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32.賭けの結末

 そんなこんなで、なんとか小鬼ゴブリン退治をやり遂げて賭けに勝ったオレ。

 これでもう森の中で大猪などの肉をゲットしても横合いから奪われることもない。

 あとは火さえなんとかできれば焼肉パーティーへの道は開かれたも同然だろう。

 そこまで考えて、


「……って、そこじゃないだろ、オレ」


 思わず自分にツッコミを入れてしまった。


「???」


 そんなやり取りに首を傾げている目の前のエルフとかいう耳の尖った女性―――ユディタ。

 不幸中の幸い、というべきなのか、彼女と出会えたのだ。少なくとも彼女の身なりを見たところ、ちゃんとした生活を送れているのは間違いなさそうだ。

 心配している火はもとより、森から人のいる街へ行く方法だって教えてもらえるかもしれない。ここは出会いを活かして上手くやるべきだろう。


「とりあえず賭けはキミの勝ちみたいだね、少年」


 考え込んでしまったオレに対し、楽しそうにユディタはそう声をかけてきた。


「戦っているところを観察させてもらったけれど、実際大したものだよ。目がいいのかな? あと判断能力も良い。行う行動に必要なこと、不必要なことの取捨選択の早さが無駄の無さに繋がって、さらに言えば実戦でそれを行える度胸も素晴らしいね」


 予想外にベタ褒めされた。


「ただ回避や攻撃の技量そのものは全然ダメかな。技は素人に毛が生えたレベルなのに、それでいて身体能力そのものは未熟だけれど悪くない。

 大言壮語、とまではいかない大口も思わず納得しちゃったよ。残りの問題は勝負ごとに関する執念だけど、こればっかりは一度死ぬギリギリ寸前まで追い込んでみないと―――」


 正直なところ、ここまで褒められて悪い気はしない。

 ただ台詞の後半くらいから、独り言のようにぶつぶつと考え込み始めたので思わず咳払いして先を促してみた。


「おっと失礼。つい前途有望な少年の将来に想いを馳せてしまったよ、許してくれ。

 それで何の話だったかな……ああ、そうだ。賭けの話だったね。さっきの小鬼ゴブリンを斃せるかどうかの賭け、間違いなく少年の勝ちだ。

 悔しくはあるがワタシも女だ、二言はない。さぁ何なりと要望を言ってみたまえ? 他にもちょっと話があるから、ササっと済ませてしまおう」


 おぉ、結構潔いな。

 美人で強そうで性格もさっぱりしているとか、イイ女過ぎる。


 さて、問題は何を頼むか、ということ。

 彼女の言葉通り賭けには勝った。小鬼ゴブリンの上位種まで出てきたときは、一瞬どうしようかと思わなくもなかったが、やってみればどうにかなるものだ。

 なので取り決め通り、彼女に何を要求するかを考えなければならない。


 まぁ何をしてもらうかなんて、すでに決まっている。

 さっきも言った通り、美しさ、強さ、そして性格の3点揃った相手に頼むことなんて他にあるだろうか。すでに決まっていることをもったいぶっても仕方ないので早速、


「戦い方を教えてくれ」


 すぱっと単刀直入に言ってみた。

 少し予想外だったのか、意外そうというか驚いた顔を見せる元“天恵”。

 うん、美人は驚いた顔も絵になっていいな、眼福眼福。


「そんなに驚かなくても」

「かなり意外だったからね。でも、気にしないで大丈夫。

 どっちかというと良い方に意外だっただけだから」


 う~ん? なんか腑に落ちないが、それならそれで―――、


「ほら、キミって何か女好きそうだし、抱かせろとかヤラせろとか夜伽しろとか言うんじゃないかと予想してただけだから、さ」


 ―――よくなかった。

 というか、言い方変えてるけど、その3つ全部同じ意味だろ。


「いや、なんでそんな扱いなんだよ!?」

「むしろ逆に、どうしてその願いなのか聞きたいんだけど」

「……確かに女好きっていうか、美人を見かけたら口説くのが礼儀だろとは思ってるけどな。そういうのはちゃんと代価を払うか、惚れさせてから要求することだろ?」

小鬼ゴブリン退治の賭けの代価じゃないのかい?」


 言い方が悪かったか。

 言い直すことにしよう。


「あんなん代価にもならないぞ。適当な代価を少なく見積もるってことは、それだけしか相手を評価してないってことだ。少なくてもオレとって、ユディタはあの程度のこと100や200やっても足りないくらい代価が要る相手だと思ってる」


 少し時間をかけて意味を噛み砕いたのだろう。

 ユディタはにんまりと笑顔を浮かべた。


「なるほどなるほど。少年ってば若くて青春だねぇ。変なところで律儀というのか、マジメっ子さんなのかぁ。実はあんまり不埒なお願いだったら性根を叩き直してあげようと思ってたくらいだから、ワタシ的にはそういう筋の通ったところ、嫌いじゃないな」


 おぉ……元々そのつもりはなかったが、無茶苦茶なこと言わないでよかったな。

 危ない危ない。

 彼女はそこで言葉を区切って、びし!とオレを指差した。


「いいでしょう! 任せなさい。おねーさんが強くしてあげようじゃありませんか」


 断られるかとも思ったが、予想以上にノリ気でそう宣言された。


「そうと決まればグズグズしているのは時間の無駄ね。一度ワタシの家まで行きましょうか。

 ワタシの家はこの森の中にあるんだけど、ちょっと距離があるのよね。具体的には普通にのんびり歩いてここから半日くらい歩く感じかしら。野宿するのも馬鹿らしいから、走っていきましょう」

「え?」


 何やら不穏な言葉を聞いた。


「聞こえなかった? さ、走っていくよ。

 それともどこかに荷物を置いてるのなら、そっちに寄ってから行こうか?」

「あー、価値のある荷物は別にないからそれはいいんだけど」

「そかそか。じゃあ行こうすぐ行こう。どうせ小鬼ゴブリンなんて大した素材も取れないし、依頼を請けてる感じでもなきゃ報奨金もないんだから、そのままにしても平気でしょ」


 いや、こう見えてもオレは毒を喰らった後の病み上がりで、さらに言えば先程まで命の遣り取りをしていて疲労が結構溜まっているんだけど。

 そんなことを言おうとするが、すでに時すでに遅し。

 ユディタはさっさと走り出してしまっていた。

 しかも結構速い。


「まず闘うにも体力から!

 加減はしてあげるけどついて来れなかったらユディタの戦い方教室から脱落ね」

「マジで!?」


 そう大声で宣言している間にも彼女はどんどん遠くへ行ってしまう。ただでさえ見通しの悪い森の中だ、あまり離されると本気で見失ってしまう。


「だー、チクショウ! やってやるよ!」


 選択の余地は無い。

 せっかく掴んだ強くなるため、そして森を脱出するための手がかりになる女性だ。

 ここで見失うわけにはいかない。

 腹を括ってオレも彼女を追いかけるべく走り出す。



 ようやく彼女に追いつけたのは、それから4時間ほど後。

 ユディタの家に到着してからのことだった。


次回、第33話 「求めしモノは」

 7月9日10時の投稿予定です。

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