表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/71

50.致命の一撃

 現状をどうやって打開するか。

 それを考える暇も与えてくれないレベルでヘレナが攻めかかってきた。


 右の手に持った剣を振り上げながら接近。

 横に避けようとすると、その動きに気づいたのか気づいてないのか、ぴたりとその剣先が止まって揺れた。思わずつられてしまい反射的に硬直すると、そこの前蹴り。


「がっ!!」


 深く染み込むような衝撃。

 鳩尾にピンポイントで入ったその一撃に思わず呼吸が止まりそうになる。その衝撃で体が一瞬浮いて後ろに1メートルほど飛ばされているのだが、それを気にしている余裕もないほどの苦痛。

 前に突き出した蹴り足をそのまま地面に下ろし、残った脚で追いかけるように地面を蹴ってそのままの勢いで左の拳が突き出されてきた。

 夥しいほど送られてくる苦痛に喘ぐ脳を叱咤し、なんとか首を反らすとその右横を風切音をさせながら拳が通過していく。


 ゾッ!!


「っ!!?」

 

 突然右目の端に物凄い熱が発生した。

 同時に視界が妨げられる。

 反射的に剣を振るうと、間合いを外すようにヘレナが後ろに跳んだ。


 だがそれだけ。


 こちらの剣閃の振り終わりを目掛けて同じだけ前進してくる。

 一歩後退、一歩前進。

 言葉にしてしまえばそれだけの動作だが、剣の振りに合わせて最小限度の幅で、最大速度で行っているため、傍から素人が見ればヘレナを剣が素通りしたかのように錯覚してしまうほどだ。


 ヒュォッ!!


 斜め下から掬いあげるような刃が襲ってくる。

 のけ反りながら避けるも、彼女の動きは止まらない。

 淀みない流麗な動きで勢いを殺さずに反時計回りに体勢を入れ替え、左の脚で振り向きざまに蹴りを放ってきた。

 のけぞっていたオレに避ける余裕があるはずもなく、脇腹にまともにくらって再び弾き飛ばされた。


 これ以上……やらせるかッ!!


 ダメージを知らせてくる体の悲鳴を無視して、反撃をしようと試みる。

 一見無謀にも思えるが、ヘレナの攻撃は流れるようで全ての挙動が繋がっているように思える。後手に回ってしまえばジリジリと敗北へ押し込まれてしまうだけだ。

 後ろ回し蹴りを放って半身になっているヘレナに横一閃とばかりに刃を振るう。

 勿論刃を寝かせてはいるものの、それでも鉄製の鈍器だと考えれば威力は十分だ。


「―――っ!?」


 一瞬ヘレナの姿を見失った。

 オレの横薙ぎの一撃に対して動きを止めてしゃがむのではなく、そのまま半身のまま下へ仰向けに倒れ込むようにして避けたのだ。てっきりその場でしゃがむか、のけぞるかすると思っていたため、予想外の動きに面食らった。

 迫る刃を避けるのに前に踏み込みながらというのは、中々に難易度の高い行動だというのに顔色一つ変えていない。

 しゅる、と彼女の片腕が伸ばされてオレの首の後ろの根本を掴んだ。


 がづっ!!


 顔面に衝撃。

 首を引かれて、そのまま膝蹴りを喰らったのだと理解するのに一瞬の間が必要だった。そしてその間はヘレナがさらなる連続攻撃を繰り出すのに十分な時間でもある。


 ぶぉっ!!


 首を掴んだまま、そこを支点に両足を体の中心に引き寄せて踏ん張り、そのままの勢いを利用してオレを投げ飛ばしたのだ。

 一瞬で体を引っこ抜かれる急激な引っ張りを感じた直後、オレは10メートルほど先の樹にさかさまの状態で背中から打ちつけられていた。


「………ぐぅっ!!」


 転げて地面に落ちながら体勢を整え、なんとか立ち上がる。

 肝心のヘレナがこれで仕留めれたと思っていたのか、少し様子を窺っており追撃してこないのは実に助かった。

 息もつかせぬ攻防。

 だが結果は酷いものだった。


「……深い」


 冷静にダメージを確認してみると、どうやら最初鳩尾に前蹴りを喰らった後に右目をやられたらしく痛みが酷い。左の拳を放ちながら避けられると見るや、親指を伸ばしてその先で目、正確には眼窩の端を抉ったのだ。

 目玉を潰されたとかそういうことではないし、反射的に顔をそむけたので傷つけられたのは精々目の外側の際だけとはいえ、そこから流血しており視界を遮っているからかなり不味い。

 おまけにさっき顔面に喰らった膝蹴りで鼻からもボタボタと出血してしまっている有様だ。

 それに対して感じたのは、思わず口にしてしまったほど単純な言葉。


 深い。


 戦い方の深みがまるで違う。

 段階が違うとはいえ同じ“天恵”によって鍛えられた身体を持っている者同士。だが身体能力が同じであったとしても技術に差があり、それが一歩一歩全ての攻防で先を行かれている。しかもそのどれもこれもが“天恵”の身体がなければ一撃で致命になってしまいそうな威力。

 笑ってしまいそうになるほど酷い状況だ。

 なんとかしてヘレナを正気に戻さなければならないというのに、息をつく暇さえ与えてくれない。

 だからといってやることは変わらない。

 

「覚悟を決めるだけ、だな」


 なんてことはない。

 アネシュカたちのことは気になるが現状をどうにかしなければ始まらない。

 この戦いの中で突破口を見つけて、そこからなんとかする。

 いつも通りそんな無茶をするだけだ。


 そういえばユディタが操られた人間への対応を何か言っていたな。

 確か大きな衝撃を与えると目が覚めることがある、だったか。まぁアレは森で見かけた催眠をかけてくる人食いキノコの対処法だったから、今回のランプレヒトにあてはまるかはわからないが。


 とはいえ衝撃と言ってもなぁ……。


 例として物理的にやるなら死にそうなくらい痛めつけるとか、身近な人が死ぬとか、それくらいのものが必要だとか言ってたけども、さすがにヘレナを死にそうなくらい痛めつけるのは男としても技術的にも難しい。

 まぁユディタほどではないけど、ある程度身近で親しみを感じてもらっている自信はあるけど、かといってオレが死んだら本末転倒な気もするし。


 まずヘレナを正気にして、ランプレヒトの狙いを確認してそれを阻止、一緒にアネシュカたちを助けに行く。

 よくよく考えてみると難易度が高い上に先が長いミッションだが……いっちょやってやりますか!


 そう決意し、再度向かってきたヘレナに構え直した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ