第九話 世界を知る者と知らざる者
「最後に、俺は【ユグドラシル】を攻略できると思うか?」
「それはー、君次第としか言いようがないかなー。でも、それだけの力は与えたはずだよ」
「そうか。なら十分だな。絶対攻略してみせる」
「まだ、私の国からは誰一人踏破者が出てないから私としても頑張ってほしいねー」
まだ、この国からは踏破者はいないのか。ということは踏破者たちは違う国にいるんだな。
「というわけでー、君は一緒に冒険する仲間がほしいか!」
「仲間?どういうことだ?確かにほしいが」
「そうだよねー。やっぱり冒険ってのは仲間がいるからこそだよねー」
フレイア様は腕を組み、大きくうんうんと頷き言葉を続ける。
「実はさー、この世界は一人で冒険するのはちょっとキツいものがあって、私達はソロの冒険を推奨してないの。だからね、一緒に冒険する継続的な仲間をつくるのが大変なくらい、あるいは一人だと冒険が停滞してしまうくらい重い代償や制約を与えた時には、私達が仲間を用意する形で手助けしないといけないの」
「そうか?確かに俺の代償は重いが仲間ができないほどではないと思うし、この力ならソロでも結構いけるんじゃないか?」
このゲームのプレイヤー人口はかなり多いし、俺のような前衛アタッカーをパーティーに入れたい人達は少なからずいると思う。あと、前の経験を活かしてそれなりには戦える自信がある。
「君、ちょいと代償を舐めすぎるよ。十分に条件を満たしてるし、君が思っている以上に多分深刻だよ。例えば、そこらへんでパーティーを組んで相応の敵を倒して仲間がレベルアップする。それに比べ君はどう?レベルアップが遅いどころかそもそも普通の敵なら経験値が入らないだろうね。そのまま続くとどんどんレベルが開いていっておさらばだろうよ」
……言われてみればそうだな。周りと比べ成長が遅いのは致命的だ。
「あと、今の君の防御力がどんなのか分かってないでしょ。同じレベルの魔法使いから杖で1発殴られただけでHPが吹き飛ぶよ。デスペナルティも重いしワンミスで水の泡になる。レベル上がんないよ。そんくらいやばいの自覚したほうがいいよ」
そんなひどい状態だったのか。代償の弱化スキルと俺のスキ振り舐めてたな。当たらなければ問題ない気がするが。
「今の俺がヤバいのはわかった。それで仲間ってどんな奴なんだ?」
「えーと、それは会ってからのお楽しみ!」
結構気になるな。男でも女でもいいが仲良くなりたいものだな。
「ただ!約束してほしいことがあるの。今から会うその子はゲームの外の世界の人じゃなくてこの世界の住む者なの。私の力で作り出した、私の子供みたいな存在。だから、あなた達と違って命は一つだけ。死んだらおしまい。時間がたったら元気に復活、なんてことにはならない」
フレイア様が先ほどの楽しそうな顔とは打って変わり神妙な顔で言う。
「ゲームだから人工知能だからじゃなくて、この世界ではその子だけじゃなくこの世界に存在する全ての者が1人の命ある者として扱ってほしいの。そして、その子達は私達上位者のようにあなた達の世界を詳しく知らない。ここがゲームであること、自分が人工知能であることを知らない。だから、あなた達の世界のことや真実をあまりしゃべらないで。約束できる?」
「ああ、そんなの当たり前だろう。約束する」
悩む暇もない、即決だろ。世の中には実在する人物ではないからどんなに残酷なことを許されると思っている人がいるが俺はそんなことは全く思わない。人と同じ知能をもつなら人工知能であろうと人間だろう。
「よし!分かりきってたことけど君なら信用できるよ!」
「だけど、死んだら終わりなのに俺の冒険に付き合って貰ってもいいのか?それにその子にはその子の生活があるだろう」
「そんなこと心配しなくていいの!世の中は上手いことできてんの!」
そういうことではない気がするのだが、これは教えて貰えないってことだな。諦めるしかない。
「ちなみに私が作った存在だからといってスゲーつよいチート野郎なわけじゃないからね。加護も持ってないし君とおんなじレベル1からのスタート。これから君と一緒に強くなる仲間だよ」
俺も神が作り出したとか言うからクソ強いチート野郎がくるんじゃないかと思っていたが違っていて良かった。一緒に強くなる。これが大事だろ。