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ひと夏の大邪神  作者: あけちともあき
邪神生活5日目:開催、邪神サミット
13/28

8月5日、サマータイムラプソディ

「起きてください、マモル様。ねえ、起きて……」


 優しく揺り起こされる夢。

 耳に聞こえるのは、柔らかな少女の囁き声。

 甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 ああ、僕はこの数日夢を見ていた気がする。

 そう、全ては夢オチだったのだ。今は夏休みの惰眠をもう少しむさぼりたい……。


「どうしましょう、マモル様が起きません」


「ほう、ではシャタク殿、今のうちに好きな事をしてしまってはどうか」


「まあ、イブさん名案ですね」


 パジャマのズボンが下ろされる気配がして、股間がスーッとした。

 こ、これは……! パンツまで下ろされた!


「オーケー、二人とも、ちょっと待って欲しい……やめてイブさん、その手を離して!」


「なんと、マモル様は禁欲的なのだな」


「ちょっと残念です……って、マモル様、もう午前八時ですよ。寝坊です」


 下半身裸と言う状態で守は起床した。

 視界の隅には真っ白なハンモックがぶら下がっていて、一糸まとわぬアルビノの美女がぐうぐう眠っているが、そっとしておく。


「ええー、午前八時って早くない? せっかくの夏休みなんだから、もうちょっと惰眠を貪りたいなあ」


「いけません。今日の午後から邪神会議があるんでしょう? だったら、それまでの時間は私たちと遊んでもらわないと!」


「シュクダイとやらもあるのだろう? 我はこの世界の学問に興味があってな。ちと覗かせて欲しい」


 守はズボンを穿く事も許されぬまま、連行されていった。

 いらないというのに、甲斐甲斐しくお世話をされて普段着に着替える。

 顔を洗って居間に来ると、父がのんびりとタブレットを見ていた。

 伊調家では随分前から新聞を取らなくなったので、もっぱら父の習慣は、タブレットを使ったニュース探しだ。

 来週いっぱいは有休消化のために家にいるらしい。

 母は目に見えてウキウキしている。

 週末には、また二人で泊りがけで出かける予定があるそうだ。

 アツアツである。


「それじゃあ、朝はどうするのさ。宿題やるの?」


「うむ、それが良いでしょう。我が手伝おうではありませんか」


「イブさんは宿題の内容を研究したいだけでしょう。シャタクさんも一緒にやるの?」


「私はお母様にお料理を教えていただく約束になっているんです。マモル様が大好きなハンバーグやステーキと言ったお肉料理をマスターして見せます」


 三人で朝食を摂った後、シャタクは後片付けがてら、母と料理の勉強に。

 守は自室で宿題となった。

 普段は学習机を使うが、今日はイブがいるため、座卓を出してきてそこで勉強する。

 二人分の座布団を敷いた。


「ほう……これがこの世界の学問……。我はハイパーボリアでは、既に教える立場になって久しかったからな。弟子たちは元気であろうか」


 イブが置いて来た弟子たちは、その後彼女が集めた知識の断片を編集し、エイボンの書という魔道書を作るのだが、それはまた後の話である。

 久方ぶりに学ぶ立場となり、イブはウキウキした様子で、守がめくる問題集を覗き込んでいる。


「ほほう……。ほーっ。なるほどのう……。おおおお、そ、そんな切り口があったのか……。後世の学者も馬鹿にはできぬなあ」


 すっかり守に対してもフランクになったイブである。

 宿題をする守に体をぎゅっと密着させて来る。

 ちなみに、イブは普段、丈の短いへそだしタンクトップにローライズのカットジーンズ姿。スレンダーでかっこいいボディがむき出しで、実にムラムラ来るのである。

 それが恐らく天然で体をぐいぐい押し付けてくる。

 彼女の脳内は知的好奇心でいっぱいであろう。こんななりなのは暑いからだ。


「い、イブさんくっつきすぎでは……」


「なに、良いではござりませんか。我とマモル様は褥を共にした仲でしょう、これくらいの密着では……いや、これくら密着せねばシュクダイをしっかり見ることができぬ」


 本音はそれか。

 イブの妨害にも負けず、守は海に行っていて出来なかった分まで宿題を完遂させる。

 きっちりとこなしていけば大した量では無いのだ。

 イブが終わった宿題を見せて欲しいと言うので、守は問題集一式を彼女に手渡し、まずは大きく伸びをした。

 天に伸ばした拳が白いハンモックに当たる。

 アトラお手製のハンモックはゆらゆら揺れると、ぐうぐう寝ていたものが目を覚ました。


「何じゃ、朝か!」


「もう昼ですよアトラさん」


「朝も昼も変わらんわ。日が照っておるのだからのう」


 家の中では裸族主義らしい彼女は、申し訳程度に糸で必要な部分だけを覆い、守の部屋に降り立つ。

 彼女はむき出しのおなかをぽりぽり掻きながら、イブが熱中している問題集を覗いた。

 すぐに顔をしかめると、


「わからんのう。そんな物の何が面白いのじゃ! 此方はもっと建設的な事がしたい! あの塔とあの塔の間を糸で結んだりじゃな……」


 アトラは窓の外から見えるマンション二棟を指差す。


「アトラ殿、建物を糸で繋いでどうされるのですかな」


「何を言う! 糸で繋いでそれで終いじゃ。それ以上にやる事などなかろう」


 流石は世界が滅びる時まで巣を張り続けるというアトラク=ナクアである。糸を張ることそのものが目的とは。


「それはそうと、腹が減ったのう。何も食べなくても問題は無いのじゃが、この身体はこちらの世界に引っ張られていかんな」


「今、シャタクさんがお母さんと料理を作ってるから、もうちょっと待ってね」


 守は買い置きしておいたマイポテチを差し出した。


「おお、これは済まんのう。何じゃこれは! 芋を薄切りにして揚げたやつか! 人間と言う奴は、妙ちくりんなことを考えるのう」


 そんな事を良いながら、アトラはパリパリとポテチを食べ始めた。

 なかなか美味そうな音を立てて食べるので、守も思わず物欲しそうな顔をして見ていると、


「マモルも食べたいのかや? それ、元はお前のものじゃ。食べるが良い」


 アトラが直接、守の口元までポテチを差し出してきた。

 これは俗に言う、あーん、と言う奴では無いだろうか。

 守はありがたく頂いた。


「アトラさんは蜘蛛なのに好き嫌いないよね。僕も食べられるものなら大抵大丈夫だけど」


「体の方は世界が滅びるまで巣を張っとるからのう。せめて魂の此方くらいはフリーダムに暮らさねばバランスが悪いじゃろう」


 二人でぼりぼりとポテチを貪っていると、昼食の呼び出しである。

 本日は素麺であった。


 邪神とその眷属たちがずらりと並んで、素麺を啜る。

 最初は箸使いに苦戦していたイブとアトラだったが、


「マモル様と常識を同調するようにキスをすると、箸使いも上達しますよ」


 というシャタクの言葉に目を光らせた。


「ふ、二人共落ち着いて!? ねえ、今はご飯食べてるからさ、また後に……むぎゃーーー」


「おお、面白いように箸が使えるようになったのだ!」


「ほほーう、マモルのキスは使えるのう。此方も何かあればまた活用させてもらおう」


「ううっ、なんて強引な人たちだ……。例えどれだけ性欲に支配されたティーンの若者と言えど、こんな生活では毎日賢者モードだよ……!」


「それじゃあマモル様、最後は私が……」


「えっ、シャタクさんは必要ないでしょ……ってなんで服脱いでるの!? 今は真っ昼間だし食事が、アッーーーー」


 素麺はすっかり伸びてしまったので、シャタクが新しいのを茹でたらしい。

 いよいよ午後から、会議の準備である。

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