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無法公国

 俺たちは国境を越えて、アルシー公国に入った。

 この国は小国ながらも、膨大な経済力を誇り、その気になれば世界を敵に回せるとも噂される。

 だがそれも経済力だけでの話。

 何よりこの国を治める者の求心力が足りていないがために、治安は悪い状態なんだとか。

 そうであれば、軍隊を組織することもできないので、さらに治安は悪化する。

 なんせ、取り締まることができないのだから。

「金目の物を置いてさりな! そうすりゃ命は助けてやる」

 すると、必然的にこのような輩がのさばることになる。


 俺たちはたった今、アルシー公国国境付近の道端で、盗賊たちに襲撃されていた。

「個人的にはこういうふざけた野郎共はぶちのめしてやりたいが、今はどうでもいい。シュウ、先を急ごう」

「うーん、お前がいいならいいけど」

「あ、ちょっと待ってくださいよー」

「……。無視すんじゃねえっ!」

 盗賊のリーダーっぽい奴は、いきなり訳も分からずぶちギレた。

 なんなんだ、一体。俺らはこんな盗賊風情に構っている暇はないというのに。

「お前ら正気か!? 脅されてんだよ!? この人数相手によくそんな涼しい顔して通り抜けようと思うな」

 別に何人いようと、盗賊風情がジンには敵わないだろう。

「生憎、俺たち異国人だからよお、ちょっとそういうのよく分かんねえんだわ」

「そういう問題じゃねえだろ!? 異国人とかどうとか置いといて、もっと普通の反応しろよ」

「てめえらの常識を押し付けんじゃねえ!」

 どうしよう。

 ジンの方がチンピラに見えてきた。

 でも常識なんて人によって違うもんね。

 やっぱ俺らが正しいわ。

「もういい。お前ら、俺たちを完全に舐めきってるようだから、ちょっと痛い目見る必要があるな。レナ!」

「うん」

 呼ばれて出てきたのは幼い少女。

 なぜあんな純真そうな子供が盗賊の仲間にいるのだろうか。

 何か訳がありそうだな。

「返事ははいだろうが!」

 盗賊のリーダーはレナの脚を蹴飛ばした。

 そんなに勢いよく蹴ったら、彼女の細い脚はたちまち折れてしまいそうだ。

 けれども、レナは文句の一つも言わず、「はい」と、うなずくだけだった。

「ったく、礼儀も知らねえガキが。俺らのところに置いてやってるだけありがてえと思えよ」

「はい」

「おう、いい子だな。じゃあ、いい子ついでにあいつらを痛い目にあわせてやれ」

「はい。その前に少しいいですか?」

「また例のアレか。勝手にしろ、どうせ見つかりやしねえよ」

「ありがとうございます。……あなたたち」

「なんだ?」

「おい、シュウ」

「まあ、待て。何か訳がありそうじゃないか」

 さっきの会話で分かったが、やはりただ単純に盗賊の味方をしてる訳じゃなさそうだ。

「あなたたちの中で複数の動物の体を持ち、空を飛び、口からは炎を吐く魔物を知ってる?」

「……知らないな」

「俺もだ」

「私も」

「そう……。それじゃあ、もう用はない。ごめんなさい。……フラッシュフレイム!」

 一体はレナの詠唱とともに、明るい炎に包まれた。


「何なんだ!? あの魔力は!」

「知らねえ。魔法はお前の方が詳しいだろ」

「知るか、あんなふざけた威力の炎」

 強力な炎であったために、直撃してれば命はなかっただろう。

 一体どんだけ魔力があればあれだけの炎出せるんだ。

 ジンが素早く俺とノーラを両脇に抱え、急いで逃げてくれたので助かったけども……。

「それにしてもあの子……何で盗賊なんかの仲間になっているんでしょう……」

「人の行動にとやかく言うもんじゃねえ。あの大火力が逆に目隠しになって逃げられたんだ。わざわざ自分から首を突っ込むこともあるまい」

「またそうやって貴方は! この際に善行を積もうとは思わないんですか!? せっかく助けを必要としている人がいるのに!」

「あのガキが助けて欲しいかどうかなんて分かんねえだろ」

「でも必要としているかもしれません!」

「はいはい。喧嘩はやめだ。どうせ捜したって見つかるかは分からないんだし、さっさと休める場所探そうぜ」

「シュウさんまで……もういいです! 私一人でなんとかします!」

「あ! おい!」

 ノーラは走ってどっかに行ってしまった。

「おい、ジン!」

 すぐに走って追いかければ間に合うのに、ジンの奴は呆気に取られて静止していた。

 なんてことだ。

「おい、追いかけるぞ! もしかしたら盗賊に捕まっちまうかもしれない」

「あ、ああ……悪い」

 俺たちは急いでノーラを追いかけた。


「ハァ……ハァ……、見つかんないな」

 散々盗賊に襲われた辺りを捜し回ったが、人影の一つもなかった。

「本当に盗賊にさらわれちまったのか」

「恐ろしいこと言うなよ!」

「心配すんな、その時は俺がなんとかする」

「助かる状態ならいいがな……」

 まあ、一応武器も持たせてあるし、それは最悪の想定に過ぎない。

 とにかく、このままじゃあらちがあかないのは 明白だ。

「……町に行こう。そこで盗賊が根城にしてそうな場所を聞き出す」

「おう」

 本当ならそんな悠長なことをしている場合ではないが、何しろ手がかりがない。

 少しでも情報を手に入れるのが先決だ。


 一番近い町でも長いこと歩き、すでに夕方だった。

「おい、シュウ。ノーラは大丈夫だよな」

 ノーラと何度も衝突していたジンが、俺にそう訊ねてくるほどに俺たちは事態を重く見ていた。

 あるいは、衝突したジンだからこそ、ノーラを心配しているのかもしれない。

「考えるのはあとだ。今できることをしよう」

 なんにせよ、唯一の戦闘要員であるジンがこの様子では困る。

 俺はジンを鼓舞した。

「なに、お前がやれば助かるさ。町の人の話によると、ここから北にゴーストタウンがあるらしい。なんでもその廃墟の一角に盗賊のアジトがあるとの噂が流れてるって」

 噂ってだけで信憑性はない。

 ただ、無から手探りで探すよりは全然いい。

 それに、気がかりなこともある。

 でも用事はすぐに終わる。気にするほどのことじゃないだろう。

「そうなのか。お前は相変わらず行動だけは早いな」

「ああ。俺にできることはこれぐらいだからな。行くぞ」

「ああ!」

 やるべきことが分かれば、ジンも落ち着きを取り戻し、目的地に向けて走り出した。

 ノーラが消えてからずいぶんと時間が経過したが……。

 頼む、間に合ってくれ。

 ノーラじゃないけども、今俺にできるのは走ることと祈ることだけだった。

次の更新は明日10時頃です。

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