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ひと夏の大邪神  作者: あけちともあき
邪神生活2日目:褐色お姉さんイブ登場
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8月2日、出動要請は突然に~彼女が私服に着替えたら~

この世界が守の能力を押さえ込んでいるため、彼の発する瘴気とかは、「グフッ」とか「グヒッ」という声となって他の人の耳には聞こえます。

 翌日、目が覚めると隣で金髪の美少女が眠っていて、心臓が止まるかと思った。

 昨日の荒唐無稽な事件を思い出すと、まあなんとなくこれでいいのだ、的な発想になって、守は起き上がった。


「ううん……マモル様、おはようございます」


「おはようございます、シャタクさん」


 シャタクの寝相が悪くて、ベッドからマモルの布団まで転げ落ちてきたらしい。

 ダブっとしたスウェットも可愛らしい彼女の目が覚めるまで待って、洗面所に連れて行く。

 一緒に顔を洗うと、母が着替えを持ってきた。

 シャタクの服は、昨日着ていたドレスしかないから、これはなんとかしなければなるまい。


 守が自室で着替えてリビングに行くと、いつの間にやってきたのか、祖父が父と何やら相談をしていた。


『守、おはよう。よく眠れたかのう』


「守おはよう。朝いきなりおじいちゃんがやってきてな」


 この、全ての次元と時間に偏在するおじいちゃん、実は父方の祖父である。

 こんな怪しげな人から、こんなイケメンの父が生まれるわけで、世の中はよくわからない。

 ちなみに父には、あまり似ていない双子の弟がいるとか。


「おはよう、じいちゃん、お父さん。一体どうしたのさ」


「おはようございます」


 シャタクもやって来て食卓につく。

 母が全員分の朝食を作ってきて、今日は朝だというのに賑やかで、目玉焼きだって二つ。リッチな気分だ。


『うむ、事情を話しておこうと思ってな』


「それにしても、急だよ父さん。守は今、特別講習だって受けてるんだぞ」


『今でなくてはならんのじゃよ。ほれ、迅速に動いたお陰で、守の可愛い彼女も助かったじゃろう』


「うーむ、それを言われると……」


 父と祖父が話し合うのを横目に、守は目玉焼きをご飯に載せて、醤油を回しかけてさらさらっと食べきってしまう。


「守。母さん、今日はシャタクさんのお洋服選びに一緒にお買い物行くから。終わったらあんたを迎えに行ってもらうわね」


「はい、お母様。私とっても楽しみです」


 すっかり順応している風なシャタクである。


「うん、それじゃあ僕も行ってくるよ」


「いってらっしゃーい」


 家族に見送られて家を立つ。

 二駅ほど電車で揺られて、次にバスで揺られれば、守が通う高校、城聖学園高等学校である。

 夏季のみ行われる特別講習は、特別補修とか色々呼ばれてはいるが、外部にも広く門戸を開いた講習である。

 有名学習塾の講師を招いての講義内容は実に奥深く、濃い。

 守は勉強自体は苦では無いし、一人でコツコツやるのが好きなタイプだから、講習には参加していた。


 教室に入ると、無意識のうちに友人を探す。

 高校に入って出来た数少ない友人の一人、坂下郁己である。

 昨日は彼に会えて、ちょっといい気分で帰宅して夕食を摂っていたら、いきなりの異世界召喚である。

 郁己の彼女である勇に声をかけてもらえたせいかもしれない。あまりに運が良すぎる一日だった。

 

 顔見知りはいた。

 守を苦手としている多くの女子の一人、丸山英美里である。

 上昇志向の強い女子で、こういう講習会には残らず参加しそうなキャラだ。

 例に漏れず、昨日は守を見ただけで悲鳴を漏らしていた。

 そういう反応にはすっかり慣れているが、やはり気持ちのいいものではない。


 一人受講生たちとは距離を取って、一番隅の最前列に座る。

 講義が始まった。


 午前も終わりに差し掛かると、学内のプールのほうが騒がしくなってくる。

 設備が充実して大きなプールを有する城聖学園は、夏の間のプールを一般開放している。

 勿論有料なのだが、この期間だけ食堂はちょっとしたレストランのようなメニューになるらしい。

 昨日もちょっと奮発したご飯にした守は、昼食を楽しみにしていた。


 食堂にやってくると、人だかりがある。

 学生たちのワイシャツや、プール利用者たちの衣服の隙間から、白いワンピースを着た誰かが見える。

 金色のものが見えたから、まさか、と思ってのしのし動いた。

 ぎゅっと割り込んでくる守に、苛立った目を向けたプール利用客、守を正視した瞬間に腰を抜かし、口をパクパクさせて黙りこむ。

 守が進む先、人々がモーセの十戒を思わせる動きで、ざざっと左右に割れて道を作る。


「マモル様!」


 そこには、屋内だというのに真っ白な麦わら帽子を被った、ワンピース姿の少女がいた。

 大きな帽子でも隠し切れない豊かな金髪が溢れ、彼女の背中や肩を彩っている。

 手にしているのは、これもまた真っ白な日傘だろうか。


「一緒にお昼を食べてきなさいって、お母様が」


 軍資金をもらったらしい。


 金髪のとんでもなく可愛い女の子が、異形の男子高校生と親しげに会話をしだすのだから、周囲の人々は驚きで目を見開いた。

 とても現実の風景とは思えない。正気がゴリゴリ削られていくような光景だ。


 守とはハンバーグ&スパゲティ定食。シャタクも、「マモル様と同じものを」とお揃いである。

 麦茶を傍らに、食事を始める。


「あ、あのシャタクさん」


「はい、マモル様」


 食事をしながら言葉を探していた守だが、なんとか口を開く。

 かけられる言葉を半ば予測してなのか、シャタクが目を輝かせて守の言葉を待つ。口元にはナポリタンのケチャップ。


「そのさ、洋服、すごく似合ってるよ」


「ありがとうございます!」


 シャタクの笑顔が胸にキュンキュン来る。

 成り行きだったけど、彼女を助けてよかった。

 それはそうと、可愛い彼女の口元が汚れてるのはいただけない。

 守はテーブルに設置されているボックスティッシュから一枚取ると、身体を伸ばしてシャタクの口元を拭ってやった。

 シャタクは澄ました仕草でされるがまま。

 口元を綺麗にしてもらうと、


「ありがとうございます、マモル様。お心遣いを感謝です」


「う、うん、まあね」


 もごもごそれだけ言うと、守は目の前のハンバーグに食らいついた。

 結局のところ、そんなこんなで午後の講義は頭に入ってこなかった。

 機械的に板書と講義内容はメモしていたから、後で落ち着いた時にでも復習しなければ、である。


 シャタクは図書室で時間を潰していたらしく、迎えに行くと、今日読んだ本の話をしてきた。


「マモル様の世界の本は面白いのですね。年頃の男性と女性が出会って、情欲のまま周囲を振り回し、家々の思惑を無視して結びついて終わってしまうなど、衝撃的な展開にハラハラしっぱなしでした」


 それはごく普通の恋愛物ではないだろうか。

 シャタクの世界ではそういうジャンルの作品が無いんだろう。

 というか、本自体あるのか怪しい。

 口伝とか。

 ちなみに日本語は、守と常識を同期しているので読めるし、理解できるし、話せるのだそうだ。


「僕の家にも本が幾らかあるから、読んでいいよ。あと、良かったら買ってあげてもいいし……」


「本当ですか! 実はお母様との買い物の途中で、本屋があって読みたい本が……」


 そんな会話をしていたら、突如、守のポケットからキィーンという高い金属音が鳴った。


「あれ、これって鍵……?」


 取り出した銀の鍵が光を放っている。

 シャタクの顔が引き締まった。


「マモル様、これはどうやら……」


「うん、僕の出番のようだ」


 守は少し開けた道に出ると、空間に鍵を突き入れた。

 気が進まないが、任された仕事だ。ちょちょっと果たしてくるとしよう。


 邪神出撃である。

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