4月3日
いわゆる「武士道から見て反則行為」を導入しての大反撃による終戦から
もうすぐ10年の時が経とうとしている。目下、我が皇国は忙しない。
何しろ外地が沢山あるので戦後復興が血反吐レベルで大変だ。
高砂府がそうでもないのは羨ましい限りだが…残念なことに
俺が引率(偽りではなく)する部隊は半独立から完全独立を成さんとする同盟国、
真華万洲帝国に配属なのだ。
せめて…せめて西部合衆国ヤマト領に…行きたかった…
美味いんだか不味いんだかわからんハンバーガーと…妙な中毒性のあるシェイク…
そして梨果肉色…いや、ポカリ色とでも言うべきケミカルなプリンが…!
まぁ、仕方ない。何しろ俺の引率する隊は…
「………」
「………」
はい、何か赤毛の軍服幼女さんがほぼノーモーションで俺の膝上に座ります。
「…少佐」
「…准佐だ。何度も言わせるな、シシリア中尉」
「Si、お兄ちゃん」
「…だから准佐だって…事案臭いからその呼び方は マ ジ で ヤ メ ロ 」
「No、准佐は発音が面倒」
「…Jを意識するからだ。王国生まれには難しいだろうが…」
「Si、だから"お兄ちゃん"が尊称としても手っ取り早い」
「…勘弁してくれ」
第666種零式魔導霊装機甲大隊…通(痛)称『ビッグマスターオーダー』、
『グロースマイスターオルデン』、『グランデマエストロルドール』、
『大師士機甲兵団』、『死狂侍衆』…etc…
あんまりなので俺は『参陸零大隊』と呼んでいるこの部隊が…
俺の引率する危険者集団である。
「もういいや、朝の巡回行くべ」
「Si、准…お兄ちゃん」
「おいアリア…!」
「私は間違ってない」
「普通逆だろ!!」
ここで押し問答は時間の無駄なので、俺は膝上の幼女の首根っこ掴んで
そのまま駐在所のある万洲帝国帝都、楠錦の街中へ出て行く。
未だ10万人いるか不明だ。何しろ万洲は列強租界上がりの新興国家だし。
「はむ、はむ…」
「………」
「……ん? 准佐も食べりゅ?」
もっちゅもっちゅと移民してきた王国人が焼いたピッツァを食べながら、
赤毛の軍服幼女こと、アリアドネ・シシリア中尉が頼んでもいないのに
俺の朝の巡回に随伴してくる。口の端から白いモッツァレラを垂らすな。
もうちょっと王国人らしく巻いて食えって何度言えばわかるんだ。
場所が前世のアキバならカメラフラッシュの嵐だぞ。
「やっぱり准佐も皇国人…めんどくさい…」
「馬鹿、大三帝国人だったらもっと口煩いわ」
「んー…確かにゼラなら買う前に半ば殺す気で止めてくる…」
「殺す気は盛り過ぎだ」
見た感じはそれこそコスプレ感が否めないパリッとした軍服幼女な見た目の
アリアドネ・シシリア中尉。だが、これでも彼女は参陸零大隊所属七年目…
危険人物にカテゴライズされる一人だ。こちらでは世界の支配国家群が
当たらずとも遠からずなG7の一国にして"大三帝国"と謳われる
三強大国、大羅馬神聖帝王国の出身で、反則行為こと魔科兵器適合者…
国によってノイエアーリアンとかヌォヴァファミリアだコトワリノケツゾクなんて
呼ばれる異能選定者である。
まぁ、そんな選ばれし者だから平和っちゃ平和な我が国のご近所じゃ
触るな危険な存在なんだが…。
「ホントに食べないの?」
「三十路…いや、皇国人ってのは胃がお前ら白系ほど丈夫じゃねえ。
まぁ俺は別に乳糖不耐症ってわけじゃないが…朝からピッツァは…胃袋にクる」
「モッタイナイ…」
そう言って背伸びしつつも、ずいっと俺に差し出していた食いかけピッツァを
もっちゅもっちゅと吸い込むように食べ終えるアリアドネ。こら、指を舐めるな。
ちゃんと拭けみっともない。
「ん……ぅ」
一瞬イヤそうだったが大人しくしているアリアドネを見て、
俺は彼女の精神的成長を実感した。始めて会った頃ならこんな距離感は
首汁ブシャーでも文句は言えなかったのだ。それくらい、当時の彼女の
対人行動は酷かった…俺が魔科適合してなかったら何度死んでたか…。
「ちーっす。やってるか?」
「アイヤ、大将。お早うネ。今日も朝からミシ腹一杯食ってくヨロシ」
もはや定番になってしまった朝の見回りの最後に俺はここの央華飯店
「十万未満でも二十万超の楠錦亭」に寄る。皇国食でもいいんだが
外地で食うとマトモじゃなくてもかなり高くつくので妥協案だ。
「今日の日替わり定食は?」
「ハイヨ、今日は回鍋肉定食ネ。朝イチだから
湯の具もケチらないヨ!」
「じゃあそれで…アリアは…」
「エビチリ。単品で」
「…ってなことなんでエビチリと八宝菜も頼むわ」
「ハイヨ! 十二、三分か三十分待つがヨロシ!」
妙にコテコテな喋り方だが、ここの飯店の主人は央華人ではなく生粋の万洲人。
初めて立ち寄ったときに古い央華人ネタとしてこのコテコテ訛りを教えたら
気に入ったのか多用しまくるようになった。最近は前時代王朝の
華人服のコスプレだの似非カイゼル髭だのとズブズブである。
「何気なく頼んだが…アリア、お前さっきピッツァのLサイズ食ってたよな?」
「もーまんたい。カルパッチォもイケる」
「アイヤー! 少姐将校さん羅馬風刺身食べたいカ?
生じゃなくても良いなら叉焼や北錦ダックで作ってやるヨ?」
「准佐…?」
「残すなよ。んじゃー完さん、なんちゃってカルパッチォも頼むぜ」
「ハイヨ! 余った材料は饅頭にして包んでやるから沢山食ってけヨ!」
…これは昼飯が要らない気がしてきたぞ。
「やはりこちらでしたか、少佐」
「らから俺は准佐ぼわぁ!?」
俺の目の前にはミルクコーヒー色のエrゲフンゲフン! …褐色肌に
金髪碧眼の真面目そうだが局部が無駄に発育した軍服メガネ少女がいた。
「いつから俺を尾行てたんだ? シリル・サウラ中尉?」
「アリアドネがピッツァを買った辺りからです」
「ほとんど最初じゃねーか」
何故その段階で声を掛けんのだ…と、思ったがこいつの専用魔科兵器たる
"神眼"の能力を考えれば職業病なんだろうか。
「それはともかく長門准佐、この後の予定ですが…」
そう言って(何故か)年不相応にも程があるデカい胸の谷間から
凶器にも使えそうな硬さが伺える外装の厚めの手帳を取り出して
俺のスケジュールを半ば勝手に決めていくように諳んじるシリル。
「ハイヨー。回鍋肉定食にエビチリに八宝菜とナンチャッテ…もとい
央華風カルパッチョお待ちどうヨ!」
「…シリル、お前も相伴するか?」
「朝食は済ませております、が、タピオカプリンを頂けますか」
「ハイヨ! スグ持てくるネ! お茶は飲むカ?」
「ジャスミンティーに角砂糖二つで」
「ハイヨ! 毎度アリ!」
済ませたと言いつつ食うのかよシリル。
「甘味は別腹と言うじゃないですか」
…心を読むんじゃねぇ…ん? おい店主、カレーパンとコロッケパンが
何で壁のお品書きに出てんだ? まぁこっちでももう20年くらい前から
アンパンよろしく白銀座を中心に広まってたけどさ。
結局シリルはシリルでタピオカプリンを五人分食ってあまつさえ杏仁豆腐も
二人前お持ち帰りである。
「これはパスタへの冒涜…はむ…許せない…はむ…でも、おいひぃ…悔しい…」
また、アリアドネに至ってはスパゲッティパンをさらに食ってた。一体どこに
これまでの食事が入ってるのだろうか。
「あらぁ…少…准佐。今朝からお楽しみですかぁ?」
「…サツキ…」
軍服風にアレンジしたミニスカ着物に魔科適合者の証ともいえる生物学的には
ありえない青い長髪と…軍人じゃなかったら即御用な長刀だらけの女…
見た目こそ皇国人基準で15かそこらに見えるが、こいつはもうすぐ成人する
年齢で参陸零大隊の構成員の一人である百鬼殺鬼少尉である。
「残念ながらそのような時間は准佐閣下の予定には一切合財ございませんよ」
やめてサウラ中尉。俺、ここのショーパブとか大好きなの(´・ω・`)
通州にいた伯父さんよろしく天国に近づかせてマヂで(´・ω・`)
「ふふ…端から存じておりましてよ?」
「……」
「左様ですか」
ナキリ少尉は実力だけなら大尉どころか佐官も余裕なんだが…
いかんせんこういう性分なのでずっと少尉に甘んじているのである。
まぁ、サツキが俺の補佐官だったらシリルの方が百万倍マシだけどな。
こいつがどうして皇国上位貴族の宗家から放逐されたのか分かる気がしてきた。
まー参陸零大隊じゃ割りとフツーだから今更驚くことじゃねえ。
―ウワー!? アイヤー?! ワッツァファック!? オーマイガー!!
ヴァスデアシャイセー!? ドンガラガッシャーン!!
「………」
「ゼラかな…?」
「可能性は中の上ですね」
「あらあらぁ…もうゼラちゃんってば、朝からお盛んねぇ…?」
皇国陸軍真華万洲帝国帝都支部に戻るには一仕事終えねばならないようだ。
【Guze no Axis】
黒幣(ここでは央華マフィア)の一人である陳允は
生まれて三十四年目にして三度目の心からの後悔をしていた。
「ねぇ~、ねぇ~? 次は誰が小官と遊んでくれるの?」
最初は大三帝国軍人の真似をしてるだけの馬鹿な白系人種の
合衆国観光客だと思っていた。だから世の中の厳しさと大三帝国人への
鬱憤晴らしにと考えてこの銀髪紫眼のアルビノ小娘をヤれるだけヤった後
高値を付けて売り飛ばしてやろうと徒党を組んで襲った…それがまずかった。
いつもの感覚で忌々しい皇国軍人やその走狗といえる万洲憲兵が
現れる前に済ませられるという認識が甘かった。
「ねえねえ今どんな気持ち? ねえ今ドゥンナー気持ち?」
銀髪小娘は…背中から生やした夥しい数のカラクリじみた義手兵装を
クモやサソリ…いやムカデのようにワシャワシャと動かし、薄く笑みを浮かべて
こちらを覗き込むように聞いてくる。
「お次は誰? あなた? それともキミ? もしかしてそこの小父さん?
それともお前? 貴様かなーぁ?」
「ちくしょおおおおおお! 白色鬼子があああああ!!」
陳允はヤケを熾した仲間の行動を見、機を見て敏に生かすべく
脱兎の動きをするも、
「逃げるんじゃあないよぉ。このシャイセ野郎!」
吹っ飛んできた仲間が陳允に激突してその機も無駄に終わった。
「あべし!?」
陳允は人生でも数える程度しか発したことの無い情けない声を上げ、
地面に転がった。見れば他のバカどもも「痛ぇよぉ…」だの「媽媽…」とか
呻いて転がっていた。
「今晩は水炊豚かな…それとも酢豚? うーん…
フツーにシュニッツェル…だったらトンカツ…う~ん…」
相変わらず夥しい義手をワシャワシャ動かしながら今晩のメシのおかずを
気にし始めた銀髪小娘に陳允は気取られまいとネズミの如く
この場から逃げ出そうとして…
「……うわぁ…」
目の前に皇国軍人将校とその一団の足が見えたので、
陳允は取りあえず「た、タスケテ…」と縋り付いた。
【Guze no Axis】
過剰防衛というものは治安維持の憲兵にとって中々に面倒な案件である。
見ろ、多分ゴロツキであろう輩達がゴミのようだ。
「納得! ここは開花丼で手を打とう! デザートは
バウムクーヒェンとザッハトルテにアンパンと冷やし牛乳で!」
ゴロツキどもをゴミのようにブッ飛ばしてブッ散らかして何事も無かったように
食い物の話をブツブツと…まぁーワザとなんだろうが…ちょっと白々しいのが
そろそろ鬱陶しいので…
「小隊指揮官…ゼラ・ゾハルジート中尉…貴官は此処で何をしている」
ギギギギギ…と錆びたブリキのオモチャ人形みたいな動きで唯でさえ
青白い肌を青くして銀髪軍服娘ことゼラ・ゾハルジートは俺を確認して、
ビシリと敬礼。大三帝国式になってしまうのは…出自が出自だから仕方ない。
「お…総指揮官殿…!」
「本来それは我等が大佐に向けて使う言葉だが、状況が状況なので
現場総指揮官として聞こう…小隊指揮官ゾハルジート中尉…
貴官は、ここで、何をしている?」
眼が泳ぎまくりで唇もプルプルしてるが、俺だって上司として
やるときゃやるのだ、嫌でもやらねばならんのだ。
「う…あ…えと…その…私は…」
「即時回答を准佐閣下は求めておりますよ」
いや、別に求めてないんで勝手に代弁しないでねシリル?
「う…うぅぅ…」
本来ならまだ大三帝国本土で学生やってる14歳の女子を泣かせる三十路男…
字面だけだと非常にひどい。が、俺と彼女は兵隊の上司と部下である。
戦地でこんな固着は許されない。だから俺はワルクナーイ!
「う…うぅ…ひどいよぉ少佐ぁ…」
「准佐だ、ゼラ。早く客観的に報告してくれ」
鼻水が…普通だったら大人として何も言わず拭ってやりたい…が!
俺だって締めるところは締めないと…大佐に殺される!!
「…ぐすっ…小官は、小官は准佐と合流すべく行動中、背後より
導眠作用があると思われる薬品を使用した布で口を塞がれそうになったので
専用魔科兵器の千本義手足にて自己防衛のための行動を取り…」
「そこはまあいい。俺が聞きたいのはこの惨状を生み出す必要があったのかと」
「ふぐゅ…! だ、だって非アーリアンの分際で…!」
俺はゼラの頭を軽くチョップした。
「はうっ…!」
「シオン族を刺激する言い方は止せ…同時多発テロほど七面倒臭いモノは無い」
…すがり付いてくるがその実何とかこの場から逃げたそうにしている
央華マフィアらしきボロツキは一旦放置……うむ…死亡者はゼロっぽいようだが…
負傷者多数、器物損害大多数…………うわー…胃がもたれそう…。
「ゼラ」
「はひ…!」
「ゴロツキどもはまぁ俺からフォローしとくとして…器物損壊の賠償金額分で…
お前は当分"おやつ抜き"な?」
「Ohhhhhhh! mein Goooooooooooooooooootttttttttttt!/(〇A〇)\」
魔科適合者な彼女らには精神的な罰しか堪えないので、
こうするしかない。ちなみに罰を完遂するための監視には大体が
内面ノリノリなシリルが即挙手する。
「その辺に転がってる連中は治療の後に職質して順次開放…まぁほぼ全員
抑留地送りだろうが」
「げぇっ!?!」
すがり付いてたゴロツキの顔は印象的だったが、当時の俺には
それどころじゃなかった…だって…報告しないと…大佐に…。