序章1 出会い
知り合いから序章が長いと指摘されたので、短くしてみました。
以前の序章は別の場所に移しましたので、細かい事が知りたい方は、そちらを御覧ください。
俺はどこかわからない場所にいた。
俺の名は北条忍。
どうも俺は死んだらしい。
おいおい!ちょっと待て!
今日は令和元年5月1日だぞ!
元号が変わって、まだ一日も経っていないのに俺は死んだんかい!
別に新しい元号になったからと言って、これまでと違ったすんばらしい人生を期待していた訳ではないが、いきなり死ぬとはあんまりだ!
あまり記憶が定かではないのだが、死んだという記憶だけは一応ある。
はて?何で死んだんだっけ?
あまり記憶にない所をみると、どうも何かの突然死だったような気がする。
病気でも事故でもない・・・そう言えば記憶の最後に頭が痛くなった気がする。
すると脳溢血か何かで死んだのだろうか?
齢45歳、親も亡くなって天涯孤独だったが、それなりに生活はしていた。
一番の心残りは嫁さんはおろか、彼女すらできなかった事だが、例え時代が平成の世から令和の世に変わっても、こればかりはしょうがない。
ましてや俺はオネショタ好きだったので、若い頃に年上の彼女でも出来ていない限り、どうしようもない。
何しろ年を食っても、外見はおっさんになっていくが、恋愛感覚だけは10代程度のまんま進歩しないアホだったからなあ・・・せめて中学か、高校の頃に年上のお姉さんと出会えれば良かったのになあ・・・まあ、今更悔やんでも仕方がないので今後に生かそう。
うん、前向きだな。
さて、ところで、ここは一体どこだろう?
俺の目の前には宇宙空間のような場所が広がっており、俺はその場所にポツンと浮かんでいる。
死んだのはともかく、ここは一体何なのだろうか?
「やあ、気分はどうかな?」
突然、どこからか声がしたが、俺がキョロキョロと周囲を探しても、どこにも誰も見えない。
「ああ、いくら探しても、私の姿は見えないよ」
「誰?」
俺の質問にその「声」が答える。
「それは中々返事に困る質問だね。
そうだな、君たちの世界の言葉で言えば、一番近い表現をするならば「高次元管理知性体」とでも言えば良いのかな?
まあ、面倒ならもっと簡単に「神」でも良いよ」
「神?」
「まあ、似たような物さ、私はある世界を司っているからね」
本物かどうかはともかく、いきなり神を名乗る者が、自分に話しかけてくるとは驚きだ。
「その神様が何の用です?」
「実は君に頼みがあってね」
「頼み?何の用事です?
ところで姿が見えないのは話しにくいので、こちらの目に見えるように姿を現して話してもらえませんか?」
俺の要望に相手が答える。
「こうかい?」
その声と共に、俺の目の前に、ギリシャ風の賢者のような姿の若い男が現れた。
「まっ、姿なんかどうでもいいんだが、君の私に対するイメージと、私の観点を摺り寄せると、妥協点はこんな感じかな?
固定観念が生まれるので、あまりお勧めはしないけどね」
若い賢者が笑いながら話し続ける。
「実は君に、とある世界、まあ、それが私の司る世界な訳なのだが、そこに転生して欲しいんだ」
「転生?」
「ああ、というか、君には事後承諾で悪いが、もうこれは、ほぼ決定事項なんだ」
「決定事項?どうしてです?」
「私がそう決めたからだ。
ホウジョウ・シノブ君、君はもうその世界に転生するか、元の世界で生まれ変わるか、その2択しかない」
「それだったら元の世界に戻してもらった方が・・・」
いきなり出てきた怪しい自称神だか何だかの話を聞いて、そんな訳のわからない世界などに転生したくはない。
それなら元の世界で十分だ。
しかし、そう返事した俺に自称神様は笑いながら話し続ける。
「まあ、そう結論を急ぎなさんな。
ちょっと聞きたいんだが、そもそも君は以前の世界にそんなに未練があるのかい?」
確かにそう言われると返事に困る。
別に今まで生きてきた人生が順風満帆という訳ではなかったし、思い出しても正直満足した人生という訳ではない。
しかしだからと言って、知りもしない変な世界に転生されるのはごめんだ。
「それは確かに微妙ですが、しかしそれと比べて、これから転生する世界の方が良いと言うこともないわけでしょう?」
しかし、神様とやらは俺の発言をあっさりと否定する。
「いや、そっちの方が君に取って、断然、得なのは間違いがないと思うな」
「なぜです?」
「なぜなら元いた場所に生まれ変わるなら、以前と似たような境遇だが、私の司る世界に転生するならば、君は可能な限りの特典を受けられるからだ」
「特典?可能な限りの?」
何だか、電話で勧誘する怪しげな商売か、宗教みたいな話になってきたぞ?
「つまり、大資産家の子供に生まれたり、非常に高い才能を持って生まれるという事が可能なのさ。
何ならどこかの国の王子でもいい」
「ははあ・・・」
なるほど、いわゆる有利な条件をつけてもらっての異世界転生という奴か?
生きていた時にそれなりにその手の話は読んでいたので、俺がそう考えると、その俺の思考を感じ取ったのか、自称神様がうなずく。
「まあ、そんな感じではあるな」
「転生するのは、どういう世界なんですか?」
少し興味を持った俺が質問をすると、自称神様が即座に答える。
「君の今までいた世界で言えば、いわゆるファンタジーな魔法世界だな」
「つまり剣と魔法の世界という訳ですか?」
なるほど、御約束ってやつか。
「そうだよ」
「しかし魔法なんて物が、本当にある訳がないでしょう?」
「そんな事はないさ。
君たちは自分の世界は3次元空間だと思っているが、実際には君たちの住んでいる場所は、カラビ・ヤウ10次元多様体だからね。
そこでは本当は魔法が使えるんだが、君たちの世界ではほぼ使えない。
しかしこれから転生する世界では魔法が使える。
そういう事だよ」
なんじゃそら?
そんなカルビだかカピバラみたいなもんは知るかい!
しかし、転生に興味はあるので、話を進めよう。
「そこでは俺にも魔法が使えるんですか?」
「それは君の望み次第だね」
「その世界に転生できると?」
「その通りだ」
「どういった形で転生できるのですか?」
「それは君の希望しだいだ。
金持ち、王子、魔法使い、その世界で可能な限り、何でもござれだ。
その世界の法則に反するような事でなければ、およそ大抵の希望は叶えよう」
何でもござれときたもんだ。
こりゃまた随分と大盤振る舞いだ。
普通こういうのは、何か一つか二つ、こちらの希望を聞く程度の筈だが、何でも叶えてくれるとは、神ではなくドラ○もんか?
それにしても突出した能力を一つ二つならともかく、何でも望みをかなえるとはいくら何でも条件が良すぎるだろう?
「何でそんなに気前がいいんです?」
どう考えても自分は何の変哲もないただの人間だ。
それを転生させるのに条件が良すぎるのは怪しい。
「私にとって、君がその世界に転生する事が必要だからさ。
だから私も少々、いや、かなりの無理は聞くつもりでいる」
「必要?私なんて何の変哲もない人間ですよ?
自分で言うのも何ですが、こんな人間程度なら、もっと能力の高い人間がいくらでもいるでしょう?
何で私がその世界に転生する事が必要なんです?」
「その説明を君にするのはかなり難しい。
ま、とにかく私の世界に君が必要と言う事だけわかってくれればいいさ」
何だかよくわからんが、自称神様に色々と聞いてみた所、要は俺がその世界の修正とやらに必要な人材なので、俺が死んだのをこれ幸いと頼みに来たそうだ。
もっとも修正と言っても俺は特にする事はなく、好き勝手にしてよいらしい。
俺の存在自体が、その世界の修正につながるのだそうだ。
そしてただ頼むのは心苦しいので、俺に色々と特典をつけてくれるらしい。
なんだか至れり尽くせりって感じで、怪しすぎるので、俺は逆に転生するデメリットを聞いてみたのだが、それは俺次第という事らしい。
どういう事かと聞いてみたら、どんな能力を持っても、本人の使いようで、幸も不幸も、どうにでもなってしまうからだそうだ。
なるほど、言われてみりゃ納得だ。
猫型ロボットにいつも便利な道具を出してもらっている奴は、大抵それを使いこなせなくて、痛い目に会う事が多いからね。
しかし回答をする前に、俺はその世界の事を知ってみたかったので、まずはその世界の事を書いた本を自称神様に要求して読んで見る事にした。
「ところで、これからの事を考えるにしても、転生する先の事が何もわからないでは、どうしようもないので、出来ればこれから転生する世界の詳しい書物などがあれば嬉しいのですが」
「それは懸命だね、しかし君が望むなら一瞬で、その知識を全て君の脳に刷りこむ事も可能だよ?」
「いえ、一辺にたくさんの知識が入ってくると混乱しそうなので、じっくりと順番に覚えながら考えたいので、字と絵で知識を得たいと思います。
時間も十分あるようなので、できればその世界と、特に魔法に関する知識を得たいので、そのような詳しい本をお願いします」
「うん、わかった」
神様がそういうと、その場に机と椅子が現れて、机の上に分厚いガイドブックのような物が2冊現れた。
一冊には「アースフィア世界の歩き方」もう一冊には「アースフィア世界魔法大全」と書いてある。
「では、良いかい?」
「はい、後は自分で考えてみます」
「うん、では考えが決まったら呼んでほしい」
「はい、ありがとうございます」
俺が素直に礼を言うと、目の前から神様の存在と気配は消えた。
神様もいなくなり、再び宇宙空間に一人ぽつねんと残された俺はイスに座った。
「さて、それじゃまずは、このガイドブックを読んでみるか」
どうやらこの表題になっている「アースフィア」というのが、俺の転生する世界の名称らしい。
魔法の使える世界と言う事だが、実際にはどういう世界なのだろうか?
俺は少々興奮して本を手に取った。