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22.幕引きはアンコールへ続く

次回、episode.1のエピローグとなります。

 6月26日10時の投稿予定です。


 誤字の指摘などございましたら、感想欄にご記入下さい。

 勿論、作品に対しての意見も励みになりますので、頂ければありがたいです。

 ―――どしゃ!!


 ふらふらした後、その場に倒れたランプレヒトが沈黙したのを確認。


「トドメを刺すべきか……いや、迂闊に近寄って呪われでもしたら最悪だしなァ。

 ひとまず放っておくか」


 何せ邪神の加護のある神官だし。

 とりあえずランプレヒトが落とした剣を回収。これで武器が無くなったし、最悪アネシュカになんとか切り伏せてもらえる。


「……ん?」


 今更気づいたけど、これって以前見た剣と違うな。

 こっちもこっちで中々の剣だけど、あくまで普通の剣。

 港で人足を斬ってたときのものはもっと古めかしくて、ぞわぞわする怖さがあった。

 まぁいいか、と考えても仕方ないことは置いておく。


 丁度アネシュカの方も決着がついたようだった。


 振り向いたオレが見たのは、高さ3メートルくらいの空中で静止している女王蜂とその真下で振り切った剣を支えているアネシュカという光景。

 一瞬の後、女王蜂が真ん中で綺麗にズレ、2つに分断されて左右に墜ちていった。


 ずぅぅ………ぅぅん。


 同時にそのへんをぶんぶんと五月蠅く飛び回っていた寄生蜂たちは、倉庫の空いている出入り口から四方へ散って行ってしまった。

 蜂が逃げていくことに一瞬顔を顰めるがそれを追うどころではないと判断したのだろう。アネシュカが急いで振り向いて、オレに気づき安堵と驚きの表情を受かべた。

 だがすぐに血相を変えて近寄って来る。


「よ、おつ、かれ…」

「ルーセント! その傷……ッ」


 何でもない感じを装おうとするが上手くいかない。

 まぁ全身浅い傷を負ってる上に、片手がなくて血がどくどく流れている段階で隠すも無いのだが、それでも泣き喚くほどに矜持を無くしてはいない。


「動かないように。すぐに法術をかけます。

 腕を再生されるくらいまでの“癒し(セラピア)”ならば、私でもかけられます」

「ああ、悪い、頼んでいいか?」


 実は血も流し過ぎてそろそろ眩暈がしてきたところだったりする。

 しかし、ランプレヒトもそうだったが、アネシュカも欠損部位の再生が可能なあたり、実はこの世界での法術ってのはかなり高度なのが一般的なんだろうか?

 ……とか思ったけど、比較対象の二人がサンプルとしては特殊過ぎるので、なんとも言えないか。

 見ればダンツィも無事だったようで、周囲を警戒しながら近寄ってきた。


「さすがは“骸魔殺し”のアネシュカさんだ。

 あれが噂の“断撃”だろ? 見事な一撃だったぜ、あれならいくら硬い骸魔を倒せるのも納得できる」

「ダンツィさんが注意を引いてくれたお蔭です。ありがとうございました」


 どうやらダメージを与え続けて動きが鈍ったところに、ダンツィが牽制で時間を稼ぎ、アネシュカが渾身の一撃を放ったらしい。

 “断撃”とやらがアネシュカが女王蜂を仕留めた技らしいが、実に必殺技っぽい名前だな。なんかウズウズしてしまいそうだ。やっぱり英雄たるもの、必殺技のひとつやふたつは必要かもしれない。


「いえ……まだまだ未熟です。“蘇生アナニプスィ”の加護を使えるようになっていれば……」


 オレの傷を治しながら悔しさを滲ませるアネシュカ。

 彼女が一瞬向けた視線の先は、ランプレヒトに背後から刺し貫かれて殺された聖騎士の遺体だった。

 正直なところ、結果としてはかなりベストに近いところに来ていたと思う。

 寄生蜂の群れを使役する女王に邪神官ランプレヒトが待ち構えていたところに突っ込んだんだ。犠牲者が1人で済んだのはむしろ驚くべき戦果だろう。

 だがそれと犠牲者そのものを想う心は別、それくらいはわかる。

 特に同じ教団のアネシュカのほうはオレたちよりは親しかっただろうし。

 まぁ個人的なことを言わせてもらえば、


「そうやって悼んでやれば十分だろ。オレもアネシュカも自分の命を賭ける覚悟の上で、邪神の儀式を止めようとした。会ったばかりでよく知らないけど、聖騎士カーネルは違うのか?」


 静かに首を振るアネシュカ。


「なら、その覚悟を讃えてやればそれだけで報われるさ。それに命を賭けて正しい行いをした勇士の魂を女神アテナが認めないわけはない」


 もしも阻止に失敗して自分が命を落としたことが無駄になってしまったなら死んでも死にきれないだろうが、最終的に目的が果たせたのであれば命を張った甲斐があったと、オレならそう考えるだろうから。

 アネシュカは少しの間静かに俯いてから、


「……終わりました。違和感は?」

「ないよ、ありがとう」


 一応完治した体を動かしてみるが特に問題はない。強いて言えば、無茶な動きをし過ぎてギシギシ言ってるくらいだ。

 こりゃ明日はベッドから起きるのもキツいかもしれないな。


「しかし、お前さんも大したもんだなァ……まさかランプレヒトを単独でどうにかしちまうたぁ」

「相手が油断しまくってたしな。

 最初から殺す気でかかられてたら、策を弄するまでもなくあっという間に死んでたよ」


 いくら嬲るためとはいえ敵に欠損再生の法術をかけるとか、油断し過ぎといっても過言ではない。あれが無ければ、すぐに失血死して終了。それどころか出血のために動きが鈍ったところに攻撃を喰らって、失血死を待つまでもなく頭と体が泣き別れしてた可能性も高い。

 敵の満身につけこんだ上で、手札切りまくって、そこにさらに一か八かの賭けまでしてようやくなんとかなったというレベルだ。

 ま、それだけの価値はある勝利だったと―――


「―――ッ!!?」


 ぞく、っと背筋が凍った。

 猶予はほんの一瞬。



 ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ―――ッ!!!


 

 黒い渦がオレに殺到し、身体を浮き上がらせた。

 その勢いのまま馬車か何かにでも撥ねられたかのように数メートル吹き飛んだ。


「ぐ…ッ…が!!?」


 ごろごろと転がってなんとか衝撃を吸収し立ち上がる。

 先程までオレがいた位置に黒い渦が巻いていた。

 いや、あれは渦ではない。

 見覚えがある。


「港のときの……ッ」 


 蠅の塊だ。

 それはつまり。


「いやァ……やるもんだやるもんだ。僕の見立ては間違ってなかったんだねぃ」


 蟲を使う邪神官、それを仕留め切れていなかったということ…ッ!!

 じゃぎん、とアネシュカが再び剣を構え、ダンツィをすぐ横にあった柱の陰に身を隠し半身で様子を伺っている。


「蜂の一刺しとは恐れいったぁ…! 僕みたいな奴じゃなかったら効いてただろうなァ、ということで死んだフリしてトドメを刺しに来る時間は与えてあげましたよん」


 そう高らかに言うランプレヒトとオレの間で、アネシュカが割り込むように構えた。  


「無駄な抵抗は止めなさい、ランプレヒト。

 女王蜂は仕留めました。時間をかければ私たちに増援も来るでしょう。最早貴方に勝ち目はありません」

「勿論そのつもりだよ。無駄に欠損再生使いまくっちゃって消耗激しいし、武器はそこのルーセント君に取られてるし、アネシュカ(キミ)とやり合うのは結果が見えている。でもさ、その前に―――」


 にやりと笑って蠅の群れを消失させた邪神官は、

 


「―――置き土産・・・・の仕事を果たさなくちゃ、ね」

 


 そう言って、一言だけ神へ言葉を捧げた。


「…ッ!!?」


 その瞬間、オレの足元が光った。

 吹っ飛ばされて転がった後、倉庫に描かれていた魔法陣の上まで来てしまっていたらしい。周囲には寄生蜂によって操られていた犠牲者が倒れているが、急速に干からびていく。

 魔法陣の外枠の円の部分から縦に光が上っており、それが壁のようになってオレを出さないようにしていた。まるで倒れている人たちの生命力を吸い取っているかのように、彼らの消耗と反比例して光は強さを増していく。


「させませんッ!!」 


 最大最速。

 これ以上ない踏み込みでランプレヒトの懐に飛び込んだアネシュカ。

 その手にある聖剣が激しく光を放ちながら振るわれる。当のランプレヒトは自らに迫る刃を気にすることなくただオレを遠目に視線を向けた。



 ―――からの伝言だ、“また・・な”



 唇の動きは確かにそう言ったように見え。

 次の瞬間、彼の首が飛んだ。



 それが魔法陣の光が極限まで高まり白く塗りつぶされる前にオレが見た、最後の光景。


 

 そして、聖騎士アネシュカとの別れでもあった。 


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