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ひと夏の大邪神  作者: あけちともあき
邪神生活7日目:ルリム・シャイコース撃退戦
19/28

8月7日、(カラオケボックスで)会議が踊る

 会議といえば密室である。

 こと、重要な会議であれば密室で行われるのが常である。

 それを盗聴し、会議を行う集団の利を害そうと言う存在がいるのだから、会議が密室で行われるのは必然であった。

 例えそのリスクが無くても、だ。


「マモル!! 何じゃこの機械は! 番号がたくさんついておるぞ! 何じゃ! ちっちゃいテレビなのかこれは! 触ると動くぞ! ほほー、美味そうじゃのう」


「アトラさん! ドリンクはちゃんとみんなで決定してから頼んでください! ほら、イブさんも本を読んでないで!」


「いや、ところがシャタク殿。この本には我がサイクラノーシュに来てから知った歌の名前が羅列されておってな」


 守は無言で、最初のワンドリンクであるコーラを啜った。

 隣の部屋からは、薄い壁を通して歌声が聞こえてくる。

 そう、ここはカラオケボックス。

 密室である。


「お待たせしましたー! ハニトー四つでーす! こっちがバニラで、こっちがチョコで、こっちがストロベリーで、こっちがミントでーす」


「待っておったぞ!」


「いいですか、みんなで分け合いっこですよ!」


「おお……疲れた頭脳にキュンと来る甘い香りである……!」


 女子たち大興奮。

 まるでサイコロのように四角く、巨大なハニートーストに突撃していく。

 守は無言で、追加のドリンクであるコーラを啜った。


「はい、マモル様あーん」


「マモル様、口をあけるといい。我の分をやろう」


「マモル! これ美味いぞ! 食え!」


 三方向から切り取った色々な味わいのハニトーを突っ込まれ、守はむしゃむしゃと大容量の食物を食らった。

 おかしい、会議が始まる気がしない。


「どれ、我は歌を入れてみよう」


 説明書を読んで理解したらしく、イブが一曲送信した。

 なんどド演歌である。

 しかもうろ覚えである。

 節回しがいい加減である。


「イブさんうまーい!」


「おおー、いいのう、盛り上がるのう!」


 二人がそれでも盛り上がっているのをみて、まあいいか、という気持ちになった。

 守はみんなが盛ってくれたハニトーを齧る。


「ふう、いい汗をかいた。マモル様も歌えるのですかな?」


 イブがマイクを手渡してきた。

 無論、守もカラオケくらいは行った事がある。

 むしろ一人カラオケはよく行っていたクチだ。


「じゃあ、僭越ながら僕が……」


 一曲、大好きな特撮もののOPを入れる。

 すると、流れてきたアップテンポなメロディと、画面に映し出された特撮ものの名場面集に、女子たちはどよめきを漏らした。


「こ、これは……!!」


「なんだか、すごそうな感じがします!」


「腹のそこがカッと熱くなって来るメロディじゃのう!」


 好評である。

 短い前奏が終わり、守、魂の歌唱が始まる。

 張りのある伸びやかなバリトンが流れ、節回し、テンポも完璧。

 元の歌手の癖を完璧にコピーしており、サビでやや遅れながらも、グッと盛り上げる歌い方を披露し、最後に伸びやかに番組名を歌い上げる。

 やんややんや騒いでいた彼女たちは、固唾を呑み、守が歌い上げるヒーローソングに聞き入る。


 伊調守という男は、アニソンと特撮ソングしか歌わない。

 だが、そのジャンルを一度歌わせれば、外見と凄まじいギャップの美声で高得点を叩き出す。

 カラオケ採点システム、上位常連の男なのであった。

 ただ、一人カラオケなので彼の実力を誰も知らない。


 今、シャタク、イブ、アトラの三人は、邪神ツァトゥグァの秘められた才能を目の前で感じ、人生観が変わるほどの衝撃を受けていた。


 僅かな余韻と共に曲が終わり、守はやり遂げた男の顔で席につく。

 その額には、己との戦いに挑んだ男特有の汗が浮かんでいた。


「マモル様!!」


 シャタクが守の胸に飛び込んだ。


「素晴らしい歌唱でございました……! 我が一族の歌姫でも、あの歌唱には及ぶものではございません……! 私、私、感動しました!」


「うむ……この歳になって、歌で泣かされるとは……」


 目を潤ませて鼻をすするのはイブである。


「何じゃマモル! お前上手いのう!! 此方は腰を抜かしたぞ!」


 アトラは大喜びである。

 ともかく、三人共に大絶賛であった。

 守に求心力が戻ってきたところで、守は会議を提案した。

 本題開始である。


「まずは、ルリム・シャイコースを足止めしないことには始まらないよね。あれは音速を超えている速さだし、あの速度で飛び回られたら、とても僕のパンチを当てるどころじゃないよ」


 正確には、動きに慣れてさえしまえば守一人なら勝てるのである。

 だが、少ないタイミングに合わせて一撃必殺を狙えば、そのパンチは周囲の環境を巻き込むような威力のものを放たねばならない。


「マモル様が全力でやれば、恐らくはサイクラノーシュが……いや、太陽系が揺らぎますな。ハイパーボリアは水の底でしょう」


「やっぱりかー……。それじゃあ、陸の上で勝負するわけにはいかないよね。何とかしておびき出せないのかな? ルリム・シャイコースが好きなものとか使って。イブさん、あいつの目的って何なの?」


「世界を滅ぼす事ですな」


「うわっ、凄く邪神」


「悪い奴ですね!」


「此方は人のことは言えんな」


 アトラク=ナクアも、彼女が作り続ける巣が完成した時、世界が滅びると言われているのである。

 今こうやって守に同行しているのは、アトラク=ナクアの魂の部分であり、目的は地属性の邪神の頭目である守に従うことと、あとは暇つぶしだ。


「彼奴の行動原理は至極単純です。脅威とするものを排除しようと動き、利用できる魔道師などがいれば、騙して己の餌にしてしまおうとします」


「魔道師か……」


「我が囮になれば、あるいは……ですな」


「危険そうだけど、それしかないかなあ……」


「なに、マモル様が守ってくださればいいのです。我がルリム・シャイコースと接触している時に、隙を付いて彼奴を宇宙まで吹き飛ばしてしまえばよろしい。後は、彼奴は新月の晩にのみ、無防備に眠ると言われていますが……」


「新月になるのは8月15日、一週間後だね。普通に飛べば、ハイパーボリアも新月一週間前くらいになるみたい」


「遠いですね……でも、そこまで銀の鍵で時間を飛ばせないんですか?」


「大陸に幾ばくかの被害が出るであろうな。完璧を期すならば新月狙いでよいだろうが」


「新月はまだまだ遠いよね。時間を飛ぶとなると……タイミングを間違うと意味がないし。よし、危ないけど、イブさんの作戦で行ってみよう」


 守が決を下した。


「幸い、我が魔道書にはルリム・シャイコースと遭遇した魔道師の口伝を記してあります。呼び出すだけならば、難しくはありますまい」


 イブは、ハイパーボリア最高の魔道師なのだ。

 彼女に呼び出せないならば、そもそもルリム・シャイコースを能動的に呼び出す手段など無いと言っていい。

 後は、呼び出す場所なのだが……。


「それは、僕に考えがある」


 守は三人に顔を寄せて、にやっと笑った。

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