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20.蟻の一穴・蜂の一刺し

 お蔭様で本編20話目に突入です。

 リハビリ作ということで至らない部分もありますが、お読み頂いている皆様に感謝申し上げます。

 剣閃が放たれる。

 鋭いその軌跡は一筋の線の如く流麗。

 ただその美しさとは裏腹な威力が込められた、謂わば死線だ。

 この死線を潜らなければ命は存在しえない。


「く…ぁァッ!」


 心得のない人にとっては、ほとんど同時にしか思えない斬撃。

 それでも一本の剣で放っている以上、どれだけ少なくてもタイムラグは存在する。

 ギッリギリでなんとか見極めたその隙間のタイミングに体を躍らせて、回避することに成功した。避けられた斬撃のうち一本は建物の壁をバターのように容易く切り裂く。

 切断面の滑らかさを思えば、あれを喰らったとたんオレも同じように綺麗に分断されるんだろうなぁ、と他人事のように思った。


「おぉ! ちょっとだけギアを上げたんだけど、そろそろ慣れて来たかなぁ? いいよいいよいいよ。こう、暴走馬車に必死でしがみつく相手をどうやって突き落してバックして轢き直して、わざとなんだぜゴメンとか言いたくなる感じがクールだ!!」

「こりゃ、クールの意味の吐き違えも―――甚だしいな!」


 一段階、速度や斬撃の質を上げる度にオレの身体に多大なダメージがぶち込まれる。

 それこそほぼ致命的なまでの傷を負ったりもしていた。


 だがその度にランプレヒトが使う法術で。傷を癒され戦いを継続させられる。


 即死した場合は癒しでは対応できないので、おそらくはそこが相手の引いた一線なんだろう。あいつの気が向いている限り、即死さえしなければ戦い続けることが出来る。

 完全に殺さない限り延々と戦い続ける……字面だけ見ると、どこの不死者アンデッドだ? オレは。


「ォっ!!」


 放たれる攻撃。

 どう避けるのか、後ろに下がるのか、しゃがむのか、のけぞるのか、横にかがむのか。

 避けるにしてもどれくらい体勢を崩すのか、あまり大きく避け過ぎれば次の回避が遅れる。

 その上で常に相手を視線から外さない。次の攻撃の兆候を見逃さないために。


 熟考の余裕すらない次々と矢継ぎ早にやってくる判断。


 即断と直感だけを頼りに、自らの命を賭け(ベットす)る。


「………ッッ!!」


 避けきれずに顎に斬撃が当たる。

 びしゃりと切り飛ばされた下顎が壁に叩き付けられた。

 相変わらずの熱さ。なんとか痛みを意識から切り離そうとしているものの、慣れたとはいえ完全に痛みを遮断のは不可能だ。

 顎がないとすーすーするな、くそっ!!

 内心悪態をつくことで心を奮い立たせて激痛を誤魔化す。

 そのまま咄嗟に片手で押さえながら、


「じゃあ癒しを……するのはもう、やーめた☆」


 戯言を気にすることなく、足払いを放った。

 残念ながらランプレヒトはバックステップであっという間に間合いを開けてしまったので、空振りに終わってしまったが。

 だが相手は難しい顔をしながら、先程までと同じように癒しをかけてきた。

 下顎が戻ってきた感覚に少し安堵した。


「……?」

「いやぁ、ホントにキミ何者なんだろうなぁ……あれだけ癒しをかけて、必ず癒しかけてもらえる感出しておいて、突然打ち切り!とか言われたら普通動揺しない?」


 言いながら雨のように切れ目なく喋りながら、血の付いた刃をひゅるん、と振って粗っぽく払う。


「なんで何事もなかったかのように行動してるわけ? どうやったら心を折れるのか、ぽっきりぽきぽき日和が待ち遠しくなるくらい―――面白すぎるゥッ!!!」


 まるで子供だ。

 興味のある玩具をありとあらゆる発想で弄び、そして壊す。

 これで力だけは一流なんだからタチが悪い。


 ちらりと視線の端で捉えた感じだと、アネシュカたちは女王蜂相手にかなり優勢に戦いを進めているようだ。そう長くしないうちに決着がつくだろう。

 女王蜂はその機動力を生かして飛び回っているものの、いくら広いとはいえ閉鎖空間である倉庫ではその動きは限られる。不利ならば逃げればいいものをそうしないところを見ると、あの魔法陣を守るように命令でもされているのかもしれない。

 出来るだけ天井近くを飛行しているが、驚くべきことにアネシュカがそこに飛び掛かって斬撃を見舞っていた。

 単純な高さにして数メートル跳躍、しかも重武装したままとか一体どうなってやがるんだ。少なくとも普通の人間業じゃない。

 そのうえ、堅そうな女王蜂の体皮をやすやすと切り裂いているあたりは、さすがランプレヒトと同じく一撃必殺の攻撃力を持っている聖騎士だ。


 ちなみにダンツィが短剣を投擲しつつ、懐から出した水袋の中身をこまめにバラ撒いて牽制しており、他の寄生蜂はかなり動きを抑制されている。

 多分虫除け的な、連中が嫌いな成分を溶け込ませている水なんだろう。準備の良さはさすが情報で勝負する密偵である。


 一瞬だけ頭で状況を整理し、とりあえずオレは目の前の相手に集中!

 そう思った瞬間、 


「わぉっ!?」


 あ、あぶねぇ……。

 運悪くアネシュカへふらふらと向かった寄生蜂が、剣撃に巻き込まれて吹っ飛んできた。

 勿論体はバラバラになっているか、戦ってる最中にあんなものがぶつかったら避けるどころじゃない隙を晒す羽目になる。

 思わずキャッチしてしまった蜂の腹から下がびくんびくんと動いていて気色悪い。


 ぐじゅ。


 そのまま握り潰した。


「お、何か覚悟でも決まった……いや、最初から覚悟の塊だもんなぁ、キミ。

 どちらかというと決意を新たにした感じかい?」


 こちらを見透かそうと声をかけながらニヤついている邪神官。

 余り真面目に受け答えしてもペースを握られるだけなので、 


「ああ、とりあえずやられてばっかりってのもシャクだからさ、やり返してみようか、と」


 軽口を叩いてみる。

 武器ときたら、さっきなんとか拾い直した左手の短剣、そしてとりあえず目つぶし程度には使えそうな右手の蜂の残骸。


「へぇぇぇぇ? 本当にそれが出来るもんならね」

「言ってろ。堤も蟻の一穴で壊れるって知らないらしいな」


 持っていることが知られている短剣はまず当たらない。と、するなら一撃カマすために使えるものは―――これくらいだろう。

 さっき握り潰した蜂の残骸。

 その中の針だ。


 なんとか隙を作って殴ると見せかけて、こいつを頭に刺す。


 そのなんとか以降が大変なのだが、やるとしたらこれくらいしかないだろう。

 蟻の一穴ならぬ蜂の一刺し。

 勝機は百に一つどころか、万に一つといったところか。


 だが悪くない。

 自分が何者なのかすら不明なこの世界で、一体どこまでやれるのか、全力で試すにこれ以上の舞台はない。


 勝機を手にすべく、オレは走り出した。


 



次回、第21話 「死線の果て」

 6月24日10時の投稿予定です。


 誤字の指摘などございましたら、感想欄にご記入下さい。

 勿論、作品に対しての意見も励みになりますので、頂ければありがたいです。

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