第二話「適性検査」
不特定多数に裸体を見られた。
これがの○太さんのエッチ!レベルの出来事であればまだ可愛いが、俺は堂々と愚息をぶらつかせて闊歩していたので、誰がどう見ても変質者に変わりはないだろう。どうやらその辺りの倫理観は現世と変わらないようだ。
そして現在、橋本さんから検査の為の服を預かり、トイレの個室で服を広げて見たは良いものの、とても素敵なデザインとは言い難いものだった。
光に照らすと容易に透ける薄い全身タイツの様な形状をしており、局部と手足には丸い機械の様なものが付いているので、辛うじて大事な部分は隠せてはいるものの、ほぼ裸と変わらない。
むしろこちらの方が変態度は増している様な……。
裸と変態の二択。どちらも変質者に変わりはないのが悲しいが、ここは止むを得ず検査に必要なタイツを選択する。
早速足を通してみる。
(うおおおお! 何という肌触り!)
地肌にタイツがされるたび快感が電撃となり脳天まで駆け抜けて行く。
(……んっ! ……くっ!)
何度も漏れそうになる喘ぎ声を理性と根性で押しこらえ、どうにか首元まで着ることができたので震えながらどうにか個室から出る。
歩く度に全身を擦れ、その都度快感の波が全身を駆け抜けた。
童貞の俺には分からないがこれがセックスというやつなのか……。
試しにスクワットを一回してみた。
「ん……あはぁぁぁぁ!」
「どうかされました!?」
「いや、大……丈夫でっ! すぅぅっうっ!」
何かが込み上げて出そうになる所を血管が破裂してしまうのではないかというくらい股間に力を入れ抑える。
いかがわしい声に外で待っていた橋本さんに心配され、咄嗟に返事してしまったが、全然大丈夫そうに返事ができなかった。
「本当に大丈夫ですか!? どこか具合でも悪くしましたか!?」
「いえ……本当に大丈夫です。行きましょう」
とても冷静を装い応える。
スクワットしてイきかけた何て口が裂けても言えない。今でも歩く度に身体がかすかにビクつくが橋本さんは気にしていない様子なので助かった。
「レイジさん、何故前屈みなんですか? お腹冷やしてしまいましたか?」
「いえ、お気になさらず」
男同士とはいえ、勃起した愚息を見られるのは恥ずかしいのである。
男とはそういうものだ。
――
快感に何度も腰が砕けそうになりながらも検査室とやらへたどり着き、現世でいうMRIの様な機械に言われるがまま仰向けに寝そべる。
橋本さんは別室へ移動し、操作盤を弄りながら部屋が見渡せる大きなガラス窓越しにマイクで指示をするようだ。
「これからその機械で適性を調べます。機械が自動で動いて全身を調べますので、目を瞑ってリラックスしていてください。すぐに終わります」
橋本さんは俺が目を瞑ったのを確認すると機械を動かし始める。
機械が俺の周りを動く気配を暫く感じていると、微かに橋本さんの声が聞こえてくる。
「なるほど……」
「ふむ……」
「この熱量は……!」
「微かに膨張して……いや、違うな」
未だ収まらない愚息をマジマジと見られているようで気恥ずかしさを感じるが、微かどころか限界まで膨張している為、きっと別のものに違いない。
仮にそれが愚息に対してであれば悲しみを感じざるを得ないが……。
――
「……さん、レイジさん、起きてください」
すぐに終わるとは言ったものの、風呂に入り寝る寸前で転移してきた為か、いつの間にか寝てしまったようだ。起き上がりガラス窓に向き合う形で座り直す。
「あ、すみません。寝てしまいました」
「お疲れ様でした。検査が終わりましたので奥手の更衣室に服を用意しましたので着替えていただけますか?」
ガラス越しに橋本さんが僕に声をかける。その横には背の高い金髪のお姉さんが腰に手を当てこちらを見ながら微かに口角を上げている。
まるで悪人が何か企んでいるような口元が気になるが、身長の割には童顔でとても可愛らしい。身長が低ければお兄ちゃんと呼ばせてひたすら抱っこや逆肩車でもしてクンクンしたいものだ。いや、逆肩車でクンクンしたらクンクンどころかクニクニしてしまうだろう。いや、欲張りな俺はきっと両方してしまうだろう。名付けてクンニクンニしてしまうだろう。
ん?……なんだか卑猥な言葉に聞こえてきたぞ。
「何ボーッとしているのだ! 早く更衣室で着替えてその股で固くなっているものをしまえ! 話に聞いた通りの変態だなお前は!」
金髪お姉さんが少し、いやみるみる内に耳まで真っ赤にしながら怒鳴る。そんな釘宮理恵そっくりな声でで罵られるのも何かのご褒美としか思えませんよ。
お姉さんをあえてスルーしながら橋本さんに告げる。
「橋本さん、俺どれくらい寝てました?」
「検査が一時間程だったので……、二時間くらいでしょうかね」
思ったより深く寝に入っていたようだ。
「どなたかは存じ上げませんが、お姉さん。これは朝立ちといいます。男の子の生理現象です」
お姉さんの瞳をジッと見つめながら整然とした態度で応える。
「ーーっ! うるさいうるさい! さっさと隠すなり着替えるかなりして隠せ! うわぁ! 立ち上がって見せなくていいからっ!」
「いえ、更衣室に行こうとしただけですよ」
「さっさといけ! この変態!」
言うことがいちいち釘宮キャラでニヤつくのを我慢しながら更衣室へ向かった。
――
用意された服は至って普通のTシャツにゆったりサイズのスウェットパンツ。夏場深夜のドン・キホーテスタイル。着心地は見た目通りのなんの特徴もないものだった。あの脱ぐ時も快感の波が押し寄せた検査着が特殊過ぎたんだろう。
それにしてもなんとも口の悪いお姉さんだった。
ただ、終始俺の愚息に興味津々で顔真っ赤にしていた姿は想像をするだけで愚息に活力が漲りそうになる。
良いものを見た。心はホクホクである。
裸で廊下歩いている時もちらほら女性はいたが皆美形ばかりだったな。これからの出会いが楽しみで仕方がない。
着替え終わり更衣室を出た時、心身共に落ち着きを取り戻した俺に気付いたお姉さんは少し安堵した様子。
橋本さんが作成したであろう書類に目を落としながら今後の予定を説明してくれる。
「レイジさん、検査の結果ですが……」
ゴクリと無意識に喉を鳴らした。
この後の言葉次第で今後の異世界生活が決まる。
「……」
「……」
某クイズ番組に負けずとも劣らない間を溜めた後……。
「もう一回検査を行います」
「えっ?」
バラエティ番組であればひな壇芸人がずっこけるところだ。
「詳しくはこれも後ほど説明しますが、現在開発中の金属製強化外骨格、簡単に言えば鎧を身につけていただいて軽い運動をしてもらいます」
異世界でどうやら俺はアイアンマンになるようだ。