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23.リ・スタート

 とりあえず言おう。

 この世界は理不尽であると。

 持っていたものを失い、得た物もまた失う。

 スタートからゴールまでひたすら積み上げ続けた物を途中で崩され続ける不毛なゲームのように。


 だがそれでも生きていかなければならない。

 その理不尽に打ち勝ち抗い続けていくこと―――それこそが生きるということなのだから。


「などと恰好つけてみたのはいいけれど……ってトコだな」


 うぅむ、と唸りながら、とりあえず大きく伸びをしてみた。

 周囲には青々と生い茂る木々。

 苔生した緑の香りが漂う鬱蒼とした森。

 そこに生えた一本のデカい樹の枝の上にオレはいた。


「せっかくここはどこ?私は誰?状態から、ここはどこ?が消えてたってのに……また元の木阿弥になっちゃったな」


 ランプレヒトとの戦いの最後、魔法陣が光って目の前が真っ白になってから気が付けばこの森の中にいた。

 明け方近かったものの、とりあえず疲労困憊だったので木に登って枝の上でさっきまで寝てたってわけだ。すでに太陽はかなり高い位置にある。厳密に一番高い位置かどうかまではわからないが、かなり昼に近いことは間違いない。


「アネシュカに傷を治しておいてもらったことと、ランプレヒトから奪ってた剣を手にしてたことだけが救いだな……火打ち石くらいは用意あれば、もっとマシなんだけど」


 傷を治してもらっていなければ、出血多量で終了してたろうしアネシュカさまさまである。

 ここにいない彼女に感謝しつつ樹を降りる。

 枝とは言っても人の胴回りほどはあるので立派な大樹だ。

 フシやコブも多いので上り下りに不自由はない。

 まぁいくら枝が太くても寝相が悪かったら落ちてたかもしれないとは思うけどな。


「よ、っと。さて、どうするかな」


 ひとまず人の痕跡を探して歩くとするか。

 可能であれば、どっか水場とか確保できれば尚ヨシといったところ。

 街中と違いいくら金銭があったとしても、水と食料は自分で確保するしかない。

 とはいえ、ここがどこかもどっちに行ったらいいかもまるでさっぱりなので、とりあえずは目的を確認した上で歩き出すしかないんだが。


 歩いていてわかったが、森の土は腐葉土が厚く積もっており脚に伝わる感触が柔らかい。おまけにどこもかしこも草や苔やら緑に溢れており、かなり豊かな森なのは間違いない。

 山菜のような食べれるものも生えているとは思うんだが、普通の雑草と見分けがつかんのが残念だ。仕方ないのでキノコっぽいものだけ確保しておく。

 これまた毒キノコとそうでないものがわからないので、食べるのは最後の手段になるけど。あー、色のドギツいものが毒有りだとか聞いたことがあるんで、それを避ければなんとか……いやいや、中途半端な判断は危険だな。

 やっぱ飢えて飢えて仕方ないときの最後の手段にしておこう、うん。

 もし街に戻れたら今後はそのへんの知識を仕入れておこうと小さく決意した。


「しっかしシティボーイのオレが、こんな見知らぬ秘境に一人とかミスマッチも甚だしいな」


 歩きながらのんびり呟いてみるが、どこがシティボーイだ!とか、秘境じゃなくてただの森じゃない?とか合いの手を返してくれる人がいないので軽口も今一つキレがない。

 見上げれると木々の葉の隙間から青い空が見える。

 幸い木葉が陽光を遮ってくれているため、人が歩ける高さはほとんどが影になっている。気候的にはまだそこまで暑くないせいもあり、快適な気温なのは助かった。

 これが猛暑の季節とかなら水場を見つける前に乾いて倒れてしまうかもしれない。そう考えるとオレって中々ツイてるな。

 うん、ツイてるツイてる、そう思おう。

 本当にツイてたらあんな変態ランプレヒトに目を付けられてこんなところに飛ばされたりしてないだろうとか思ったらいけない。


「……ん?」


 なんとなく感じるものがあって、そちらへと近寄っていく。

 下草をかき分けながらゆっくりと歩いていくと、先程耳に聞こえてきた音が空耳ではなかったことがわかった。徐々に近づく音源。そこから聞こえてくるのは―――、


「―――鳴き声?」


 動物の鳴き声に近いが、微妙に規則性があるような感じか。

 念のため剣を抜いておきながら、より警戒しながら先に進んで行く。


 がさ、がさり……。


 ひっそりと息を殺して進んでいると、それまでは気にならなかった草の音が気になる。

 幸いにも音の方角から見てこちらが風下。

 野生動物だったとしても視覚の外から匂いで気づかれる可能性は低い。

 いや、多分……低い、はず。

 まぁ本職の狩人とかではないから、か細い期待でしかないのはわかってる。

 内心ドキドキしながらも、しばらく進むとようやく音の発生源を視界に収めることが出来た。


「? なんか変な連中がいやがるな」


 少し拓けた場所で小柄で醜悪な形相をした生き物が二匹ほど、何やら直径1メートルほどの穴のフチで中を指して騒いでいる。布切れとしか言いようのない薄汚れたボロボロの布で申し訳程度に局部を隠したその生き物のことは、前に聞いたことがあった。


「―――小鬼ゴブリンか」


 人が住める大抵の場所に住みつくことが出来る魔物。

 通常種は小柄で力もそれほどではないが、簡単な武器や罠を使える器用さは持っており、繁殖能力も高く数が増えるとそれなりの危険性を持つ。剛種、王種や呪術種など上位種に率いられた場合、群れとしての危険度はさらに跳ね上がる、だったか。

 他にもいくつか注意点は聞いたが、駆け出し冒険者が頼まれる魔物の駆除依頼の中で最もポピュラーなんだぜ、と言っていたのが一番印象的だったノーマッド情報である。


 さて、どうするか。


 幸い向こうはまだこちらに気づいていない。

 ここで知らないフリをして廻れ右というのもアリだろう。

 だが、


「あの野郎たちは人里離れた森や山なんてトコで生活してる。それだけなら問題ねぇんだけどよ、一定期間の繁殖で数が増えすぎる度に人里近くに流れてきて、その度に開拓村なんかが被害を受けんだ。

 家畜が被害を受けたくらいの最初の段階でなんとかできりゃいいけどな……そうもいかねぇ、こともある。だから1匹2匹のときに出会ったら、可能な範囲で適度に間引いておくようにはしてるんだぜ?」


 そう言って酒を呷っていたノーマッドを思い出す。

 ノーマッドがいた村も過去にゴブリン被害があったらしい。不運なことに最初の被害が家畜ではなく、家畜の様子を見に行っていた妹だったことを、彼の戦士としての始まりなのだと酔い潰れた彼を見ながら相棒が語ってくれた。


 だからなんだというわけでもない。

 目の前の二匹を倒すことが可能かどうかで言えば、おそらく可能だろう。動きも大したことないし、不意打ちで一匹仕留められれば一対一で後れを取るとも思えない。

 だとすれば、世話になった友人の想いに多少なりとも報いてやるのも悪くない。

 個人的な恨みはないし避けられる戦闘でもあるから、無用な危険と言われればそうかもしれないが、それを言うなら、ランプレヒトとの戦いで思った英雄になってみよう、というのも危険な道。

 安全を往くのなら何も出来はしないのだ。


 決意し、オレは茂みから飛び出した。



 


次回、第24話 「小鬼との戦い」

 6月29日10時の投稿予定です。


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