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ひと夏の大邪神  作者: あけちともあき
邪神生活1日目:金髪美少女シャタク登場
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8月1日、肉を焼くぞ!ダディクール、穿いてないって本当ですか。

 扉を抜けると、そこは我が家だった。


 別に伊豆の踊り子的な情緒なんて何も無く、平凡な3LDKマンションの一室、その食卓へと守は帰還した。

 さっきまでの体験は夢ではなかったのかと思うが、手のひらを包む暖かい感触がその思いを否定する。


「あら、お帰んなさい」


 母がお肉を食べながら言った。


「守、トイレに行ってたのか?」


 父がお肉を食べながら言った。

 二人とも目を丸くしている。

 それはそうだろう。守は突然、その場から消えて、そして突然その場に現れたのだ。

 むしろ、息子が消えてもずっと肉を食べていたらしい両親が凄い。

 どうやらパニックになったらしいのだが、まずは肉を食べようという事になり、食事を続けていたらしいのだが。


「ただいま。僕の分のお肉まだ残ってる? あと、彼女の分も」


「残ってるぞ。……というか、守、そちらのお嬢さんは?」


 父が疑問を呈すると、シャタクが二人に向けて深々と頭を下げた。


「マモル様のご両親であらせられますね。私、シャタクと申します。マモル様には大変お世話になり、これからもお世話になる、マモル様にお仕えする者でございます」


 両親がざわざわとざわめく。


「ま、守が女の子を連れてきたぞ! 外人さんだぞ!」


「でも挨拶もきちっとしてて日本語できるみたいだし、いい子っぽいじゃない!? ええと、その、シャタクさんは守のお友達なのかしら」


「はい、私はマモル様のために生きています。この身も心マモル様のものでございます」


「ちょちょ、ちょっとシャタクさん!?」


 シャタクが屈託の無い笑顔を見せて答えると、守の両親の目からどばっと涙が溢れた。


「おおおおお、ついに守が恋人を連れてくるようになったかあ……!」


「あなた、今日は本当におめでたい日だわ。もっと、もっといいお肉を焼きましょう」


 二人はひとしきり興奮したあと、立ち上がるとシャタクに向かい、深々と頭を下げた。


「守のこと、どうぞよろしくお願いします」


「あ、はい、こちらこそ」


 慌ててシャタクも頭を下げる。

 なんだこれ。


「よおし、母さん、一番いい肉を頼む!」


「任せて、あなた!」


 母がのしのしと台所に消え、山のような肉をもってくる。

 ヒュウ! 今日はお肉パーティだ!


「さあ焼くぞ! どんどん焼くぞ!」


「ダディクール」


 守のテンションも上がってきた。

 訳が分からないながらも、シャタクもニコニコしている。


「父さんも今日はビール空けちゃうぞ」


 父が毎週末に大切に飲んでいるビール六本パックだが、平日だと言うのに今日はそれを開けてしまう。


「母さんも飲みなさい」


「ええ、いただくわ」


 乾杯である。

 守とシャタクの目の前にはジョッキかと見紛うようなグラスに並々と、コーラ。

 ダイエットじゃないコーラ。

 四人で大いに、飲み、食った。


 食後にメロンまで出て、守はご機嫌である。

 お皿を洗うのを手伝うというので、シャタクが母に続いて台所へ行ってしまった。

 残されたのは父子である。

 父は静かにビールを飲みながら、


「守。母さんなあ。守は自分に似てるから、きっと苦労するだろうって心配してたんだ。母さん美人だけど、世間一般からするとちょっと変わった感じだろ? 父さん、普通の人間がクリーチャーに見える脳疾患を負ってから人生に絶望してたけど、母さんと出会えて救われてなあ」


「ああ、やっぱり僕は母さん似だったんだね」


「守は俺と母さんの自慢の息子だ。頭だって悪くないし、運動神経だっていい。心根は優しいし、飯だって美味そうに食う。だけどな、世の中、人とちょっと変わった見た目だってだけで平気で差別するんだ。俺はそれが悔しくてなあ」


 守の父親は、いわゆるイケメンである。

 すらりと背も高く、痩せ型で若作り。毎日筋トレも欠かしておらず、脱ぐと凄い系の痩せマッチョだ。

 職場ではその容姿とバリバリ仕事をこなす能力、さらに並外れて高いコミュ力で、この若さで次長に抜擢されている。

 上司からも部下からも信頼が篤く、当然の如くモテる。

 だが、彼はまっとうな女性を恋愛対象としてみる事が出来ないため、職場の女性からのお誘いがひっきりなしにも関わらず、絶対にその誘いに乗ることは無い。

 母一筋なのだ。


「守が女の子を連れてきてな。俺も嬉しい。本当に、我が事のように、いやそれ以上に嬉しい。だが、一番嬉しいのは母さんなんだ」


「ああ、分かってるよ。なんか棚ぼた的展開だったけど、僕は頑張るよ」


「それでこそ、自慢の息子だ」


 微笑みながら、彼は守の肩を叩き、美味そうにビールを飲んだ。

 何やらしんみりした話になってしまったが、シャタクが戻ってきたらその余韻なんて吹き飛んだ。


「大変よ守! シャタクちゃん、下着の替えが無いんだって。パジャマも母さんのだとだぼだぼでねえ」


 なんと、守はシャタクと共にコンビニに行く羽目になってしまった。

 彼女の下着を買わねばならないのだ。


「下着、とは下帯のことでございましょうか、マモル様」


「よく分からないけれど、多分そう」


「私たち蛇の一族は、大蛇形態に変身する事があるため、下帯を身につける習慣がございません。ですから今も」


「えっ、穿いてないの」


 なんということだろう。隣にいる金髪美少女は穿いてないのだ。

 それでその露出度が危険なドレス姿。少しでも派手に動いたら危ない。


「ですが、マモル様の世界では穿くのが規則なのでございますね。大丈夫です。このシャタク、慣れぬ決まりにも適応して見せましょう」


「なんていうか、シャタクさん動じないよね。異世界に来たら結構挙動不審になったりするもんじゃない?」


「あ、はい、それに関しては、先ほどマモル様の眷属にしていただいた際、マモル様がお持ちの常識などは私と共有されましたので」


「おお、便利だね」


「それはもう、マモル様は神様であらせられますから、万能なのでございます」


 そんな会話をしながらコンビニに。

 選ぶほど下着の種類も無いから、多分この辺のサイズかなっていうのをチョイスして、母から言われていた買い物も済ませる。

 それは、シャタクの歯ブラシだったり、タオルだったり、寝巻き用のスウェットだったり。

 父のワイシャツを使おうという話もあったが、下着をつけたとして、その上がワイシャツ一枚だけとかどれほど挑発的な格好なのだ。


 コンビニの店員は最初、守を見て目を剥いて仰け反り、続いてシャタクを見て眉尻を下げてデレデレした。

 まこと、人の世というものは外見で全ての反応が決まる。


 帰ってきてさあ入浴だと言うところで、またひと悶着あった。


「マモル様、お背中をお流しします!」


 守が入浴してすぐに、一糸まとわぬシャタクが乱入してきたのだ。

 守は甲高い悲鳴を上げて逃げ惑うが、悲しくも狭い浴室の中、すぐに洗い場に追い詰められ、背中を丹念に流されてしまった。

 ぴかぴかである。石鹸の香りだけでなく、別のいい匂いも染み付いてしまった気がする。


 二人で一緒にお風呂から上がってくると、両親がそれを見てまた涙ぐむ。

 やめてほしい。

 伊調家は3LDKなので、客間に使える部屋が存在する。

 本来シャタクはその部屋に寝かせようという話になっていたのだが、本人が強く拒絶した。


「いいえ! 私はマモル様へご奉仕するためにこちらにやって来たのです。同じ部屋を所望いたします!」


 ということで、女の子を床には寝かせられまいということで、守が床に布団を敷いて寝ることになった。

 女の子と同じ部屋で寝るなんて初体験で、守はドキドキである。


「それでは、明日もよろしくお願いします、マモル様。お休みなさいませ」


「お、おやすみ」


 電気が消えた後、


「マモル様の匂いがします」


 とか聞こえてきて、こんな状況で眠れるわけが無い。

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