第五話 踏破者の願い
「それでは、最後にこの世界の最終目標を伝えてチュートリアルを終了とさせて頂きます」
最後だからなのだろうか、どこからかもの寂しさが感じられる。しかし、トキの表情は笑顔だ。
「……貴方達の目標は大陸の真ん中に存在する【ユグドラシル】の攻略。そして、攻略の暁には私たちがあなたの願いを叶えましょう。もちろん簡単ではなく厳しい道のりになるでしょう。しかし、己の力を信じ、努力し続ければきっと道は開けます」
いい感じに終わりそうだったが、聞き捨てならない言葉があった。
「待て、願いを叶えるって何でもか?」
「えぇ、何でもですよ。巨額の富でも、名声でも、力でも何でもです」
話の腰を折られてちょっと不満そうだが答えてくれた。
「それって、リアルでか?それともここでか?」
「リアルで叶えられるならリアルで、この世界で叶えられるならこのTPOの世界でです。流石に太陽を破壊してくれとか人類滅亡させてくれとかそんな馬鹿げた願いは叶えられませんが、大抵のことはできると思っていてください。あと、叶えることができるのは攻略パーティー1つにつき1個ですからね」
「今までに【ユグドラシル】を踏破したものはいるのか?」
「います。現時点では2つのパーティーが踏破しました」
なっ!意外だ。自分から聞いておいてなんだがてっきり誰もいないと思っていた。
「そいつらが願ったことは教えて貰えるのか?」
「大丈夫ですよ。結構有名なのですが。まず、第一踏破者から順に話します。五感を〈代償〉に絶大な魔力を手に入れた【大賢者】のミミル様。一年前、たった二人で【ユグドラシル】を攻略した方です。彼女はこの世界の住人であり、相棒であるレナ様をリアルに連れ出すことを願いました。そして、同じくレナ様も外の世界を望みました。私たちは最先端の技術を結集し、オリジナルアンドロイドを作り、そこにレナ様の意識を移しました。もちろんここの世界とも行き来できますよ」
言われてみると2か月前くらいにニュースで聞いたことがある気がするな。アンドロイド技術は発展しているが、最先端のオリジナルアンドロイドを1から作るとなると相当な金銭がかかると思うのだが、さすが大企業といったところか。
「次は大規模ギルドである【迅雷騎士団】が半年前【ユグドラシル】を踏破しました。団長である【聖騎士】のアレス様は人々を正しく導き、弱き者を守らればならないという〈制約〉を受ける代わりに彼に従う者の数だけ力を得る〈加護〉を得ました。彼が望んだのはTPO世界内の時間加速でした。彼の願いでリアル時間の2倍の早さでこの世界の時間が流れるようになりました。簡単に言うとこの世界で1日過ごしてもリアルでは12時間しか経っていないということです。しかし、実装には色々課題があり、課題を解決して時間加速が実行始めたのはたった3日前ですね」
始めてVRMMOで時間加速技術が実装されるというのは聞いていたが、踏破者が願ったからだったのか。フルダイブ時の時間加速の技術は数年前から普及し始めているがVRMMOでの実装は難しいとされていたんだっけな。そこもクリアするとはやはり凄い。
「以上ですね。他に何か質問は?」
「願いについてはないんだが、アレスの〈制約〉のことについてちょっと気になったんだが、〈制約〉って破るとどうなるんだ?」
「えーとてすね。〈制約〉を破ると〈加護〉を受けた神から罰を与えられます。罰の大きさは〈加護〉の強さによって変わりますね。軽いものたと〈加護〉の一時使用不可くらいでしょうか。アレス様並みだと〈加護〉が半永久的に使用不可になり金銭を含めた持ち物を全て没収、追加でレベルダウンとスキル剥奪、解けない神の呪いをかけられて魔法が使えなくなったり、弱点が増えたりして、あとはステータス大幅ダウンするくらいでしょうか」
「いや、重い!重すぎねぇか!?」
団長そんなリスク背負って冒険してるのか。【大賢者】もそうだけど【ユグドラシル】攻略するのにそんだけしないと到底無理ってことか。
「確かに重いですね。しかし、それ以外に〈制約〉も〈代償〉ないのにこの世界でトップクラスの力を持っているので破ったらそれくらいが妥当なラインかと」
うーん。言われてみるとそうだな。【大賢者】なんて五感を失ってだもんな。普通に考えてまともじゃねぇぞ。
……もしかして、このゲームのトッププレイヤーってヤバい奴しかいないのでは?
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