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2話目です。
よろしくお付き合いください。
「お兄ちゃーん、りこ知らない?」
例の一件から、俺のあだ名がお兄ちゃんになった。
最悪だ。
あと時
膝の上の河中りこの緊張と周りの空気に我にかえった俺は
「わ、わりぃ。なんか妹とまちがった」と言い訳にも聞こえない事実をこぼした。
妹と間違って無断で同級生を抱き上げれば、それは間違いなく変態だ!
焦る俺になぜかぽかんと口をあけたままの河中りこ。
救いはたまたま同中出身の女子がいて、「そういえば年の離れた双子の兄弟がいるんだっけ?」とフォローのおかげでなんとか変態はまぬがれた。
だが、河中りこの見た目もあってこいつの保護者みたいに扱われるようになった。
変態よりはだいぶましだが、血も縁もつながらない他人の兄になってたまるか。
「知らねぇよ。どうせ如月のとこだろ」
10分の休憩のたびに河中りこは王子だと騒いだ如月を眺めにいく。
どこからか2組の時間割りを入手して、移動教室まで追いかける。
文字通りの追っかけだ。
泣くから言わないが、ストーカーに近いと思う。
「妹に好きな人ができて面白くないんだー」
「シスコンだな~」
話しかけてきたクラスメイトたちが楽しそうにくすくす笑う。
誰がシスコンだ。誰が。
舌打ちしたくなる。
誰かの面倒をみるだなんて家庭内だけてこと足りているんだよ。
授業開始の鐘がなりはじめると、河中りこが息をきらして教室に戻ってきた。
「王子は今日も安定のキラキラぶり~すきー」
机にへにゃりと伏せてすきすきいってる。
これは間違いない。
変質者だ。鼻息まで荒い。
「おい。次は数Ⅰだろ。はやく教科書だせ」
「数Ⅰ!?数Aでなく?教科書もってきてない」
やばいやばいと鞄をがさがさやってる。
違う組の時間割りを把握して、なぜ自分の時間割りが把握できてないんだよ。
「見せてやるから、机もってこいよ。課題やってるのか?」
「課題…?」
初めての言葉をきいたがきんちょみたいに、こてっと首をかしげる。
あほだ。
「5秒でうつせ。間違っててもしらん」
開いたノートを寄せた机にスライドさせると、河中りこは慌てて自分のノートにガリガリ書き写す。
数Ⅰの担当教諭は毎回課題をだして、授業始めに提出させるのだ。提出できないと、ペナルティーがつく。
ふと、顔をあげると周りの席のやつらが揃いも揃ってニヤニヤしてる。
目が合うと口パクで何か言ってる。
それが「シスコーン」だとわかる自分は相当りこの面倒をみている自覚がある。
イラつく。
どいつもこいつも。
視線の先で書き間違えたのか、河中りこが筆箱の中をごそごそやってる。
消ゴムがないのだろう。
つい自分のペンケースから消ゴムを取り出すとノートの上に転がしてやる
「発見!」
発見じゃねーよ、俺のだよ。
あとで返せよという意味をこめて睨み付けてやるが、河中りこは気づかないし、周りのにやにやは相変わらずだ。
深いため息が口からもれ出た。
俺の高校生活はこんなはずじゃなかったはずだ。