第8話「最終兵器《妹》」
加藤を救出した藤原。2人は富士の樹海の脱出を目指すが、戦車の砲弾を受けた加藤が気絶しれしまう。
《戦車乗り》奈緒、《拷問使い》響子、《死霊術師》智恵美。
藤原が仲間を失う一方で、3人のクレイジーな彼女達が集合してしまう。絶体絶命のピンチの中、藤原の運命や如何に。
「さて、何だか騒がしくなったが、取り敢えず加藤を起こすか」
そう言って、響子は愛用の《スタンガン》を加藤の頭蓋に当てる。
忽ち、脳髄が炸裂するような衝撃が走り、ビクンビクンと痙攣しながら加藤は目を覚ました。
「はっ! ここはどこだ!?」
「あ、おはよう加藤くん」
ハッチから顔を出す奈緒が晴れやかに挨拶する。
「お、奈緒。……俺は、一体今まで何をしていたんだ??」
「おい。この男、さっきのショックで記憶が飛んでないか?」
「マジで?」
「加藤ちゃん。今朝の事を覚えてますか?」
「いやー覚えてないな。今朝、妹と買い物してた事なんて全然記憶に無いアバババババ!!」
響子のスタンガンが加藤を痺れさす。
ビクンビクンッ!
「……どうやら、まだ反省が足りないようだな?」
「しかし言わせてもらいますがねぇ響子さん! ただ休日に妹と街に行ったくらいで、何故俺が制裁を受けなければならないのか!?」
「お、わたし達に意見かな?」
「ああ、そう彼奴だ! 沙霧だ! 悪いのは全部妹の沙霧のせいなんだ! 俺は悪くない!!」
「保身のために妹を売るとは」
「清々しいほどの屑だね」
「でも、そんな加藤ちゃんが、ワタクシは嫌いじゃありませんよ?」
……加藤の彼女達は、張本人の加藤に気を取られている。
この隙に、藤原は身を隠すために、近場の草むらに移動をしていた。
その一方で、加藤は自分の無罪を主張していた。
「そうだ。俺のスマホを返してくれ」
「何故だ?」
「妹を呼び出す。俺だけこんな酷い目にあっているのは理不尽だ。妹にも同じ目にあってもらおう」
「なんていう暴論なの」
「でも、一応の当事者ですし、お話くらいは聞いた方が良いかもしれません」
「仕方ないな」
彼女達は、加藤にスマホを返した。
「余計な事をしたら殺す」
「へーい」
加藤は妹の梓に電話を掛けた。
その瞬間、智恵美が加藤の手からスマホを奪った。
「あ」
「はい。ワタクシ、加藤道徳くんの彼女の智恵美と申します。……ええ。道徳くんからお話を伺っています」
智恵美は、加藤に代わって沙霧と通話をし出した。
電話越しから、沙霧の微かな声が聞こえてくる。
『いつもうちの愚兄がお世話になっています。それで、兄は今、智恵美さんの元に居られるのですか?』
「……どう答えましょう?」
「居るって言っておけ」
「2人でベッドの中にいます」
「オイッ!!」
響子は智恵美からスマホをふんだくった。
「ああんっ!」
「……森田響子だ。お前が加藤の妹か?」
『あっ……(察し)。な、なんかすいません。まさかこんな時間に3人でしてるとは思っていなかったもので』
「はぁ!? ……ゴホンッ! いや、さっきの死体……智恵美が言った事は忘れろ。何でもない事だ」
『……そうですよね。家族とはいえ、外野が騒ぐのはマナー違反ですよね。はい』
「違う! そういう意味ではなく、単に勘違いという意味で……!」
響子が焦ったように弁明していると、奈緒がこっそり近づいて響子からスマホを奪った。
「むっ! 何をする!?」
「わたしだけ除け者扱いとかずるい! わたしだって加藤くんの妹さんとお話しするしー!」
そう言って、奈緒は沙霧と通話を始める。
『えっと、奈緒さんってまだ中学生でしたよね? 色々とマズイんじゃあ……』
「もう、ホント加藤くんってば強引でぇ〜〜。今日は朝から何度も求めたれちゃって大変だったのよわたしぃ〜〜?」
「おーい適当なこと言うなよ奈緒。俺はその辺、ちゃんと誠実なんだからな」
『あ、兄の声がしましたね。奈緒さん、代わっていただけますか?』
「おっk〜」
そしてようやく、加藤は妹と通話が出来るようになった。
「やい沙霧。お前の買い物に付き合ったせいで、兄は大変な被害を受けてるぞ。この事態を引き起こした責任を取れ!」
『それはどう考えてもお兄ちゃんの自業自得だと思うなぁ』
「「「うん」」」
3人の彼女達が頷く。
加藤道徳の信頼度は底辺中の底辺。それは、恋人関係にある者でも変わらぬ事実らしい。
『お兄ちゃんってすぐ嘘吐くし、簡単に他の女の人を口説くし』
「滅多なこと言うもんじゃねー。俺は、俺が恋した人間にしか声を掛けない」
『もうわかったから、早く帰ってきてよ。今日はお父さんとお母さんが帰ってくる日なんだからね』
「それが、色々あって富士の樹海にいるんだ。助けにきてくれないか?」
無茶苦茶な事を言い出す加藤兄。
電話越しから、沙霧の溜息が聞こえてくる。
「テメー! 兄を愚弄する気か!?」
『もう切るよ』
「ごめんなさい許してください助けにきてください」
『まあ良いけど……。じゃあ、今から助けに向かうね』
「ああ助かるぜ」
「……いや無理だろう」
「富士の樹海をなんだと思ってるのかな?」
「それに今から向かっては夜になります。沙霧さん、お兄さんは大丈夫です。心配しなくても明日の朝にはゾンビになって帰ってきますか」
「怖い事を言うな。智恵美が言うと冗談に聞こえん」
『ご心配をおかけします。ですが、私なら大丈夫です。実はもう既に近くまで来ているんですよ』
「は? どこに?」
「んっ、すぐ後ろに」
その時。
4人の後ろにあった戦車が、凄まじい轟音と共に真っ二つに切断された。
「おお!?」
戦車の切り口は、レーザーで切断されたかのように真っ白く高熱を帯びており、明らかに人間の手によって為された芸当には見えなかっただろう。
しかし、切断された戦車の後に現れたのは、高校生くらいに見える少女だった。
少女は、水色に輝く光刃の武器、《ライトセイバー》を手にしていた。エネルギーの集合体を放出して扱うその武器は、巨大で頑丈な戦車を物ともせず斬り裂ける。
「さ、沙霧ぃ!」
「さあ、帰るよお兄ちゃん。お父さんとお母さんが待ってるんだから」
その恐ろしい武器を持って参上した謎の少女。
それは、駄目な兄に代わり家族を支えている勤勉なる妹。
《加藤 沙霧》であった。
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