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ひと夏の大邪神  作者: あけちともあき
邪神生活6日目:たんけん僕の大陸
17/28

8月6日、星の邪神、コモリオムへ行く

 何千年前の都市だというから、さぞかし田舎だと思ったのだが、来てみたら都会だった。

 途中で家に帰り、置いて行かれたので拗ねていたアトラの機嫌を取って、四人一緒に戻ってきたわけである。

 銀の鍵は便利なもので、目的地が明確であれば、そこへの扉が開く。

 どこで○ドアだ。


「数千年前って、一周回って未来なのかもしれないね」


 守が漏らした感想そのままの光景が底には広がっている。

 幾つもの真っ白な尖塔が立ち並び、街全体が白いな色彩に包まれている。

 街路のあちこちを水が流れ、それらは下水へとつながっていた。

 街を巡る不思議な金属製の管があり、その隙間からはガスが噴き出している。

 ガスは着火され、街のどこにも闇というものがない。

 そこは、中世を通り越した近代の都であった。


 屋台があったので立ち寄ってみる。

 何か巨大な白いイモムシを串焼きにしたものに、甘いタレをつけて売っている。

 銅貨一枚で買えるそうなので、十円玉を出したら通じた。

 守は全員分買い、近くのベンチに腰掛けて食べることにする。


「公園のベンチが普通に大理石と御影石で出来てるね。すごいのかもしれない」


「ちょっとお尻が冷えますね。私、今日下着つけてないから」


「我も下着をつけていませんな」


「此方は糸しか纏って無いからな」


 なんてことだろう。今日は三人とも穿いてないらしい。

 シャタクとアトラはわかるが、イブはどうして。


「いや、日々サイクラノーシュは蒸し暑いではござりませんか。下着などとてもつけておられぬ」


 つまり、この上着の下は全裸ということですか。

 守は今、姿が外に露見しないよう、アトラが作ってくれた糸の鎧のようなものを着ている。

 この頑丈なものを身につけていて助かった。

 でなければ、イブの裸を思い出して賢者モードから復活してしまった姿を見られていたところだ。

 三人に見られるのならばまだいいが、初対面の一般市民の皆さんに見られるのはいただけない。


「意外と美味しかったですね、この串焼き。今度サイクラノーシュでも作って差し上げますね」


「いやあ、あっちにはこのサイズのイモムシは居ないと思うなあ……」


 食事が終わった後、どうやらツァトゥグァ神殿があるというので覗きに行くことにした。


「ちなみにこの時代は、此方がマモルによって復活してから何年か経っておるようじゃの。空気が違うわ」


「確かに、我がサイクラノーシュに旅立ってから、まだ五日ほどだというのに、弟子たちは十年も経過していると」


「銀の鍵は時間の流れを無視して、好きな時代に飛べるということかの」


 知性派のイブと感覚派のアトラが話し合っている。

 色々説明してくれるから便利だなあ、なんて思いながら、守はまったりと街を歩いた。

 なるほど、肌の色も外見も、様々な人種がごった返している。

 背が高い人、低い人、色の黒いもの、白いもの、体格も違えば顔立ちも違う。

 店先から聞こえてくる言葉は、様々な国言葉がごっちゃになっていて、だが、商売に使う符号のようなものは共通らしい。

 まあ、この時代にまた来れるかどうかもわからない。


「へえ、これがツァトゥグァ神殿かあ……。うわ、なんだいこのオークとゴブリンを足してジャイアントで割ったような石像」


「それがマモル様ですよ」


「えっ!!」


 シャタクいわく、守の本気モードはこれに近いのだという。

 もっと毛が生えていて、太くてもふもふしているらしいのだが。

 客観的意見を言われて、ちょっと凹む守である。


「ここはコモリオムのツァトゥグァ総神殿でございますが……ハッ、もしや貴方様は神様!!」


 出迎えた神官が、いきなり守の正体を見破った。

 解せぬ。


「ど、どうして僕の正体が分かるんですか」


「外の石像に瓜二つでございます」


 ツァトゥグァ神殿だということで、身元を隠す鎧のようなものは外してある。

 なるほど、顔がむき出しなのだが、一応人間状態の守を見て見破る当たり、若干は繊細さが残った彼のハートにグサリと来る。


「やはり、マモル様が出す大物オーラは見間違いようがございませんからね」


 シャタクはなんだか別の方向で嬉しそう。


「うん、絶対違うと思うのですぞ、シャタク殿」


「醸し出すオーラは一緒だの」


 残りの二人はフォローしてくれない。


「良い所にいらっしゃいました。これも神の思し召し……いや、我らが神ご自身が光臨なされたのですから、運命というものでしょう」


 神官は大仰な身振りをしながら言った。

 自分に酔っているような様子だが、信奉していた神が目の前に現れれば、少しはおかしくなってしまっても仕方ないだろう。

 だが、次に彼の口から出た言葉は衝撃的だった。


「実は……ハイパーボリアの滅びを予見致しました」


「滅び!?」


「はい。白い炎に覆い尽くされ、やがてハイパーボリアは氷河の中に消える……そのような姿を見たのです」


 幻だ、たかが夢だと笑うこともできよう。

 だが、自分たちは世界の壁を超えて、この異世界へやってきている。それに、守は人間だとばかり思っていたら、自分は実は邪神だったのだ。

 予見された未来が当たるくらいのことは、起きて然るべきだろう。


「それはイホウンデーが絡んでる?」


「いえ、かの女神の力では無いと思われます」


「マモル様、白い炎とこの男、申しておりましたな。炎を扱うならば、それは決まっております。火属性の邪神に違いないでしょう。頭目は、ナイアーラトテップの天敵、クトゥグァですぞ」


 サミット会場を焼き払った中背の男。

 炎に飲まれて姿はよくわからなかったが、あの底知れぬナイアーラトテップが恐れた男が敵に回るのだろうか。

 それは、今までの戦いとは比べ物にならない厳しさかもしれない。


「ですが、クトゥグァ自体が敵になることはございますまい。かの神はフォーマルハウト星におわし、緻密な召喚儀式を経ぬ限り、こちらにやって来ることが出来ませぬゆえ……。つまり、やって来るのはもっと力の弱い、ですがハイパーボリアを白い炎で凍りつかせる事ができる邪神、ということになりましょう。我はこの邪神に覚えがございます」


 一息に告げると、イブは手にしていた魔導書を開くと、守も見たことがあるそのページを差し出した。


「ルリム・シャイコース。レッサー・オールドワンズながら、勇者どもなど比べ物にならぬ本物の邪神でございます」


 どうやら次の相手は、本当に厄介そうだ。

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