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後世(ぐぜ)のアクシズ  作者: 白黒闇理
皇紀2615年【照波30年:俗暦1955年】
5/7

4月12日~参陸零大隊の火炎権化~

ひとまずこれで。

 ベオウルフが賓館二階特設会場に着いた段階ではシュンヤ、シリル狙撃兼観測班

だけがまだ合流してなかったようだ。


「ほぉ! 遅かったじゃねえかベオ嬢ちゃん」

「う゛…!!」


―残すはシリル嬢とアリアドネちゃんか?

―アリアドネちゃんはサツキと一緒に戦ってるんだろ? 早く加勢しに行こうぜ?

―久しぶりの血で血を洗う戦場アズーレンシュラークフェルトであるな…!


 もしかするとベオウルフはここ一番男らしいしかめっ面だったろうか。

無理もない。何しろ彼を男らしい? 嫌悪感に包んだ男達の声なのだ。


「む…あのタカノ部隊に入った割には…まるで進歩がない…」

「特訓は特訓でもユミコ嬢と夜なy」

「やめんか馬鹿者! マヤちゃんが見とるじゃろ!!」

「…あー…マヤちゃんは…そうだな…悪い、長老イェルテスター

「夜な夜なって何ですか?」

「こんのシャイセ減らず口ハインリッヒ!!」

「痛てててて! つねるな抓るな! おい千切れるってマジで!?」

「あの…見てるほうが痛いですよ?」

「「本当にすまんかった!!」」


 ベオウルフじゃなくても男なら一度は嫌悪感に包まれる空間がそこにあった。

何しろこの男達、口汚さとは逆に見た目が細マッチョアーリアン美男子なのだ。

口調と銀髪度合いで実年齢を推測しなければならないのはどうかと思うが。


「ふふ…皆さん本当に色んなクロスが似合いそう…」

「そうかぁ?」

「しかし何故にクロスかの…?」

「我らでスカーフにでもして巻くのか…? うぬのハゲ隠しに良いのでは?」

「良い度胸じゃ小僧! この若返ったワシの何処がハゲか言うてみい!!」


 ベオウルフはマヤと彼らから距離を置くゼラ、ユミコ陣営に歩み寄った。


「理解不能です…殲滅許可をタスケテ下さい総指揮官殿…」

「あの~、ゼラ~…? まだ少…准佐は来てませんよ~…?

一体何処を見てるんです~? ……!? ぬぁに見てんだチ○カス共ぉ!!

誰が休んでいいと言ったんだヴォイぃ!?」

「………こっちもかよぅ…」


―ンホォ! ユミコ隊長おかえりなさイエッサー!

―このムチの為だけに鍛えてるううううううう!

―もっとオネガイします! 愛を下サーイ!


「 言 わ れ な く て も く れ て や ん よ ぉ ! ! 」


―ズババババチィィン!!


「「「 イ ー ソ ス ! ! 」」」


「…度し難いわ…スペクターでさえ美しいのに…コスモが微塵も感じられない…」

「宇宙とか遠大だなぁマヤちゃんは」

「これが年の差っちゅうやつかのぅ…」

「良いではないか、マヤ殿は我らが集う小宇宙の一番星ぞ」


 ア"ッチは変態マッチョ、コッチは変異体マッチョ。

どちらにも行きたくないベオウルフは血涙目だったが、それでもまだ彼には

年下だが上官であるゼラが…


「リカイフノウタスケテオヴェールフューラーリカイフノウタスケテオヴェールフューラーリカイフノウタスケテオヴェールフューラー…」


 どうやらこれは千本義手足の指をガリガリかじる生きた屍のようだ。


「こちらヴァイツC! こちらヴァイツC! 誰でもいいから応答願います!

繰り返します! こちらヴァイツC! こちらヴァイツC! 准佐ぁ!

雷姉らいねぇ! 大佐カーチャァ! 誰でもいいから早く来てぇっ!!」


 とうとうベオウルフから男らしさは微塵も消えうせた。インカムに両手を添え

准佐シュンヤ中佐ミカ大佐リーナを呼ぶ様は何処からどう見ても…


<誰がカーチャンだって? 私はまだ乙女だよ…!>


「「「「「「「!?」」」」」」」」


 全員のインカムに流れた音声は、沈黙と平穏? をもたらした。


「た、大佐ァ…?!」

<…あー…その、お前ら。俺だ…>

「准んぶッ?!」「シュンヤ少佐あああああああああ!!」


 シュンヤの通信に答えようとしたベオウルフはゼラに殴り飛ばされ、

今度は間違いなく女の子な仕草で縋り付く様にゼラが通信を再開する。


<…ゼラ? 何で泣いてるんだよ?>

「だってだってだぁぁぁってえええええええ! 理解不能だらけでええええ!

指示待ちが苦行だったんですよおおおお!」

<おいゾハルジート>

「はぁっ…っぐ?!」


 今度は大佐エカテリーナの声がしたのでゼラは条件反射で敬礼を執る。


<聞けば内部班から一切の応答が無いそうじゃないか>

「あ! はい! 後は最終目標を残すのみなのですが!」

「<シシリア中尉はまぁ年と性分からして仕方ないとして…ナキリ少尉が

連絡を怠るのは妙だな>」

「そうなのでsぴぃッ!?」


「「「「「「うわっ!?」」」」」」


 いつの間にかゼラの後ろに通信機の受話器を片手にニンマリ顔のエカテリーナ。


「情けない奴らだねえ。お前達は私と違って魔科兵器適合者だろう?」

「た…大佐のような天然超人がおかしいのです申し訳ありません!!」


 文句から間髪入れないゼラの謝罪につまらなそうな顔をし、

懐から出した葉巻の先を齧って吐き捨て、咥えなおして点火するエカテリーナ。


「あー…大佐ぁ…何で俺らの作戦に首突っ込んできたんですか?」


 出入口の方から罰の悪そうな顔で頭を掻きながらシュンヤとシリル達が現れる。


「あ…! お…オヴェっ!?「准佐ああああああああああ!!」


 准佐シュンヤの姿を見るや否や喜色満面で飛びつかんとしたゼラだったが

今度はベオウルフに弾き飛ばされ、ベオウルフがシュンヤに走り寄る。


「近い近い近い!」

「そんなことよりもぉ!!」

「そんな事とは何だそんな事とは!!」


 傍目には少女に見えるベオウルフだが、男同士の距離感ではないことに

顔を少し青ざめたシュンヤは普通の男として抗議するが、先のゼラ同様

一杯一杯だったベオウルフには通じない。益々距離が…ッ!


「ハイランド少尉。任務中です」

「むがっ!?」


 スッと現れたシリルが改造拳銃シドナイのロングバレル銃身の先を

ベオウルフの口に突っ込んで制止する。


「…すみません准佐…」

「まぁ、しょーがねーよ…それよりも大佐…」

「勘だよ? 亡命を決めたときみたいにねえ?」

「…今に限っては聞きたくなかったっすわ」

「大佐の勘は、ここ一番って時は外れませんからね。やはり天然の超能力者は

魔科学兵器よりも恐ろしいかもしれません」


<…あの…それで…突入は…です?>


 またも此処には居ないはずの人物の声がインカムに流れたので

一部の人物を除いて現場は少しだけ騒然とする。


「ミカ。迷彩を解いてこっちへおいで」


 エカテリーナが誰も居ない方向に手招きすれば、その方向からバチバチと

小さな放電をちらつかせながら完全武装の司雷スィーレイ美華メイファが現れる。


「はぁー…結局参陸零サブロクゼロ大隊の主要将校全員じゃねーか…」


 エカテリーナの方へ向かいつつ頭を片手で軽くクシャクシャ掻いてシュンヤは

自分のタバコを吸おうとしたらその口に吸いさしの葉巻を「何度も言わせるな」と

一言零したエカテリーナからぶち込まれる。


「「間せt…ッ!」」

「あれ、シリぶへぁ!?」


 ゼラとシリルが同時に何かを叫ぼうとしたのだが傍にベオウルフがいたので

普段の彼女シリルらしからぬ声に疑問を呈しようとしたが顔面にゼラの

魔科兵器の義手の拳、鳩尾にシリルの正拳突きを叩き込まれて沈んだため

二人の声は途中でピタリと止まった。ベオウルフの変な声にシュンヤが

目をやった頃には何故かベオウルフが蹲り、何事も無かったかのように

佇むゼラとシリルが居るのでシュンヤは首を傾げるだけだった。


「…さぁて…それじゃあご挨拶して来ようじゃないか」

「……お家に…帰りたい…です」

「はあー…」


…。


 エカテリーナ大佐に促され…俺は最終目標と内部班が激突しているはずの

別室の扉を蹴り開け、立ち直ったベオウルフにゼラとマヤの四人で

前方の空間敵影兼安地確認クリアーリングを行ったのだが…。


「……もぬけの殻だと?」


 しかしながら部屋内は少しばかり散らかっているので、ここで間違いなく

アリアドネとサツキが率いる内部班と最終目標の現物と二人の護衛達が

多少は争ったのであろうことが見て取れる。


「ふぅむ…硝煙の匂いも少し残ってるじゃないか…」

「……血の匂いは…ない…です」


 ミカ中佐はともかく露猟狼犬ボルゾイみたいな嗅覚だなこの女傑大佐ひと…。

まぁ、そんなだから元敵国民でありながらも俺らの大隊司令官なんだろうが…。


「各員、慎重かつ迅速に原因を究明せよ!」

「「「「「ヤー!!」」」」」


 好戦的とはいえやはり前大戦の帰還兵で老兵組合イェルターグルッペ所属の黄金黒十字団。

家宅捜索ガサいれの速度は俺なんかが鼻くそに思える速さだ…魔科兵器適合の副作用で

見た目はメチャクチャ若返ってるが…百戦錬磨の老兵は伊達じゃねえな。


「おーい次席長老ツヴァイェルターやーい」

「…ハインリッヒ特尉…その呼び方止めて欲しいんだが」

「へっへっへッ…! 悪い悪いwアンタ見てると三十路とは思えねぇからなー」


 未だあーだこーだとガサ入れが続く中で俺に話かけて来たのは黄金黒十字団で

一応団長職を務めている男、名前はハインリッヒ・クビツェクで階級は特尉。

妙な階級名なのは一応この人らは表向きは定年引退扱いだからだ。


「…はぁ…で、特尉。進展は?」

「古い割にはウチの帝国ライヒに負けない良い大工仕事だなーってくらいか?」

「あっそう…」

「納得すんなよ上官らしく突っ込めよ准佐殿」

「大三帝国語と皇国語じゃ"アッソウ"の意味が逆に近いんだが」

「ナヌー?! マジで!?」

「マジで」

「マジかー…では、自分捜査に戻ります!」


 参ったな…時間ばっかり過ぎてく…。


「どうにもキナ臭くなってきたじゃないか、シュン?」

「大佐…嬉しそうですね」

「人間だからな…ふふふ…」


 ……やっぱ怖いわこの子。


「准佐…! こちらへ!」


 動きがあったか…? 俺はやって来た隊員と共に部屋の隅っこに歩を進める。

そこには普通にテーブルがあったのだが…いや、待て…


「こいつは…」

「はい…偽装術式です。文章は所謂天使文字とヴェーダ語なのですが…」

「また変なもんが出てきやがったなー…!」


 ひっくり返したテーブルの裏には見事な魔方陣が描かれている。

正直俺にはさっぱりわからんので…


「シリルー!!」

「私なら既に後ろに居ましたが」

「どぉうわ!? 居たのなら一声掛けろ!!」


 大佐ぁ…笑ってんじゃないよ!! っていうかもうちょっと緊張感持とうよ!?


「解読できそうか?」

「少々お待ちください…」


 シリルはメガネを外し、目を閉じ、軽く瞑想して開眼すると…

何時見ても綺麗なんだかおぞましいんだかわからん色合いの瞳に変わっていた。

これがシリルの適合した魔科兵器…"神眼ビールグデルク"…能力は超遠視から

視認文章翻訳に自身の魔力次第で眼を合わせた相手の脳幹を活動停止させたり…と

使用者本人の脳への負担を考えなければかなり恐ろしい能力がある。

そーいや何時だったか大三帝国主導の超位異文明地底都市アガルタ探索計画の

ヒントらしいとか言う謎岩石の碑文解読で眼から血を流しちまったことあったな…。

 あれのせいでこいつメガネっ娘にクラスチェンジしたんだよな…。


「……これは…! 皆さ―」


 少し汗ばんだシリルが俺らに何かを伝えようとした瞬間…


 目の前の景色が一転した。


【Guze no Axis】


 突然の熱気と硫黄の臭い。


 シュンヤたちの足元は今にも地面から溶岩が滲み出そうな亀裂が走る地面。

少し離れたところには溶岩地帯が広がっていた。


「…!? 各員近場の者と小隊を組めッ!!!!」


 シュンヤの号令で各々どうにか小隊を組んで無用な恐慌を未然に防げはしたが…。


「閣下…!」

「全員は…クソッ! 居ないか畜生!!」


 ざっと見回しただけだが、シュンヤ達第一特務小隊以外の面子は陰も形も無い。


「ど、どうなってんのシュンヤ!?」

しゃべんねぇでけろじゃ!!」

「ほえ!?」


 駆け寄って声掛けするマヤにシュンヤは思い切り生まれ故郷の訛りが出てしまい

頭を何度か小突いてひとまず小隊全員を集合させる。


総指揮官殿オヴェールフューラー…ここは一体?」

「ゼラ、大佐居るから小隊指揮官シャッハフューラーな」

「あ…またも失礼を…!」

「ふふふ…早速面白いことになったじゃないかシュン?」

「大佐…」

「ふふふ…悪かったな准佐…さぁ貴様ら、超常の戦場だ。気を引き締めろ」


 エカテリーナはもう別人みたいな真顔だったので、それを見た全員が

己の武器などを改めて確認する。


「……溶岩地帯付近だってのに生温いような暑さだな…」

「結局、此処って何なのかしら」

「地形からして…どうにも私達の知ってる場所じゃなさそうです」

「敵は…? 敵性存在は…?」

「いやゼラさん…今日は随分と張り切ってますね…」

「もう"おやつ抜き"は沢山なんです! それにここならウッカリ殺しても

大丈夫そうなのが出て来てくれそうじゃないですか!」

「うわぁ…」


 息巻くゼラの言葉が呼び水となったのか、やたらと響く唸り声が聞こえてくる。


「噂をすれば何とやら…各員、用意!」


 唸り声のする方からは真っ赤な体毛をした狼のような獣が何体か現れる。


「……はいはい、どう見ても地球上の生物じゃないわな」

「現時点を以って現在地を"魔界"と断定、行動パターンをBからEにせよ!」

「「「ヤー!!」」」


 隊員たちの挨拶を威嚇と受け取ったのか、赤い狼達はこちらに飛び掛ってくる。


「速さは普通の狼と大差が無いようですね」


-ガオォン!!


「ギャイン!?」


 シリルは合体改造狙撃銃ワッカシカリで淀みなく狼の心臓を撃ち抜く。

一番手といえる位置にいた狼が打ち倒されたことで他の狼たちが狼狽する。


「んでもって火器は普通に効くみたいねっ!」


-シュポン! …ドゴォォォォン!!


「キャウン!?!?!?」


 狼狽する赤狼たちにかさずグレネード弾を撃ち込むマヤ。しかし

直撃した狼以外は殆ど傷ついていないようだった。


「貫通力の無い武器では普通の狼の何倍も硬いみたいだけどっとっと!?」


 ベオウルフは素早くナイフに装備を換装するが一体に馬乗りにされかけ、

一瞬他の隊員達をヒヤリとさせるが危なげなく狼の目に刃を深く刺して仕留める。


「ふぅむ…私の愛用銃ステチェッキンでは聊か火力不足かな?」


 そう言いながら赤狼の首を軽く手折たおっているエカテリーナに

ちょっと口が開いてしまうシュンヤ。


「…ホントにあんた唯の超能力者なのか…?」

「准佐…前を見ろ…です」


-バリバリバリッ!


「ギャオオオオン!?」


 シュンヤの死角から飛び掛ってきた赤狼はミカの手から放たれた雷で

見るも無残な黒焦げとなる。


「あ…サーセン中佐…」


 ふっとゼラを見たシュンヤだったが、


「あはははははははははは!! 所詮ケモノはケモノおおおおおおお!!

ライヒの魔科は現世無比いいいいいいい!!!」


-ゴキィ! ブチブチッ!! ブシュ!! グシャッ!! ドブシュウッ!!


 そもそもが乱戦仕様である広域殲滅型魔科兵器:千本義手足タウゼントファウストの適合者である

ゼラを心配するのは無用であったようだ。うっかり飛び掛れば最後、

夥しい数の義手に絡めとられ、ボキボキに圧し折られるか引き千切られるのみ。

千本というのもまた本気を出せば現出可能な数なので、ほんの一瞬の意識の外か

アウトレンジからの長距離攻撃でも無ければ彼女の義手を抜くことはできない。

この赤狼にはそのような攻撃手段はないらしく、可愛そうな気がするくらい

蹂躙されていくので、シュンヤはゼラの様子を伺うのをやめた。


「逃がしませんよ…」


 ゼラの恐るべき攻勢もそうだが、どいつもこいつもそもそもが

人間をやめている仕様の持ち主なので、賢い狼たちの何体かは

この屠殺現場から逃げ出そうと尻尾を巻いて走り出すも…


-シュカカカカカカカン!


 まるで足漕ぎミシンが早く動くような音しかしない発砲音を放つ

これまた特殊用途狙撃銃VSSこと通称ヴィントレスまたは

糸鋸イトノコと呼ばれるオーパーツ狙撃銃の特注品"レプンカムイ"で

逃げ出す狼たちを一匹残らず狩りつくしていく。


「殲滅完了…」

「はーい、乙でーす…」


 いい汗掻いたなぁ…と言いたげな面子を見てシュンヤは乾いた拍手で締めた。


【Guze no Axis】


 イキロスないし習何某の一派が仕掛けたと思われる魔科召喚陣によって

異界に飛ばされたゼラ、シリル、マヤ、ベオウルフ、エカテリーナ、

ミカと俺の七人はとりあえず出てきた魔獣と思われる異生物を

各々の能力や得物でぬっ殺しつつアリアドネとサツキの内部班、

黄金黒十字団やタカノ部隊と合流すべく"魔界"と定めた地を進んでいく。


「つうかシリル…お前レプンカムイをあっさり用いるなよ…」

「仕方の無いことなのです閣下。目標が強化型魔科兵器を使用していれば

レプンカムイでは足止めになるかならないかなのです閣下」

「いや、あのね…9x39mm SP-5, SP-6亜音速弾だってこっちでも

32年は早いオーパーツなのだよ…? つまりコスパとかね?

俺がどんな思いで皇国大本営に予算請求してるかわかってるの?」

「最悪シベリアの懲罰者達を馬車馬が如く使い潰せば良いのですよ閣下」

「人的資源は大切にぃ!!」


 普段は俺の血反吐級にキツい予算経理を女神が如く補助裁定してくれるのだが、

シリルは銃器が絡むと真面目に危険人物…もとい後先考えない

金持ちボンボンみたいな予算請求を通そうとするんだ…。


「良いじゃないかシュン。弾薬は使ってこそだろう?」

「旧ボ連の遊撃隊ヴィソトニキ上がりの台詞じゃねえぞリーナ…大佐ぁ!」


 もうやだ…この人が参陸零大隊の総指揮官なのに…! この人がこんなで

ミカ中佐が普段はポンコツ臭を漂わせる根暗マンサーだから…

俺が結局大隊の予算絡みで血反吐吐きまくりィ!!


「…とはいえ今のところ"魔界"の敵性生物が旧ボ連の戦車隊より弱くて有難いぜ」

「その分であれば内部班の面子も死者は無さそうですが…」

「そればっかりは楽観できねえな…」


 何だかんだで連中は用意周到だったし、状況が状況だから

売り物にするはずだったヤミ魔科兵器も普通に使ってそうだからな…。

あぁタバコの本数が増える増える…!


「おぉ? よう! 次席長老ツヴァイェルター! 生きてやがったかwww!」


 暫く進んでたらオーガとかゴブリンみたいな魔物を蹂躙したらしい

黄金黒十字団やタカノ部隊と合流が叶った。


「だからその呼び方やめろっつうの特尉」

「細けぇなぁ次席ぃ…そういうところがジジくせえんだよぉwww」

「ワシらよりフサフサ黒々した髪の毛生やしとるとは思えんなw」

「ククク…分不相応だなwww」

「うるせーんだよ若作りジジイども!!」


 見た目だけなら年下にしか見えないこいつらの頭髪をコルホーズしてやりたい。


「閣下…およそ半里(約2km)先にてシシリア中尉達を確認しました」


 神眼の能力と狙撃銃のスコープ越しに先を見ていたシリルが報告してくる。


「…! そこから分かることは!?」

「現在も目下戦闘は継続中。行動不能となった他の隊員達をナキリ少尉が守護。

シシリア中尉が独り…第二級ヤミ魔科兵器オルクスの屍兵オーク・ナス

思われる怪人数体と継戦中…」


 マジかよ…第二級も持ってやがったのかよ!? これだから廃課金どもは…!!


「全員全速前進せよ! 不死者ノスフェラトゥ同士の戦闘展開中だ!!」


 急がないとアリアが()()()()()()ちまう!!!


【Guze no Axis】


 肩で息をするアリアドネは、能力で拡張した視界で後ろのサツキ達を見る。


「ふぅ、ふぅ…めんどい…」

「ゴォォォォ!!」


 飛び掛ってきた一体のオーク・ナスの首をね飛ばすが、その衝撃で

黒塗りのクリークスメッサーが腐食して完全に使い物にならなくなったため、

それを牽制に放り投げてソードオフショットガンと軍刀に換装して

別なオーク・ナス二体を迎撃する。


「流石は皇国特務大隊の吸血姫ヴァンピーリア。厄介極まりないですね…」

「おい、イキロス殿? 大丈夫なのか? 残る黒鬼どもが十体を切ったぞ?」


 自国製品…とはいえ旧ボ連のトカレフのコピー品であるノリンコT54を構える

習が脂汗をポタポタ垂らしながら不安そうにイキロスに聞いてくる。


「先も三回は彼女を()()()()()()、商品でしたが

まだまだ手札は残してますのでご安心くださいミスターシィ」

「りょ、料金は値下げしてくれるんだろうな!?」

「状況が状況ですので、彼女を殺しきった後の結果次第で勉強しますよ」


 むしろ迷惑料を上乗せしたいところだが、央華残党の懐事情は世界各地の

華僑たちの胸先三寸(きぶんしだい)なので先ずは支払いの確約が大事である。

 とはいえ苛立ちが隠せなくなったのかイキロスは懐から火焔型土器のような、

それでいて見事な光沢を放つ赤銅色の脚台付大杯ゴブレットを出して握り締める。


「んん!? 何だそれは!?」

「一々うるさ…失礼しました。これは保険ですよ。

本来は本件の目玉商品の一つにするつもりでしたが」

「そうなのかね…!? ではそれを早く…!!」


 いくら相手が魔科適合者おそるべきバケモノとはいえ、疲弊の色を隠せない小娘相手に

これを早々に使うのはイキロスの趣味じゃなかった。


「ぐぎっ…!?」


 オーク・ナスが振るう爪に胸を抉られ、時には頭部を粉砕されるも

見る見るうちに再生し、返す刃でオーク・ナスを切り倒していくアリアドネ。

しかし切り倒されたオーク・ナスもまた切られた箇所をグジュグジュと

気色悪い音に黒いモヤを放ちながら再生して何事も無かったかのように立つ。


「……命が足りない…」


「こんの黒豚どもがぁッ!!」


「…ッ?!」


 拡張した視界で見ればサツキも語調が変わるくらいに余裕が無いようだ。

彼女はアリアドネのような不死能力を持っていないし決定打に欠けるので、

たった一体のオーク・ナス相手を殺しつくせない。


「ふぅむ…このままであれば…行けるかもしれませんn」


「ようやく楽しめそうな相手がいるじゃないか!!」


「「「ッ!?」」」


-ゴキュリチッ!! グドヂュンッ!!


「ブゴボォォォォッ?!」


 その声とオーク・ナスの断末魔にアリアドネとサツキは喜びを隠せず、

イキロス達は動揺を隠せなかった。何しろ乱入してきたエカテリーナが

普通は触っただけでも酷く腐ってしまうオーク・ナスを、

単なる指貫手袋しただけの白い指先が艶かしい素手でオーク・ナスの

ニ、三体の首を引き千切り、一体は心臓を貫き取って握り潰したのだ。

無論エカテリーナにはこれっぽっちも痛痒など無い。


「ば、馬鹿なッ!?」

「おおおいアイヤー!? イキロスぅ!? あの黒鬼は生身で殺せるような

存在だったのかぁッ?!」

「そんなわけが無いでしょう!?」


 乱入者エカテリーナに不意打ちを食らわされまくったオーク・ナスも

人間みたいに動揺するが、そこは流石に化け物であるので

再生しつつエカテリーナを殺そうと動くのだが、


「凍りついたまま再生できるなら是非とも!!」


 今度はエカテリーナは優しくオーク・ナスの頭部を触ると、そこから

あっという間に凍結していく。


「プギイイイイイイ!?」


 単に氷漬けなら直ぐに動けるのだが、凍った先からサラサラと砂のように

分解されていくオーク・ナス達。辛うじて二体は再生したようだったが、


「おやおや…私ごときに殺されてしまうなんて…駄目な禁忌の豚肉さん…

こんな屠殺は面白くないじゃないか…ミカぁ? 代わっておくれ?」

「大佐のそれ…屠ってない…です」

「細かいことは良いんだよぉ?」


 声を掛けられた空間から放電しながら姿を見せるのはミカ。

流石にイキロス達も大きく驚きはしなかったが…


「寒いの…嫌です…か? じゃあ…電気按摩、どうぞ…です!」


-バリバリバリバリバリリリィ!!!


「「「「「ピギアアアアアアアア!?」」」」」


 彼女から放たれたプラズマ放電が残っていたオーク・ナス達だけを正確に包み、

電子レンジで過熱されたアルミの様に発火しながら焼け崩れてゆくのは絶句した。


「ば、馬鹿な…完全武装に近いアルファマス軍一個大隊を痛快な蹂躙劇とともに

危なげなく大勝した冥王屍兵オルクシャマライ小隊が…?! こんな…易々と…!?」

「どうするんだイキロス!? は、早くその杯を…!!」


 習が必死に揺さぶるが、魂が抜けたように反応しないイキロス。


「あーよかったぁ…みんな生きてたわ…」

No…お兄ちゃん。私、六回殺されたよ…?」

「マジか?! おい大丈夫かアリア!?」

「今日までに()()()()が少なかったから、

あと五回くらい殺されてたらダメだったと思うん…にゃっ!?」


 歩み寄るや否や話して直ぐアリアドネを思い切り抱きしめたシュンヤ。


「ごめんな! ごめんなアリア!! ちゃんと沢山喰わせてやれなくて!!!」

「んぐ…お兄ちゃん…痛い…」


「閣下…」

「オヴェールフューラーぁ…?」

「じゅ、准佐…?」

糞がぁクルヴァッ!! シュンヤぁ!! 今度こそ大本営に通報してやるッ!」


「ほうわっちゅあッ!?」


 ついに集合した参陸零大隊主要メンバーらの一部から

非難らしきモノを受けたシュンヤは慌てて佇まいを直す。


「あー…! えっと~ぉ!? うおっほん!! それは兎も角お前ら!!

サツキ達の安否先に確認しろよ!?」

「おいおい次席さんよぉ? そんなの俺らがサッサと終わらせてんぞぉ?」

「やれやれ…ワシらがマヤちゃんを扱うようにできんのかね…?」

「やはり……これだから皇国の稚児趣味ロリペド糞野郎は…」

「ふざくんなド畜生! 部下である前にまだ小学校に通うような子供なんだぞ!?

子供を気遣っただけでそんな扱いは真面目に軍法会議とか出るトコ出るぞ?!

ファ☆キューア☆ホール(ふざけるなバカ野郎)ッ! この野郎ッ!」


 酷い言われ様(とはいえ黄金黒十字団は殆どが笑っている)にシュンヤは

大人気ない表情と暴言を彼らに返している。


「ふざ…ふざけ…どちらがふざけているとおおおおおおおおお!!!」


「あん?」


 イキロスは顔を真っ赤にしてゴブレットを血が出るくらいに握り締める。

するとゴブレットから不気味な色合いの炎が噴出し、イキロスの全身を包んだ。


「ヌウウウウウウアアアアアアアアアアアアア!!!!」


「あ、あれはッ!?」

「ムスペルゴブレット…!? あれの複製品すら持っていたのですか!?」

「あれは…面倒…です」

「え、ちょっと待ってよムスペルの杯はゼロ級の禁忌魔科兵器じゃ?!」


 イキロスは炎に包まれたまま、全身を筋骨隆々に肥大化させ…体長こそ

天を突くとは言いがたいが推定して7メートルは超え全身を炎に包み、

あっという間に火炎巨人エトナンムスペルと言っていい姿に変化した。


「ンヌハハハハハッ!! タギルゥ! アフレルゥ!! 正シク炎ヨォオオオッ!!」


 火炎巨人となったイキロスをミカの極太な紫電が襲うが…


「グファファファファファファ!! ビャアア旨イイ! 素晴ラシイイイイ!!

コノ力サエアレバ我ラガ聖地イェルスアーレム奪還モォオオオオオオ!!」


 最初は仰け反ったのだが、即座に立ち直るかと思えばその紫電を喰らうイキロス。

呼応するかのように全身の炎がより濃く猛々しくなっていく。


「ダメ…です…飲み込まれる一方…です」


 出し尽くしたのか、へたり込むミカをエカテリーナが支えてやる。


「ふぅむ…アレに殺されてやるのは不本意だな…ということで…!」


 エカテリーナはシュンヤの背中を思い切り叩いてイキロスの方へ押しやった。


いででッ…?! ちょおおおをををを!? 大佐ぁ!?」

「任せたぞ。流石にアレはお前にしか対処できん」


 開いた口が塞がらないシュンヤだったが、エカテリーナの表情が

真剣そのものであり、他の面子も固唾を呑んでいたので

仕方なく、そしておっかなびっくりでイキロスに歩み寄るしかなかった。


「何ダァ小僧ォォ?」

「えっと…とりあえず一本…」


 武装さえ解除したシュンヤが差し出したタバコは一瞬で灰になった。


「うわーお…」

「グファファファファ! 本当ニ何ノ変哲モ無イ煙草デハナイカァァ!」

「いや、そりゃーそうでしょ……さよなら俺の新生ノイゲブロンネ…」


 とりあえずシュンヤは背筋を伸ばす。


「まー…その…ここまで来たんだから話あべし!?」


 シュンヤの上半身はイキロスが吐いた火炎弾で爆発四散した。


「「「「「あっ!」」」」」


「グハハハ馬鹿メララララ!! ………………………ン!?!?!?」


 普通ならば、どう見ても死んでいるだろう。しかし……

…彼はそんな程度では死ぬことは無い。


「ソノママ燃エ…違ウ?!」


 シュンヤの吹き飛んだ上半身があった部分から、イキロスのものとは

まるで別な色合いの極彩色の炎が吹き上がる。


「はぁ…いつ見ても…美しいなぁ…」


 エカテリーナの呟きを余所よそにシュンヤの腰あたりから吹き出る極彩色の火炎は

見る見るうちにシュンヤの裸体の上半身を綺麗に形作る。


「何…ダト…!?」


「こいつで二度目だが…ホント、マジでウチの"大長老グローセンイェルター"の魔科能力は

反則ってレベルじゃねえよな」


 半裸だが元通りになったシュンヤは額に手を当てて大きく溜息。


「第零級霊装式魔科兵器ムスペルゴブレット…そのオリジナルモデルである

閣下の魔科能力は全魔科兵器屈指の最強格…」

虹色彩紅炎気プリズマプロミネンスオブ無限旭日アインソフレーシュですね…」

「僕、初めて見たよ…」

「あれが…シュンヤの適合した魔科能力…?」

「被験体4番目…最終被験者にして…唯一生存者…そして…

"シベリア大火事件"の…主犯といえば主犯の…送検上は燃焼死した…

黒炎神傀エトナンスルトルその人…です」

「あの事件って…逆プロパガンダ用の偽装だったんじゃ…?!」


 いつの間にか、絶句していたイキロスに肉薄していたシュンヤ。


「話し合おうって言ったじゃん…」

「ブドハァッ!?」


 体格差を物理法則の彼方へ追いやるが如くシュンヤはイキロスを殴り飛ばす。

そして地面に沈んだイキロスを馬乗りになって殴り続ける。


「んあっ…☆」

「「「「「「……!?」」」」」」


 シュンヤがイキロスを殴り飛ばした辺りでエカテリーナは悶え始めた。

すかさずミカは何処から持ってきたのか耐火シートと思われるシーツを

エカテリーナに被せた。


「21禁…です!」

「ふぇっ!?」

「見てはいけない」

「ちょっ…!? アリアぁ!? そんなコトよりも

オヴェールフューラーの勇姿が見れないいい!!」

「あーはいはいーあーあー何も見えない聞こえなーい」

「いや思いっきり指の隙間から見てるよねマヤちゃん?」

「あらあら…うふふ…もう…シュンヤ准佐ったら☆」

「おかえりなさいサツキ…それはともかく…今の閣下はまるで合衆国の

8ヤード銃のようですね…」

「こっちはこっちで意味が分からないよぅ!?」


 初見ではないらしい女子メンバーの言動に同様を隠せないベオウルフ。


「逮捕者ゼロ死者のみとか外聞悪いんだよ…」


 イキロスはシュンヤを突き飛ばし、思いつく限りの火炎攻撃を撃ち込む。

だが、シュンヤはその攻撃を全て掻き消すように吸収して再び歩み寄らんとする。


「ウソだウソだウソだぁあああ!!」

「こちとらマジで死に掛けてどうにかこうにか適応したってのに…

アッサリ変身しやがったな糞が…」


 俺の絶望を返せとか言いつつイキロスに単なる連打ラッシュを決めるシュンヤ。


「んふぅ…☆ やっぱアタイってば人間ザコキャラね☆」

「「「「「………」」」」」

「イワンビッチ……シャイセ!」


 シーツから顔だけ出したエカテリーナ(?)を見て地面に反吐を吐くゼラ。


「ゼラ、下品。カフェラテでフィカ(北欧式コーヒータイム)しよう?」

「ザッハトルテ持って出直してこいッ!!」

「まんまみーや。今は珈琲味のハイチ☆ウしかない」


 女子メンバー達の様子をチラ見して、シュンヤは面倒くさそうな顔になった。


「あー…もういいや…おーい、火之迦具津血ヒノカグツチやーい…」


 シュンヤがそう零すと、シュンヤの真上から取っ手が拳十個分の長さで

これまた半端ではない長さと太さの緋々色の刀身で虹色に煌く巨大な剣が現れ、

彼の手にズシンと地面に脚がめり込むほどの勢いだったが危なげなく受け止める。


「んほぉ☆! 十拳火之迦具津血とちゅかのひのかぐちゅちキターぁ☆☆☆!!

アタイをゴミのようにメチャクチャにしゅるタヂカラの大マーr…」

「大佐、自重する…です…!」

「あふんッ☆?!」


 流石に目も当てられなくなったミカはいわゆる首トンで

どうしようもないレベルで恍惚とした顔のエカテリーナを気絶させた。


「いつまで見てんだこのビチグソ共ぉ!!」

「「「ンンンホホホォ! イイイーーーーソススス!」」」


「やっぱアンタがウチの大隊ナンバーワンだぜ、グローセンイェルター」

「准…いや、上級大尉がおるからワシらは人間でいられるのじゃな…」

「嬉しいやら…悲しいやら…」


「………」


 ベオウルフは何となく帰ったら有給申請したくなったが、

ギリギリで踏みとどまった。


「……一文字の太刀アインブライヒメッサー一式大火アイングロースファイエル


 極彩色に燃え盛る人型…いや極彩色の炎傀となったシュンヤは、

最初は極彩色に…最後はドス黒い炎に燃え盛り始めた巨大な火炎剣を

完全に戦意喪失しているイキロスに向けて振り下ろす。


「ゲェェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?」


 剣先より迸った地獄の黒炎がイキロスを包み込む。彼の最後の不運は

半端な火炎耐性を持つことだろう。それがなければ、苦しまずに死ねたはずだ。


> > >


 勢いこそ穏やかだが、未だに火達磨と言っていい状態のシュンヤが

参陸零大隊主要メンバーの元へ歩み寄る。


「あー…鎮火してからでいいんだが…アレ持ってる?」


 心なしか幸せそうに気絶しているエカテリーナを包むシートを見て

シュンヤの質問にシリルが答える。


「生憎残りは車の中です」

「うわ……マジか…」


 上から炎は少しずつ弱まり、シュンヤの上半身裸の姿にハッとした

ベオウルフが己の上着を脱いでシュンヤに駆け寄るが…


 それより早くシュンヤの全身の炎が消えたので、彼は大事なところを

両手で必死に隠すしかなかった。


「ほぅ…」

「クルヴァアアア!?」

「あらあら…くふふふ…」

「ふぇぇ!? お、オヴェールフューああああああ!?」

「良い子は…見てはダメ…です」

「少佐早く! これを!!」


 値踏みするように見るアリアドネ。赤い顔して叫んで顔を両手で覆うが

指の隙間からやっぱり見てるマヤ。色々と隠す気配ゼロのサツキに対して

一応は上官として見るんじゃないと命令してみるミカ。

 そしてどうしてお前が顔を赤くするのだベオウルフ。

とりあえずベオウルフが顔を逸らしつつ差し出してきた上着をゲンナリしつつも

引っ手繰るように受け取って前掛けのようにして如何にか股間を隠したシュンヤ。


「いい加減俺の炎にも耐えられるパンツくらいは完成してもいいと思うんだ…」


 何だか消え入りそうな顔で未だノビてるエカテリーナの懐を弄るシュンヤ。


「ちょ!? ってお尻見えてるうううう!? クルヴァアアア!!」

「そりゃそーだ…体格差からして前掛けが限界だもの」


 真面目に相手するのも面倒なシュンヤはエカテリーナの懐から

彼女が愛用する葉巻を取り出し、片側を齧りとって力なく欠片を地面に吐き捨て

空いてる指先を赤熱させて点火する。


「ぽふぁ~~~~……この旨さ…大トロ13貫分は伊達じゃねえなぁ~……」

「…お疲れのところ申し訳ありませんが、逆召喚準備終わりましたよ閣下」

「おう」


 スススッと現れたシリルから着替えの和服を受け取り前掛け状態にした

ベオウルフの上着をそのままに着込むシュンヤ。


「新しい上着は後でちゃんと経費で落とすからちっとばかし勘弁な」

「あ、いや、洗って返していただければ僕は別に」

「そこはハイかヤポールだろうが常識的に考えて」

「え?」

「…えぇー…?」

「おつかれ、お兄ちゃん」

「まだ終わってねーよ…」


 シュンヤは何か寝息すら立ててそうなエカテリーナの頬をペチペチする。


「大佐ー、起きてください大佐ー」


 カッ! と開眼したエカテリーナがシュンヤを押し倒した。


「「「だぁぁッ!?」」」

「Доброе утро, мой Господь Демонов.

(お早う、私の魔王陛下)」


 そしてシュンヤはエカテリーナの胸に抱きしめられる。


「むごーーーーッ!?」

「シャイセェッ!!!」

「ふぁっ!?」

「おー、まんまみーや」

「あらあら…まぁまぁ…くふふふふ…!」

「ん~☆ アタイってばやっぱり人間クソザコねッ☆」

「むがかぐかぁ!?(意味わかんねぇ!?)」

「どうしてくれるんだい? おかげでアタイの×××はグチョグチョだよ?」

「んがむがシャイセぇ!!」

「い、くら…総指揮官大佐といえど…!!」

「お下劣よっ!! 滅茶クルヴァよッ!!」

「えっ~とぉ!? えっとえっとぉ!?」


 どうしていいのか分からなくなってもうどう見ても

狼狽する美少女にしか見えないベオウルフを余所に、


「付き合ってやれん…です」

「ぐらんでまんまみーや。エスプレッソ風味の砂糖みたいな反吐が出る」


 女子メンバーでは冷静なほうであるアリアドネとミカは

シュンヤ達を放置してその場から去っていった。


「とりあえずアタイの口内を蹂躙ジェノサイドしてもらおうかねぇ」

「ギャーッ!? 喰われるゥゥゥゥッ!?」

大佐カーチャぁ!? 流石にそれわぁわわああああ!?!?」


―パパパパパコーン!


 ベオウルフの足元にマシンピストルを撃ち込むエカテリーナ。


「誰が母ちゃんだい? 私はピッチピチの乙女だよ?」


―パパパパパコーン!


 ベオウルフはマシンピストルの音に合わせてダンスをせざるを得ない。


「あわわわわぁ!?」


 そしてシュンヤに馬乗りになりつつもゼラとマヤにも目を光らせている。


「…チィッ!!」

「まー同じ超人…腐っても旧ボ連ヴィソトニキ上がりビッチだものね…!!」

「ほう…? 私の不完全燃焼に付き合ってくれるのかい?」

「全力で相手をしてやるイワン娘ビッチ…!」

「センポ様…私にこのアカい鬼女を殺す力を貸して下さいませ…!!」

「止しなさいっておぜうさん方ぁ!?」

「ふぅ…締まらないですね…」

「良いじゃありませんか。これも我が大隊らしくて…ほ~ら?」


―ったく…これだからウチの大長老さんはよぉ? ブフプッwww

―彼奴がああだからワシらは人間らしくいられるんじゃてwww

―悲しいものよ…HAAAAAHAHAHAHAHAHA!!!


 サツキが指を指す方向では談笑する黄金黒十字団、そして…


―大概にしろやビチグソ共がぁ!!

―オォォゥ! ダァァァイエッサアアアア!!!

―モットオナシャース!

―イーソス! イーソス! ハラショー鞭連打!


「………」


 ずり落ちそうになるメガネを直すシリル。


「天下太平、世はなんとやら…ですわ☆」


―ジゴォォォォォン!

―ズガガガガガガアアアアン!

―シュカカカカカカキイイイイン!!

―ぎょわあああああああ!?

―クッ…イワンの化け物めっ!!

―絶対あの火炎入道イキロスも殺せたわあのビッチ!!

―温い温いぬうううるううういいいいいぞおおおお!! 小娘どもッ!

もっとだ!! もっと私を楽しませろおおおッ!!!


―ドガガガガガバゴオオオオオン!!!


「嫌ああああああああッ!?! また全裸になっちゃうからもうやめてぇっ!!」


 十字団あっちタカノ部隊そっちも酷かったが、こちらはこちらで

割とガチな修羅場展開だったので、とりあえずシリルはシリルで

何か曇っている気がするメガネをしっかり拭くことにした。

次回は翌日に一本投稿出来たらいいな。

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