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12.常識外能力

「以上です。まだ数日はこの街に逗留する予定ですので、何かありましたらアテナ神殿へご連絡下さい」

「ご協力感謝致します、聖騎士殿」


 深々と一礼する港湾警備の衛兵長。

 彼に見送られながら退室するアネシュカに続く。

 外に出た頃には太陽は天高く上った後で、昼を回っていた。


「いやぁ、助かったよ。アネシュカ」


 事情聴取の間ずっと座りっぱなしだった体を解すように、大きく肩を回す。

 あの狂った神官剣士と立ち回った際、体に在ったふわふわした感覚は無くなっている。違和感がないのはいいことだが、あのときの不思議パワーも無くなったと思うと残念だ。


「なんとか切り抜けたけど、あのまま戦ってたら分が悪かっただろうし。

 衛兵への事情説明も、オレなんか調べたら無職の不審者だからね、信用のある聖騎士様がやってくれなかったら、こんなスムーズにいかなかったよ」


 実際のところ、衛兵の詰所での聞き取りにかかった時間は2時間ほどだけども。

 もしオレがやってたら、身元確認するところからスタートして最低でも倍、場合によっては犯人扱いされて解放されなかった可能性さえある。


「どういたしまして。無実の者を助くるは神の御心に適いますから」


 ふわりと微笑むアネシュカ。

 なんとなく今までよりも雰囲気が柔らかい気がする。

 ちょっと打ち解けている的な。


「……? どうかしましたか?」

「いや、大したことじゃないさ。

 それよりもアネシュカが偶然、港に来ているとは思わなかったよ。例の冒険者の身元捜しの関係?」


 話題を変えるとアネシュカはほんの少しだけ顔を曇らせた。


「……それについては謝らないといけません。

 実は偶然ではないのです。貴方には監視をつけさせていました」


 な、なんだってー!?……って驚くほどのことでもないよな。

 むしろ、逆にしっくり来るくらいである。


 昨日初めて会ったときからそうだが、何度かオレを自由にさせている。

 怪しい邪教の儀式の関係者、さらに身元がわからないなんて怪し過ぎる相手なのだから、普通ならば拘束するなりなんなりして身柄を押さえておくべきにも関わらず、だ。

 だがその疑問も監視をつけていたとするのなら、全て解決する。


 ただひとつ、問題があるとすれば―――,


「監視ついてたのか……全然わかんなかった」


 まったくもって気づけなかったことくらいか。

 正直なところ尾行したり、されたりは素人なので気づけなくても仕方ないと諦められそうではある。


「ふふ、そうでなければ監視の意味がありませんからね」


 意味深に笑って誤魔化された。

 どんな監視なのか聞ければめっけものだったけど、そんなもんだろうな。

 バラしたら監視の意味がないし。


「気になるようでしたら、折を見て紹介しますよ?」


 おっと、いけない。

 顔に出てしまっていたようだ。


「私はここから少し離れた場所にいたのですが、その監視の目で貴方が巻き込まれたことを知り、すぐにやってきた次第です。

 さすがに慌てて全力疾走してしまいましたけれどね。まさか寄りにも寄ってあの男と遭遇するとは……つくづく常識では測れない運勢です、貴方」

「……いやぁ、そんなこと言われても本人としてはどうしようもないからなぁ。手間取らせてゴメン」

「いえ、でも今回のことは結果としては良かったと思います。災い転じて、という形ですね。

 貴方がここでの遣り取りに気づかなければ、危険な品の遣り取りが人知れずに完了していたはずですし、そして何より―――貴方の真贋を見極めることもできました」


 真贋?

 オレの偽物なんていたっけか。


「心根の話です。

 失礼ながらランプレヒトからの誘いを断った際の言動、感心しました」

「うっわ、聞かれてたのか……恥ずかしいなぁ」


 間違ったことは言ってなかったと思うが、それでもドヤ顔して啖呵切ってたのが、知り合いに見られると恥ずかしい。


「自らの命が係った状態で、あれを言い放てる。

 貴方がそういう人物であったということ……私の人を見る眼が間違っていなかったことがわかりましたから、実に意義がありました」


 こんな嬉しそうに言われたら、そりゃまぁ悪い気はしなくもないけど。

 どうやらあれで信頼を勝ち得たからこその、雰囲気の柔らかさのようだ。

 お堅い聖騎士サマの心の防御陣地を一枚突破したらしい。問題はまだいくつも防衛設備がありそうなことだけどな!


「気に入ってもらえたんならいいんだけど……この後のアネシュカの予定は? 時間あったら付き合って欲しいんだけどさ」

「一度、この木箱の件を神殿に報告をしてからなら構いませんが……」


 おぉ、そういえばそんなものも在ったな。

 邪神関係のヤバいブツ、ということで衛兵たちでは管理できず、一度アテナ神殿で封印してその処遇を都市のお偉いさんと真偽する方向になったらしい。


「んじゃ、またデートに付き合ってもらっちゃおうかな」

「……言うと思いました」


 はぁ、と呆れたようにため息をつく姿も絵になっている。

 美人ってトクだねぇ。



 

 そのままアテナ神殿に向かうアネシュカと一度別れて商店街へ。

 目抜き通りの左右に煉瓦造りの建物が並び、ちょっとしたスペースにも露店が建っている。

 交差する路地を少し覗いてみれば、そこかしこに看板を設けた店があり全部回ろうとしたらとてもじゃないが何日あっても時間が足りないほどだ。

 しばらく宿暮らしだからあんまり荷物増えても置き場に困るが、最低限の日用品はないとマズい。

 というわけで、えり好みしている余裕もないので、適当な古着屋に入って着替えを購入。


 日が暮れる前に運動場へとやってきた。

 ゆっくりと体を解しながら、軽く動かしていると丁度待ち人がやってくるのが見えた。


「お疲れ。報告は無事に終わったのか? アネシュカ」

「ええ。明日からの業務が増えることは間違いないでしょう」

「そりゃご愁傷様」 


 コキコキと手首を伸ばしながら苦笑する。


「やっぱりあの木箱、相当に重要なシロモノだったってことか」

「仮にも邪教徒が邪神の卵と呼んでいたものですから。調べてみたところ中に入っていたのは、とある邪神の祭器と呼べる品でした。

 然るべき場所にて、然るべき刻、然るべき方法で、然るべき犠牲を払えば、それこそ邪なるとはいえ、神と名乗るに相応しい存在を迎えることが出来るほどに」


 然るべき犠牲。

 そう聞いて頭に過ぎったのは、最初に見た記憶。


「あの祭器の出所と、関係者の洗い出しをしなければなりません。それも早急に」

「どっかで聞いた話だよなぁ」

「まったくです。こうなってみて考えると、単純な想定される被害状況だけ比べれば貴方が関わった儀式は、今回の邪神の祭器のための目晦ましにされた可能性も出てきます」


 邪神ゾルフゲルターの祭器の目晦ましとして、邪神アレスの儀式を行う。それが正しいとするのなら、二つの邪神の教団は繋がっていると見るのが妥当か。単純にお互いに利用しただけかもしれないが。

 それにしても、ここはどこの魔界かと小一時間問いたくなるほどの邪神のバーゲンセールだなぁ。


「明日から多忙だっていうなら、なおさら今のうちにお手伝い願おうかな」


 軽くタン、と大地を踏んで、その場で跳躍する。

 うん、問題なさそうだな。


「訓練でもするつもりですか?」

「ああ、なんていうのかな。ちょっと自分の今の立ち位置を知っておきたくて」


 その場で簡単にランプレヒトとの戦いの途中にあった不思議な感覚―――謎の身体能力向上について話した。


「なるほど……。それは確かに気になります」

「今のところ、あのときみたいな感じはしないから元に戻ってるんだろうけど。念のためにその確認と、あとはどんな風になったら、ああなるのかの実験もしておきたい」


 単純に強敵との戦いなのか、それとも他に何か条件を満たせば発動するのか。

 謎パワーに対しての興味は尽きない。


「まるで“常識外能力チート”のようですね」

「“常識外能力チート”?」


 アネシュカが少し考え込んでから話した単語に対し、鸚鵡オウムのように聞き返した。


「神やそれ以外の超常の存在に特殊な能力をもらう伝説や逸話は多くあります。

 そのひとつ剣神の徒の伝説の中に、本人が自らの力のことをそう表現した、というのがあるのです。

 それこそお伽噺に出てくるほどの古い言葉ですが、何かの条件を満たすだけで、あのランプレヒトと戦えるだけの身体能力を得ることが出来るとするのであれば、その表現が的確とは思いませんか?」

「なるほど、いい言葉だな」


 じゃあ、この能力が“常識外能力チート”と呼ぶに相応しいのかどうか、しっかり検証するとしよう。

 相手は名高き聖騎士様だ。

 強敵という意味では十分過ぎる。

 オレは、ゆっくりと剣を構えたアネシュカと対峙した。



次回、第13話 「生兵法は怪我の元」

 6月15日10時の投稿予定です。


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