで攻撃しようと、地を離れると、突然叫んで攻撃を始める。
「今だッ!」
叫ぶと同時にマギアマッスルさんは、宙に浮かんだグリフォンに対して、鋭い飛び蹴りを食らわす!
「ゲピッ!」
首の横に強烈な飛び蹴りを喰らったグリフォンは、変な声を上げて、そのまま墜落する。
墜落したグリフォンにマギアマッスルさんは容赦なく攻撃を始める。
まずは片方の翼に突きを入れて、バキッ!と根元からへし折る。
これでグリフォンは片翼となり、飛べなくなった。
さらにフラフラと立ち上がったグリフォンに、マギアマッスルさんは鉄拳を連打する。
「おおおおおおおおっ!」
筋肉隆々とした肉体から連打されるパンチは凄まじい!
何と言うか、どっかの格闘家が、ヒグマか何かと戦っているのを見ているみたいだ。
この人、純粋な武器無しの肉弾戦なら、俺よりも強いのではないだろうか?
もうこれだけでグリフォンは反撃の機会はなくなりそうだ。
事実、何とか立ち上がったものの、すでにグリフォンはヨロヨロとして虫の息だ。
あと数発もぶちこめば終わりだろう。
俺がそう思った時だ。
「よし!止めだ!」
マギアマッスルさんはそう叫ぶと、いきなりグリフォンの口へ無理やり握りこぶしを突っ込むと、そのまま叫ぶ。
「フラーモッ!」
えっ?ここで火炎呪文?
最下位の火炎呪文とは言え、虫の息になった所で、口の中へ火炎呪文を喰らったらたまらない。
グリフォンも口から火を吹くが、それと強引に口の中へ火炎呪文を喰らうのは別だ。
マギアマッスルさんのフラーモは、グリフォンの喉の奥まで通ったらしく、ボグン!と変な音が口の奥から聞こえてきて、口の中から外へシュウ・・・と煙が出てくる。
それまで暴れていたグリフォンが、おとなしくなって動かなくなる。
さしものグリフォンも息の根が止まったようだ。
マギアマッスルさんが口から拳を抜くと、グリフォンはバタン・・・とその場で倒れて絶命する。
その様子を見ていた俺たちは驚きを隠せない。
効率的なやっつけ方って、これかよ!
俺やミルキィはもちろんの事、エレノアでさえも驚いている様子だ。
しかし倒した当の本人は、清々しいまでの笑顔でこちらに話しかけてくる。
「いかがでしたか?皆さん?」
いや、そんな良い笑顔で意見を求められても・・・
これはどう返事をすれば良いか迷うなあ・・・・
少々考えて、俺たちはそれぞれ返事をする。
「はあ、その・・・非常に個性的で、画期的な対処法だとは思います」
「そうですね、興味深い戦い方です」
「私もこんな倒し方があるのを知って驚きました」
エレノアとミルキィも俺と大差ない意見のようだ。
「そうですか?
いかがですか?
皆さんもこの方法で倒してみては?」
無理!無理!無理!
いや、やろうと思えば出来るかも知れないが、ちょっとやる気にはなれない。
何かもう・・・サーカスの芸当みたいだ。
「いや、ちょっと我々には難しいかと・・・それよりも、何故最後は口の中にフラーモを?
あのまま殴り続けていた方が効率が良かったのでは?」
「確かにそうかも知れません。
しかし魔法使いとしては、最後はやはり魔法で止めを刺したい。
そうではありませんか?」
そうだった・・・この人、自称魔法使いだった・・・
思いっきり忘れていたよ・・・
「そう・・・ですね・・・」
俺としては同意せざるを得なかった。
う~む、この人といい、男爵仮面といい、絶対に良い人なんだけどな~
どこか、論点が違うような気がする・・・
「では皆さんのやり方も是非見せてください」
「はい」
その後に出てきたグリフォンを、俺はアレナック刀で一刀両断し、エレノアは魔法一発で、ミルキィは素早く動いて切り刻む。
さらにその後も何匹か出てきたグリフォンを俺たちが空中戦で倒したり、冷凍して倒したりと、色々な異なる方法で倒すと、それを見たマギアマッスルさんは、俺たちの多彩な攻撃法に感心して話す。
「なるほど、やはり皆さん想像通り、御強い!
しかもこれほどの多彩な攻撃!
特にミルキィさんの素早い動きには驚きました!
私もさらに精進せねばなりませんね!」
「はあ・・」
「今日は皆さんと御一緒できて非常に楽しく、参考にもなりました。
機会があれば、是非また御一緒させてください!」
「はい、そうですね」
まあ、やり方には驚いたけど、この人と迷宮探索を一緒にするのは別にイヤではない。
今後も誘われれば、迷宮探索に限らず、一緒に何かをするのは構わないだろう。
そう思った俺も快く返事をする。
迷宮を出た俺たちは、集団航空魔法でロナバールまで戻り、そこでマギアマッスルさんと挨拶をして別れた。
こうして俺たちのアースフィア広域総合組合の登録初日は、上白銀等級と一級になって、終わったのだった。
ちょっと変わった人との親交も深めて。
ともあれ、早速明日からは色々なミッションに挑戦してみよう!
一体どんなミッションがあるか、オラわくわくすっぞ!




