第3話「お高い車」
藤原と伊藤は、加藤を救出するために新たなる助っ人《大路島》を呼び出した。
大路島のツテで移動手段の確保に成功。藤原達は道具を揃えるためにAEON MALLへと向かう。そこで、僅かな資金で最高の装備を手に入れた3人は、いよいよ加藤がいる富士の樹海へと移動するのであった。
「スゲー! 黒塗りのベンツだ。きっとお高いんだろうなぁ〜」
「おい、もうすぐ富士の樹海だ。気を引きしめろよ」
現地に着いた頃には、既に数時間が経過していた。
樹海に少し入ったところで、車はゆっくりと停車する。
「ふぅ、ここが富士の樹海か。どうにも薄気味悪いところだ」
藤原がそう呟くのも無理はなく、富士の樹海は鬱蒼とした木々に覆われ陽の光も差し込まない、人の住む世界から逸脱した雰囲気な場所であった。
不気味な世界を前にした一同は、自然と生唾を飲み込む。
「ここからは車では移動できない。徒歩での移動になるが、2人とも準備はいいか?」
「ガッテン」
「承知の助」
「じゃあ、行くぞ!!」
3人は車を降り、富士の樹海を探検しに行く。
樹海の中へ進んでみると、しばらくして奥側から駆動音のようなものが聞こえてくることに気付いた。
よく聴いてみると、それは《キャタピラ》が動いている音。落ち葉を踏みしめながら巨大な何かが移動しているのだと3人は気付いた。
「……っ! 待つんだ!」
伊藤は、他の2人を制止して、買ってきた安物の双眼鏡で駆動音がした方向を覗いた。
「な、なんて事だ! あれは《戦車》だぞ!」
「「何!?」」
それは目撃した瞬間、3人は自分の目を疑っただろう。
しかし、その物体は間違いなく《戦車》。
「世界で一番高い車は何か?」と聞かれたら、《ベンツ》でも《セダン》でも《フェラーリ》でもなく、まずこの車が名を上げるだろう。
推定金額10億円の殺戮兵器を前にして、男達3人は思わず膠着した。
その時、おもむろに戦車のハッチが開かれ、中から女性が顔を出した。
いや、その女性は、どちらかと言えば《女の子》と呼べる部類の、見た目から察するに中学生くらいの人物だった。
その女の子は、1つ大きなあくびをしてから、のんびりと周囲の景色を見渡した。
「はぁ。加藤くんをお仕置きするために、見張り役を買って出たは良いものの、こんな樹海の奥地じゃ誰も来ないわよね。あ〜暇暇。何か退屈をしのげる物はないかしら?」
女の子は、そんな事を呟きながら戦車の中にあったのであろうシュークリームを頬張っている。
伊藤は、双眼鏡でよくよく女の子と戦車を観察してみる。すると、戦車のフレームに名前が彫られており、そこには《奈緒》と書かれていた。
「おい。戦車に《奈緒》って書いてある。さっき加藤と通話した時に出てきた女の名前だ」
「加藤の彼女の1人か」
「あの子の口ぶりから察するに……間違いない。加藤はこの奥にいる」
「しかし、あの戦車で見張りをしているとなると、簡単に先へ進めないぞ」
「大路島。簡単さぁ、敵にこちらの存在を知られなければ良いんだ」
「そうか、《ほふく前進》!」
そうと決まれば話は早い。3人は落ち葉で全身にコーティングし、ほふく前進で移動を開始する。
多少大回りで、戦車を中心に弧を描くように外側を進む。地面は凹凸が少なく、段差で隠れる事は難しいが、幸いにも奈緒は油断しているようで3人の存在に気付いていない。
(よしよし。この調子で俺達を発見できない距離まで奥へ進むぞ)
(待て藤原! 前方に何か見える。こっちに近づいてくる!)
(何だと!?)
3人に緊張が走る。
前方から駆けて来たのは、1匹の狐だった。
(何だ、狐か。可愛いな)
(オレ、野生の狐を初めて見たよ)
と、3人がほのぼのしていると、奈緒も狐の存在に気付いたようで其方へ振り向いた。
「ん? あれは狐ね。よし、撃ち殺そう」
そう言って奈緒は、ハッチを閉めて操縦席に座り砲身を操る。
不意に、ドオォォォォォォォォンッッ!!!! という爆撃音と共に狐がいた場所が弾け飛んだ。
((きつねええええぇぇええええぇえええぇええええええぇぇぇ!!!!))
伊藤と大路島が小さく叫ぶが、時既に遅し。火薬の匂いが周囲に充満し、残ったのは破壊跡と静寂のみ。先程までいた狐は跡形もなく無くなっていた。
(……! いや待て、藤原もいなくなってるぞ!?)
(あ、あれを見ろ!)
大路島が指した方向には、煤と土埃だらけの状態で丸まっている藤原の姿があった。彼の腕には狐が抱きしめられている。
「ふぅ、危ないところだったぜ。大丈夫か?」
藤原が狐を手放すと、狐はそそくさと樹海の奥へ走り去っていった。
「ふ、シャイな奴だぜ」
「あ、彼奴イケメン過ぎるだろう……」
「藤原、怪我はないか! たくっ、無茶しやがって!」
「問題ないさ。それより奈緒って子はまだこっちに気付いてない様子だ。今のうちに先を急ごう」
「お、おう。そうだな」
藤原の無駄なイケメンっぷりを垣間見た一同は、そのまま樹海の奥へ突き進むのであった。
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