第三話:きれいになったおっさん
速攻でストックなくなったぞ^^^^^^^
おっさんをなんとかする。そう決意してから、おっさんの何がダメなのかを整理し始めた。
多分おっさん、狩りに行ったあとそのまま村に来てる。
汗や洗ってないだけの臭さじゃない。コレは多分、血の匂いなんだと思う。生物の臭いがする。
冬だから水浴びはかなり辛い。俺も嫌だ。だから気持ちはわかるんだけど、やっぱり水浴びくらいはしてきてほしいものだ。
と言うか、一緒にいて辛い。
たまに母ちゃんに「あんたすごい変な匂いするから近寄んないで」と言われる。
結構傷つくのだ。おっさんのせいだし、コレは直してもらいたい。
ある日、俺はついに言ってやった。
「おっさんさ」
「おう、どうした」
「めちゃくちゃくさい」
「え?そうか?……ふんふん……いやあ、いつもと同じだけどな」
「いやだからいつもくせえんだよ」
「お前さんめちゃくちゃ口悪いな」
おっさんが呆れたように言う。でも事実としてめちゃくちゃ臭いんだもん。口も悪くなる。
気分が悪いのに楽しく話せるやつがいるんだろうか?
「村の皆も、おっさんの見た目って言うか匂いに引いてるから」
「何?見た目じゃなかったのか。……その割に坊主は何も言わなかったよな?」
「俺はめちゃくちゃ我慢してた。今はもう慣れた。でも、最近ご飯の匂いがよくわからなくなった」
「……そりゃ、お前さん言い過ぎてるだろ……冗談だよな?」
「鼻くそがずっと奥にある感じがする。水浴びしてきてよおっさん」
「うーん、そういや長いことしてねえな。つっても、冬は流石になあ……」
そう、水浴びは積極的に冬にやるものではない。汗も少ないし、毎日浴びなくたって別にいいのだ。
何より寒い。それに尽きる。
お湯だって、鉄の器かなんかで暖めないとできないし、鉄の器は持ち歩くようなものでもない。
外でやるとすぐに冷えてしまうし、浴びてもすぐ寒くなる。なかなか難しい問題なのだ。
が、そこはきちんと考えた。
「と、言うと思って民宿やってる家に聞いてきたよ。宿泊しなくても、お湯だけ出すことも出来るってさ。もしお金が無いなら肉を少し安めに卸してくれてもいいって言ってたよ。」
「何……?そうか。そりゃ助かるな。しかし本当にできた坊主だなあ。わざわざ聞いてくれたのか……いや、でも、そこまでしてくれるんなら、坊主の家で貸してくれたらいいんじゃねえのか?」
「母ちゃんがあんなきたねえおっさん家に入れたくねえって」
「……坊主の母ちゃんっぽいぜ……」
おっさんは少し悲しそうだった。
以降、おっさんは村に来るたびに肉を民宿の家に分けて、湯を借りるようになった。
流石に湯浴みの光景なんか見てないけど、民宿のおばさんいわく「始めてきたときは湯が真っ黒になってて笑ったけど引いた」とのことだった。
マジで汚かったんだなおっさん。
そんなこんなで、匂いの面が改善された。
なんとなく、おっさんから離れる人も減った気がする。
元々美味しい肉を仕入れてくれる人になっているのだ。
きたねえおっさんのイメージはあったかもしれないが、感謝はしていたはず。
俺はいつのまにか、"おっさんを村の人に受け入れさせる"ことが目標になっていた。
俺が暇だったというのが一番の理由だが。
さて、水浴びのお陰で匂いは解決した。次は見た目だ。
またある日、俺はおっさんに聞いた。
「おっさんさ」
「おうどうした」
「めちゃくちゃきたねえ」
「なんだと?坊主に言われてから来るたびに水浴びしてるのにか?」
「いやそういう問題じゃねえ。髪の毛と服だよ」
「あー……前にも言ったけど、冬は寒くてなあ。髪ぃ切っちまうと寒くて」
おっさんは基本的には金を使わない。必要なときに使うために、普段は極力自給自足だ。
狩りに行く都合、服なんかはすぐ血まみれになってしまう。
おっさんの狩りが下手なのか、と思っていたが、単に弓などを使わないから、とのことだ。
元々ハンター専属で生きてきたわけじゃあねえからな、とおっさんは笑っていた。
なので、動きやすいものを一着持っているだけだ。
髪の毛に関しても、防寒具の類が無いので、襟巻代わりに長く伸びたきたねえ髪の毛で誤魔化しているんだと。
戦場巡ってた頃は短かったんだぜ、と笑っていた。よく笑うおっさんだった。
「と、いうと思って今回ご用意したのはこちら」
「坊主、なんだかノリがおかしくなってきてねえか?」
そんなことを言うおっさんは無視して、俺は持ってきたものを出した。
紐である。
「なんだこりゃ?」
「髪結紐だよ。母ちゃんからいらないのもらってきた」
「何だ坊主、俺にカマ野郎になれってか?」
「いや、そうじゃないけど……意外と似合うんじゃね?」
「うええ、嫌だなあそりゃ。今よりマシったって、俺にそっちの趣味はねえぞ……おお、随分満足しなさそうな顔しやがって。一回つけてみりゃわかんだろ」
俺が少しつけろオーラを目から放っていると、おっさんは髪を紐でくくった。
首のあたりで後ろ髪を束ねる。村の女人のような結び方だった。
少し顔が見える。いかついけど、男らしい顔つきだった。
そんな顔のおっさんが女人のような髪型になる。
「きっも。おかめ納豆かよ」
「そらみろ!!おかめがなんだか知らねえけど、やっぱそうなるだろ!!」
「……いや。おっさん。俺は俺は信じる。結び方の問題な気がする。かして」
「お、おう、どうした坊主、何時になく強気じゃねえか。……仕方ねえ、好きなようにやってみろ」
そう言うと結んでいた紐を解いて、俺に手渡してきた。多分、位置が悪い。
俺の描いていたおっさんの像を信じれば、多分……。
「え、おう坊主、前髪もかい?」
「うん、ちょっと集める。よいしょ」
耳あたりの髪の毛を後ろに回す時に、引っ張りすぎてブチブチっといういい音がした。
「ってえ!おい今結構抜けたろ!なあ!」
「だ、大丈夫だって」
「ならいいけどよ……おう、結構たけえ位置で結ぶんだな」
「うん、多分、こうすれば……おお……!」
前髪を片方だけ少し残して垂らす。その他の髪は、つむじの少ししたあたりにまとめる。
後ろ髪はあえて全てまとめないで、一部だけ持ってくる。
イメージとしては、両手で前から髪の毛を後ろに集めたら出来る感じの髪型だ。
マッツ・ミケルセンのイメージで伝わるだろうか。伝わんねえか。
おっさんはヒゲも濃かった。が、顔全体が見えるようになった。
強い男の顔だった。目がギラッとしていて、かっこいい。髪型もなんだか、戦士!って感じだった。
「良い感じになったなおっちゃん」
「ホントかよ、それ?イマイチ信用ならねえなあ」
「見てみる?」
「あん?どうやってだよ」
「こんなものを持ってきました」
俺はカバンから水筒と桶を取り出す。
そして水桶にたぷたぷと水をいれた。
「ほい」
「ああ、水鏡ってこったな。どれ……おお……意外と……」
顎に手を当てて、角度を何度も変えて確認するおっちゃん。俺もまだイケるじゃねえか、と確認するように呟いていた。
ちょっとキモかった。
「驚いたぜ。悪くねえな、こりゃ。カマっぽさもねえ。ちと面倒くさいが、髪ぃ切らねえでもまともに見せれるもんだなあ」
ありがとよ坊主、と俺の頭を撫でるおっちゃん。
なんだかくすぐったかったけど、胸のあたりが暖かかった。
あとは服の問題だけど……。
「おっちゃん、あとは服だけだな。洗おうぜそれ」
「いや、前にも言ったけどな。コレ一着しかねえんだわ。代わりに着るもんもねえし、すぐ汚れちまうから意味ねえんだ。」
「と、いうと思って」
「何だよ坊主!またなんかあんのか!?今日なんかすげえなお前さん!」
「これ、あげる」
そう言って俺は成人用の衣服を手渡した。
「おお・・・いや、ありがてえけどよ。坊主コレ、買ったのか?」
「いや、ウチにあったんだ」
「坊主……お前さん家にあったってことはこたぁ……」
「あ、ちゃんと母ちゃんに確認は取ったよ。ウチじゃ今使わないから好きにしろって」
「お前さん……いや、ありがとよ。大事にする」
何故かおっさんが涙目になった。
麻の服がそんなに嬉しかったのか……。変なおっさんだ。
「いやいいよ別に。盗賊のだし」
「え?」
「いやそれ、こないだしょっぴいた盗賊の荷物から出た服なんだって。なんかジェス……あー、衛士の兄ちゃんが俺のために持ってきたらしいんだけど、今はでかすぎて着れねえからどうしようか、ってなってたんだよね」
「と、盗賊の服ってお前……」
「無いよりマシだろ?」
「いやそうだけどよ……父ちゃんのかと思って焦ったぜ……」
なんか小さい声で言ってるけど、よく聞き取れなかった。
3000字超えてるけどいい?5000字くらいでもいいの?