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59.再びなる敵

 遺跡前の敵を排除することに成功したオレたちは、予定通りアネシュカと合流してから再び遺跡の入り口へとやって来ていた。

 白亜の建築物の入り口の扉を開け中を覗いて確認してみると、しばらくは廊下が続いているようだった。幸いというべきか、天井には一定間隔で光る四角い石のようなものが貼り付けられており明かりには不自由しそうにない。


「何が出ることやら……でも先に進まないことにはそれすらもわからない、か」


 ひた、と建物の柱に触れる。

 これ以上ないほど磨き上げられている巧緻な細工の凹凸、そしてひんやりとした石のつるっとした感触に感心する。遠目に見ただけでも大したものだったけど、近くで見ればまた別の見事さがある。


「そうですね。しかし喩え何が待っていようと進むしかありません。

 その真偽は未確定だとしても、万が一邪神が復活でもすればその被害たるや想像を絶するものとなるでしょうから。アテナ様に仕える者として見過ごすことは正しい行いとは言えません」


 うーん。

 久しぶりに聞いた、この優等生な台詞。

 真面目なアネシュカらしくって懐かしいなぁ。

 とはいえ言っていることは間違ってないし、さっさと進むとしますか。


「とりあえずワタシが先頭だね。この中で一番危機感知とか勘が働いて、尚且つ動きが早いわけだし。

 万が一のときに法術で癒しが使えるアネシュカちゃんを真ん中に……となると後は必然的に少年が一番後ろってことになるかなぁ~?」

「無難な感じだし、いいんじゃないか?」


 内心せっかくの遺跡なので先頭に出たい思いがなくもないんだが、ユディタの言う通り適材適所という意味ではこの並びが正解だろう。どのみち戦闘になればある程度臨機応変に動く必要があるし、廊下そのものは幅4メートルはありそうなくらい広いものだから、いざというときに順序を入れ替えるのに支障はない。


「何が出てくるかはわからないけど、出てきた魔物に合わせて一番効果的な人を主体にしたりもするかもしれない。そのへんの指示はワタシが出すから、ちゃんと従うように!」


 ユディタがリーダーであることに異存はない。

 年長者でもあるし、この森や魔物の知識もダントツなのだから。

 彼女の言葉に対してアネシュカと二人して頷いた。


 打ち合わせもひと段落したところで突入。


 遺跡の中では罠なども含めて警戒しなければならないことも多いと聞いている。視覚以外の聴覚、触覚、嗅覚といった五感を総動員して察知能力を高める必要があるので、余り無駄な会話はしないほうがいいとか言ってたな。

 いや、ホントにノーマッド印の知識には感謝である。

 今度会ったら、食事くらいご馳走せねばなるまい。


 進んで行くといくつか通路はいくつかに枝分かれしており、ユディタが残っている足跡や積もっている埃などから進む方向を決定。

 このあたりは特に口を出す能力もないので黙ってついていく。

 通路の選択は正解だったらしく、途中で何匹か蟲系の魔物が襲ってくるもこれを撃退。その他にもおそらく詰めていた住民の部屋やら倉庫やら、ちゃんと調べれば金になりそうな遺跡らしいものにも遭遇したが、遺跡探索に来た冒険者なら有り得ない選択肢だが、今回は時間が何よりも貴重あのは言うまでもない。

 気にせずにスルーしながら先を急いだ。


 どれくらい歩いただろうか。

 ようやく下へと続く階段を発見して、さらに深くへ歩みを進めていく。


 常に警戒しながら歩いているため、なんとなく時間感覚を曖昧に感じる。

 警戒そのものは森でもやっていたのである程度慣れていたつもりだったが、森のような自然物の中とこういった遺跡のような人工物のような場所では死角となる位置や気を付けるポイントが違うせいもあり、思ったより消耗しているのかもしれない。

 そんなことを考えていると、長い下り階段が終わり扉がひとつだけある踊り場に出た。

 左右に開く扉なのか真ん中に継ぎ目があったが肝心のドアノブがない。引くのではなく押す仕様なのだろうか、と思ったが足元の床に埋め込まれた赤いプレートを見て自動ドアだと気づいた。

 ユディタに言って踏んでもらうと、案の定扉が左右に割れるように引っ込んで開く。


 その先は広大な空間だった。


 半径20メートルはあろうかというほどの半球ドーム状の部屋。ここもこの遺跡の他の場所と同じく天井そのものが淡く輝いており昼間とまではいかないまでも、活動するのに十分な光量を保っている。

 出入り口はオレたちが入って来たのともうひとつのみで、同じように自動ドアの扉になっていた。

 だがオレたちの目を惹いたのはそれよりも室内、それも部屋の中心に居る人物。


「よくぞ、来た」


 逃げも隠れもせずに仁王立ちしている男。

 獅子の皮を纏った偉丈夫。


 “大英雄の末裔ヘーラクレイダイ”―――ヒュロス。


 紛れも無くそう名乗るに十分な力を有した当代の強者。

 放つ気配は以前とは別格と言えるほどに強いが、装いに大きな変化はない。

 ただひとつ違うとすれば、その手に一本の槍が握られていることくらいだろう。


「おやおや、こりゃイキのよさそうな相手が出てきたなぁ~」

「いきなり襲い掛かるとかはやめて下さいね。まずは相手を見極める必要があります」


 見るからに強そうな雰囲気の相手の登場に、すでにユディタはやる気満々になってしまっている。

 だが彼は気にすることなくオレを一瞥してから残りの二人―――アネシュカたちへ視線を向け、オレにしたのと全く同様の名乗りをあげた。


「“三天騎士トライアーク・ナイト”アネシュカと、“天恵”のユディタとお見受けする。何処かで手合せできれば僥倖と思っていたが、この世の差配は稀に粋な偶然を生むものだ」


 すでにランプレヒトから情報を得ていたのか、それとも以前から知っていたのかはわからないが、ヒュロスは淡々とそう言った。

 ユディタのことを“三天騎士トライアーク・ナイト”とは言わず、ただの“天恵”と認識しているあたり直近の状況まで詳しく知られているのかもしれない。


「へぇ~、キミがあの“大英雄の末裔ヘーラクレイダイ”なのかい?

 確かに相応しいだけの雰囲気はあるけれど……あぁ、でもそんなことはどーでもいいや。確かに戦う価値があるだけの強者、それだけが確かならそれ以上は些細なことさ。やる気、ってことでOK?」

「無論、強者との戦いは武人の誉れ。同感だが―――」


 そう言ってから、ヒュロスは彼女から視線を外して再びオレを見据えた。


「―――先約がある。一度干戈を交えたまま、放置するは不義理に過ぎよう」


 滾る戦意が瞳から溢れている。

 言葉通りに奴は本心から、ユディタでも他の誰でもないオレとの戦いを求めていた。

 なんであの性格が悪いランプレヒト側にいるのかわからないくらい、嘘偽りがない馬鹿正直なほど真っ直ぐ向けられた闘気。

 それが清々しいほど明確な意志のあまり、思わずその熱に当てられてしまいそうになる。


「そういうことらしいんで、ご指名された側としては受けて立つとするよ」


 アネシュカたちに軽くそう告げ、前に出る。


「じゃあ、ワタシたちは先に……と行きたいところだけど、そういうワケにもいかなそうだね」

「……ええ、姿は見えませんが、何者かの気配が確かにあるようです」


 その言葉を肯定するかのように、少しして向こう側の出口の前がじんわりと歪む。

 まるで蜃気楼でもあるかのようにぐんにゃりと風景が歪む、と表現すればいいのだろうか。

 その歪みが元に戻ると、そこには黒い長衣ローブの人物がいた。


「“百葬師ワンハンドレット・フューネラル”…ッ」


 アネシュカの言葉通り、港湾都市アローティアで遭遇した賞金首の姿がそこに在った。

 それまで全く姿が見えていなかったが、一体どういう理屈だ……?


「“陽炎蜉蝣エフェメラ・エフェメロン”を気配だけで感知するとは……恐れ入った。さすがはアテナ教団随一の戦闘員たちだと言っておこう」


 よく見ると彼の肩には輪郭が完全に透けてしまいそうなほど透明で細い、1メートルくらいの巨大な羽虫が留まっていた。これが今言っていた“陽炎蜉蝣エフェメラ・エフェメロン”なのだろうか?

 その羽は見る角度をわずかでも変えると光の加減によってなのか、淡く多様な色を見せている。

 確かアネシュカからは、百葬師はノーマッドたちとやり合って特に決着つかずに終わったとか聞いてたっけか。やっぱり出てきたってトコだな。


「ふぅん? ペドロ・ルイス……だったっけ?

 賞金首なんかやってくらいだし当然偽名の可能性もあるよね? 話に聞いているだけじゃわからなかったけど……なんか引っかかるなぁ。

 まぁいっか。で、キミがワタシたちの相手をしてくれるってコト?」

「―――必要とあらば」


 一触即発。

 そう表現しても過言ではないくらい、百葬師とユディタがそれぞれ互いにぶつけるための殺気を膨れ上がらせようとする。


「そこな者と一騎打ちしている間、手を出されぬ限りこちらからは手出しをしない。それが百葬師との取り決めだ。それを承知の上で、後は好きにするがいい」


 ヒュロスとオレが戦っている間は、百葬師はユディタたちに手を出さないし、ましてや一騎打ちに横から手を入れることもない。その上で百葬師を攻撃するなり、ヒュロスは横から殴りつけるというのであれば自由にやればいい、と彼は言う。

 そこにあるのは自負。

 それだけ価値ある勝負に挑む気概、そして理解しない者に横槍を入れられてもそれを受け入れるだけの覚悟、さらに言えばそうなってしまったとしても、それすら乗り越えると思い切る自信。


 時間の猶予はない。

 そんなことは百も承知だ。


 だがこの申し出を避けるのは難しそうだった。

 何よりオレ自身が、この勝負にこれ以上なく昂ぶってしまっていたのだから。










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