No.47 次の世界へ
出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第四十七弾!
今回のお題は「ヒーロー」「テーマパーク」「眠り」
7/13 お題出される
7/18 諸事情によりこの日まで一切ノータッチ
7/19 急いで書きはじめるも煮詰まる
7/20 うだうだしながらなんとか書き上げる
うーん、出来がいまいちの予感が……
ある日世界は、魔神とその眷属である魔族が襲来したとされている。魔族は人を襲う卑しき種族で、人と見るや否や襲う本能があるらしい。むろん、人より優れた知性と運動能力と……魔術と呼ばれる奇怪な、科学を凌駕した奇抜な術により、魔族の方が優位かと思われた。
人類の化学はまだ歩きはじめたばかりであり、蒸気機関に火薬と言った物が一般に出回り重火器による戦争という物を始めたばかりであった時代に魔神は襲来し、人々の生活を根底から覆した。人々は魔族との抗争が為に一致団結。襲来したとされる大西洋に彼らは移動できる島を築いたという。人類はそれから数十年の間、魔族を探して殺す為に注力している。
魔族は強力であり、全速力の鉄道の直撃を真っ向から止めたとされる魔族すら居る。銃弾を回避したり指で摘まみ止める者などもいたらしい。そんな強力な存在でありながら人類を襲うと言う猛威に対し、人類は成すすべがないかに思えた。誰もが魔族への恐怖に押しつぶされそうになった時、魔族と対をなす様に……『神』が現れた。
『神』は人類の中より6人を選び、魔族を“真の意味で殺せるように”した。それは人には過ぎた力であり、6人はまさに神のごとき力を与えられていた。その力をもってして『神』から与えられたとする使命の元、この6人は魔神を封印したと言われている。故に人々は彼らをこう呼んだ……六英雄、人類の希望、絶対的なヒーロー、人類の頼るべき寄り辺にして……支配者。
と、そんな事を書いている私の名は、アイリーン・シアトリア。歴史学者であり、趣味として三文物書きをしている。六英雄の支配する土地の中でも過激である土地とされている日本に何とか向かう船に私は乗り込んだ。
荒波に船は揺れており、密航用のボロ船が海の魔族に会わないように祈るしかない。船室の電灯は瞬き、全長40mほどの漁船に偽装した船は今にも海底に沈みそうだ。そして……
「うっ! ……ぷ!!」
かれこれこの船旅が始まって3度目の吐瀉である……。勘弁してほしい。こうなるであろうことは容易に想像していたので、乗船前の夕飯は抜いたというのに……どうせなら、あの上手そうな台湾料理を食べておくんだった。嫁入り前とかそんなの関係なしに屋台で酒をかっ込みべろべろによってウヘウヘ言っとくんだった……。
ともかく、船は瓦解することなく、無事に日本に付いたようだ。
時間にして深夜の4時。鎖国という名目の元、6英雄が一人、ウーレン・ファンが納める、芯帝国領日本平和自治区、通称日本。宵闇に紛れてその全貌はようとしてしれないが、元清国人のウーレンが自身の国すら平らげ、アジア一帯を支配したこの芯国において、日本は酷い統治下だと聞く。曰く、ウーレンの両親が日清戦争で日本兵に殺されたからとか、曰く、日本の文化の大元が清国発祥だというのに日清戦争を起こしたことが気にくわないからとか、はたまた、彼の生まれ育った国が海洋に出る際に邪魔だったとか……そんないわれの元、この日本はかつて、西南から北東へ長い島を中心にした国だったらしい。今となっては、ウーレンの持つ6英雄の力で大小20の島国の集合体と化している。その中でも一番大きな島、富士島へと上陸したわけだが……まずは話を聞かなくてはならない。それから、現地の服装を拝借して……今、この国で何が起きているのかを見極めることが、私の使命だ。
そして、私の予想が正しければ、次に『ダークネス』が現れるのも、この日本のはずだ。
先々月、6英雄の一人、イワン・ライラコフが“左半身だけ残して”死んでいるのが見つかった。神に等しき超常の力を『神』から授かった存在がそんな状態になったことに世界は震撼した。そして大いに恐れた。6英雄を殺すような、人々の希望に影を落とす“闇のような存在”が居る。魔神への対抗手段を持つ存在が居る。……そんな恐ろしい情報は先月の二人目の6英雄の死亡情報漏えいにより、現実味を帯びてきていた。更に、先月の際には『ダークネス』が人間であったのではないかという痕跡が見つかった。少なくとも、知性のある魔族か……その二択……あるいは、新たな6英雄……? ともかく、私の読みが正しければ『ダークネス』が次に狙うのは、日本のウーレンだ。
一緒に密航してきた人たちは何が目的か分からないが、それぞれ四方八方に散って行った。私はとりあえず、近くの街へ、灯りのある方へ進んでいった。
そこはスラム街だった。黒髪に黒い目をした小柄な東洋人。なるほど、日本人というわけだ。子供のような背丈で老人のように顔に深い皺が刻まれているのを見ると、何とも不思議な気がしてくる。灯りはスラム街の中心部で、ドラム缶の中で焚かれているかがり火の物だった。老人に子供、男は居らず、女も痩せたのしか居ない。……ともあれ、買い物を済ませて、早々にここを後にしよう。治安が良いとも限らない。
質素な綿のごわごわした服を購入し、町はずれの木陰で早々に着替えていた時の事だ。かがり火の光とは違う、人工的な光が街を照らした。それは……
「人畜共! “補給”だ! 今回は14までの者を連れて行く!」
軍服に身を包んだ者だ。おそらく、6英雄の指揮する治安維持のための軍だろう。数にして5人ほどだろうか。私は即座に近くの建物の裏に隠れ、隠し持って来たカメラを組み立てる。光源的に逆光だろうが仕方ない。フラッシュは焚けないのだから贅沢は言えない。
「そ、そんな! 16歳までの男子はもう差出したではないですか!?」
かがり火に当たっていた老人が軍人に詰め寄る。それを軍人は殴り跳ね除け、跳ね除けるのに使った右手をハンカチで拭いている。老人は地面に突き飛ばされて血を吐いている。
「だからどうした? お前ら日本人は、かつて清国が目をかけてやったにもかかわらず先の大戦で戦争を吹っかけて来た! お前らに人権は無い。今、この国を統治しているのは芯国の新暁皇帝、ウーレン様だ。その御方が、お前らに名誉ある“やられやく”を与えようと言うのだ、そもそも、ありがたいと思え!」
私はシャッターを切りながら、男の言葉を一言一句記憶し、メモを取る。
軍人は老人を足蹴にし、尚も踏みつける。そこへ一人の子供が進み出て来た。黒い髪に黒い瞳、ともすれば少女にも見えるほど、顔つきは幼く、それでいて整っている。……思えば、この時から、彼は普通には見えなかった。
軍人が彼に気付き、老人を踏みつけ乍ら彼を睨んだ。
「なんだお前は?」
「すみません、もうこの村で残ってる14以上の男は僕一人だけでして……」
「ん? お前、男か? ……ふーむ」
「僕は素直について行くので、乱暴にはしないでください」
軍人はため息をついて足を上げ、そして今一度大きく老人を踏みしめた。
「嫌だと言ったらどうする? そもそも、我々芯国特務隊に対してそのような態度で許されるわけがないだろうが! おい、12歳以上なら連れて行け! いっそ女や老人でも構わん。根絶やしにしてしまえ!!」
「そんな! なんでそんなことを!!」
「何故? 今、お前何故と聞いたか? 理由は単純だ。俺らが、お前らを統治しているからだ。我らが主である新暁皇帝ウーレン様が、お前ら日本人の住む土地の支配者だからだ。だから俺らは好き勝手にしていい」
軍人がそう言いつつ、腰から軍刀を引き抜き、そして、少年が駆け寄る最中、老人を刺した。
そして、呻く老人に歩み寄った少年の頭を老人ごと踏みつけて言った。
「持ち主が持ち物に何をしようと勝手だろうが!」
一瞬、何が起きたのか分からなかった。その勝ち誇ったセリフは、軍人の首から上から聞こえず、地面に転がるサッカーボールサイズの物から聞こえていたからだ。少年の手のひらからは光を反射する曲線が伸び、次の瞬間にあたりに血を振りまいて、軍人の首なし死体が痙攣しながら倒れた。
少年は返り血を空いた手で拭いながら、手に持った剣を着ている服で拭った。その姿は、先ほどの幼い少年ではなかった。返り血を浴びて、尚もひるまず、その手に持った曲刀で残りの兵士が銃を引き抜く前にその首や手足を切り落とす……魔族だ。人の姿をした、魔族そのものだ。
同時に、私の中の何かが告げた。彼こそが『ダークネス』だと。
私は建物の裏から出て、彼に声をかけた。
「ねぇ! そこの」
そこのあなた、と言うより早く、悪魔のごときにらみと共に、少年はその元の幼さをみじんも感じさせぬ気迫と共に私に刃を振り下ろした。思わず叫びながら尻餅をついた私の目の前に、切り落とされたカメラのレンズが落ちる。再度叫び声をあげたが、これは恐ろしさよりショックという意味での叫び声だ。
「え? あれ? 芯国軍の人間じゃない? 金髪だ」
「な、なんてことしてくれたのよ! ああ、なんて、ああ……このレンズ、高かったのに……」
「え? あ、その、ごめんなさい。というか、どなたですか?」
みれば、目の前に居るのは返り血でべっとりと濡れていることを除けば、10歳前後の子供だ。きょとんとした様子で私を見ている。
一度怒ったことによって、イニシアチブがこっちに移ったようで、私は必死に空威張りをしながら話した。
「私? 私はアイリーン・シアトリア。ジャーナリストよ」
「じゃーなりすと? えーと……」
「世界に真実を広める……あー、記者よ」
「ああ、なるほど。で、どうやって鎖国してる日本へ?」
「決まてるでしょ。密航よ。……あなたを探しに来たのよ、『ダークネス』」
「?」
少年は何を話されているのか分から無いようで、眉間にしわを寄せていた。
と、その背後で、腕を切り落とされただけの軍人の一人が、乗って来た車に乗り込み、荒い運転と共に街から去って行った。少年はその様子をさも当然と言うように見て、そのまま車を見送った。
「ああ、ごめんなさい。逃がしちゃったわね」
「いえ、先に手当をしなければなりません。手伝ってください」
そう言って、少年は刺された老人に肩を貸し、近くの建物へ連れ込んだ。私は話を聞けるだろうと踏んで、老人の手当を手伝ったが、少年は終始無言だった。仕方なく、『ダークネス』やジャーナリストに関して説明した。その際、ただぽつりと彼は困ったように笑いながら言った。
「おしゃべりですね、アイリーンさん」
翌日の昼、日が昇り切った頃、街には人がいなかった。芯国軍の報復を恐れて、朝には皆夜逃げしたらしい。
日が昇ってから分かった事だが、建物はみなトタン張り、廃材建築による吹けば壊れそうな建物ばかりだ。殺風景な光景に畑がちょっとだけ花を添えている。
「そういえば、名前、まだ聞いてなかったわね、『ダークネス』くん」
「その呼び方止めてください。八咫野 カヲルです」
ムッとした様子でカヲルは自己紹介をした。切り殺したはずの相手兵士の埋葬が終わり、一休みしている最中、彼は既に立つ用意を追えている。私は……
「ねぇ、付いて行っていい?」
「……良いですけど、面倒は見ませんよ。そんな余裕はないですし」
「いいじゃない。10歳ぐらいの子って、私は甥っ子の面倒見で慣れてるのよ」
「じゅ……あの、これでも15何ですが……」
「え? ええ!? いや、どうみても……ああ、これが、東洋人の“若さを保つ秘訣”なのね。なるほど、確かに幼く見えるわ。でも、男なら幼さを保つのは失敗じゃないかしら。ああ、どうせならその若さを保つ術を教えて欲しい……あ、待って、待ってって。私も行くわ!」
気が付くと少年は早々に歩きはじめていた。私は荷物をまとめて後を追う。
「で、目的地は?」
「……この先に、ウーレンの建設した趣味の悪いコロシアムが有ります。そこにウーレンは居るはずです」
「あら、どうしてか理由を聞いても良い?」
「出し物の内容です。彼は日本人を嫌ってます。同時に、自身の政の幼さを隠すために、国民に娯楽を提供してるんです。古代ローマ帝国のコロッセオみたいに、いや、もっと酷いですね。捕らえてきた人と捕らえた魔族を戦わせるんです。もちろん魔族による虐殺が行われるでしょう。そしたら、その後の魔族へのとどめを、ウーレンが有無を言わなぬ力で行い、それを見せつけるんです」
「なるほど、その出し物の為には、ウーレンはその催し物の最中、コロシアムから出れないって事ね」
「ええ、ですから、そこを叩きます……なんですか?」
と聞かれて私は自分の顔がほくそえんでいることに気付いた。
「ああ、ごめんなさい。目の前に6英雄を二人も倒した『ダークネス』が居る、しかもこれから3人目を討ちに行く、それを目撃できるかもと思うとね」
「だから、それ僕じゃないですよ。少なくとも、アメリカには行ったことが無いです」
「え? でも……」
「ええ、まぁ、二人目であるウィキカ・デキカは斬りました。東南アジアの解放戦線の方と協力してですが……あ」
「ん? 何か知ってるのね?」
一瞬少年は足を止め、そしてまた無言で歩きはじめた。
「なに? なによ? なにを思い出したの?」
「……いえ、確か……その、知り合いがアメリカに渡ってるんです。その人かも、と」
「おお!? つまり、『ダークネス』複数説ね! なるほど……! というより聞いても良い? いったいどうやって、6英雄を倒してるの? そのシャムシールの効果か何か?」
「しゃむしーる? えーと、童子斬りの事です? これは日本刀です。まぁ、名刀ですが……僕は特異体質でして」
そういって足早に歩く少年にあの手この手で聞こうとしたが、それ以上は何も答えてくれなかった。あからさまに顔に「面倒くさい」と書かれていた。
そして、夜の帳が下りるころ、空に向かってスポットライトの光の帯が伸びる円形の会場が視界に入った。色とりどりの花火を打ち上げ、スピーカーから男女のコーラスの声が聞こえ、中で血みどろの事が行われているとは思えないお祭りムードを出していた。
そして、この距離でも聞こえるほど、大音量で男の声が響く。
「今宵はよくぞ来た、芯国の民よ。新暁皇帝ウーレンである。また穢れた血が流され、我が『神』の御業で魔族が死に絶える。その事が、その奇跡がいかにして起きるかをよく見ておくとよい」
私は鼻で笑ってしまった。
「よく響く声です事」
「ここで待っていてください」
「おっと、それは言いこなしよ。言ったでしょ、ジャーナリストとして、全部を見届けさせてもらうわ」
「……良いですが、その際僕はあなたを」
「守れなくていいわ。私は私の身を自力で守って見せる」
「……変わった人ですね」
「そう?」
少年は困ったようにまた眉間にしわを寄せて私を見た。
「だって、6英雄を殺すようなこと、一般の人は認めない物でしょう?」
「だーかーらー、私はジャーナリスト。政府が止めてるような情報でも案外色々知ってるのよ? ……6英雄が、その立場を利用して色々やってる事に切り込むのは、世界ではタブーなのよ。魔神がもし今一度目覚めたら、世界は滅ぼされるかもしれない。そうなった時のために、6英雄の力が必要なのよ。ただ寝てるだけの世界の終末が起きた時のためにね」
「ということは、他の6英雄も……」
「万全の仁君ではないわ……私も、半ば国から逃げてきたようなものよ……だから、真の英雄を世界は求めてるのよ。干ばつをもたらす昼間を終わらせる闇夜をね」
少年はムッとしながらも、後頭部をかき、一人先に歩いて行ってしまった。どうやら照れているらしい。いや、カッコ悪いと呆れているのかもしれない。
ともあれ、実際問題、彼がどういう存在で在れ、6英雄を殺せるような存在であるなら、6英雄と同じく魔神を退けられるかもしれない。それなら、そういう新しい英雄が居るなら、今の暴君たちに従う理由はなくなる。……これは大スクープになる!
私はすこし先を行く少年に待ってくれと頼みながら早足で駆け寄った。
コロシアムに付くなり、すさまじい怒号と歓声が上がっていた。入り口の警備員になんとか少ないお色気で時間を稼ごうとしたが、颯爽とカヲルが屋根伝いに入り込むのを見て、私も反応の悪い警備員の白い目に耐えながら客席へと上がった。
そこに居るのは東洋人ばかりで、ところどころドイツ系などのヨーロッパ系、ユダヤ系の人間が居り、いかにもこれ見よがしに設置されたVIPルームがごときボックス席には真紅のカーテンが引かれている。ここからではウーレンは居るかどうか確認できない。
カヲルを少し離れたところに確認し、彼も私に気付き何か叫ぶ。
「僕、……アイリー……」
「え? なに? 聞こえないわ!」
何か言ったようだが、怒号と歓声でかき消され、何を言ったのか分からぬまま、カヲルは群衆の渦に消えて行った。一人悪態をつきながら、ひとまずカヲルの後を追った。
コロシアムの中心では、魔族が、聖書に出てくるような悪魔が、人間を紙屑ゴミのように引きちぎっていた。
黒く二本の角が生えた悪魔は、蝙蝠のような翼で空へ飛び立とうとするが、足を鎖でつながれている。そこへ人間が短いナイフ一本で挑み、それを魔族が回避、あえなくカウンターで殺される。その繰り返しだ。人間が逃げないように、周りにある囲いが時間経過と共に縮まっていき、それを人々はオペラグラスなどで覗き見る。狂気の出し物だ。
熱狂と狂気の最中、賭けごとを煽る声や酒を売る声などが入り乱れ、群衆をかき分けるのはなかなか大変だった。だが、私は何とかVIPルームの傍までたどり着いた。その時だ。歓声がひときわ大きくなり、VIPルームのカーテンが開く。どうやら、捕らえて来た人間たちが全員やられた為、ウーレンが締めを飾るらしい。
そのボックスルームの中には、煌びやかな清国皇帝の衣装に身を包んだ新暁皇帝ウーレン・ファンが、キワドイ衣装を身にまとった女性二人に支えられながら、食卓テーブルほどは有る巨大なクッションから立ち上がる姿だった。豪勢で煌びやかな装飾が施されたボックスルームは、そこだけ別世界のような作りだった。南国のフルーツに囲まれ、ボックスルームの中で更に真紅の傘を近くの女性に持たせている。そのウーレイの姿は、丸々と太っており、臨月の腹であるかのごとく膨れている。とても、このような存在が魔族を相手取れと思えない。さもうれしそうに、群衆に手を振って答えるウーレン。そしてマイクを取って大音量で宣言した。
「我が国の民よ、恐れるな。魔族はこうして、朕が倒して見せよう! これが出来るのは、我だけぞ!」
次の瞬間、ウーレイが手をかざしただけで、コロシアム中央、鎖につながれた魔族が胸から血を吹きだしながらのたうち回り始めた。ただそれだけだった。ウーレンは、手をかざしただけで、魔族を殺せるのだ。圧倒的過ぎる。その光景に群集の完成は夜空を砕かんばかりに鳴り響き、周りの音の全てを掻き消した。その瞬間を、カヲルは逃がさなかった。
カヲルは手に持った曲刀、日本刀によってウーレイに切りかかる。即座に周りの女性が寄って掛かって、カヲルを止めにかかる。先ほどのまでの雰囲気とは一転し、女性たちも武芸の心得が有るであろう動きで、どこからか取り出した剣でカヲルの相手をする。そして、カヲルの一瞬の隙をついて……その脇腹から血が噴き出す。ウーレンだ。まるで何か撃たれたような、何かが貫通したかのような傷だ。私はもう少し近くまで寄ることにした。群衆が騒いでいてなかなか近寄れないが、なんとか会話が聞けるぐらいまで近づいた。
「良い動きだな。人間の鍛錬にしては上出来だ。しかしどうやった? いったいどうしてだ?」
ウーレンはおずおずとカヲルへ近寄る。カヲルは脇腹を抑えながら、大粒の汗をかいて膝と手をついている。
ウーレンが言う。その言葉が、あまりの衝撃的だった。
「どんな魔族と取引をすれば、そのように強く、若々しく居られる? 何人の人間を生贄に捧げていれば、そのような姿に成れる? 朕もまた、そのようになりたいぞ! 魔神か? 魔神と契約したのか? そうか、ウィキカの後釜か?」
「……ぐっ」
カヲルは何とか立ち上がる。力んだ際に脇から血が零れ落ちる。
「でなければ、イワンの後釜に選ばれたか? まったく、切りかかるとはなんという弟弟子だろうなぁ」
ウーレンは笑いながらまたカヲルに手を向ける。カヲルは諦めたのか、日本刀を鞘に戻す。
「ちょっとびっくりしたぞ。ふふ。あと、ここは駄目だ。ここは朕の権力を確固たるものにするための場所。故にここで死ぬのは……お主だけだ」
次の瞬間、鞘から抜き放たれたカヲルの日本刀が七色に煌めき、何かを切り落とした。その瞬間、ウーレンが叫び声をあげて、先ほどまで向けていた手を抑えてのたうち回る。護衛を兼ねていた女性たちも何が起きたのか分からずに狼狽している。それはそうだ。ウーレイの『神』の力が、どうみても魔族のそれだったからだ。
切り落とされたのは“ウーレイの腕”だった。ウーレイの腕がコガネムシのように七色に変色し、その先から緑色の血を流していた。長さ2mほどの七色の触手が、斬られたトカゲのしっぽのように観客席でのたうち回る。観衆は何が起きたのか分からず騒ぎだし、ウーレイにその腕の討伐を願い出る始末。
ウーレイは怒り、その姿を人ならざる存在へと変えた。銀色がかった緑の巨財なガラス玉。そのガラス玉から触手が伸びている。大きさは数十倍に膨れ上がり、見上げるほどの大きさになった。その姿へと変貌したウーレイは、パニックを起こす群衆を片っ端から触手で打ち抜き、コロシアムの中心部へ投げ入れる。先ほどまで護衛していた女性すら投げ込んだりと、見境が無い。コロシアムの端まで届く触手が、ウーレイの持つ『神』から与えられた神のごとき力の正体だったようだ。その光速の触手と巨体とパワー。単純だが強力……。コロシアムに出来た血だまりはみるみるコロシアムの床に吸い取られ、そのたびにウーレイが大きくなっていく。斬られた触手もまた再生する。
「小僧! 許さんぞ! 生贄だ! お主も朕の生贄にしてくれる!!」
だが、ウーレイがカヲルの居た場所へ目線を動かしたときには、既に遅かった。ウーレイの触手は次々に切り落とされ、騒ぎたてるその雪だるまのごとき存在を頭上からそのまま両断した。緑の血が吹き出し、あたり一帯を染めていく。ウーレイの触手は私の眼には見えない速度で動き回っていたが、それらは次々に切り落とされ、そのたびに触手は再生しを繰り返し、無限に続くかに見えたが……
「ど、どういうことだ? なぜ、朕は『神』から力を授かっているというのに!」
触手を再生させればさせるほど、ウーレイの巨体が縮まり、その都度カヲルは距離を詰めていく。
気のせい、ではないようだ。カヲルもまた、その姿を異形のそれと化していた。頭上に生える二本の角に、全身を赤く色づかせ、二本の天を向いた牙、微かに電撃を纏ったかに見えるこの存在もまた、魔族なのだろうか。
6英雄も、カヲルも、魔族と“契約していた”? 魔族と……“契約”? 6英雄とは、『神』とはなんなのだろう?
息切れして悪態をつく、2mほどに縮まったウーレイがそのことを教えてくれた。
「くそぅ……くそぉぉぅ……『神』は言ったんだ。世界を混乱と混沌に落とし込み続ける限り、我らが世の中だと……そういうから、朕たちは、あ奴が満足する混沌という世に作り替え、そうすることで魔神を、『神』を封じて来たのに……! なのにぃぃいいい!! 全部台無しにしおってぇぇぇえええ!! なんのだ! 貴様も、魔族と契約したなら、混沌を申しつかっているはずだろうが!」
これに私が喰いついた。
「待って、それじゃあ……魔神と取引をしたの? 魔神に大人しくしてもらうために、世界中をめちゃくちゃな統治で支配してる、って? あなた……あなたこそ魔族じゃない!」
「なんだ貴様は? 朕の面前で、よくも……ああー、こんな恥さらしをよくもさせおって……ただで済むと思うな!」
とそこにカヲルが進み出る。一歩、また一歩とウーレイに近づくたびに、ウーレイが震えて逃げ出そうとするも、進むことができずに震えながら情けない声を異形の者が口にするだけだった。
カヲルが言う。
「僕は魔族と取引はしていない。強いて言うなら、神と取引をした」
「な、何を言ってるんだ? だから『神』と取引を……」
「いや、正真正銘の、神と取引をした。日之出国乃神、この国に昔からおわします八百万の神が一柱にこの魂は来世まで契約している。そして、僕がやられることになっても、残り数え切れぬ神々が、この戦争に参加することを決めている。他の国の神々もそうだ。契約してくれる人類を待ってるんです。あなた達には、負けません」
言われている事の意味を理解したウーレイは笑った。
「傑作だ! ついに神々も重い腰を上げたか! 無関心だったもんなぁ、己の国の民がこんなに死んだのに! やっととはな!! せいぜい頑張れよ、実に良い見世物だ。なにせ、6英雄はまだ3人居る! その後ろには『神』も居る! 鬼ごときで何ができるのか、どうせ殺されるのが」
カヲルは最後まで言わせずにウーレイの首を落とした。
と、その直後に、カヲルは膝から崩れ落ちた。体から蒸気が上がり、肌が赤色から元の色へと戻っていく。肩で息をしながら、脇から血を流している。
私はカヲルの元へ駆けよった。
「大丈夫? 止血しないと……誰か、手を貸して!」
「無理ですよ……」
「何言ってるの、まだなんとか……」
「見たでしょう? 魔族と変わりありません……誰も助けてはくれませんよ……」
「……いいえ、まだよ」
私はボックス席へと飛び込み、ウーレイの使っていたマイクを手に取った。群衆に呼びかけた。
「誰でも良い! 血と医者が必要なの! 魔族に対する防衛に、ウーレンの腐った政治と力が無くなった以上、今あなた達には彼を助けざるを得ないのよ! ……お願い、彼が居れば、世界は変わるかもしれないの! …… いえ、あなたたちもまた、魔族と戦う事が出来るかもしれない。飼いならされたまま、このまま、次の6英雄の支配を望まないなら、彼を助けて! あなたたちが、彼を救い、次の英雄になるのよ!」
だが、反応は無い。あと、もう一押し、何かがあれば……しかし逆に、ウーレンのシンパであった者たちがボックスルームへ上がり込んできた。拳銃を引き抜き、構えている。
「そんな物に何の意味が有るの!! ウーレンは死んだ、いいえ、魔神に私たち、あなた達人類を売って死んでたのよ!! ぼさっとしてないで、手伝いなさい!!」
お互いを見合わせて止まるシンパたちを他所に、私はカヲルの元へ駆けよった。なんとか助ける手立ては……そう思っていた時、
「血なら、わしの使えるか見てもらえませんかの?」
そう言ってきたのは、あのスラム街で助けた老人だった。
その姿を見て、他の人たちも次々に名乗りを上げた。
「アイリーンさん……何を……?」
「ああ、カヲル、もう少し頑張ってね。すぐに輸血するから。大丈夫、死なせないわ。あなたは名実ともに、『ダークネス』として、新しい英雄になったのだから……これから忙しいわよ」
そうだ、彼なら、あるいは彼が言うように他の人間も神々と契約できるなら……6英雄の支配は終わる。魔族に怯えて暮らす時代も終わる。ここからだ……ここからが、忙しい。私のジャーナリストとしての宿命もね。
最後駆け足すぎやしませんか?(汗)
うーん
プロットではカヲルは死ぬ予定だったのですが、それではいささか歯切れが悪いな、という事で
急遽変更した結果がこれですよw
ちなみに
6英雄を最初7英雄にしてて、焦って修正したのは内緒である(
あの漫画家さんの作品、結構好きです
ここまでお読みいただき ありがとうございました
追記:修正分
おい! 七英雄になってんじゃねぇか! 修正じゃい!w
というか、最近6人の英雄もの、アニメやり始めてたね(白目)
そして誤字を修正しました……酷かったからね(しくしく
更に追記
なぜかNo.48とPVの表れかたに類似性が有りますね……