4月11日~ヤミ魔科兵器取締り~
建国記念日から丁度二ヶ月後にもなるこの日…俺が引率する参陸零大隊の
根幹部隊でもある第一特務小隊メインの任務が遂行される。
遂行場所は陀鋳蓮市。かつて皇国と旧セレブリャ帝国が国力を削って奪い合った
数多くの古傷と血汗と悲しみと楽しみが渦巻く一大繁華街である。
今は亡命シオン系財団と亡命セレブリャ系新興財閥の経済戦争地でもある。
ここを調停できなかったから万洲帝国は独立への地盤を固め、多くの皇国民の
血と汗が滲むこととなり、沢山の皇国精神/物質文明が遺された場所だ。
今現在は既に経済特区で自治区でもあるため、皇国も相当な手続きを踏まねば
観光と商売以外ではおいそれとは足を踏み入れられない。
「……まぁ、俺の親父は観光で遊び呆けてそれなりに儲けて俺の今に至るがね」
「何の話ですか、閣下」
「何でもない」
だから俺はこの地に大した感情は無い。その骸の上に今の俺がある以上、
どっちの感情でも胸のうちにしまっておくべきなのだ。
「情報通りであれば本日〇一四〇です」
「ああ、ゼラ。大丈夫か?」
「……シオンめ…」
「ああ…アリア…」
アリアドネに目配せすれば、アリアはゼラの肩に手をトントン。
「何アリみゃ」
ゼラのほっぺにアリアドネの人差し指が沈む。
「食べごろカマンベール」
「……ぬっころしゅわよ?」
「クッ…ロムルス天然とライヒ顔芸ダブルボケ…プークスクス…!」
「だみゃりにゃしゃいみゃや!」
「ぶっはぉ!? もうダメ限界…!!」
「はいはい…仲がよろしいよろしいですわ♪」
マヤとゼラはまぁ…出身国がそれぞれ分割国と大三帝国なので…前世よろしく
この二国間にも親世代以前から過去色々あったので、仲は良好とはいえない。
何しろマヤは元対大三帝国として選定開発された旧セレブリャ帝国お抱えの
超能力兵であり、ゼラは…親世代が旧セレブリャ帝国と戦った
前大三帝国将校家の出だ。非常に近い時代の戦争ゆえに次世代に色々なモノが
引き継がれるのは無理も無い話であり…故にこの面子だけでも
参陸零大隊を編成するってのは寝耳に熱湯モノだった。
…夏目一佐の言うとおりに魔科兵器適合手術受けてなかったら……うへぇ…!
「お前ら…ヤミ魔科兵器相手でもそのノリで行く気か?」
流石に沈黙してくれる。あとゼラ、何気なくアリアドネの指を折ろうとするな。
まぁアリアドネはそれくらいじゃ表情筋一つも動かさんだろうが。
「後詰の黄金黒十字団も準備完了とのことです」
初期の携帯電話級サイズな通信機を携えたシリルの言葉に俺は気合を入れる。
「了解。さあお前ら…時間まであと20分を切った…具合は良いか?」
俺の言葉にまず、M伍零エクスレンジカスタム…
15インチバレル+ストック付のそれハンドガンじゃなくてハンドライフルだよな
マジでキモいレベルのゴツさに扱うシリルの能力と相まって通称"シドナイ"が
ガチャコンと鳴って合図を皮切りに…サツキは厳選した色からして左右対称な
二本のナギナタ型魔科兵器、"嵐神と焔神"が煌き、アリアドネは
両手からぬるぬる出した匕首と長ドス、背中には見た目には体格不相応な
黒光りの戦刃大剣と腰にはソードオフショットガン…。
何だかマヤとベオウルフのグレネードピストルが可愛らし…おっと、
ベオウルフのは試作品でどう見ても連射式グレネードランチャーだったわ。
ちなみにゼラは魔科兵器が千本義手足あるのでM伍零のオートマモデルのみ。
え、俺? 俺は…特記するのは何も無いよ。現場指揮官だから普通の…
でもねぇか、五四式有坂銃とシングルアクションのフツーのノイエナンブ一丁。
…ごめん、怖いから左右の懐と右手首袖口に合衆国製のレミントンデリンジャー。
丸々七黄金眼の黄金銃? んな即死チート銃あったら安置室の魔科兵器を
全部無断で質に流してでも揃えるわ……待てよ、大三帝国で調整中のレーザー銃…
「閣下は宜しいのですか?」
「おっふ!?」
もう一挺の愛用武器…魔改造有坂×試作SVD合体銃"ワッカシカリ"を
慈しむように優しく磨くシリルの言葉で我に返った。
「おい…それ使わんかもしれんぞ?」
「万が一の逃げイタズを撃ち殺す用です」
「うーんぬ…」
備えあれば憂いなし。前世では骨身に沁みている。だから反論できねぇ。
ヤミ魔科兵器を扱う連中は九割即殺だ。反則アイテムは劣化コピーであっても
氾濫を許せば廃課金共による現実世界オンライン総クソゲー化である。
「…左翼部隊より周辺の人払い完了とのことです」
「時刻は」
「まもなく五分前…」
「了解…では、改めて簡潔に作戦内容を説明する。標的は三つ。今回のヤミ取引の
売り手はミケルメース財団子飼いと噂の新興エリートマフィアXYZ商会。
買い手が旧ボ央華系大手製菓メーカー・チェスモフコンツェルン支援の
地下組織ヲフマナフ一派の赤紙新聞社アエシュマ社。
最終目標は機密保持のため詳細不明だが第一級ヤミ魔科兵器の食べ放題。
商品総額は推定20億円金貨相当…真面目に黄金銃もありそうな…ゲフンゲフン!
俺達が成すべきは二つ。"みんな、やっつけろ"、"ぜんぶ、ぶっこわせ"
運よく鹵獲できた場合は…三大母国から超特別ギガント報酬……やっべ、涎が…」
「「「「「………」」」」」
「……サーセン…」
欲張っちゃいけない…普通に完遂でも給料三ヶ月分なのだ…!
真面目に働いたほうが結局は稼げるし思い切って使えるってもんだってばよ!
「三分前…」
「シオン殺すアカ殺すアカ壊すシオン壊す」
「シオンは止めろ…あいつら全員がアコギに生きてるわけじゃない…!
多くは真面目に神の愛に一般人と同じ次元の幸せを求めて生きてるんだから…!」
「……アカだけ殺すアカだけ壊すシオンは邪魔したら殺して壊す壊して殺す…」
「マルデン駄目ダス。暗酒瑠巣~ビッテン幻想~成分抜けてないダス」
「ぶっふぅ!?」
「そういうボケは最後だアリア」
「…全てが幻想と言えるのは神のみぞ…ですわねぇ」
「乗るなサツキ…あとマヤ…センポさんが泣くぞ」
「……Tak。申し訳ありませんセンポ様…」
「……まあいい…」
「…准佐…一分を切りました…」
「わかった、ベオ…シリルは30秒前からカウントダウン。五秒前から無音」
「ヤー。閣下…………29…28…27…」
「特異事態時の対応点呼」
「乱入者は最低無力化、最悪殺傷」
「第二級以上の魔科兵装者出現時」
「最優先で完全撃破」
―14…13…12…11…
「逃亡者続出の優先度」
「行動力示唆順」
「大規模爆発物確認及び推測時」
「基本即時物理凍結術式施工」
「物理無効時」
「撤退念頭修正」
「悪い時間配分ミスった」
「「「「「臨機応変…ハァ…」」」」」
シリルが指でカウントダウン。
「(5、4、3、2、1…)」
ごめん…。
シリルは最後の一瞬を俺に向けゴーサインを
大三帝国式ファックサインでキメる…ひどい。
俺達は無音を心がけて駆け足で現場へ急行する。
【Guze no Axis】
表向きは互いに初対面であり、招いた関係者は全員身内の私兵で固めた
陀鋳蓮賓館二階中央寄りの特設会場でXYZ商会の一般業界では若き会頭である
イキロス・ドラッヘルターツィーゲンバウアーは、アエシュマの代表取締役社長:習 薺平と
にこやかに握手を交わした。無論習の部下である新聞社員が表向きのネタの為に
それっぽくフラッシュ乱舞である。撮影の度に電球交換が余計に様になる。
「本日の商会式典に合わせた特別取材。誠に有難うございます」
「いえいえ…此方としても光栄の極みです」
フラッシュの熱に段々イラついてきたのか、習は人差し指で部下に合図する。
部下は「いいぞもっとやれ」と判断したのか益々距離を変に詰めてくる。
「…いや、もういい加減撮影費も勿体無いだろ…」
「あっ…」
熱が入りすぎてたのか部下は習の一睨みで本来の目的の為の準備を始める。
「では皆さん。少しだけ私はミスターシィと別室で…」
一応関係者以外立ち入り禁止にしているが、壁の耳を警戒して
イキロスと習は本来の商談の為に会場の横…
内外ガッチガチに警護で固めた別室に入室する。
「はぁー…」
「まぁ、一杯どうぞ」
「酒は控えたい」
「そうですか…ではお茶…は無粋ですね。ジンジャーエールで乾杯しましょう」
「ああ…」
イキロスは相手が央華系ということもあり、立場上は遠路遥々でもある
彼の面子を立てるために少しだけ腰を低くする。
「今後とも御贔屓に」
「こちらこそ…乾杯」
勿論コップを合わせて鳴らす事もしない。高く上げて飲み干すのみ。
しかしここでイキロスは少し間違える。
「別に顔を背けて隠れ呑みはせんでも…」
「あれ?!」
「それは今は無き旧属国式だぞ…」
「こ、これはご無礼を…!」
ビジネスマナーは完璧がモットーなイキロスは少し取り乱す。
罰の悪そうな顔を隠せないイキロスに習は軽く笑って許した。
「こんな事で話を拗らせるのもどうかと思うので、本題に入りますか」
「いやぁ…とんだ勘違いを…」
「いや、もういいから…」
大体の国では謝ったほうが負けみたいな雰囲気があったが、
イキロスの懸念は無意味だった。何しろ習が生きる世界は厳しい縦社会だ。
立場が下ならむしろ謝らないと却って拗れる。商売の世界は
売り手はモノを売ってナンボであり、売れなきゃ損だ。
「…で、主菜なんですが」
「おっと…」
「大丈夫ですよ、盗聴対策はバッチリですから」
「それもそうか…いや…何処かに忍者でもいるかと、ね?」
イキロスは一瞬まさかと思ったが、すぐに軽く笑った。
「まぁここは元々皇国が関わった建物ですし…ね?」
「ぶわはははははは!」
今度は習がやや大きく笑って返す。
「…姿だけ隠してるという線は否めんが」
「まさか…? 一応警護は小さく動き回ってますよ」
談笑はそこそこに、二人はそれぞれ準備していたモノを相手に提示する。
「何分量も質も上々なので…」
「ああ、此方も此方で現金は見せる分だけだ、残りはロンダリングの後…」
「ええ、手筈通り…」
イキロスはサンプルとして提示したヤミ魔科兵器の説明を始める。
【Guze no Axis】
シリルは"神眼"の能力でターゲットのヘッド同士が動いたのを確認し、
受話器を顔に近づける。
「現在まで予定外行動は無し」
<<<<<了解>>>>>
<全体配置完了>
「狙撃陣営良好…閣下…お願いします」
<………殲滅せよ>
―ガシャアアアン!!
予想していても颯爽堂々と窓から突入されれば対応は遅れる。
私兵とはいえ、誰も彼もが特殊部隊所属というわけではないので
行動にはバラつきがある。そしてそれが命取りだ。
―シュココココココン!!
「グエぁッ!?」
「敵しゅぐッ!?」
窓から突入した部隊はアリアドネが先鋒を務める。まずはサイレンサー持ちが
周囲の敵兵と照明を打ち、アリアドネと何人かの斬り込み役が
機関銃持ち残りを適宜斬刺殺。ドサクサ紛れに煙幕をばら撒くのは忘れない。
刃物に切り替えた幾人かと切り結ぶが、それは予定内。
「別しtげっ!?」
「次」
ハンドガン持ちが何人か背中合わせで居たので
それには見た目にそぐわない膂力を以って転がってる人間を
放り投げてストライクさせる。
「クソがあああああっ!」
「バカ止せ味方に!!」
呼びかけ空しく近くに落ちていた機関銃を拾った敵兵が乱射する。
無論これで負傷する参陸零隊員はいない。
【Guze no Axis】
依然、視認範囲と通信機のやり取りで状況を見るシリルの反応を見て
俺は一服点ける。
「閣下、勤務中です」
「…状況変化は」
「内部、特になし」
「…外部は」
「事後報告でした」
「もう掃討したの?」
「はい。ゼラ、マヤ、ベオウルフが暇そうです」
「まぁ、広域殲滅向きだからな」
…火の点きが甘かったので点け直して…っと。
「視界共有よろ」
シリルが俺に触れれば、ものの数秒で俺の視界にゼラたちが出る。
「………あいつら、ガム食ってるじゃねーか」
「ハイチ☆ウです」
「そこじゃねえよ…」
「達成時3粒までオッケーにしてましたので」
「あ、そう…内部はどんな感じだ…」
手を離し、観測に戻るシリル。俺も俺でタバコは携帯灰皿に捻り潰し入れた。
「予備回線D、E、F使うぞ」
「どうぞ」
返事する余裕はあり…っと。
「あー…こちら上大、こちら上大…外組一、応答せよ」
<はい! こちら外組一広域A、ヴァイツAです総指揮官殿…! どうぞ>
ゼラ…いやまぁ良いんだが…
「…現状報告せよ、どうぞ」
<はい! こちら外部警護無力化後現在まで談笑中でした。どうぞ!>
「…あー…まぁ、うん…まあいい…他の外組一、補足はあるか? どうぞ」
「……内部班より、別室突入しました」
「おう、引き続き…いや、ちょっと視界共有」
「別室は見れませんよ…?」
「…あん?」
「准佐…」
…そういや別室って窓ないんだっけ。
「早見参考書忘れた自己責任…しょうがねえな…おい、外組一?」
まぁ…うん………………………どう考えても一悶着やってんなコレ。
今回は俺もシリルの"神眼"能力欲しいわ…。
「あー…もういいそのまま聞け。つい先ほど内部班が別室に突入。
本通信終了外組二こと黄金黒十字団ならびに左翼部隊に集合をかける。
お前達外組一は本通信終了後即賓館2階特設会場現場まで進行せよ。
返事は不要である。繰り返す、本通信終了後即賓館2階
特設会場現場まで進行せよ。返事は不要である」
………やっぱり聞けばよかったかな…? まぁいい…
両令嬢もそこは大丈夫だろう……多分。
「こちら上大、こちら上大…外組二…応答せよ…」
【Guze no Axis】
ゼラはシュンヤの通信が切れるや否や文字通り命令即行した。
「ちょ…! ゼラさん!?」
「…あー…シュンヤの奴…別回線で話してる臭いわ」
「ああもう! マヤちゃんまで!!」
吐き捨てるように言ってからマヤも命令即行する。
男らしくありたいと言う割には置いてけぼりは嫌だと慌てて追従するベオウルフ。
「うあわ…ゼラさんもう変態機動してるし…!」
「まるで真シャイン………クね…」
「え? 新社員…何?」
「男らしく~とか言ってるくせに真ゲ☆ター知らないの!?」
「そうなのぉ?! ねえそれ何処で勉強できるの!?」
「そこらへんのサブカルショップ行けばすぐ見つかるでしょ!!」
「ごめんサブカルって何!?」
「~~ッ! め・ん・ど・く・さ・いッ! 私も! 飛ぶわよ!!」
ベオウルフの二の句も待たずにマヤは空に飛び上がってゼラを追跡し、
そのままベオウルフから高度も距離も離れていく。
「一人にしないでよぉおおお!!」
既に涙目なベオウルフだったが、零れ落ちる手前でその涙を気合の目力で
どうにか零れないよう啜るように吸い上げつつ二人を追った。
【Guze no Axis】
……よし、外組二と左翼…タカノ部隊ももうすぐ俺らのとこに来るし…
シリル含めた狙撃兼観測班も市街戦準備を終えた…。
「んじゃー待ち時間の間…一服しよ」
やっぱ緊張するし…外部はともかく…内部の状況依然不明だからな…
……うあぁ…被害状況は考えたくねえ…でも予想しておかねば…
アリアは…あいつの魔科能力…"限定吸血鬼化"の弱点集中されなきゃ死なないし…
いざとなったら蝙蝠群とか霧とかで大概は撤退できるし…ただ…他の隊員は…
「全員が魔科適合者じゃねえからなぁ…」
<こちら…ヴァイツC…こちらヴァイツC…まもなく外組一進行完了します…>
「っと…! こちら上大…了解した。外組ニ、左翼も○○二○後に合流予定…」
<ヴァイツC了解…ぐすっ>
両令嬢…ベオを放置したのか…。
「シリル」
「外部班二組、途中で左翼と合流したそうです」
「おう…んじゃついでにこっちも早めに動き出すか」
「…?! 准佐…その…」
シリルの携える通信機本体に…通常外線だとぉ!?
次は14時に投下します。