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29.ザ・リベンジマッチ

 うぅ……ヤバかった。

 毎回毎回地味にピンチに陥っている気はするが、その中でも今回のはかなりヤバかった。

 ひとまず生きていたことに感謝しながら、残っていた果物を喰い尽くした。

 数時間前になってようやく体が動かせるようになり、食べ物も受け付けられるようになってきた。ここまでくればひと安心だろう。

 食べることは生きること。

 つまり食べる元気があれば、ひとまず死なない。

 強引な理屈だがそんなには間違っていないと思う。


「さて……何日経ったんかな」


 ボリボリと頭を掻きながら呟いた。

 窯の火はとうに消えている。悶え苦しんでいるときは火を維持するような余裕がなかったから、それも当然だろう。

 また種火をなんとかしないといけないのは面倒この上ないが、そうかといって薪を放り込み捲って寝ているところに燃え移りでもしたら、それこそ逃げる余力が無かったし。

 これはこれでOKと考えよう。

 どれくらいの日数が経ったかは考えても結論が出ないので諦めた。時計みたいなものもないし聞く相手もいない。それにそれを知ったからといって、やるべきことが変わるわけもないし。


 さて、とりあえず考えるべきは対策だ。

 あんな射手が森の中にいる状況じゃオチオチ探索も出来やしない。勿論、森を歩くという段階で無警戒ではいけないのだが、それに対して何か対抗手段があるのとないのでは気の張り用も消耗具合も全然違ってくるのは間違いない。

 

 これだけのことをされて黙っていられるほどオレはお人好しじゃないしな。

 サクっと対抗手段を見つけて、反撃してやろうじゃないか。

 

 あの矢をどうにかするというなら単純な方法がひとつある。

 防具の作成だ。


 見たところ石の矢じりで攻撃力はそんなに高くないし、弓もあまり性能が良くはないのか速度もそれほどではない。

 不意さえ撃たれなければ反応することは可能だろう。だが飛来する矢を掴み取るとか切り払うというのは咄嗟の時に不安が残る。盾とかの防具であれば射線上に翳すだけでいいので、追い込まれた時にもなんとかなるかもしれない。


「現実的に考えたら木の板かなんかで防具を作って、それで遮るくらいか」


 幸いなことに木材―――というか主に枝とかだが―――はある。勿論ちゃんと伐採して加工したものじゃないので曲がってたり形も均一じゃないが蔦で結んで、二重にしておけば貫通はしないだろう。

 そうと決まれば早速製作に入るとしよう。


 途中外にちらほら出ては材料をいくらか補充しつつ、作業を進めていく。

 それを適当なサイズで作って右腕の前腕部分に結びつけた。籠手、というには適当な作りだが盾代わりにはなるだろう。

 紐じゃなくて草の蔓とかで結んでいるので肌に触るが、こればっかりは仕方がない。

 我慢だ、我慢。


 さて……あとはアレだ、小鬼ゴブリンどもの根城を探さないとな。

 いくらオレでも、森の中で射手相手にかくれんぼの鬼をしながら矢を避けるのは面倒だ。相手が小鬼ゴブリンなのに俺が鬼ってこれいかに、って感じだがそれは置いておくとして。

 そう考えれば、連中が根城にしているところに押し込んで攻めるのが一番効率がいい。

 矢の来る方向は限定されるし、前に仲間がいたら誤射を考えて打ち込める隙も減る。何より一番いいのは今度は前回と逆、つまりこっちが先手を取れるということだ。

 準備が出来ている状態で、相手が準備を出来ていない状態を選んで戦える。

 このアドバンテージはかなり大きいと思う。


 ひとまずさらに一晩体を休め、翌日。

 射手に襲われた、大猪を置いていった場所へと向かう。

 火が無くなった以上あそこの果物がないと食べ物に困るし、そしてあの大猪がどうなったのか確認するためでもある。

 十中八九、連中に持っていかれてるんだろうけどな。


 到着してみれば案の定、猪はかなりの部分が持っていかれていた。

 おそらく持ち切れないので、ここで小分けにしたのだろう。

 血の跡やズタズタになった毛皮などがあり、残っているのは頭を中心にした一部だけだ。


「ふっふっふ……食い物の恨みの恐ろしさ、教えてやる」


 せっかくの焼肉パーティーを台無しにした、この罪は重い。

 どれほどオレが楽しみにしていたのかを、じっくりたっぷりと利子をつけて教えてやろうじゃないか。

 そこから続いていく小鬼ゴブリンたちの足跡を追っていくことにした。


「こっちから……おっと、次はこっちか。集中してないと見落としそうになるな」


 慣れていないので結構骨だったが、幸いなことに途中で見失うこともなく鬱蒼とした森の中をどんどん進んで行く。

 当然射手に対しての警戒もしており、いつ射掛けられてもいいように周囲へは気を配りながらだ。

 その甲斐あって、目的地まで辿り着くことが出来た。


 洞窟だ。


 わかりやすいくらいわかりやすい住処。

 入口には小鬼ゴブリンが二匹。

 洞窟の入り口からオレが隠れている茂みまでは15メートルといったところか。

 こっちに気づいている様子はない。

 武装は片方が短剣、そして残りのもう片方はあろうことか弓矢を持っていた。

 オレを射たのがこいつかどうかは定かではないが、とりあえず借りを返すのはこいつに決めた。


 攻守逆転。


 今回はオレが目にモノを見せてやる。

 この距離なら、そのまま突撃でもなんとかなるだろうけど、どうせならこっちも飛び道具だ。

 そのへんの石を拾って―――、


 思いっきり弓矢を持ったゴブリンに投げつけた。


 がづんっ!!


「グギャッ!!」


 見事頭に命中。

 まぁこの距離だからちゃんと狙えば外さないよな。

 思わぬ事態に驚いている小鬼ゴブリンのほうへダッシュ。

 短剣を振り上げようとした奴を思いっきり蹴っておいてから、弓を持った敵を斬りつけた。突然青あざを作るほどの速度で顔に命中した石にクラクラしていた相手がそれを避けれるはずもなく、血しぶきをあげて沈む。

 それを確認してから、もう1匹へも剣を振るう。

 2合ほど切り結んでからサクっとトドメを刺した。こっちは元々前と同じく短剣と剣のリーチ差があったから、難しい話じゃなかった。


「ふぅ……とりあえずリベンジ完了かな」


 また毒でも喰らったら目も当てられないので緊張はしたものの、状況をちゃんと整えればなんとか射手を倒せることを証明できた。

 これは大きな収穫だ。


「つっても、これが最後の射手かどうかはわからないしな」


 まだこの洞窟の奥にいるかもしれない。

 そう考えればここの小鬼ゴブリンは全て討伐しておきたい。

 暗く穴を開けている洞窟は幅高さ共に2メートルほど。

 狭いことは狭いものの普通に歩けそうではある。

 問題は、


「……あー、明かりがないな」


 昼間でも奥に行くに連れて真っ暗な内部をどうやって進むか、だ。

 夜目が利く魔物相手に明かりなしで突っ込むなど無謀もいいところ。だがこの先手を取れるチャンスを逃すのも勿体ない。

 さて。どうしたものかな。



次回、第30話 「天の配剤」

 7月5日10時の投稿予定です。

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