第二話:臭ぇけどいいおっさん
まだ浮浪者
それから毎日、おっさんを見かけるたびに声をかけていた。
まあ、見た目がきもいので話しかけるのは俺くらいだったので、かわいそうだな、と思ったのも理由にはあったけど。
話すたびに、だんだん俺の中のおっさんへの認識も変わっていった。
昔は騎士だった話とか、王国が無くなって傭兵になった話とか。それで数多の戦場を駆け巡った話とか。今は休養中だとか。
あれ?もしかして実は結構すごいおっさんなんじゃ、と思い始めた。
でも見た目が汚いので半分くらいは嘘なんじゃないかって思ってる。
それでも、村にいたんじゃ聞けないような、英雄伝を読んでもらっているような新しい話ばかりで、おっさんと話すのが楽しみになっていた。
なんだか最初に銅貨をもらってしまったのが申し訳なく感じるくらいには楽しかった。
もう銅貨はないけど、なんか代わりになるものでもあげようか、と俺は考えた。
と入っても、俺は物を持っていないしなあ。とか考えていたら、家にあった、もう誰も使ってない地図があった。
そう言えば、おっちゃんココらへんの地図なんてないよな?
コレをヒトに上げてもいいかと母ちゃんに聞けば、「昔あんたの父ちゃんが作ってた狩場の地図さね。役に立つんじゃない?」と、言っていたのでもらってきたのだった。
地図を持っておっちゃんのところに行った。
おっちゃんは村から少しだけ歩いた森の入口付近に住み着いている。
狩りで多少お金も入ったのか、テントみたいな物を立てていた。
「おう坊主!……お前さん毎日来るけど、父ちゃんと母ちゃんはなんもいわねえのか?」
「母ちゃんは肉持ってきてくれるヒトだから媚び売ってこいって」
「おお……すげえ坊主の母ちゃんっぽいな……親にして子ありってか……」
「父ちゃんは昔ハンターだったらしいけど、俺が生まれる前に狩りでミスって死んだ」
「!……すまねえ、悪いこと聞いたな……」
「いやいいよ、父ちゃんのこと見たこと無いしさ」
「……なあ坊主、俺のこと父ちゃんだと思っても」
「こんなきたねえ父ちゃんいらねえよ」
「お前さんめちゃくちゃ口悪いな」
「あ、そうだ。おっさんに良いもんもってきたんだ」
「ん?」
「昔父ちゃんが作ったココらへんの狩場の地図だって。おっさん、地図持ってないだろ?」
「おお、そうか!ありがてえ。どれ……!へえ……」
おっさんに地図を渡すと、おっさんの目つきが変わった。気がした。まじまじと地図を眺めていたおっさんは、地図を見ながら俺に言う。
「お前さんの父ちゃん、随分優秀なハンターだったんだな。こりゃあすげえや」
「何がすごい?」
「まずこの円、なんだか分かるか?」
「全然」
「獣共の縄張り図だ。縄張りってわかるか?」
「なにそれ」
「そうさな……今オレは村の中にいるよな?」
「そりゃ入り口だし、いるだろ」
「じゃあ、その柵を越えたら?」
「外だろ」
「そうだ。コレも一種の縄張りだな。柵の中は縄張りだ。獣にゃ柵は立てられないが、匂いでここは俺の村だって伝える力があるんだ。」
「へえ、そうなのか」
「でも、人にゃそんなの嗅ぎ分けらんねえから、探り探りで調査するしか無いのさ。この地図にゃ、その縄張りがびしっと明記されてる。つってももう鞍替えしてる縄張りも多いとは思うが、それでも参考になる。こりゃ、時間かかるぜ。こんな精巧な地図は見たことねえや」
「じゃあ、それ読んだら大体何がどこに住んでるのかわかっちゃうんだな。その地図すげえな」
「そう、すげえんだ。コレを作ったお前の父ちゃんがな。誇れよ?」
そう言われて、少しむず痒くなった。
今まで父ちゃんの話なんかきいた事なかったし、父ちゃんがすごい、と言われてもピンと来なかったけど。なんだか、嬉しいな。
「コレで狩場の目星がかなりつけやすくなるな。こんなの、都のギルドでも手に入らねえ……どうしてコレを俺に?」
おっさんがしきりに関心していたが、ふいにそんなことを聞いてきた。俺は少し恥ずかしかったが、素直にいつかの謝礼と伝えた。
おっさんはいつものようにガハハと豪快に笑って「気にすんな。坊主も意外と坊主らしいとこがあるんだな」と言っていた。
「しかし、困ったね。こりゃあ銅貨以上の価値だ。よおし、坊主。お礼にもっと美味しい肉取ってきてやるからな」
「わーい」
そんな感じで、俺とおっさんは仲良くなっていった。
おっさんが狩りから返ってきては少し話す。そんな毎日だった。
おっさんの話はいつも楽しげだ。獣一つ狩るのにもストーリーがある。
「夜の静寂の中、ふと匂いがしたんだ。あ?俺のじゃねえよ!」
「……血だよ。生々しい匂いだ。それが山の上から流れてきた。俺は静かに剣を握った。こういう時はすぐ様子を見に行かないで、一回眼をつぶるんだ。気配ってやつを探るのさ。何ってお前、息遣い、足音、木々をかき分ける音。そういう周りに散らばっている情報を、静かに感じ取るんだよ。」
「そうしたらな、位置がわかるのさ。目星だけどな。で、俺は気配を頼りに山の奥へと進んだ。そうしたらいやがったのさ。アリアッドルフがな。アリアッドルフがなにかって?そうさなあ、……犬っころさ。特大のな。東じゃオオカミっていうらしい」
「そいつはこっちにきたばっかりの頃、俺が片目を切りつけてやったやつでな。そんときはまだここいらの地理なんかわかんねえから、深追いはしなかったんだ。迷っちまうとあぶねえからな。ただ、やつは俺のことを覚えてやがった。」
「アリアッドルフもそうだが、獣ってのは鼻がいい。俺がいるとわかった瞬間、襲い掛かってきた。……え?くせぇのによくきたなじゃねえよ!!寄ってくんだよ!!」
おっちゃんはノリもいいし優しい。失礼な事を言っても笑ってくれる。
そして話がドキドキする。吟遊詩人なんかもできそうだ。
そのうち、こんなに気さくな良いおっさんなのに、村の人に感謝もされないのってもったいないな、と俺は思い始めた。
とは言えおっさんが8割悪い。
まず見た目がきたねえ。
伸び切った髪でも切ればいいと思うのだが、「冬は寒くてなあ」と言っていた。
たまに覗く目は蘭蘭としていて、カッコイイと思う。
基本きたねえけど。
じゃあとりあえずせめて匂いだけでもなんとかしてもらおう。そう思った。
3000文字以内がサクッと読めるよね~~~~わかる~~~~