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悪夢、再び

 今日は快晴。

 暑い日射しが降り注ぎ、まだ次の町村も見えないので歩くのも結構な苦労だ。

「ハア……ハア……、そろそろ休みませんか」

 最初に音を上げたのはノーラだった。

 彼女はこれまた暑そうな修道服を着ているので、余計に体力が奪われるのだろう。

「もうすぐ町がある。だからもう少し踏ん張れ」

 そう言うジンも、汗をだらりと流し限界が近そうだ。

「というか、なんでお前はそんな涼しげな顔をしているんだ……」

「俺? 昔から体力だけは有り余ってるし、暑さ寒さにも強いんだよ」

「その体力を……戦闘に活かせればいいんだが……な」

「もう……限界です……」

「おい、ノーラ!?」

 歩き続ける最中、ついにノーラは道端で倒れてしまった。


「大丈夫か?」

「はい……なんとか」

 とりあえずノーラは木陰に休ませて、水を飲ませたり、濡れタオルを渡したりと、ジンが介抱している。

 口では嫌々言いつつも、仲間はほっとけないタチらしい。

「ったく、体力ねえ癖になんで一緒に来るなんて言ったんだよ。俺も人のこと言えねえけどよお」

「シュウさんを見てて思ったんです。神の下で修行する身として、助けを求められるのを待っているだけじゃダメだって。これからは積極的に救いの手を差し伸べなきゃって」

「そうだな。自分にできることをしなくっちゃ」

「理解できねえ。救いの手を差し伸べるって、何様だよ」

「私、思うんです」

 ノーラはジンを無視して話を続ける。

 疲れてぶっ倒れた癖に、何故こんな生き生きとしているんだろう。

「……しまった、聞かなきゃよかった」

 あれから散々神の教えを聞かされたジンの身としては、これほど嫌になることはないだろう。

「シュウさんたちは魔王討伐で世界を巡る訳ですが、当然その先々に助けを必要としている人たちがいます。だから私が神の御心のままに救済するのです。もちろん、魔王討伐も人々の心に立ち込める暗雲を断ち切る重要な使命です。ですから、私もそれに貢献したいと思った次第です。」

「長い。もう少しまとめろ」

「魔王倒す!」

 うん、元気でよろしい。

「そういえば、シュウさんはどうした魔王討伐の命を受けたんですか? 私の知る限りではまったく魔物退治に貢献していませんけど……」

「え? 俺?」

「あー、こいつは親が有名な実力者でな、ならばこいつもよっぽどの実力者だろうとの陛下の勝手な思い込みで命令されたんだよ。それが蓋を開けてみれば戦闘に関しては、剣も……魔法もなのか? とにかくずぶの素人でな、ほとんど俺がお守りをやってる状態だ」

「返す言葉もない」

「そういや、お前は魔法も使えないのか。最強の魔法使いの息子なんだろ?」

「試したことはあるが、全部不発に終わったよ。魔力だけはしっかり消費するんだけどな」

「ならお前は本当に無能ということか」

 知識はちゃんとあるだけどな。

 どうにもそれだけじゃあダメらしい。

「ふう……大分回復しました。行きましょう」

「お、そうだな」

「今度は倒れんじゃねえぞ」

「まさか。この距離で倒れたりませんよ。ほら、行ったそばから町が見えてきました」

「ああ……ん? 何か様子がおかしい」

「……ずいぶんと、荒らされているな」

 俺たちが着いた町は見るも無惨に荒れ果てていた。

 この光景を見ると、村のことが思い出されて、心の底から無念がこみ上げてくる。

 気付けば、拳を固く握りしめていた。

「シュウさん? 顔が怖いですよ」

「あ、悪い。ちょっと嫌なことを思い出してな」

「そうですか。やっぱり魔物の仕業でしょうか」

「だろうな。この被害状況から見て、敵はかなり強いな。しかも、人の生活に大きな影響が出そうなところばかり破壊されているみたいだ。敵は知能も持ち合わせていると見ていいだろう。これは骨がいりそうだ」

 ……似ている。俺の村の時と。

 あいつがいるのか?

「あ、おい! シュウ!?」

 俺は自然と走り出していた。


 そいつは、町の中心部にある教会の屋根の先端に佇んでいた。

「お前がやったのか」

 見間違うはずもない。

 そいつは黒紫の肌に漆黒の翼を生やし、体は頭から指の先までゴツゴツとしている。もちろん、俺を襲おうとしたあの鋭利な爪も健在だ。

 その奇異の体は間違いなく、俺の村を襲った魔物張本人だ。

「お前は……最強の遺伝子か」

 俺は、倒さなければならない。

 元々それが目的だった。魔王なんかはどうだっていい。

 もちろん、全ての元凶である魔王を倒せればこの上ないが、今は目の前のこいつがを倒すのが最優先事項だ。

 魔王討伐を目指せば必ず戦うことになると思ったが、まさか、こんな早く出会えるとは……。

「お前を……倒す!」

「……。倒す? お前が?」

「何だと」

「今まで少し監視させてもらったが、お前は戦闘能力がないみたいじゃないか。最強の遺伝子が聞いて呆れる。お前じゃ俺は倒せんよ。このガーゴイルのガゴル様はな!」

「やってみなきゃ分かんないだろ!」

「分かるさ。ありがたいことに、今はお仲間もいないようだしな。バラバラにしてやるよ!」

 ガゴルは屋根から降り、翼をはためかせながらこちらに急降下してきた。

 俺は剣を抜き、奴に向けて斬りかかる。

「どこを狙ってやがる!」

 ガゴルは俺の攻撃を悠々と避け、その爪は俺の腹部を貫いた。

「ぐああっ!」

「とりあえず、お前は魔王様の世界征服の障害にはなり得ないことが分かった。俺も征服活動で忙しいからよ、今日はこんくらいで勘弁しといてやるわ。つっても、もう死ぬか!」

 ガゴルは高笑いしながら飛び去っていった。

「くそっ……くそっ!」

 俺は痛む腹を押さえながら、悔しさで地面を殴った。


「シュウ! 大丈夫か!?」

「わっ、すごい血……手もボロボロじゃないですか。今回復しますね」

 ガゴルが飛び去ってからすぐ、ジンとノーラが追ってきた。

 ノーラの魔法で、傷は完全とまでは行かないまでも回復した。

「お前! 弱い癖に無茶するなっつっただろ!」

「あいつは……あいつは俺が倒さなきゃいけないんだ」

「何があったかは知らねえけど、俺にできることなら協力してやる。だから無理はするな」

「……すまない」

「とりあえず、その怪我だ。ゆっくり休める宿を探した方がいい。ここはもうダメだから他の町か村を探すぞ。歩けるか?」

「ああ、なんとか」

 俺はジンに肩を借りながらも、先へ進んだ。

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