第四話:面倒くさいおっさん
コメントありがとうございます~~~テンション上がったので更新しました~~~
それ以降、おっさんは村に入る前に身なりを整えるようになった。
狩りを終え、村に来るたびに湯浴みをし、髪を結い、麻の服に着替えて村に肉を収める。
身なりを整えたおっちゃんは村の女衆から見ても魅力的に見えたようで、来るたびに女の人に囲まれていた。母ちゃんは遠巻きに見て、いい男じゃんって言ってたけど、女衆に混ざろうとはしなかった。
最初はおっちゃんを訝しげにみていた爺ちゃんばあちゃん連中も「いつもありがとう」と声をかけるようになっていった。
俺以外の村の子供達もおっちゃんを慕うようになり、いつしかおっちゃんが村に来るたびに、多くの村人が歓迎するようになっていった。
元々外部交流が少ない村だ。おっさんの話は、新鮮に聞こえたのだろう。その様子を俺は遠くから見ている。
おっちゃん受け入れ大作戦は成功だ。大成功と言っていい。
俺の好きなおっさんが、皆に好かれている。
なんとなく、良いことをした気分だったし、気分も良かった。
ただ、それ以降俺とおっちゃんが会話をする機会はめっきり減ってしまった。
少しだけ寂しいなあ、と思いもしたが、あんなに気さくなおっちゃんが受け入れられた事実で、胸が温かい気持ちになった。
◆
「おう坊主!……なんだか久しぶりだな」
俺がいつものように暇つぶしがてら散歩していると、不意に後ろから声がかかった。
あれから大体一月程が経過した。俺は積極的におっさんに会いに行かなくなっていた。
村に来れば誰かしらがおっさんを歓迎するし、俺が話し相手になる必要もなくなったからだ。
「おー、おっさん。随分馴染んだね」
「おかげさんでな。モテる男は辛いぜ」
「良かったね」
おっさんは上機嫌だった。
ここ最近立ち寄った村でも同じ活動を続けていたらしいが、ここまで受け入れてくれる村は過去に無かったそうだ。
元々傭兵だった身だ。村との交流とは必要最低限で、基本的には部下任せ。あまり縁が無かったのだそう。
その前は騎士じゃなかったの?という質問野投げてみた。
すると、国を守る立場でさえあるが、基本的には王宮務め。
戦があれば外に出向くが、市井に立ち寄ることはほとんど無かったらしい。
元々生まれは高貴な身分だが、武家の出生と言っていた。
よくわからなかったけど、要するに見た目に気を使う機会が無かった、という結論を出していた。
休みの日は動きやすい服装と剣。普段は鎧を来てればそれでいいわけだから。
「騎士でなくなり、傭兵に堕ちた。あのまま騎士だったら見れないモノも、傭兵として色々見てきたと思ったが、こういう当たり前を知らなかったんだな」
おっさんはしみじみ、と言った具合に感想を述べた。変な大人だなあ、と俺は思った。
おっさんと話していると、不意に多方面から視線を感じる。村人たちだ。おっさんと話したくて、様子を伺っているのだろう。
「ところで、俺と話してていいの?他にもおっちゃんと話したい人いそうだけど」
「ん?なんでそんな……!ワハハハハ!なんだ!嫉妬してんのか!」
おっさんは笑いながら、ワシワシ、と俺の頭を乱暴に撫でる。
「ばか、ちげえよ!」と言いながらも、俺はおっちゃんの手を払えなかった。
もう匂いも無いし、なんだか心地良いとすら思った。
「そーか、そーか。坊主もやっぱり坊主なんだな!」
ただ、なんだかニヤニヤしているおっさんは、素直に気持ち悪いと思った。
「坊主。お礼といっちゃあなんだがよ」
「ん?肉でもくれるの!?」
「はは、もっといいもんさ!」
「まさかお金!?おっさんとうとう貧乏脱却!?」
「バーカ。金よりもっとすげえもんさ」
俺の顔を、一点の曇も無い眼で見つめる。おっさん……。そんなまっすぐな目で俺を見て……。
何をくれるのか知らないけど、すごい良い物らしい。金よりすごいもの……噂に聞く宝石だろうか?
これは、ちゃんとしたものだろう。おっさんの二の句を俺は期待して待っていた。
何をくれるんだろう、おっちゃんは。
「お前さんに俺の剣を教えてやるよ」
「それはいいや」
◆
その後のおっさんは酷かった。
前にもまして面倒くさくなった。
剣に興味の無い俺はおっさんの申し出を断ると、「剣だぞ!?王国騎士団仕込の剣と、武家の一門の流派の剣術だぞ!?」と、何故断るのか理解できない、と言った面持ちで聞いてきた。
そんなこと言われても、興味無いもんは興味ないわけで。そっけなく告げて、その日は帰った。
お金とか肉とか、もっと今嬉しいものなら喜んで受け取るんだけどなあ。
まあでも、そう思ってくれるだけでも嬉しいな。
おっさんは村に十分すぎるほど貢献してくれている。
もしかしたらそのうちいなくなっちゃうかも知れないけど、これ以上は望み過ぎだろう。
おっさんがいる間だけでも、美味しい肉が安く沢山食べられる幸せを噛み締めておかないとな……。
なんてことを思っていたのに。
◆
その次の日。いつもの散歩ルートで村の入口の方に通りかかった。
すると、入口が騒がしいことに気付いた。なんだろう。と思い、ひょこっと顔をだす。
おっさんと村の子供達が、チャンバラをして遊んでいた。
「お!きたな坊主!お前もチャンバラしないか?」
「俺は大丈夫です」
◆
次の日。
俺が村を歩いていると、村唯一の刃物を取り扱う店の前で、おっさんが待ち構えるかのように俺を待っていた。
「よう坊主!奇遇だな。ところで、剣って格好いいよなあ。見ろよこの美しさ。包丁ですら美しい。どうだ、ちょっと持ってみないか?」
「子供に刃物もたせようとするなよ」
◆
次の日。
「きゃー!かっこいい!」
「おう、ありがとうな。でも、見世もんじゃ……お、坊主!いやあ、剣振ってたら村の娘達が見ててよお。モテるなあ剣って」
「楽しそうだなおっさん」
俺が見かけるたびにやたらと剣を振り回し、これみよがしに「剣ってすげえ」「剣はかっこいい」「剣をやってるやつはモテる」と誇示してくるようになったのだ。
きれいになった元汚いおっさんは、面倒くさいおっさんに降格したのであった。
文字数を気にしていた割に今回は短いというアレで申し訳ナッシングトゥマッチ(流行りに乗っかりたいおっさんの図)