8月9日、ぶらり邪神散歩、ファミレスへ
今日の夕方ごろに決戦だ! なんてことになったわけで、守たちは午前中はフリーであった。
とりあえず、腹が減っては戦が出来ぬということで、昼食を外で食べる事にした。
三人と一緒に外を歩くと、実に目立つ。
目的地はロードサイドのファミリーレストランなのだが、そこに至るまでに多くの人のめについてしまうのだ。
小さくて丸々っとした守と、金髪の絶世の美女、黒髪褐色肌のスレンダーな美女、アルビノの豊満な美女が一塊で歩いている。
主に喋っているのはイブとアトラである。
やれ今朝方インターネットでみた情報がとか、朝の再放送テレビアニメが面白かっただの、他愛も無い話をしている。
一緒に暮らしていると、流石にそろそろ三人のキャラクターというものが理解できるようになってきた。
イブは、ネットサーフィン大好き。
正誤関わらず、あらゆる情報や知識を集めて分析し、ひたすらの己のものとしていくのが楽しいようだ。
時折得意げに、得た知識を披露してくれる。
目下お気に入りは、ニュースまとめサイトだ。
アトラは娯楽作品が大好き。
テレビ、DVD関わらず、場合によってはPCでも映画やドラマ、アニメを見ている。
役者の上手い下手や、脚本の出来不出来は関係ないらしい。
とにかく雑食だ。
シャタクの趣味は守。
冗談ではなく、守の好きなものが好きで、守とひたすら一緒にいるのが好きらしい。
ただ、三人の中で彼女だけが持つアドバンテージは、料理。
シャタクだけが、守の母直伝の美味しいガッツリ系料理を作る事ができるのだ。
ガッツリ系料理以外はまだ作れない。
あと、読書を始めたらしい。
持っている情報量が多いイブは、とにかく何かあるたびに語る。
薀蓄でもなんでも、ひたすらぺちゃぺちゃ喋るし、知らないことがあるとなんでも聞いてくる。
アトラはそれに付き合って、ふむふむ、ほうほう、何じゃ! と聞き役に回る。
彼女は好奇心旺盛だが、別に知識を蓄えるでもなく、通り過ぎると忘れるので何もかも常に新鮮らしい。
シャタクはその横でニコニコしながら頷いている。
守は時折話しかけられ、真面目に応対している。
守はあまり女性に対する冗談や話し方が得意ではないので、いちいち真面目に反応するのだが、これは彼女たちにはかなり好印象らしい。
やはり人間の女性と、邪神や怪人の女性というのは感性が違うものなのだろう。
「マモル様、通り過ぎる方々が、みな私達を見ているようなのですが」
「あー、目立つからねえ」
「昨日の花火の時はそうでもなかった気がしたましたがな。あれは夜だったからですかな」
「イブは髪が黒いからの、馴染んでしまうのじゃろう。此方とシャタクを見よ。この色をしたものはなかなかおらんぞ!」
シャタクくらいの金髪と白い肌だったらいるかもしれないが、それに加えてあの美貌だとグッと出会える確率は落ちるだろう。
この三人、歩く場所が歩く場所だったら、スカウトのために声をかける者がひっきりなしに現れることだろう。
三人とも、注目を集める事に不快感は無いらしい。
というか、人間に対してこれといった感情を抱いていない。
アトラにとっては彼等の精気はおやつである。
今は人間の世界の食事がもの珍しいらしく、人間には手をつけていないが。
ということで、食事処に到着した。
それなりの規模の建物に、三人とも、ほう、という顔をする。
「私はまた屋台のようなものを想像していたのですが」
「ハイパーボリアの酒場よりも大きいが、間口は狭いのですな」
「変な色合いの壁じゃのう。何じゃ! 側面が全てガラスではないか!」
入り口脇の、全面ガラス張りが彼等の興味をそそったらしい。
いつもはこういう建物に無関心なシャタクまで、つられて見に行っている。
「まあまあ、中に入ろうよ。あんまり外でわいわいやってても目立っちゃうからさ」
「うむ、そうですな。しかしサイクラノーシュは新しい場所へ行くたびに、数々の発見がありますなあ」
知りたがりのイブにとっては天国のような環境かもしれない。
ちなみに、以前、おじいちゃんがイブならお金を用意できると言っていたが、何のことは無い。
硬貨やお札であれば、魔術の類で取り寄せができるのだそうだ。
どこからお金が消えているのかは怖くて聞いていない。
金銭方面でこちらの世界でクラス分には困らないだろうが、こうしていまいち常識が無いので、危ういのがイブである。
中へ入ると、ウェイトレスの女性が一瞬固まった。
この三人の印象は、守の印象をかきけすほどとんでもないインパクトらしい。
最近では自分が放つ悪いオーラを抑えられるようになってきた守は、むしろ箸休めのような存在だった。
常軌を逸した美女三人の隙間に太っちょが一人。
「き、喫煙席でしょうか、禁煙席でしょうか」
「禁煙席で四人でお願いします」
「か、かしこまりました」
あまりに焦ってなのか、人数を聞いてこなかったのでこちらが答える。
三人で平日の昼間、ぞろぞろと窓際へ移動する。
アトラのたっての希望で、一面ガラスの席である。流石にこの時間は日差しが強いので、半分はブラインドが掛かっていた。
店内を移動するだけでも、目立つ目立つ。
パフェを食べていた幼女が、三人をぽかーんと口をあけて見送っていた。
手にしていたスプーンが落っこちる。
けたたましい笑い声をあげながら喋っていたおば様たちのグループが、しんと静まり返ってこちらを凝視している。
賑やかなはずの昼のファミリーレストラン。
この店は、今やまるでお通夜のように静か。
「おお、窓際じゃ! 此方は日が当たるほうにするぞ!」
子供のようにはしゃぐアトラの声が響く響く。
四人で座ると、守とシャタクが通路側で向かい合い、窓際はイブとアトラとなった。
二人とも大きな一枚ガラスが非常に気になるようで、ぺたぺたと触って意見交換している。
水とメニューがやって来た。
「マモル様、このお店、一件だけなのにお料理の種類が多いのですね。それにやはりサイクラノーシュの絵はすごいです」
メニューに載る写真を見て、シャタクが驚いた声を上げる。
そしてすぐに、
「それで……どれが美味しいのでしょうか」
数があり過ぎて、イブもアトラも決めきれないようだ。
とりあえず、家で食べなれたもので良いのではないだろうか。
「じゃあ、みんなでハンバーグとライスにしようか。付け合せはエビフライやチキンや大根おろしから選べるから、それぞれ頼んでみよう」
ということで、ハンバーグが四つ来た。
ハンバーグエビフライ、ミックスグリル、和風おろしハンバーグ、目玉焼きハンバーグである。
それぞれを四つに分け、四人で食べ比べをする。
「……私はミックスグリルですね」
「我はエビフライが好きですな」
「此方はこのダイコンオロシというのが気に入った」
守の家では滅多に出てこないヘルシー食材である。大根おろし。
目玉焼きハンバーグは、ハンバーグに目玉焼きを載せただけではないかということで、物珍しさが無くて選に漏れたようだ。
この人たちは揃って健啖家なので、守と同じくらいの速度で圧倒いう間に料理を平らげてしまう。
三分くらいだ。
あまりこの世界の料理に感動したりはしないらしい。
美味い事は美味いらしいのだが、調味料の細かい味わいを感じ取れる舌をしていないようなのだ。
イブは酒を飲んでしょっちゅう感動している。
多分彼女は酒が好きなのであって、料理はさほど興味が無いだけだろう。
なので、デザートにはそんな大雑把な味覚の邪神たちも満足、チョコレートパフェで〆る。
甘く、冷たく、そしてざくざくしている。
分かりやすい。
複雑な食文化を理解できない邪神たちもこれにはニッコリである。
一人、イブだけパフェではなくビールを飲んでいるが。
お会計を済ませるその瞬間まで、店内の空気は静まり返ったままだった。
「あ、ありがとうございました。またお越しくださいませ」
ウェイトレスのお姉さんがお辞儀をしてみおくってくれる。
帰り道でシャタクが呟いた。
「随分と静かな場所でしたね。やはり、格式が高いところだったのでしょうか」