24.小鬼との戦い
茂みから全力で飛び出し、小鬼たちの傍まで一気に踏み込んだ。
「ギッ、ギゴャア!?」
お、戸惑う声は別に言葉がわからなくても理解できるもんなんだな。
そんなことをふと考えながらも、身体は止まらない。奇襲を受けた小鬼たちの反応は鈍い。少なくとも凶悪な邪神官と渡り合ったオレにとって遅すぎるくらいには。
剣を振るう。
単なる横薙ぎ。
イメージするのは、この剣の持ち主の斬撃。
淀みなくただ一筋に刃を立てて滑らせる。
シュ…パッ!
小鬼の首が裂かれ、ドス黒い体液が噴き出す。幸い途中で引っかかってしまうことなく刃を振り抜くことに成功したが間合いが甘かったのか、首の3分の1程度を斬っただけに留まった。
やっぱり初めて使う剣は間合いの調整が難しい。
あっという間の惨劇に、もう一匹が戸惑いながらも手にしている錆の浮いた短剣を大きく振り上げて攻撃してこようとする。
生憎とそれを待ってやるほどお優しくもなれない。
戸惑いから鈍い動き。
その先を制するように胴体に向けて刃を突き出し刺し貫いた。
ドッ!!
筋張った肉を突き進む切っ先の感触を感じながら貫いたの確認した後、渾身の力で引き抜いた。
あっけなく倒れる魔物の体。
「……ふぅ」
色々考えた割に勝負は短時間であっさりと決したが、それはあくまで結果論だ。
今はとりあえず無事に倒せたことを喜ぶとしよう。
ひとまず周囲を確認する。
小鬼たちが見て騒いでいた穴は深さが60センチほど。底には枝が尖った先を上にしていくつも向けられており、そこに兎が突き刺さって死んでいた。まだ死んでからそれほど時間は経っていないと思われる。
どうやらこの罠を設置して、見に来てみたら兎がかかっていたので大喜びしていたところだったらしい。
割と知能派だな、こいつら。
落とし穴の底に枝を突き刺しただけの原始的な罠ではあるが、現実問題獲物がかかっているので実用性はある。むしろ森の中にこういう罠がある、ということを知らずに歩いていたらオレも引っかかっていたかもしれない。
兎と違って枝が刺さった程度では死にはしないだろうが、負傷すればそれだけ行動に制限を受けるのだ。小鬼がこいつらだけとは限らないし、気を引き締めていくとしよう。
「お、なんだコイツら、水持ってたのかな」
倒れた死体を見てみると、おそらく木を削って作ったであろう器が落ちていた。
見るからに不格好であまり入らないようなゴツゴツしたものだが、器は器だ、間違ってなんかいないぞ。
そこに水が汲んであったようで、ほとんどが零れているものの少しだけ残っていた。
さすがにこいつらが持っていた水に口をつける気はないが、これがどこからかで汲んできたものだとするなら、二つの事実が確定する。
近くに水場があるということと、わざわざ持って帰っているということは放浪しているのではなく、どこか小鬼たちの根城があってそこに棲んでいるということだ。
「足跡を追っていって、そのどっちに出るかは賭けだよな。水場のが可能性高いけど」
幸いなことに土が柔らかいこともあって、倒れている小鬼たちがやってきた足跡に関しては辿っていくことが出来そうだ。
とにかく水がないことには始まらないので、足跡に沿って歩き出す。
兎とか食えりゃいいんだけど、残念ながら火の起こし方はおろか捌き方とかもわからんからそっちは無視しておくことにした。
「ノーマッドの戦いとか魔物に関する話ばっかり聞いてたけど、こんなことならコリーにもっとサバイバルの方法も聞いとくんだったか」
そろりそろりと罠に注意しながら歩きつつ、そんなことを思う。
勿論ノーマッドのおかげで小鬼や魔物に関して判断できているので、それ自体は無駄ではないものの、火の起こし方、獲物の捌き方、野営地点の選定など、野外活動の準備と知識があれば今のこの状況はかなり違っていたはずだ。
まぁそのへん、こうやって実際にやってみないとわからないので今更どうしようもない。無事に生きて人里に戻ってからおいおい勉強していこう。
しかし……結構難しいな。
罠を警戒して進んでいると、中々速度が出せない。
そのせいで、しばらく歩いているにも関わらず思ったよりも進めていない。なんとなく焦れ焦れしてしまい、罠なんて早々ないだろうから別に気にしなくてもいいんじゃないかという考えが頭を過ぎった。
結構自制心が要るんだな、森の歩き方ってのは。
これがこんな道なき道とかではなくて、固められた程度でもいいのでちゃんとした道ならば、もっと罠もわかりやすくて警戒も楽なんだろうけど。
進むこと1時間ほど。
水の匂いに気づいて進んでいくと、川があった。
川といってもそれほど大きなものではなく、川幅も5メートルほど。小川と表記したほうが近いかもしれない。
「ぷっはー。生き返るねぇ」
最初はちろっと舐めるよう確認し、特に問題なさそうなので遠慮なくゴクゴクと飲んだ。
久方ぶりの水分にテンションは上がりっぱなしだ。
とりあえず水は確保できた。
後は食い物と、雨露をしのげる場所だけどうにかできれば、ひとまず拠点を作れるので、そこを中心に森の捜索もできる。森そのものがどれほどの広さかわからない以上、しっかり準備して動き回らないと生き残れない。
川べりに腰を落として休憩しつつ、そんなことを考える。
「火を通さずに食べられる木の実みたいなのを主体に探してみるか。雨露凌げる場所は……洞窟とかか。狩人が使う狩猟小屋的なものがあると一番いいんだけどな」
自然の洞窟とかだとさっきの小鬼とか動物や魔物が住み着いてる可能性もあるしな。
「さて、んじゃ川の位置だけ見失わないように周囲から捜索を―――」
立ち上がった瞬間、頬に触れたかすかな感触。
それを確認する間もなく同じ感触が他の場所にも発生した。
思わず舌打ちしたくなる。
「―――くそ、雨降ってきたか」
いつの間にか空は曇天。
時刻はそろそろ夕方。
ほどなく夜になるから、その前に雨宿りできそうな場所を探すのを優先しなければならない。
受難はまだまだ続きそうだ。
次回、第25話 「水が滴るイイ男は奮闘中」
6月30日10時の投稿予定です。
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