Ex.2 蠱毒なる世界
さすが本職の司祭様は違うねぇ。
説法ひとつも堂に入ってるじゃないか。
せっかくだから付き合ってよう、そうしよう。
自分の生まれた理由?
考えたことすらない。
強いて言うのなら……やりたいようにやる、それが生まれた者の理由であり義務だと思っているよ?
強者は強者の役を。
弱者は弱者の役を。
愚者は愚者の役を。
賢者は賢者の役を。
在るがまま、為すがまま。
好きなときに好きな役を選び、好きなことを為す。
これ以上に大事なことが在るのだろうか?
いいや、ないね、在り得ない。
鳥ですら大地を駆けるし、魚ですら空を飛ぶ。
人間がそれをできない理由がないだろう、そうだろう。
それを自覚したのはいつだったか。
自覚のない間もそれに則って行動していたように思う。
まぁアレだよ、要するに―――生まれながらに理解っていたのさ。
んで童貞を捨てたのはいつだったかな~。
確か10そこそこだったと思う、うん、多分、おそらく。
あの頃は若かったなぁ……もう15年も前になるんだ、世間の流れは早くて嫌んなるぜぃ。
まだまだなってないから、首切り落とすのにも一苦労。
失敗する度に傷増やちまって、初の戦果は綺麗とはかけ離れたオブジェになっちゃったんだなァ。個人的には黒歴史ってやつ? ふはははは。
何はともあれ、そこからランプレヒト・ブーアメスターの波乱万丈の楽しみが始まったワケ。
うんにゃ、生まれも育ちもシティボーイですが何か?
とりあえず、そこから始まったワケですよ。
まず最初に所属したのは、その街を牛耳っていた犯罪者集団。
盗賊組合なんて言えば聞こえはいいんだけど、実際のところは東西南北のそれぞれの組織が大きな争いを起こさないように結んだ協定の維持管理組織でしかなかったわけさ。
そのうちの西。
主に謀略と暗殺に強い武闘派集団へ飛び込んだのだった! ばばん!
え? 効果音要らない?
臨場感とか全然違うと思うんだけど。
見習いから始まってメキメキと頭角を現し、ある日欲望が抑え切れなくなっちゃって組織の主だった強者を皆殺し☆で、おさらばジャーニーになったんだねぇ、そうだねぇ。
追っ手と刺したり刺されたり刺しまくったり、そんな熱い夜を半年ほど続けてたら、なんか邪神の教団からお誘いを受けたのさ。
言われた通りしてみたら、あら不思議、なんか邪神様の奇跡、一般で言うところの神聖魔法が使えるようになったと! はい、拍手~! って……ああ、無理か、めんごめんご。
確か最初がアポピスで、その後2回くらい趣旨替えして、今ホットでイケてるのはゾルフゲルターさま!
ん? いやぁ人気者ってツラいよねぇ。
なんだかさっぱりさっぱりさっぱり~、なんだけど、邪神さんに好かれるタイプみたいでさ。飽きちゃって教団抜けて加護を喪っても、すーぐ別の邪神が加護くれるんだよ。
マジで邪神殺し、的な?
はいはいはーい。
ぴんぽんぱんぴぉーん☆
さぁて問題です。
今回取り返しに来ちゃいましたこの木箱の中身。
アテナ教団さんはどこまで把握できているんでしょーかぁ?
お? お? お?
正解正解大正解~。
ご推察の通り、これは触媒さ、触媒。
偉大なる神の手によって作り出された、神を降臨なさしめる祭器。
正解した貴方には! 洩れなく! 永泊永日弾丸ツアー・アテナ様のお住まいへゴーが!
当たりまぁす!
当たりまぁす! 当たりまぁす! 当たりまぁす! 当たりまぁす!
当たりまぁす! 当たりまぁす! 当たりまぁす! 当たりまぁす! 当たりまぁす!
……っと、死んじゃった。
いやいや、遊び甲斐が無くて困るなぁ、司祭さんは。
ああ、でもこの街には司祭じゃなくて調査官として来たんだったっけか。
ちょっと頭に10本くらい長い針を貫通させたくらいで死んじゃうあたり、まだまだですナぁ。
本当に至らない。
真面目な話をすると世の中、実に間違っている。
世間は僕を邪神官とレッテル張りするけれど、その僕よりも神に対しての理解が足りていない。
幾多の邪神を乗り換えてきた僕以上の神学者など、ついぞお目にかかったことがない。
例えば。
なぜ神は祈りに応えて奇跡を起こすのか。
なぜ応える場合と応えない場合があるのか
神は特定のカテゴリーの人間の祈りに応えるが、そいつらがそれほどお気に入りだというのであれば、なぜ祈られるまでもなく自発的に奇跡を起こさないのか。
無論例外もあるが、調べた限り神々は何かルールに則っているように思えた。
さらにそれを突き詰めた上で到達した仮説があるんだ。
この世は神の蠱毒である、と。
世界という壺の中に混ぜ込まれた神々の存在争い。
不完全であるがゆえに完全であろうとする世界の中、己が存在を最も正統と認めさせるために画一のルールに則って相争う。
移り気な親に認めてもらうために自らを誇示する子供と言ってもいいかもしれない。この親と来たら薄情で、認めさせられなかった者は永劫認められず、認められる者は永劫認められる。
認められればその時点で過去から未来に至るまで正統となり、その座から落ちれば全てにおいて脱落するという酷い話。
すでに何回戦かもわからないが、その蠱毒は数限りない勝敗を産み、そして最後の一柱に至るまで、連綿とひたすらに続いていく。
仮説が出来れば次に必要なことは検証。
推論は検証を経て研磨され、不知の闇の中に光り輝く真実へと辿り着く。
奪い返すことに成功した木箱を手にする。
―――“不滅蟲”
木箱の中身に入っている存在。
形状としてはただの灰に見える。
だが正当な手続きを経ずに開閉した場合、この灰は手近な生物の肺に入り込み内部で発現。無数の蟲となって最終的に生物を中から食い破り数を増やす。
食い破った後は自らを燃やして灰となり、さらに広範囲に広がっていくという生物の形をした兵器。
元々はるか東の国に現れた魔王により生み出された存在を参考に、邪神ゾルフゲンダーの奇跡により作り出されたのだが、一国すら滅ぼしうるその能力はあくまで過程。
一定まで量を増やした灰はひとつに集まり、形を為す。
食い破った全ての生物の魂を魔力に変換することで、計算上は神を降ろし得るだけの器を形成するワケさ。
これをとあるところへ持っていき発現させることで、邪神を降臨せしめる。
それが今回の計画だったわけだが、よもや港で政府の密偵に連中にバレて持ち出されてしまうとは運が無かった。どこからか情報が漏えいしたと見るのが妥当だろうなぁ。
でもそれだけの収穫はあったしなァ!
そこで出会った青年を思い出す。
何があったのか見せないだけの自信があった斬撃を、それより圧倒的に遅い速度で避けたあの瞬間を思い出すだけでワクワクがやめられない! 止まらない!
彼我の距離、得物のリーチ、速度差、全てを読み切った上で、避けたという選択をした度胸。
さらに言えばちょっとだけ出した本気にも追随してきたのだから、もう申し分がない。
おっと、いけないいけない。ついつい涎が……。
スタイリッシュな邪神の剣士としては拭いがたい汚点だぜぃ。
あの怖ぁい聖騎士サマが不在のうちに退散するとしよう。
んでもってこの街を離れる際の置き土産でも準備しておきましょうかねェ。
次回、14話 「忍び寄る異変」
6月17日10時の投稿予定です。
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